中央暦1639年9月17日
列強国 パーパルディア皇国
皇都エストシラント
フィルアデス大陸南部に位置する沿岸部には、第三文明圏における唯一の列強国パーパルディア皇国の首都『皇都エストシラント』が存在する。皇都防衛軍基地軍令部や海軍本部なども存在する皇国軍の中枢であり、また皇宮であるパラディス城や各政府機関の本部が置かれた政治と経済の中心でもあるため、第三文明圏において最も栄えている都市といっても過言ではない。
地球の都市で例えると、ロウリア王国の首都『王都ジン・ハーク』がアテナやテッサロニキに代表される古代ギリシャ風の都市であったのに対し、『皇都エストシラント』はフランスのパリやイタリアのローマのような『バロック都市』であることが特徴である。
見るものを圧倒する豪華な彫刻が施された初代皇帝を称える凱旋門を中心に、放射状に道路が張り巡らされており、また各国家機関の建物も彫りが深い動的な彫刻が施されたバロック建築であるなど、都市全体がまるで1つの芸術作品のようになっている。
もっとも、『属領である文明国5ヵ国と文明圏外国67ヵ国、そして周辺の文明圏外国家から無理やり吸い上げた富や資源によって築き上げ、繁栄してきた都市』であるため、その実態は見た目と正反対で非常に醜悪である。
そんな都市の中央部には、フランスのヴェルサイユ宮殿に似た壮大で豪華なバロック・ロココ建築の宮殿と広大な美しい庭園をもつ『皇宮パラディス城』が鎮座している。現皇帝である『ルディアス・ド・ラ・エストシラント』の絶対王政を象徴するかのような巨大宮殿の内部には、パーパルディア皇国の外務省にあたる3つの機関が存在する。
・ 第一外務局
局長:エルト(目元のシワが最近の悩み)
世界五大国の列強を担当する外交部署。唯一の格下であったレイフォルが滅亡した現在、相手全員が格上の列強国となったため、対外関係に細心の注意と高度な政治判断が求められるエリート部署。格上相手に溜まったストレスを第二と第三をバカにすることで発散している。
・ 第二外務局
局長:リウス(影と髪が薄い)
文明圏内の国に対する外交を担当する外交部署。文明国に加え、列強保護国も担当するため、臨機応変な判断が求められる。いわゆる二番手部署。
・ 第三外務局
局長:カイオス(ヒゲが立派な苦労人)
文明圏外国の国々に対する外交を担当する外交部署。担当する国家の数が最も多いため、外務局全体の職員の六割がここに在籍。第一、第二の職員たちからバカにされた腹いせで、訪問してきた文明圏外国の大使たちへ八つ当たりの脅迫外交をするのが日課。
これらに加え、国外での皇国の権益を確保するために奔走する『国家戦略局』があるが、主に文明圏外国に対する工作や謀略が殆どのため、実質的には第三外務局の分署のような扱いをされている。
パーパルディア皇国の外交を担うこれらの部署において、現時点で日本国の存在を把握しているのは『国家戦略局』の限られた職員だけであった。ロウリア王国敗戦の報告を受け、イノスとパルソによって『ロデニウス大陸沖大海戦』の戦闘内容や各種調査資料などがすべて焼却されてためである。
そんな外務局の第三外務局にある局長室では、局長のカイオスがフェン王国担当の職員と皇国監察軍の補給担当に対して怒気のある言葉で詰問していた。
「フェン王国に対する計画はどうなっている? 皇国監察軍の派遣準備は整ったのか? 連中が我が皇国の顔を潰してからもう二週間になるぞ!」
パーパルディア皇国の現皇帝『ルディアス・ド・ラ・エストシラント』が提唱した国土拡大計画の一環として、第三外務局ではここ数年、文明圏外国に対して領土の献上を要求していた。数年前にも、フィルアデス大陸東の島国であるアワン王国にも恐喝を行い、領土の一部を割譲させている。
同じようにフェン王国にも領土の森林地帯を割譲するよう要求したところ、代案である租借案を含め、すべて丁重に断られてしまった。これにより、フェン王国を『列強国のメンツを潰した無礼者国家』と認定し、皇国監察軍による懲罰攻撃が決定されたのであった。
「はい、間もなく皇国監察軍の東洋艦隊22隻の出撃準備が完了します。25日に開催されるフェン王国の軍祭に乱入し、『皇国に逆らった愚かな国がどういう末路を辿るか』を参加している他の蛮族どもに思い知らせてやります!」
「蛮族どもに『皇国軍の強大さと恐ろしさ』を再教育してやりましょう。そして服従しない国に関わるだけでも皇国の攻撃対象にされる可能性があると認識させ、フェン王国を孤立状態にしてやります!」
カイオスを含めた第三外務局の面々は、皇国監察軍による懲罰攻撃を受けたフェン王国の重鎮たちが、数日後、泣きながら土下座して謝罪する姿が目に浮かんでいた。特にフェン王国担当の職員は、『当初要求していた森林地帯以上の領土を献上させることが出来るだろう、そしてその功績を皇国首脳たちに認められ、冬のボーナスは昨年以上になるだろう』と予想し、ニヤケ顔をしていた。
しかし皇国監察軍によるフェン王国への懲罰攻撃は、彼らが予想していた明るい未来とは正反対の『列強パーパルディア皇国の滅亡』という破滅と絶望に溢れた暗い未来に向け、事態を加速させてしまったのであった・・・。
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中央暦1639年9月25日
第三文明圏外東方フェン王国
首都アマノキ
この日、フェン王国の首都アマノキでは、軍祭が開催されていた。フェン王国の友好国の国々が参加する大規模の軍祭は5年に一度の頻度であるが、収穫祭も兼ねた側面もあり、小規模な祭は毎年開催されていたため、この時期になるとアマノキの町中が沸き立つ日でもあった。そういったこともあり、軍祭に参加したフェン王国の友好国の艦船が停泊するアマノキ港周辺では、海鮮焼きや串揚げ、日本でいう柿の葉寿司のような料理を出す屋台などが軒を連ねており、多くの人で賑わっていた。
余談ではあるが、第三文明圏の争乱が落ち着いた翌年の軍祭からは、異世界ではまだまだ馴染みの薄いタコ焼きやたい焼き、ベビーカステラなど、日本の影響を受けた屋台も数多く出店するようになり、B級グルメが集結する祭としても有名になるのであった。
軍祭に参加している国々は第三文明圏外国ということもあり、殆どがロウリアのような木造帆船、または表面に鉄板を貼り、少数の大砲(魔導砲)を搭載した鉄甲船が数隻いる程度であった、そんな中、沖合には場違いの巨大な鉄船が数隻停泊していた。つい先日フェン王国と国交を締結した日本国が派遣した海上自衛隊の護衛艦隊である。
今回の軍祭では、8月下旬に完成したばかりのごうてん型対特殊生物戦闘護衛艦の3番艦『きょうてん』やこんごう型護衛艦『みょうこう』など全7隻で構成された臨時編成艦隊が派遣されていた。剣王シハンからは軍祭のフィナーレとして、廃船への攻撃をデモンストレーションして欲しいと頼まれており、砲撃予定の『みょうこう』と『きょうてん』では準備と周辺への安全確認が行われていた。
既に日本国と国交を締結している国々は勿論、まだ日本国と国交を締結していない、または風の噂程度でしか日本国のことを知らない国々の武官たちも、沖合に停泊する巨大船がどのような攻撃を行うのか、非常に興味深そうな表情で見つめている。
ちょうど同時刻、『招かれざる客』たちもフェン領海外まで到着し、首都アマノキへの懲罰攻撃の準備が進められていたのであった。