中央暦1639年4月30日午前
クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ
首相官邸 蓮の間
首相官邸にある蓮の間にはクワトイネ公国の首脳陣が集まり、政治部会が開催されていた。そこには先日26日に勃発した『ロデニウス大陸沖大海戦』において、観戦武官として日本国の護衛艦いずもに搭乗したブルーアイも参考人として招致されていた。
各々の手元には、ロデニウス沖大海戦について記載された報告書や撮影した魔写(もちろん自衛隊から許可を貰ったもの)などが配布されている。
「では、なにかね?日本はたったの9隻の艦艇で、ロウリア艦隊4400隻に挑んで2400隻を撃退。さらに援軍で現れたワイバーン350騎も光の矢と5機の鉄騎で全滅させたと。その上、全く被害が無かったというのかね?」
外務卿リンスイが訝しげな顔をしながら尋ねた。
人的被害どころか、艦船に対する被害すらない。強いていえば、『使用した弾薬費用が非常に高額になった・・・』といずも艦長の山本が苦笑いしていた程度のものであった。
「いや、数か月前に実際に日本国の本土に行った儂から言わしてもらえば、日本軍、いや自衛隊の実力であれば、ロウリア海軍程度であれば鎧袖一触の結果に終わるのは当然じゃと思いますぞ。」
沈黙を破って、軍務局のハンキ将軍が話始めた。
彼はこの2月、外務局員のヤゴウたちと共にクワトイネ公国の使節団の一人として、日本国を訪問したことがあった。
転移直後という非常事態のため、航空祭をはじめとした自衛隊と民間人の交流祭は中止されていたが、自衛隊を見学したいという彼の希望に対し、広島県の呉市にある海上自衛隊呉史料館や大和ミュージアムなどを案内された。
そこで見た衝撃や感動は凄まじいものであった。
ちなみに彼はそこで『大和』と『ごうてん』の模型を購入し、自分の執務室に飾って毎日のように眺めている。また今回派遣された『いずも』の模型を買い忘れたことに、酷く後悔しているのは内緒である。
「儂が見学させて貰ったのは海上自衛隊という海軍でしたが、あれも凄いものでした」
撮影された『ごうてん』の魔写を見ながら、ハンキ将軍が話を締めた。
首相カナタが発言する。
「いずれにせよ、今回のロウリア王国による海からの侵攻は防げた。まだ2000隻残っているが、ここまで一方的にやられたら、警戒して暫くの間は、再侵攻してこないだろう。陸のほうはどうなっている?」
ハンキ将軍が立ち上がり、説明を始めた。
「今回の海戦で、ロウリア王国は350騎ものワイバーンを失っています。これは報告にあった全投入数の7割にも相当します。これにより、ロウリア王国陸軍は漁村跡に設営した前線基地を放棄し、ギムの町周辺まで撤退して陣地の構築するなど守りを固めています。」
外務卿リンスイが挙手して話始めた。
「日本国から城塞都市エジェイの北側5kmの地点にあるダイタル平野について、土地の貸し出し許可を求めてきています。ここで巨大カマキリを含めた敵魔獣部隊や敵陸軍を迎撃するとのことです。」
既に外務卿リンスイと軍務局のハンキ将軍の捺印は完了しており、この政治部会で首相カナタの確認が取れれば、すぐにでも迎撃のための準備を始めるとのことだった。
「あそこは何も無い平野で、土地も痩せていたな・・・よし!外務卿、日本に対して、陣地構築の許可を与えよ。無期限で好きに使ってくれて構わないとな。」
クワトイネ公国の首脳陣から使用許可が得られた自衛隊は、輸送してきた陸上戦力をダイタル平野に移送させ、飛行場の建設を始めるなど準備を始めたのであった。
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ロデニウス大陸ロウリア王国
王都ジン・ハークにあるハーク城では、城中に響き渡るほどの怒号が飛び交っていた。34代ロウリア王国の大王、ハーク・ロウリア34世は『ロデニウス大陸沖大海戦』の戦闘結果報告を受け、脳の血管が切れるくらいの青筋を立てながら激怒していた。
・ 日本国を名乗る新興国が敵として参戦
・ 4400隻の大艦隊のうち、2400隻が撃沈された
・ 全投入数の7割にも及ぶワイバーン350騎が撃墜された
・ こちらからの攻撃による戦果は一切なし
まさかまさかの完全敗北の報告であった。
「避けても追尾してくる光の矢」
「百発百中の大砲が装備されている」
「直撃すると黒焦げになって破裂する光線」
「帆がないのに高速で動く巨大船」
「水中から現れ、水上に浮き上がる異形の艦船」
どれもこれもが信用性に欠ける報告内容で、何を相手に戦ったのかもわからないような状態であった。
「いずれにせよ、竜騎士隊と海軍は甚大な被害を受けた。陸戦ではこのようなことがないよう全力を尽くすように。『カマキラス』は3匹すべて投入しても構わん!」
陸戦では、『数』がものをいう。加えてギムの戦いで圧倒的な力をみせた『カマキラス』が3匹もいる。陸戦であれば、なんとかなるかもしれない。
ハーク・ロウリア34世はその日、心配しながら床についた。
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第三文明圏フィルアデス大陸
列強国 パーパルディア皇国
薄暗い通信室では、光の精霊の力により、ガラスの玉がオレンジ色に仄かに輝きながら影を映し出していた。
観戦武官ヴァルハルから届いた『ロデニウス大陸沖大海戦』についての緊急連絡を受け、二人の男達が話をしていた。
この男たちは、パーパルディア皇国の国家戦略局・文明圏外国担当部に所属するイノスとパルソといい、ロウリア王国への各種支援の実施やヴァルハルを派遣した人物であった。
「白地に赤い丸が描かれた旗・・・聞いたことの無いな」
「クワトイネ公国、クイラ王国に放っている間者によると、ロデニウス大陸の北東方向にある日本国とかいう新興国らしいです。」
「そんな所に今までこのような国があったか?」
最初は日本国の位置についてディスカッションをしていたが、次第に御伽噺のような戦闘内容について話題が移っていく。
「どちらにせよ、報告書の内容からも、奴らの軍船には大砲が搭載されているのは間違いないだろうな。蛮族の分際で大砲を作れる技術水準に達したことで、ロデニウス大陸まで進出してきたってところだろう。」
「やはり陸戦用のK型魔獣に加え、海戦用のE型魔獣もロウリア王国に供与すべきだったのでしょうか。。。もしロウリアが負けてしまえば、私たち国家戦略局や第三外務局による資源獲得の国家戦略に大きな支障が出てしまいます。。。」
パルソは心配そうな声で話した。
「心配はいらないよ。陸戦は、海と違って数が物を言う。ロウリアは人口だけはとにかく多いうえに、K型魔獣こと『カマキラス』もいる。大砲を持ち始めた程度の国であれば、大敗することは絶対にない!」
「それにもし、ハーク・ロウリアがロデニウス大陸を統一後に我々に歯向かってきたとき、皇国軍といえど、カマキラスと違ってE型を相手にするのは少々面倒だろう」
イノスは持っていた葉巻に火を付けながら、余裕そうな顔で話した。
「兎に角、今回の海戦の報告は荒唐無稽だ。真偽が判明するまでは、ルディアス陛下やカイオス閣下への報告は保留とする。他言無用だぞ、解ったな?」
「承知致しました。」
後の歴史書には、『もしこのとき、パーパルディア皇国がきちんと日本国のことを調査していれば、その後の第三文明圏の様相は大きく変わっていただろう』と記載されている。所謂、歴史のターニングポイントにあたる重要な局面であった。
しかし自らの国の力を過信しすぎた愚者たちが事の重大性に気付いたのは、全てが手遅れの状態になってからであった。。。