中央暦1639年9月2日
日本国 つくば市
つくば市にある特殊生物研究本部では、7月上旬に勃発したエジェイ西方の戦いにおいて、ロウリア王国軍が使役していた巨大カマキリの遺骸が持ち込まれ、遺伝子解析をはじめとした検証と調査が急ピッチで行われていた。
特殊生物研究本部は防衛省の管轄下にある機関であり、国立感染症研究所や理化学研究所、高度感染症研究センターと合わせ、日本国に4か所存在するバイオセーフティーレベル4(BSL-4)施設の1つである。
他の3つの施設がエボラウィルスや天然痘ウィルスなど、生死に関わる程の重篤な感染症を引き起こし、毒性や感染性が最強クラスの病原菌を取り扱うのに対し、こちらは『特殊生物』の生理学研究に特化している点が大きく異なる。
地下最深部にあるA2貯蔵庫には、非常に危険な特殊生物たちの細胞やDNAなどの検体が厳重に保管されている。例えば二代目ゴジラや三代目ゴジラこと元ゴジラジュニア、ビオランテなどのG細胞を有した怪獣、スペースゴジラやグランドギドラなどの宇宙から飛来した怪獣などなど、普通の施設では絶対に扱えないような代物ばかりである。それらの研究を専門的に行うため、上記同等の取り扱いレベルが必要とされていた。
実験室では、研究主任の五条梓と国連G対策センターのG研究所から派遣された生物工学教授の権藤千夏が、例の巨大カマキリの検証結果について苦々しい表情をしながらディスカッションしていた。
普通の生物が特殊生物へ変化、いわゆる怪獣化するには、放射線による影響などで染色体中の遺伝子配列に何らかの異常が発生し、G配列(ゴジラ配列とも)と呼ばれる塩基配列になることが条件の一つとされている。
そのため自然発生的に変化した場合、一部の遺伝子配列がG配列化したとしても、『元々の生物が進化と変異の過程で蓄積してきた無駄な染色体』は、そのままの状態で残っていることが当然である。これは、『ビオランテ』のような人工的に創られた特殊生物においても同じであり、ビオランテの場合、ゴジラとバラ、そして人間の遺伝子が入り混じった染色体を有していた。
※ 染色体とは、細胞の中にある複数の遺伝子が記録されたフォルダのようなもの。パソコンがシステムアップデートされる度に、無駄なTEMPフォルダが増えていくって感じのイメージです。
「自然界にこんな遺伝子配列を持った生物が存在するなどありえない。これは人工的に怪獣化させられたとしか考えられないわね・・・」
パソコンのモニターに映し出された電子顕微鏡の画像を指しながら、権藤が話した。電子顕微鏡に映った巨大カマキリの染色体には、G配列を有した僅か一対の染色体だけが表示されていた。人間は23対の46本、ネコで38本、イヌで78本、ショウジョウバエですら4対の8本のため、その異常さが伺える。
「『槍のような形をした右前肢と左前肢の鎌をしていた』と現場で交戦した自衛隊員から報告がありました。ロデニウス大陸に生息するロデニウスカマキリは、日本に生息する通常のカマキリと同じく左右両方ともが鎌の形状です。念のためクワ・トイネ公国からサンプルを入手し、こちらも遺伝子解析を行いましたが、一致しませんでした。」
「それについては有力な情報があったわ。最近国交を締結したシオス王国の商人から、第三文明圏のフィルアデス大陸ってところに生息するフィルアデスオオカマキリっていう種が同じような左右前肢の鎌が異なる形状をしているって話を聞いたわ。残念ながら、まだサンプルは手に入っていないけどね・・・」
「フィルアデス大陸にある国が、フィルアデスオオカマキリの遺伝子を操作してこの巨大カマキリの特殊生物を作り出した可能性が高いということでしょうか・・・」
「まだ確定は出来ないけどおそらくね・・・。それにしても生物を怪獣化させて生物兵器にする・・・。日本以上の遺伝子工学の技術を持っていながら、悪魔のような発想を平然とするなんて一体どんな国なのよ・・・。」
彼女らを含めた研究者たちが、古の魔法帝国こと『ラヴァーナル帝国』の存在、そしてその遺跡に残されていた研究施設跡を悪用する『列強国』のこと知るのは、もう暫く先のことである。
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中央暦1639年9月8日
日本国 首都東京
日本国の首都東京にある首相官邸には、国家転移以後、何度目になるかわからない会合が開催されていた。集まっている面々は、官房長官や防衛大臣、外務大臣など各省の大臣に加え、自衛隊幹部や特殊研究本部の所長、Gフォース関係者などの錚々たるメンバーもいた。
「まずはロウリア事変の件について、関係各省の皆、そして現場で尽力してくれた自衛隊員の諸君に対し、深く感謝を申し上げる。国家転移という天変地異のなか、一人の殉職者も出すことなく、無事任務を遂行出来た。これは皆の獅子奮迅の働きあってのことだ。」
現内閣総理大臣の麻生孝昭が、会合の冒頭で皆に感謝の念を述べる。その後、各大臣が発言の際に起立し、状況を報告し始めた
「旧ロウリア王国ですが、臨時政府の最高責任者になったパタジン氏のもとで戦後処理が進められています。幸い、今回の事変における被害が軍のみだったことに加え、王都に招集されていた諸侯たちも、自領まで帰郷するなどして戦闘に巻き込まれなかったため、ロウリア王国全体としてみれば、日本に対する敵対心・反日感情はあまり高くないようです。」
「また今回のロウリア事変の件を受けて我が国のことが周知されたこともあり、ロデニウス大陸以外の国々とも国交の締結が進んでいます。現在はフィルアデス大陸南方のシオス王国、第三文明圏東方にあるガハラ神国、フィルアデス大陸北東にあるトーパ王国などと国交が成立しました。」
「ロデニウス大陸におけるインフラ整備ですが、ロウリア事変において急ピッチで整備したこともあり、クワ・トイネ公国の経済都市マイハーク港をはじめとした湾岸設備、穀倉地帯やクイラ王国の油田や鉱山に繋がる鉄道網と道路網が完成しました。また城塞都市エジェイ北側に建設しました『ダイタル基地』周辺を拡張し、国際空港として民間利用も出来るよう工事を進めています。」
「空港の件で、皆に共有しておくべき情報がございます。最近国交を締結しましたシオス王国に、既に建設された小型の空港施設がございました。今後の使用と拡張工事の許可について尋ねたところ、建設したのはここから西に2万㎞も離れた第二文明圏と呼ばれる地域にある世界第二位の列強国『ムー連邦』という国らしいです。」
『ムー』という言葉を聞き、会合に出席していた全員の顔が強張る。それもその筈、今から約50年前の1963年、1万2千年前に海底に沈んだというムー大陸を支配した『ムー帝国』が地上全世界の即時返還を要求し、全世界に宣戦布告するといういわゆる『ムー事変』が発生したからだ。
ムー帝国は全長150メートルの巨大な海竜『マンダ』を操り、貨物船などの船舶を襲撃・撃沈し、世界各地の海岸地域を大陥没させるなど全世界に大きな被害を出した。しかし、初代『轟天号』の活躍によりマンダは凍結死し、また帝国の心臓部を破壊され、そのまま地殻変動により滅亡したとされていた。もしあのとき滅亡しておらず、日本国同様、この世界に国家転移していたとなれば、その危険性はロウリア王国の比ではない。
「クワ・トイネ公国やクイラ王国からも、同国について情報がございました。なんでも我が国と同様、クイラ王国から石油を輸入しているとのことです。」
もし50年前のムー帝国と同一国家であれば、国交を結んで普通に貿易することなどありえない。ロデニウス大陸の文明レベル国家が相手であれば、間違いなく侵略して植民地化しているだろう。
「同名の別国家という線もあるな・・・。今後、我が国が各国と国交を樹立した際、既にある現地の空港を使用できるメリットは大きい。またクイラ王国から石油を輸入しているということは、我が国同様、科学・機械文明が発達している可能性も高い。早急にコンタクトを取った方が良さそうだな。」
「それでは国交締結を視野に入れた使節団の派遣を急ぎ準備致します。我が国からの距離が非常に遠いのと、万が一に備え、ごうてん級とはくげい級を使節団の護衛に付けるように致します。」
「続いて文部科学省、及び防衛省から報告致します。特殊生物研究本部において調査しておりましたロウリア王国の巨大カマキリについてですが、人工的に創られた人造特殊生物である可能性が浮上しました。」
会議室のプロジェクターに、一対の染色体の電子顕微鏡像とフィルアデスオオカマキリの画像が映し出され、説明が始まった。
「フィルアデス大陸に生息するフィルアデスオオカマキリを素体にして、非常に高い遺伝子操作することで怪獣化させられた可能性が指摘されています。また現在収容所にいる元ロウロア王国海軍提督のシャークン氏や取り調べ中のハーク・ロウリア34世の証言から、今回の『ロウリア事変』には第三文明圏フィルアデス大陸にある列強国『パーパルディア皇国』が関与していたようです。あの巨大カマキリもロウリア支援の一環として供与されていたと話していました。」
生物を無理やり怪獣化させて生物兵器として利用する・・・こんな悪魔のようなことを平然する国家が近くにあるという事実に全員が驚愕する。
「『パーパルディア皇国』との本格的な接触は、周辺国家から十分に情報を得られてからの方が良さそうだな。まずは先ほど話に挙がった『ムー連邦』や周辺国家との足場固めを優先しよう。」
「先日、ごうてん型対特殊生物戦闘護衛艦の3番艦『きょうてん』が完成しました。1番艦『ごうてん』と合わせ、領海内警護の任務に就かせます。また先程のムー使節団の護衛には、2番艦『しんてん』を就けるように致します。」
「転移の影響により、現在静止軌道上に移動してしまっています『宇宙ステーションきぼう』ですが、このまま静止軌道での運用が出来るように観測機器等の改修を進めています。この惑星には未知の点が多く、万が一、衛星攻撃兵器を有した国があれば低軌道上での周回は危険なため、このままロデニウス大陸近くの赤道軌道上で運用してきたいと考えています。」
「『きぼう』からの各種観測の結果、『一定高度を過ぎると重力加速度が弱まる』という現象が報告されています。懸念していました『人工衛星の打ち上げ重量の大幅な低下問題』につきましても、本現象とH-2Bの強化、H3ロケットの実用化と合わせて、打ち上げ可能なペイロードは増加出来る見通しです。」
「再来月には、種子島宇宙センターより情報収集衛星数機が打ち上げられる予定です。また沖縄県のマスドライバー『カグヤ』も再稼働を開始しており、『きぼう』への物資供給や『きぼう』での特殊燃料や素材製造も再開しています。」
「国ごと転移などという天変地異に見舞われたときは一体どうなることか・・・と肝を冷やしたが、この新天地でなんとかやっていけそうだな。今後も困難に直面することが多々あると思うが、皆よろしく頼む。」
※ 特殊生物研究本部
出典 : ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS(2003年)
(スタッフクレジット後のエピローグに一瞬登場)
防衛省の管轄下にある機関であり、日本国に4か所存在するバイオセーフティーレベル4(BSL-4)施設の1つである。『特殊生物』の生理学研究に特化しており、地下最深部にあるA2貯蔵庫には、非常に危険な特殊生物たちの細胞やDNAなどの検体が厳重に保管されている。同じくつくば市にある国連G対策センターや傘下のG研究所などと共同で研究、検証することも多い。
いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。
ロウリア編まで完結させることが出来ましたのも、
ご声援頂きました賜物と思っています。
以前公開されていました別作品の盗作等の
指摘もございますが、今後も本作を
よろしくお願い致します。