中央暦1639年9月1日
ここ数年のロウリア王国の勢いは凄まじく、クワ・トイネ公国へ侵攻を開始した今年の3月下旬における戦力は、数万の軍勢と数千隻の軍船など明らかに自国の力を超えた規模であった。ロウリア王国がそれほどまでに戦力を整えられた要因として、他国、それも相当な国力をもった国家が支援しているであろうことが囁かれており、周辺国をはじめとした第三国の見解は、クワ・トイネ公国とクイラ王国の両国は手も足も出ず、滅ぼされてしまうだろうというものであった。
しかし人間至上主義を掲げ、亜人殲滅とロデニウス統一を叫ぶロウリア王国の国王ハーク・ロウリア34世の野心から始まったこの侵略戦争は、日本国という新興国が参戦したことにより、予想と正反対の方向に傾きだした。
ロウリア王国軍は海上でも陸上でも鎧袖一触で蹴散らされ、敗走を繰り返した。そして侵略開始から約半年後の8月下旬には、王都ジン・ハークまで逆進攻され、指導者であった国王ハーク・ロウリア34世の身柄が確保されるという異例の展開で終結した。最終的にロウリア王国臨時政府の最高責任者になったパタジン将軍が、捕えられたハーク・ロウリア34世の最後の言葉に従い、ロウリア王国全軍を武装解除して全面降伏した。
ロデニウス大陸の3国と交易のあったシオス王国などの第三文明圏外の国々は、商人を通じて日本国の存在を認知し、ロウリア王国敗北後の早い段階から使者を送るなど、この事変を経て日本国と国交を締結する国々も少しずつ増えていった。
『ロウリア王国軍が手も足も出せず、僅か半年足らずで全面降伏した』という驚愕のニュースは、第三文明圏外に留まらず、第三文明圏やさらにその西の果てにまで伝搬していくのであった。
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第三文明圏フィルアデス大陸
列強国 パーパルディア皇国
パーパルディア皇国の国家戦略局・文明圏外国担当部に所属するイノスとパルソは、ロウリア王国敗戦の報告を受け、魔信用通信室で頭を抱えていた。
「ま、まさかロウリア王国が敗れるとは・・・。あれほどの支援に加え、旧式とはいえ皇国の魔法技術の粋であるカマキラスまで供与していたというのに・・・。これでは資源獲得の国家戦略に大きな支障が出てしまいます。」
「それどころの問題ではないわ! もしこの件がルディアス陛下のお耳に入ってみろ、私やお前は勿論、国家戦略局そのものが存亡の危機だぞ!! 」
「も、申し訳ございませぬ・・・」
イノスは冷や汗をかきながら、パルソと今後について協議する。ロウリア王国への支援は国家戦略局の独断で行っていたこともあり、何の成果も得られなかったことが明らかになると、組織的にも物理的にも文字通り、首が飛ぶことすらあり得る。
「それにしても日本国か・・・。『ロデニウス大陸沖大海戦』で精神疾患を患ったヴァルハルも荒唐無稽な内容を報告していたが、代わりに送ったヤツから何か連絡はあったか? もし日本軍が王都ジン・ハークまで攻めてきた場合は、軍の詳細を調査するように指示を送っておいた筈だが・・・。」
「8月末に日本軍がハーク城に攻め込んだ際の戦闘に巻き込まれ、殉職したようです。代わりに王都ジン・ハークへ商人に扮した密偵を送り込み、戦闘を見ていた民間人やクワ・トイネ公国にいた商人から情報を集めましたが、海戦同様、現実離れした話しか得られませんでした。」
聞けば、音の速さを超えて飛翔する鉄竜、尻尾から魔獣を焼き殺す光線を放つ鉄蠍、光の矢を放つ鉄蟹、重装歩兵を薙ぎ払い、三重の防壁を突き破る光弾を発射する鉄地竜など、どれも情報操作が入っているとしか思えないようなものばかりでった。
「ともかく、このような滅茶苦茶な情報を伝えれば火に油を注ぐだけだ! ロウリア王国への支援の履歴や今話した日本国に関する資料はすべて焼却しろ!! メモ用紙一枚たりとも絶対に残すなよ!!」
こうして観戦武官ヴァルハルが詳細に書き記した『ロデニウス大陸沖大海戦』の戦闘内容、ロデニウス大陸の民間人や商人たちから聞き取り、集められた調査資料はすべて焼却され、徹底的に情報が隠蔽された。
こうして列強パーパルディア皇国は滅亡という未来に向け、さらに歩みを進めるのであった・・・。
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中央暦1639年9月上旬
第二文明圏 列強国レイフォルの沖合
日本国やロデニウス大陸の3国、そして第三文明圏周辺がロウリア王国の敗戦を受け、事後処理や後始末に東奔西走していた頃、遥か西に2万㎞も離れた第二文明圏周辺において、大きな事件があった。
第二文明圏は、ムー大陸と呼ばれる大陸とその周辺海域の島々で形成されている。第三文明圏の列強国がフィルアデス大陸にあるパーパルディア皇国だけに対し、第二文明圏には2つの列強国、ムー大陸を山脈に沿って斜めに分割した北東半分に世界第二位の列強国『ムー連邦』が、南西半分に世界第五位の列強国『レイフォル』とその保護国、ニグラート連合やマギカライヒ共同体など他の国々が存在していた。
日本国がクワ・トイネ公国にファーストコンタクトをとった1月の同時期、西の果てに突如として『第八帝国』を名乗る新興国家が出現し、周辺の文明圏外の国々を侵略し、制圧し始めたのだ。
第八帝国、正式名称『グラ・バルカス帝国』が文明圏外国に飽き足らず、第二文明圏すべての国々に宣戦布告して西の海域で暴れ始めたとき、列強国レイフォルは野蛮な国、蛮族と気にもかけずに放っておいた。しかし、ついにはレイフォルの西側にある小さな島国であり、レイフォルの保護国筆頭であったパガンダ王国をも強襲制圧し、たった7日で滅亡させた。
このことはレイフォル皇帝の逆鱗に触れ、グラ・バルカス帝国に対し宣戦布告が行われた。パガンダ王国の沖合いに展開するグラ・バルカス帝国艦隊の撃滅のため、首都レイフォリアからワイバーン運用のための竜母と呼ばれる母艦や100門級戦列艦を含む主力艦隊が出撃した。
しかしグラ・バルカス帝国の巨大戦艦1隻に、竜騎士隊40騎は全滅し、100門級戦列艦を含む総勢43隻のレイフォル艦隊も旗艦ホーリーを残して沈められた。
グラ・バルカス帝国の国家監察軍に所属する超弩級戦艦『グレードアトラスター』。全長263メートルの船体には主砲の45口径46㎝三連装砲が三基、副砲の60口径15.5cm三連装砲が二基、そして各所に三連装高角砲や機銃がハリネズミのように設置されており、まさに海に浮かぶ要塞である。
艦の中央に聳える高い艦橋では、グレードアトラスターの艦長ラクスタルが指揮を執っていた。すぐ傍には、戦艦の艦橋には不釣り合いな少女が佇んでいる。
「列強とかいう割に全然大したことなかったわね。たった2発の近接信管弾であっという間に全滅だもの。」
「そうぼやくなよ。まだ敵の戦列艦が40隻もいるんだぞ。まあ砲弾の威力は黒色火薬レベル、射程距離も2㎞程度と、文明レベルが100年以上も遅れた前時代の遺産みたいなものだがな。」
「興覚めですわね・・・、完全に演習の的以下じゃありませんの。『ユグド』にいた頃はケイン神王国の連中と撃ち合い出来て楽しかったのに。」
ラクスタル艦長は欠伸をしている少女に注意するが、少女の方は退屈そうな顔のまま
答える。
「恐れ多くもハイラス殿下を手にかけた輩の親玉だぞ。お前は帝国の顔なんだから、どんな雑魚だろうとしっかり職務を果たせ。グラ・ルークス陛下に顔向け出来んぞ」
「わかりましたよ。ほぼ命中距離の5km前後の距離になったら、主砲と副砲で一斉攻撃しますわね。」
レイフォル艦隊との距離が6kmに差し掛かったタイミングで、グレードアトラスターは旋廻し、レイフォル艦隊に横腹を見せる。そして船体の三か所に設置された巨大な主砲、そして艦橋前と後部艦橋後ろに一か所ずつ付いている副砲が旋廻し、レイフォル艦隊への砲撃が開始された。
日本人が見たら大和や武蔵などの大和型戦艦と見間違えるであろうその巨大戦艦は、圧倒的な火力でレイフォル艦隊を一隻、また一隻と次々と撃沈していく。
あっという間に40隻いた戦列艦たちは海の藻屑となり、海上に一隻残された旗艦ホーリーは降伏旗を掲げ、ゆっくりと近づいてきた。グレードアトラスターとの距離が300メートルを切ったタイミングで突如、ホーリーの片側に装備された50門の魔道砲が一斉に火を噴いた。降伏した後の不意打ち砲撃であった。
「まさか降伏した後に砲撃してくるとは・・・。『アトラ』、問題ないとは思うが大丈夫か?」
ラクスタル艦長が不機嫌そうな顔をした少女に声をかける。
「黒色火薬レベルの砲弾で私の装甲がやられるとでも思いまして? 取り敢えず、ルールも守れない不躾な連中には罰が必要なようですわね。」
ゆっくりと45口径46㎝三連装砲が旋回し、100門級戦列艦ホーリーには9発の46cm砲弾が至近距離で叩き込まれ、跡形もなく消滅した。
「列強といっても、所詮この程度の民度か。残弾はどのくらいだ?」
ラクスタル艦長が艦橋にいる砲術士官に尋ねる。
「各砲門70発程度が残っています。」
「レイフォルの首都レイフォリアは、ここから東へ350kmほど先の海沿いに面していたな。『アトラ』、お前はどうしたい?」
「ハイラス殿下の件も含めて、躾のなっていないおバカさんたちにはきつーいお仕置きが必要だと思いますわ。」
『アトラ』と呼ばれた少女は、サディスティックな顔をしながら答える。
「よし、決まりだ! 目標、レイフォルの首都レイフォリア。」
翌日の夕方、レイフォル国の首都レイフォリアは、グラ・バルカス帝国の超弩級戦艦『グレードアトラスター』の全力砲撃を受け、すべてが灰燼に帰した。レイフォル皇帝も皇城に直撃した砲撃に巻き込まれて死亡し、生き残っていたレイフォル軍は全てグラ・バルカス帝国に降伏した。グラ・バルカス帝国は、レイフォルを自国領に編入し、入植が始まることとなる。
戦艦グレードアトラスターは単艦でレイフォル艦隊を撃滅し、さらにレイフォル首都レイフォリアをも殲滅して降伏に追い込んだ世界最大・最強の軍艦として、数年の間、恐れられる事となる。