東宝世界線の日本国召喚   作:T1001

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031. 剣の国との国交

 

中央暦1639年9月7日

第三文明圏外東方フェン王国

首都アマノキ アマノキ城

 

 

日本国外務省の使節団は、対馬から西に約500km付近にある島国、フェン王国を訪れていた。フェン王国はクワ・トイネ公国やクイラ王国のように農産物や天然資源が豊富というわけでもなく、またシオス王国やトーパ王国、ガハラ神国のように直接国交締結の交渉に来たわけでもなかったため、日本国外務省が計画していた国交開設交渉の暫定優先順位は、それほど高くなかった。

 

しかし数日前に国交締結したガハラ神国へ派遣された大使から、日本国外務省へある連絡が入ったことで、転機が訪れる。それはガハラ神国の元首である神王ミナカヌシから、隣国のフェン王国の存在、そしてフェン王国が存亡の危機に瀕している旨を相談されたという内容であった。

 

「彼らは危機に瀕している。我らでは力になれないが、貴国であれば彼らを救うことが出来るかもしれない。国交を開いたばかりの貴国に、このようなことを頼むのは心苦しいが、話だけでも聞いてやってくれないだろうか・・・」

 

そう言って頭を下げた神王ミナカヌシからの相談を無下にも出来ず、急遽、フェン王国への使節団が結成されたのであった。

 

外交官の島田をはじめとする外務省から派遣された使節の面々は、アマノキ城の応接の間に案内され、剣王シハンと会っていた。国中の空気が張り詰めているような厳格で、だが同時にどこか懐かしい感じのする雰囲気に、身が引き締まるような思いであった。

 

『武士の国』の国王、日本的にいえば江戸時代の将軍のようなものを想像していた島田であったが、応接の間に入ってきた剣王シハンの印象は、武士道が熟成された『古き日本人』であった。白髪交じりの壮年の風貌ながら、剣の達人のようなオーラがひしひしと伝わってくる。

 

持参した大陸共通語で書かれた文書をお互いに確認し、通商条約をはじめとした国交締結に向けた会談が行われる。クワ・トイネ公国の言語学者の協力で、既にこの世界で使用されている大陸共通語の語句や文法の解析も殆ど完了していたこともあり、交渉はスムーズに行われた。交渉も大詰めを迎えようとしたとき、剣王シハンが使節たちにふいに話始めた。

 

「貴国から提案頂けた内容だが、凄まじい国力を持つ国と対等な関係が築けるうえ、夢としか思えないような技術も手に入る。我が国としては、実に申し分ないものだ。」

 

「だが失礼ながら、私は貴方の国、日本国を良く知らない。加えて遠路はるばる参られた貴殿らの苦労も、数か月後には水泡に帰するやもしれぬのだ・・・」

 

それまで明るかった剣王シハンの顔が、突如、暗く重々しい表情になる。シハンの変化に、島田をはじめとする使節の面々は、お互いに顔を見合わせる。

 

「我がフェン王国は、第三文明圏の列強国『パーパルディア皇国』に目を付けられているのだ。領土の割譲を要求され、それを断ったというだけの理由でな・・・。皇国軍の力は絶大にして強大。もし戦争を仕掛けられようものなら、我が国なぞ道に落ちた枯れ葉のようにあっという間に吹き飛ばされてしまうだろう・・・」

 

神王ミナカヌシが話していたフェン王国の危機とはこれのことだったのか・・・と島田たちは理解した。同時に国交開設と引き換えに、安全保障や軍事同盟を求めてくるのではと身構える。

 

「貴国とは是非とも国交を開設したいと思っておる。だが、我が国の今の状況を伝えることなく、このまま交渉を進めるのは其方たちに不義理だと思ってなぁ。今話した件を踏まえて、我が国と国交を開設したいかを決めて欲しい。」

 

剣王シハンは苦々しい顔で話し終えると、湯飲みに入ったフェン茶(フェン王国の緑茶)を飲み干し、溜息をついた。

 

「貴国の状況は理解しました。我々だけでは決定し兼ねる内容のため、一旦本国に確認させて頂いてもよろしいでしょうか。」

 

「この場ですぐ決めて欲しいとは流石に言わぬよ。良い返事を期待しておきますぞ。」

 

こうしてフェン王国との国交開設に向けた一回目の会談は、剣王シハンが自国の危機的状況を暴露したことで、一旦保留されることとなった。日本国の使節が帰った後、アマノキ城から首都アマノキを眺めるシハンに側近の剣豪モトムが尋ねた。

 

「剣王、なぜ日本国の大使たちにパーパルディア皇国のことを話したのですか? 彼らの持参しました刀剣や着物は勿論、彼の国の紹介資料を拝見しましても昨今出来たような新興国ではないことは明らかです! もし日本国を仲間に引き入れられたら、皇国にも対抗可能になったのでは!?」

 

「『それ』を見極めるためじゃよ・・・」

 

モトムはシハンの言っていることが理解出来ず、首を傾げる。

 

「国ごとの転移や海に浮かぶ鉄船、高速で大空を飛び回る鉄竜など、あの資料にあった御伽噺のような内容はとても信じられない気分でな・・・」

 

「もし『日本国』などという国が本当は存在せず、パーパルディア皇国が我が国に宣戦布告するために準備した架空国家、または傀儡国家であったとしたらどうする? 今は『皇国の提案を丁寧に断っただけ』だから、うまくいけば皇国監察軍による懲罰攻撃や要求されていた森林地帯をタダで明け渡す、場合によっては儂の首を差し出すだけで済む可能性もある。だが・・・」

 

モトムはシハンの意図を悟った。

 

「もし『対抗しようと結託し、戦力の拡充を画策している反皇国的な国家』などと認定されようものなら、今度は皇国軍の本隊が襲来し、フェン王国は本当にお終いということでしょうか・・・」

 

「そういうことじゃ。どちらにせよ、大切なことを隠したまま交渉を進めるような不義理な行いは『武士道に反する』じゃろ。」

 

剣王シハンは豪快に笑いながらそう答えた。

 

 

 

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中央暦1639年9月8日

日本国 首都東京

 

 

午前中に開催された会合の結果、第二文明圏の列強国『ムー連邦』や周辺国家との足場固めを優先するという方針が決定された。また関係部署に『ロウリア事変』の背後に第三文明圏の列強国『パーパルディア皇国』が関与しており、ロウリア王国が使役していた巨大カマキリも、同国が創り出した人造特殊生物である可能性が高い旨も共有されていた。

 

政府首脳陣や関係閣僚たちの間でパーパルディア皇国を危険視する声が高まるなか、フェン王国に派遣していた使節団から同国の状況が伝えられた。フェン王国と国交を開設するか否か、午後からの会合も別ベクトルで紛糾した。

 

「今のような状況下でフェン王国と国交を結べば、パーパルディア皇国が次に目を付けるのは我が国になるかもしれせんよ。」

 

「だがもしフェン王国が陥落するようなことになれば、『生物を無理やり怪獣化させて生物兵器として利用するような超危険国家』と僅か500kmで隣接することになるのですよ! 我が国の安全保障上、そのようなことは絶対にあってはなりません!!」

 

「『ロウリア事変』のときとは異なり、特殊生物を用いた侵略や犯罪が行われていない以上、我が国から軍事的支援やサポートが出来ることは限られます。そもそもの前提として、フェン王国とはまだ国交締結すらしていない段階なのですから・・・」

 

「しかしまだまだ我が国のことが十分に周知されていないなか、戦争状態にもなっていないフェン王国を見捨てたとあれば、薄情国家のレッテルを貼られかねません。そうなると、今後の周辺国との国交開設に支障をきたします!」

 

最終的に『現時点では"あくまで目を付けられている程度"で戦争状態ではないこと。またパーパルディア皇国との緩衝地帯国家になりえること。そして普通では絶対に打ち明けないような内容を国交締結前に正直に話してくれたこと』を考慮し、内閣総理大臣の麻生孝昭の判断のもと、フェン王国と国交締結する方針が決定した。

 

 

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中央暦1639年9月10日

第三文明圏外東方フェン王国

首都アマノキ アマノキ城

 

 

政府からフェン王国と国交締結する方針を連絡された日本国外務省の使節団は、アマノキ城の応接の間にて、国交開設に向けた二回目の会談に臨んでいた。

 

「政府内で検討しました結果、貴国の今の状況を踏まえましても、貴国と国交を開設したいと考えています。」

 

剣王シハンはもちろん、フェン王国の外務文官や側近たちは、日本側から予想外の回答が得られたことに目を丸くし、お互いに顔を見合わせた。『列強国に目を付けられている』というだけで、通常の国家であれば委縮し、及び腰になることが普通だ。しかし、目の前の使節たちのトップは意にも介さず、自国との国交締結を求めた。

 

「島田殿、我が国の状況を知ってなお、国交締結を求めて下さったこと、誠に感謝致しますぞ。」

 

剣王シハンや会合に出席していたフェン王国の文官、側近たちも、全員が頭を下げて感謝の念を伝える。

 

「シハン様、皆さん顔を上げてください。先日ご説明しました通り、我が日本国は平和主義を国是としています。申し訳ございませんが、貴国との安全保障や軍事同盟は締結できません。あくまで国交開設や通商条約などになりますが、よろしいでしょうか。」

 

「貴国がお持ちの遥か未来のような技術や知識が手に入れられるだけでも十分じゃ。これからは貴国の新たな隣人の一国として、よろしくお頼み申しますぞ。」

 

安全保障や軍事同盟は締結出来ない旨は、日本国が平和主義を国是としていることから、フェン王国側も十分承知していた。たがその抜け穴を潜り抜ける方法は、『ロウリア事変』において旧ロウリア王国軍が示していた。

 

「国交開設や通商条約などについては、先日におおよそ取り決めた通りで問題ない。今日にでも締結に向けた手続きを完了したいと考えておる。ただ貴国が提案して下さった『対特殊生物に関する相互協力条約』については、我が目で直に貴国の軍を見てからにしたいと思っていてのぉ。」

 

「それでは、使節団の受け入れを準備致し・・・」

 

「いや、そういうことではなくての、丁度この時期、我が国では毎年軍祭をやっておってな。ちょうど今年は我が国と友好関係にある国々も参加するような大規模なものを開催する年でな、自国の軍船をお披露目するようなことを行っておる。」

 

「貴国の水軍、確か海上自衛隊じゃったかの。その一部だけでも親善訪問として、軍祭に参加して貰えぬか。もし可能なら、ちょうど我が国の水軍から廃船が4隻出るから、それを敵に見立てて攻撃してみてほしい。要は前に資料で見せて貰った『貴国の力を直に見たい』のじゃよ。」

 

万が一、パーパルディア皇国から言及されたとき、国交開設や通商条約だけであれば、まだ言い逃れ可能だ。だが軍事同盟とも捉えかねない項目については、シハンもかなり慎重になっていた。

 

一方、日本側も予想外の提案に面くらい、困惑していた。まだ国交も無い、または国交開設して間もない国の軍が来訪することは、その国に対する威嚇行為であり、非常に嫌がられることが普通である。それに対し、この国は「力を見せろ」といい、しかも首都アマノキの沖に持ってこいという。

 

「そのご提案、承知致しました。それでは一旦持ち帰り、政府内で協議してから後日回答するように致します。」

 

派遣する側としても、不幸なすれ違いが起こらないように細心の注意を払わなければならないが、まだ日本と国交を開いていない国々も参加するのであれば、今後の国交締結交渉もよりやり易くなるだろう。

 

その後、政府官僚や自衛隊幹部たちで協議が重ねられ、臨時編成された海上自衛隊の艦隊が25日に開催されるフェン王国の軍祭に参加することとなった。政府の思惑通り、軍祭にはまだ国交開設出来ていない国々も多く参加しており、軍祭後には国交締結交渉もより円滑に進むこととなった。しかし軍祭当日、『招かれざる客』も飛び入り参加し、後に発生する悲劇に繋がるのであった・・・。

 

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