中央暦1641年2月28日
神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス
帝国情報局 大会議室
「以上が、日本国のつくばにある特殊生物研究本部に滞在中のベルーノ室長より、回線を経て届いた緊急報告の概要です。」
暗号通信文書を読み上げた情報局員のライドルカは、重々しい面持ちで一息をついた。円卓の上座に座る帝国情報局のアルネウス局長をはじめ、同席していた軍務省や外務省の幹部たちは、その報告内容のあまりの凄まじさに言葉を失っていた。
数ヶ月前、先行使節団として日本へ赴いたライドルカたちの報告によって、日本の異次元な技術力や超兵器の存在自体は、既にミリシアル中枢の知るところとなっていた。しかし、今回届いた『日本・エモール・ミリシアル三カ国共同調査プロジェクト』からの連絡は、それを遥かに凌駕する歴史的・科学的な衝撃であったのだ。
「・・・信じられん。我々が古の遺産として畏怖してきたラヴァーナルが、星の外からやってきた侵略者の末裔だと・・・? そして、あの魔獣ガイガンから検出された特異な高濃度宇宙物質こそが、その動かぬ証拠だというのか。」
アルネウス局長が低く震える声を漏らす。長年、超古代文明の正統な継承者としての自負を抱いてきたミリシアルにとって、ラヴァーナル帝国がこの星の先住民を踏みつぶし、燃料として使い捨ててきた『外宇宙からの冷酷な侵略者』に過ぎなかったという真実は、国家の根幹を揺るがすほどの戦慄であった。
「はい。ベルーノ室長によれば、日本国の科学者たちとの協力で得られた今回の解析結果により、光翼人の選民思想の異常性、またその歴史的構造が完全に氷解したとのことです。」
ライドルカは言葉を続け、卓上に置かれた分厚い革ケースへと手を伸ばした。
「そして本件の緊急報告に伴い、日本国政府より我が神聖ミリシアル帝国へ、公式に重大な安全保障上のデータが提供されました。それが、この『全世界の衛星地形図』です。」
ライドルカが革ケースから取り出し、円卓の上に大きく広げたのは、これまでのこの世界のいかなる冒険家や測量士も描き得なかった、あまりにも緻密で鮮明な全地球の地図であった。
「これは・・・何だ?」
アルネウス局長が息をのんで地図に顔を近づける。
「日本国は、『人工衛星』という観測機器を宇宙空間の衛星軌道上に打ち上げているようです。それを用いて、この惑星の全世界を空の彼方から撮影し、製図した地図だそうです」
「な、なんだと・・・!? 宇宙へ機械を打ち上げ、全地上を観察しているというのか!?」
軍務省幹部の一人が叫び、ガタガタと震え出した。
「馬鹿な・・・! かつてラヴァーナル帝国が全地上の下等種族を監視・支配するために打上げたという、あの『僕の星』と同様の芸当を、日本は自分たちの科学力だけで成し遂げているというのか・・・っ!?」
ミリシアル中枢の者たちの顔から血の気が引いていく。古の魔法帝国が世界を掌握していた象徴である『僕の星』と同等の地上全域監視網を、日本は純粋な現代科学の力でこの星の周りに張り巡らせていたのだ。
「・・・元より日本国がこの全世界地図を我が国やエモール王国へ提供してくれた本来の目的は、恐るべき魔法帝国こと『ラヴァーナル帝国』の本拠地である『ラティストア大陸』が、この惑星のどこに出現するのかを我々と共に予測し、事前の防衛体制を協議・構築するためでした。」
ライドルカは静かに息をつき、地図の西側・・・第二文明圏の中心である『ムー大陸』よりもさらに西の彼方へと視線を落とした。
「しかし、この全地球監視網による地図の解析を進めた結果、副次的な成果として、昨今ムー大陸の国々を中心に最大の悩みの種となっていた『もう一つの問題』の答えまでもが、完全に浮き彫りとなったのです。」
アルネウス局長が眉をひそめる。
「副次的な成果・・・? もう一つの問題だと?」
「はい。数年前に突如としてこの世界に出現し、列強の末席であった『レイフォル』を瞬く間に呑み込みながらも、世界中が本国の位置すら特定できずにいた謎多き新興軍事国家『グラ・バルカス帝国』の本拠地です。詳細につきましては、西部担当外交部長シワルフ閣下らに同行し、実際にレイフォル地区へ派遣されていたザマス諜報員より報告致します。」
ライドルカの合図を受け、円卓の末席に控えていた情報局員ザマスが、キリッとした表情で一歩前へ出た。
「情報局のザマスです。私は先月、外務省西部担当外交部部長のシワルフ閣下らと共に、旧レイフォル地区へと赴きました。帝国のダラスとかいう外交官は、我々に対して終始そっけない態度をとっており、信じられないことに本国位置や首都名すら徹底的に秘匿するという、国際関係上ありえないような対応でした。」
「今後の『レイフォル地区』を窓口として対応するとのことで、『先進11ヵ国会議』に参加するかも怪しい感じでした。しかし、レイフォル上空を飛行していましたグラ・バルカス帝国の飛行機械ですが、『ムー連邦』の主力機である『マリン』はおろか、我が国の『エルペシオ3』に匹敵する速度が出ていました。この時点では、技術力は侮れないよう注意国家ということしか判明していませんでした。」
そこでザマスは視線を落とし、ライドルカが広げた色鮮やかな全世界地図を強く指し示した。
「しかし、日本国から提供された全世界地図により、その本拠地と思われる巨大な島嶼の存在を確認することができました。ご覧ください。ムー大陸からさらに西へ約5,000キロメートルの海域・・・。そこに、これまでのどの海図にも記されていなかった、島というにはあまりにも大きく、大陸と呼ぶにはやや小規模な島嶼が存在します。これこそが、全世界から隠蔽されていた『グラ・バルカス帝国』の本土に他なりません。」
「な・・・ッ! あの謎めいた帝国の本国が・・・完全に割れたというのか!?」
アルネウス局長をはじめ、幹部たちが身を乗り出す。帝国本土とされた島嶼には、中央世界をはじめ、撮影された他の大陸同様、山や河川、湖、平野部といった地形のほか、ご丁寧に主だった待ちの位置まで詳細に記されていた。
これでは、丸裸にされているといっても過言ではないだろう。
「それだけではありません。」
ザマスは、世界地図を指差しながら説明を続ける。
「さらに、これに関連して『ムー連邦』に潜入させている我が局の諜報網からも、不穏な極秘報告が入っております」
ザマスは声を低め、暗号文書の一節を読み上げた。
「昨年の11月、『ムー連邦』の商業都市マイカル沖の領海において、グラ・バルカス帝国のものと思われる不審な水中舟艇が侵入し、深海で撃滅される事案が発生した模様です。ムー領海を守る守護竜マンダの手によって返り討ちにした・・・とのことらしいですが。」
アルネウス局長が驚愕に目を見張る。
「奴らがムーの領海にまで手を伸ばしていたというのか・・・! しかも、既にかの守護竜によって沈められていたとはな。」
「ええ。詳細な経緯や回収の進捗までは定かではありませんが、民間の海洋探査名目で日本国が深海からのサルベージ調査に協力しているらしく、またムー海軍に対しても何らかの技術供与を行っている模様です。自国の隠密兵器すら既に捉えられ、暗躍の手がかりを掴まれつつあることなど、グラ・バルカス側は夢にも思っていないでしょう。」
ザマスの報告を聞き終えたアルネウス局長は、ゆっくりと背もたれに体を預け、深く息を吐き出した。
グラ・バルカス帝国は、自国の本国位置や自軍の動向を「誰にも知られない絶対の秘密」と過信し、何らかの暗躍を行っている。しかし、ベルーノ室長が目撃した日本の超科学、そして『僕の星』にも等しい全地上監視網の前では、彼らの野望も本国も、すべてが既に丸裸にされていたのだ。
会議室の窓の外、ルーンポリスの美しい街並みが夕暮れの光に染まりつつある。しかし、その光景を見つめるアルネウス局長やミリシアル中枢の者たちの背筋には、『魔法帝国の正体』を知ったことで、冷たいものが走り続けていた。
一方、人間同士の近代戦争という自分たちの基準で世界を測り、自らの技術力に絶対の自信を持つグラ・バルカス帝国。
彼らはまだ知らない。かつて全地上を恐怖に陥れた古代の大帝国『ラヴァーナル帝国』とその支配者層『光翼人』いう、星の外からやってきた侵略者の末裔が復活しようとしているこの地球の危機において、もはやこの惑星の国家同士で下らない戦争などをしている場合ではないという、次元の異なる現実を・・・。
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中央暦1641年3月30日
第三文明圏の東 大東洋
日本国 首都東京 防衛省
重々しい電子音が響き、会議室のメインスクリーンに一連の極秘文書が表示された。タイトルは『国家安全保障戦略の改定、ならびに特殊生物災害および異世界有事対応防衛力整備計画(新整備計画)』。
集まった防衛省幹部、統合幕僚監部、そしてGフォース司令部の面々は、スクリーンに映し出された目眩のするような巨大な予算数字と新兵器構想を真剣な面持ちで見つめていた。
旧パーパルディア皇国による問答無用の侵略行為。そして『日本・エモール・ミリシアル三カ国共同調査プロジェクト』によってもたらされた、「ラヴァーナル帝国=外宇宙からこの惑星へ飛来した冷酷な侵略者とその末裔」という戦慄の真実。
この二つの決定的な情勢変化を受け、日本国政府は戦後保ち続けてきた従来の防衛政策の概念を根本から破棄し、国家の総力を挙げた一大戦力拡充へと舵を切ることを決断したのだ。
「これまで防衛費とは完全に別枠で計上されてきた『特災費(特殊生物災害対策費)』・・・。『Gフォース維持費』の分割負担金をはじめとする怪獣対策予算を、本日付けで『防衛費』へと完全統合・一元化します。これにより、我が国の防衛・怪獣関連予算はGDP比で従来の枠組みを大きく突破し、実質的な臨戦体制へと移行します。」
防衛官僚の説明の声に、室内を包む緊張感がさらに高まる。要約された主要計画の項目が、順を追ってスクリーンに映し出されていった。
1. 『Gフォース』戦力の限定解除
従来、Gフォースの戦力行使は「対特殊生物(怪獣)」、および「特殊生物を兵器利用するテロ主導国家(特テ国)」への攻撃のみに厳しく制限されていた。しかし、光翼人(ラヴァーナル)の復活という惑星規模の生存危機を前に、この法的制限を撤廃。通常の有事においても防衛大臣の命により、自衛隊と統合運用可能な本格的機動打撃戦力としてこの惑星にいる間限定という制約のもと解除・再定義される。
2. 航空護衛艦(DDV)4隻の新規建造と航空護衛艦隊の整備
STOVL(垂直離着陸)機である最新鋭ステルス戦闘機『F-35B』の運用に向け、ヘリ搭載護衛艦『いずも』『かが』を軽空母へ改修した実績を踏まえ、新たに航空護衛艦(DDV)4隻を新規建造。在日米軍からの指導のもと運用ノウハウを積載し、7年後の完全実用化と本格運用を目指す。
3. 次期主力戦闘機『F-3』の開発と量産化
最新鋭のステルス性と超音速巡航能力、さらに『ガイガン』をはじめとする怪獣や超魔導兵器とのドッグファイトに対応する多目的次期主力戦闘機『F-3』の量産化を大幅に前倒しして推進する。
4. 『はくげい級原子力潜水艦』5隻の増備と大型整備ドックの配備
運用実績が高く、ミッションに応じたユニット換装で極めて高い汎用性を誇る『はくげい級原子力潜水艦』を新たに5隻建造。これと平行し、超大型潜水母艦形態でも安全に収容・メンテナンスが可能な巨大整備ドックの建設を急ピッチで進める。
5. 新型メカゴジラ『機龍』の開発と実戦配備
『ガイガン』をはじめとする『ラヴァーナル帝国』のサイボーグ怪獣兵器に対抗すべく、新型メカゴジラ『機龍』の開発および実戦配備を急ぐ。
6. 『ごうてん型』および『AC-3 しらさぎ』のエネルギー供給機能改修
内蔵バッテリー仕様で設計されている新型メカゴジラ『機龍』に対し、戦場での急速エネルギー補給を可能とする改修を実施。
・ 基地近傍
『マイクロウェーブ遠隔送電システム』を用い、サポート機である『AC-3 しらさぎ』を経由して機龍へダイレクト急速補給を行う。
・ 遠隔地、または送電不能時
『ごうてん型対特殊生物戦闘護衛艦』の艦首超大型ドリル先端から『G粒子メーサー砲(通称 Gメーサー)』としてエネルギーを照射し、直接急速チャージを敢行する。
7. 既存メーサー兵器の「超低温レーザー(冷凍メーサー)」両立化改修
先の解析で、『ラヴァーナル帝国』の機動サイボーグ怪獣『ガイガン』の致命的な死角が「極低温兵器」であることが判明。これまで『92式メーサータンク改』や『スーパーXⅢ改』などの陸上・航空メーサー兵器は、通常メーサー砲と冷凍メーサー砲の両立ができず、出撃前の換装を余儀なくされていた。
しかし、旧パーパルディア皇国領・バルサ地区において、波長域の大きく異なる光線を単一の砲身で増幅・共振可能な『特殊レーザー結晶(利得結晶)』の原材料が大量に入手可能となった。これにより、すべてのメーサー兵器を『ごうてん型護衛艦』の艦首砲同様、『換装レスで通常メーサー / 冷凍メーサーを即座に切り替え可能な完全両立仕様』へと順次改修する。
8. タナトニウムを用いた重力子兵器の拡充
『魔王事変』で成果を挙げた『侵蝕弾頭』、邪竜アジ・ダハーカを破砕した『フルメタルミサイル』、さらにはそれを消滅させたブラックホール砲『ディメンション・タイド』など、稀少元素『タナトニウム』を用いた重力子兵器の生産を拡充。特に『ディメンション・タイド』については、艦載型および地上発射型の小型化・実用化研究を推し進める。
9. 海外自衛隊基地(チョークポイント)の拠点要塞化
日本国の生命線である『ロデニウス大陸』の『クワ・トイネ公国』に設置された『エジェイ自衛隊基地』、ならびに第一・第二文明圏を結ぶ海上交通の要衝である『新生アルタラス王国』の『ルバイル基地』の戦力を大幅強化。対特殊生物用超大型メーサー砲台『マーカライトファープ』や巨大レールガンを配備し、ガイガン等の襲来に単独で耐え得る絶対防衛要塞へと昇華させる。
・・・これら以外にも、内容は多岐にわたる。
「……凄まじいな」
幹部の一人が漏らした呟きが、静まり返った会議室に響いた。
ここにあるのは、単なる「一国の防衛計画」ではない。国家転移という未曾有の事態を経て、この未知の惑星に生きる人類、そして日本国自らの存亡をかけ、迫り来る「外宇宙からの侵略者」を迎え撃つための全地球規模の決戦準備なのだ。
「各部隊、各技術本部は直ちに計画の実施に移られたし。・・・我々に残された時間は、そう多くはない」
防衛大臣の重々しい宣言とともに、防衛省の長い夜が明けようとしていた。