中央暦1641年2月15日(デュロ決戦から約半年後)
日本国 茨城県つくば市
防衛省・特殊生物研究本部
「・・・間違いない。皆、至急これを見てくれ!」
深夜の解析室に、ロボット工学の権威・赤松伸治博士の緊迫した声が響き渡った。
『日本・エモール・ミリシアル三カ国共同調査プロジェクト』の発足から数か月。つくばの地下施設では、日本の科学者、エモールの竜人族魔導学者、そしてミリシアル技術研究開発局のベルーノ室長率いる技術陣が、不眠不休でガイガンの残骸およびデュロで回収された魔帝データの解析を続けていた。
当初は魔法回路と機械構造の複雑さに難航していた解析だったが、ミリシアルが持ち込んだ超古代文明の解析データと、『富岳』をはじめとする日本のスーパーコンピューターたちの解析能力が融合したことで、ついにガイガンの深部組織の完全な分析データが出揃ったのだ。
人工生物学の第一人者である湯原徳光教授が、コーヒーカップを置いて赤松博士のデスクへ急ぎ足で歩み寄る。隣では、ミリシアルのベルーノ室長やエモールの竜人族魔導学者たちも、何事かと身を乗り出していた。
ホログラムモニターに映し出されていたのは、ガイガンの外殻金属、生体組織、そして胸部の駆動コア周辺から検出された結晶体の微細構造データであった。
「これは・・・!?」
湯原教授が目を見開く。
モニターには、防衛省直轄の特殊生物研究本部や国連G対策センターのG研究所が、厳重に管理しているこれまでに出現した特殊生物に関するデータベースが写し出されていた。
1995年の『スペースゴジラ事変』において、福岡を結晶要塞へと作り変えた『スペースゴジラ』の結晶体組織、そして1999年の『第二次キングギドラ事変』において、1億3千万年ぶりに地球へ襲来し、三代目モスラこと『モスラ・レオ』によって撃破された『恐怖の大魔王』こと『グランドギドラ』の細胞データ・・・。
その双方に含まれていた「地球圏には一切存在しない未知の宇宙物質」の波形パターンが、ガイガンのデータと完璧に一致して並んでいた。
「ガイガンの外殻組織、および生体回路の深部から検出された特異な元素……。これは地球圏の物質ではない。かつて我々のいた世界を脅かした『スペースゴジラ』や『グランドギドラ』と同質の『外宇宙に由来する物質』です・・・」
湯原教授の重々しい言葉に、部屋全体に冷たい緊張が走った。
「う、宇宙に由来する物質だと・・・!?」
ベルーノ室長が声をひっくり返した。
「何を言っているのだ赤松博士! ガイガンは一万年以上前にこの全世界を支配したラヴァーナル帝国が創り出した『人工魔獣』・・・サイボーグ怪獣はずだぞ! なぜそこに、星の外の物質が含まれているというのだ!?」
赤松博士が腕を組み、険しい表情で画面の分析データを指し示した。
「そこが最大の疑問であり、決定的な証拠だ。」
赤松は冷徹に言い放つ。
「我が国が転移してきたこの惑星は、重力や大気組成、そして基本的な元素の周期表に至るまで、我々が暮らしていた地球と酷似した環境を持っている。つまり、この星の自然界が持つ地殻の構成要素も地球とほぼ同等な筈だ。」
赤松博士はホログラム上に、地球およびこの世界の地殻データ、そしてガイガンの成分グラフを並べて見せた。
「もし仮に、この未知の宇宙微粒子がこの星の自然環境に本来存在するものだとしても、あるいは隕石の衝突などによってごく稀に地殻へ混入したのだとしても・・・その量は地球と同様に、検出が困難なほどの『極微量(トレース量)』にとどまるはずだ。だが、ガイガンの生体結晶や駆動コアから検出された数値は、その自然界の常識を何桁も上回るほど高濃度だった。」
湯原教授がその言葉を引き継ぐ。
「自然界にほとんど存在しないはずの宇宙物質が、これほどの高濃度で人工的な生体兵器の内部から検出される・・・。つまり、この物質は自然にこの星で採掘されたものではない。宇宙の彼方から、何者かが『意図的に持ち込んだ』ものでなければ絶対に説明がつかない現象ということですね。」
「可能性として真っ先に思いつくのは、当時のラヴァーナル帝国が、たまたま星の彼方(外宇宙)から飛来した宇宙怪獣を捕獲・改造して『ガイガン』へと仕立て上げたという説だ。・・・だが、エモール側の古文書の記録と照合すると、その可能性は極めて低いと言えるだろう。」
エモールの竜人族魔導学者が重々しく頷き、ホログラムに自国の羊皮紙データを投影した。
「左様・・・数万年前の『龍魔戦争』において、我ら竜人族の祖先『インフィドラグーン』とラヴァーナルが戦った際、奴らはこの『ガイガン』と同型のサイボーグ怪獣を単体ではなく、複数体の『軍勢』として戦場へ投入していたという記録が明確に残されている。たまたま飛来した数体を捕獲したというレベルではないのだ・」
「なっ・・・複数体の軍勢だと!?」
ベルーノが息をのむ。
「そうだ」と湯原教授が眼光を鋭くする。
「彼らはグランドギドラのような宇宙怪獣の群れを自在に使役し、量産・改造する技術を最初から持っていた・・・。となれば、導き出される結論は一つしかない。」
湯原と赤松は視線を交わし、室内の全員を見回しながら重々しく告げた。
「古代の『ラヴァーナル帝国』・・・、奴らの支配層である『光翼人』という種族そのものが、この世界の先住民族などではなく・・・『星の彼方(外宇宙)からこの地球へと飛来した宇宙人、あるいはその末裔』だったということだ。」
「ひ、光翼人が・・・宇宙人・・・!?」
ベルーノ室長をはじめ、ミリシアル側の技師たちがガタガタと震え出した。自国が歴史上ずっと「超古代の偉大な先住文明」と崇めていた存在が、根底から覆されたのだ。
日本の若手技術者の一人が、おずおずと手を挙げた。
「ですが・・・もし彼らが宇宙からやってきた高度な異星人なのだとすれば、なぜ彼らには我々のようなロケットや宇宙船といった『宇宙工学技術』の痕跡が一切見当たらないのですか?」
その疑問に対し、それまで静かに古代神話を思い返していたエモールの竜人族魔導学者が、ハッとしたように目を見開き、声を震わせた。
「・・・待たれよ。我がエモール王国に伝わる、最古の神話伝承を思い出した・・・!」
「エモールの神話・・・ですか?」
「そうだ」
竜人族の学者は興奮と戦慄の入り混じった面持ちで語り始めた。
「かつてラヴァーナル帝国は、その増長ゆえに神々にすら弓を引いたとされている。神々は激怒し、奴らが支配する『ラティストア大陸』に頭上から巨大隕石を落として滅却しようとした・・・。だが奴らは、国全体に強大な結界を張り、数百万から数千万におよぶ他種族の命(生体エネルギー)を生贄として捧げることで、凄まじい規模の『時空転移魔法』を発動させ、未来へと逃れたのだ!」
「数千万の生贄で・・・大陸ごとの時空転移!?」
日本の科学者が悲鳴のような声をあげる。
「そうだ。奴らは大陸ごと未来の時空へ逃れることで、神々の降らせた隕石による滅びを回避したのだ! ・・・ならば、答えは自ずと導き出されよう。彼らにとって、鉄の塊で宇宙を航行する『宇宙船』など、最初から作る必要すら無かったのだ!」
赤松博士が目を見張り、エモール側の言葉を引き継いだ。
「そうか・・・! 魔法技術によって『移住可能な好環境の惑星』を見つけ出し、そこに自らの本拠地である『大陸ごと』他の惑星から直接空間転移させてやって来たのだとしたらのだとしたら・・・すべてが辻褄が合う!」
「大陸ごと、星を跨ぐ空間転移・・・。」
赤松の背筋が凍るような考察に、解析室全体が完全に静まり返った。宇宙船を何千隻も建造して何年もかけて星間を移動するより、条件の揃った住みやすい惑星を探し出し、『大陸ごと空間転移でダイレクトに引っ越し』してしまう方が、魔法と生体超科学を極めた彼らにとっては遥かに合理的で手っ取り早かったのだ。
だからこそ彼らには宇宙船の技術が存在せず、この世界の住人もまた「宇宙へ出よう」という概念すら持たずに暮らしてきた。
その時、古代文献のホログラムデータを注視していたミリシアル技術研究開発局のベルーノ室長が、ハッとしたように息をのみ、青ざめた顔を上げた。
「・・・なるほど。そうか、そういうことだったのか・・・!」
「どうしましたベルーノ室長? 何か分かったのですか?」
湯原教授が問いかける。ベルーノは震える手で自身のメガネを掛け直し、恐怖と戦慄の入り混じった声で静かに、しかし重々しく語り始めた。
「我が神聖ミリシアル帝国は、長年にわたりラヴァーナル帝国の遺した文献や遺跡を解析してきました。しかし、どうしても理解できない『異常性』があったのです。」
ベルーノの言葉に、エモールの魔導学者たちや日本の科学者たちが耳を傾ける。
「彼らは高度な文明を持ちながら、なぜこの世界の他種族たちに対し、あれほどまでに惨虐な生体実験や不必要な殺戮を平然と繰り返すことができたのか・・・。彼らが遺した記録に存在する、他種族に対する凄惨なまでの冷酷さの理由が、今の考察ですべて氷解しました。」
ベルーノはモニターに映る古代文字の解読データを指し示した。
「彼らにとって、この世界に最初から暮らしていた我々の祖先や様々な種族は、同じ星に生きる生命などではなかったのです。自分たちが後から大陸ごと乗り込んできた土地に最初から群がっていた、文字通りの『害獣』か『家畜』程度にしか思っていなかったのでしょう。数千万の命を大陸転移の燃料として平気で使い捨て、移住先の先住民を害獣として踏みつぶす・・・。奴らのあの狂気とも言える異常な選民思想の根底には、そのような背景があったという訳です!」
ベルーノの絞り出すような考察に、解析室の空気は完全に凍りついた。
自分たちが「古の超文明」として研究し、その技術の凄まじさに畏怖してきたラヴァーナル帝国。その実態は、この星のあらゆる生命を燃料や虫けらとしか思っていない、外宇宙からの冷酷無比な侵略者に過ぎなかったのだ。
その異常な選民思想の根底にあったのは、神聖さの欠片もない、ただの「宇宙規模の搾取と踏み台の歴史」でしかなかった・・・。
解析室で明かされた衝撃の事実は、ただちに日本政府最高首脳陣、自衛隊統合幕僚監部、そしてGフォース司令部へ極秘打電された。
もはや、次の戦いは単なる異世界の国家間戦争ではない。かつて地球において、二代目ゴジラや三代目モスラたちが死闘を繰り広げた『外宇宙からの超脅威』との、星の存亡を賭けた防衛戦線となるのだ。
誰も立ち入ることの許されない地下最深部のドック。湯原教授と赤松博士は、厚い防弾ガラス越しに広大なドックを見下ろしていた。
ドックを満たす青い特殊冷却液の中で、一頭の巨大な白骨・・・『二代目ゴジラ』の巨体骨格が、静かに、しかし力強く佇んでいる。
「湯原先生・・・解析結果を受けて、日本国政府から正式にGoサインが出た」
赤松博士が静かな声で言った。
「ラヴァーナルが従える宇宙怪獣の群れ、そしていずれ訪れるであろう本隊の超機動兵器に対抗するには、既存の『スーパーメカゴジラⅡ』や『しんてん』のような中遠距離砲撃主体の兵器だけでは限界がある。超高速で懐に飛び込んでくる敵を打ち砕く、最強の近接格闘型前衛が必要だ。」
「そうですね。」と湯原教授が頷く。
「バルサ地区から採掘された高純度結晶を用いた究極の冷凍メーサー砲『アブソリュート・ゼロ』の開発も順調だと、菅野博士から連絡がありました。私の方も、この巨大骨格に残されたG細胞の抽出に成功しました。後はこれを解析し、DNAコンピューターとして完成させることが出来れば・・・。」
ガラスの向こうで、白骨の眼窩が妖しく青い光を宿した。太古の破壊神の遺伝子と、地球の最新科学、そして異世界の特殊結晶が一つになりつつある。
「プロジェクトコードネーム・・・『機龍』。僕たちの作ったこの鋼鉄の神が、外宇宙からの侵略者を打ち破る人類の希望となる。」
迫り来る「宇宙からの絶望」の足音に対し、つくばの地下深くで、人類最高の対G兵器『機龍』の鼓動が、力強く、激しく脈打ち始めていた。