東宝世界線の日本国召喚   作:T1001

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037. ポクトアール提督の誤解

 

中央暦1639年9月25日

第三文明圏外東方フェン王国領海

首都アマノキの西海域

 

 

皇国監察軍東洋艦隊司令のポクトアール提督が率いるパーパルディア皇国の国家監察軍東洋艦隊22隻は、フェン王国の首都アマノキに向けて進んでいた。

 

監察軍内で練られていたフェン王国への懲罰作戦としては、まずワイバーンロードとMN隊を軍祭へ乱入させる。仕上げに艦隊の戦列艦19隻をアマノキに突入させ、砲撃で各国の軍船を血祭りにあげると同時に、アマノキ周辺を火の海にするというものであった。

 

この作戦を遂行することで、フェン王国民は勿論、軍祭に参加していた各文明圏外国の蛮族共に『皇国の力と恐ろしさ』を再教育し、『皇国に従わず、逆らうことがいかに愚かなことか』を認識させる狙いがあった。

 

ある程度アマノキへの攻撃が完了した時点で、竜騎士隊から東洋艦隊へ連絡が入る手筈となっていた。・・・なっていた筈だが、いつまで待っても何も連絡が入らない。

 

『メガニューラ』隊指揮官のレクマイアとは、共に数多くの文明圏外国に遠征していたが、彼が定時連絡をし忘れるようなミスをしたことは一度もなかったこともあり、ポクトアール提督は不審に思っていた。

 

「竜騎士隊やMN隊から何かしら連絡があっても良い頃なんだがな・・・。あまりに連絡が遅すぎる・・・。アマノキには雑魚しかいない筈だが・・・」

 

数週間前に入手した情報では、軍祭に参加予定の文明圏外国の戦力は、何も改良されていない飛竜(ワイバーン)、旧式の魔導砲が数門搭載している程度の帆船、そして弓と刀程度で武装された侍(騎士)など、皇国監察軍の相手にならない脆弱なものであった。

 

ガハラ神国の『風竜』だけは、唯一自分たちに対抗可能な戦力ではあるが、ルディアス皇帝から手出し無用と勅命が出されている以上、竜騎士隊が誤って攻撃しているとは思えない。

 

実際、10分ほど前に自分たち東洋艦隊を迎撃しに来たフェン王国の水軍も、文明国で使用されている旧式魔導砲(射程1km前後)を搭載していた程度であった。そのため、アマノキへの砲撃用に準備していた弾薬の一部を "無駄に消費したこと" 以外は一隻の喪失どころか一発の被弾もなく、無傷で13隻の軍船すべてを撃沈していた。

 

「提督、失礼ながら考えすぎではございませんか。敵があまりに弱く、連絡をし忘れているだけでは・・・と自分は思います。」

 

艦隊副司令が、ポクトアール提督へ話かけてきた。

 

「そうだと良いがな・・・。どうも嫌な胸騒ぎがするぞい。」

 

その数分後、ポクトアールの胸騒ぎは的中することとなる。

 

「水平線上に艦影と思われるもの発見!こちらに接近してきます!!」

 

「我が皇国の船よりも巨大な艦です! 掲揚されている国旗はフェン王国のものではありません、白い布地に赤い丸の付いた旗が掲げられています!!」

 

艦隊の最前列に位置した戦列艦のマストで周囲を監視していた水兵が、接近してくる巨大艦を見つけ、全艦に緊急の魔信連絡を行った。

 

ポクトアールをはじめ、各戦列艦の艦長や士官たちは望遠鏡を取り出し、その方角を凝視する。望遠鏡の先には、パーパルディア皇国が君臨する第三文明圏や周辺の文明圏外国では見慣れない漆黒色と灰色の巨大艦が映っていた。

 

「見慣れない国旗と船だな・・・。こちらの方角から来たということはフェン王国の軍祭に参加していた船か・・・?」

 

「もしかすると我らが放った竜騎士隊やMN隊の襲撃に慌てふためき、アマノキ港から脱出してきた船かもしれませんね・・・。だとすると、チャンスです! あの艦隊も沈め、奴らにも我が皇国の恐ろしさを思い知らせてやりましょう!!」

 

すかさず、血気盛んな艦隊副司令がポクトアールへ上申する。

 

ポクトアールは望遠鏡を覗き込みながらこの状況を考える。竜騎士隊やレクマイアが連絡して来ないのは、この艦隊のようにアマノキ港から脱出する各国の軍船を追撃し、魔力通信機の通信可能範囲外に出てしまっているのはなかろうか・・・。

 

もしそうだとすると、ここであの艦隊を逃がしてしまっては、彼らに申し訳が立たない。加えて国家監察軍が第三外務局のカイオス局長から受けた指令は、『フェン王国とその軍祭に参加している各国へ恐怖を植え付けること』である。だとすれば・・・

 

「全艦、戦闘配置につけ! 魔導砲の射程に入り次第、順次回頭してまずは最前列にいるあの黒い巨大艦に砲撃を開始せよ!!」

 

巨大艦との距離は、まだ15km前後も離れている。ポクトアールから司令を受けた各戦列艦の甲板では、水兵たちが慌ただしく動き回り、魔導砲の発射準備を行っていた。

 

距離が10kmを切った時点で、最前列の戦列艦から各艦へ再度連絡が入った。

 

「前方の黒い巨大艦から発煙を確認! あれは第三文明圏で使用されている船舶用の狼煙信号です!!」

 

「あの色の組み合わせは・・・。我が艦隊へ撤退勧告を出しています!!」

 

文明圏外国と思われる船から撤退勧告の信号が出されたことに、ポクトアールや副司令たちは格下から挑発されたと思い、怒りを爆発させた。

 

「蛮族の分際で偉大な皇国を舐め腐りおって! 一隻残らず、海の底に送ってやれ!!」

 

『風神の涙』と呼ばれる周囲の気圧を変化させる魔術回路組み込み型魔石を使用し、帆に一杯の風を受けた戦列艦たちはさらに速度を上げ、距離を詰める。

 

 

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海上自衛隊 派遣艦隊旗艦『きょうてん』

 

 

日本国が転移したこの世界は、『魔信』と呼ばれる魔法技術を用いた遠距離通信手段が確立されている。しかし、あらかじめ端末同士の魔力周波数を照らし合わせておかなければ、お互いの送受信がうまく出来ないという電波を用いた簡易無線に近い性質がある。

 

従って艦船同士のやり取りなど、相手の魔力周波数が不明で魔信による連絡が不可能な場合には、魔法技術を用いた狼煙や発光信号、手旗信号などアナログな手法が用いられている。友好関係を結んだ国々からこれらのことを教わり、海上自衛隊の護衛艦は勿論、貿易などで外洋を航海する船舶にも発煙筒を改良した狼煙などが搭載されるようになっていた。

 

「敵戦列艦隊、12 ~ 15ノットでの速さで接近中。撤退する気配はありません!」

 

「やはり退かないか・・・。それにしても特殊生物を創り出すような高い技術をもった危険国と聞いていたが、一向に攻撃してくる気配がないな・・・。」

 

「船も地球でいうところの、17世紀から19世紀にかけて使用されていた戦列艦みたいですね。フェン王国の話では、文明国で使用されている魔法を使った魔導砲と呼ばれる大砲が射程1km前後らしいです。それを考慮すると、長くても3km前後の射程なのかもしれませんね。」

 

「それにしても地球でいう21世紀以上の遺伝子工学技術を持ちながら、造船や大砲の技術は18世紀前後とは・・・。魔法とかいう我が国でもまだまだ未知な分野がある世界とはいえ、技術発展の方向がかなり歪んでいますね。」

 

実際のところ、パーパルディア皇国は、偶然見つけた古の魔法帝国こと『ラヴァーナル帝国』の研究施設跡を原理もわからないまま、ただ使用しているだけの状態である。例えるなら、某ネコ型ロボットが22世紀の未来道具を16世紀の戦国時代に落とし、それをたまたま拾った侍が無双ヒャッハーしているような感じである。パーパルディア皇国自体は魔法関連の技術を除けば、その封建的な外交方針同様、技術や生活水準も地球でいうところの18世紀と同等であった。

 

「流石に警告もなしに攻撃するわけにはいかない・・・。このまま撤退勧告を意味する狼煙をあげ続け、無視して進行してくるようであれば、距離8kmを切った時点で奥の竜母らしき軍船に攻撃を開始せよ。母艦が沈めば、これ以上妙な特殊生物が出てくることはないだろう。」

 

「万が一に備え、本艦はこれより飛行形態に移行する。海面スレスレを飛行しつつ、敵戦列艦からの砲撃に備え、回避行動をとる。」

 

 

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ポクトアール提督は、イライラしながら望遠鏡を覗き込んでいた。生意気にも、前方の黒い巨大艦は撤退勧告を示す狼煙をあげながら、こちらに接近してきていた。

 

距離が縮まったことで、最前列の戦列艦である程度黒い巨大艦の全貌が見えるようになった。水平線上からずっと巨大艦を監視していたマストの水兵は、ある違和感に気付き、血相を変えて緊急の連絡を行った。

 

「緊急連絡、緊急連絡、前方に見えていた黒い巨大艦が浮かんでいます!」

 

船なんだから浮いていて当然だろう、コイツは何を言っているのだ・・・と報告を訝し気に聞いていたが、次の連絡内容を聞いて全員が耳を疑った。

 

「海面ではありません! 空中です! 空中に浮かんでいます!! 前方の黒い巨大艦は空中に浮かんでいます!!」

 

追加連絡を受けた全員が、慌てて望遠鏡を覗き込むと確かに浮いている・・・。数メートル程度ではあるが、黒い巨大艦が浮遊しており、その艦底には波打つ海面が見えた。ポクトアールは背中と額に大粒の汗をかきながら、空飛ぶ船についてあることを思い出した。

 

全世界の各地で語り継がれている『ラヴァーナル帝国』の伝承のひとつに、『空飛ぶ戦艦を保有していた』などというものがある。しかしあまりに突拍子もない内容のため、事実から大幅に誇張されているか、または何かを比喩したようなものではないかと思われていた。

 

「ま、まさか伝承にあった魔帝の空中戦艦か・・・」

 

ポクトアールの『魔帝』という言葉を聞き、全員が蛇に睨まれた蛙のように固まる。いずれ復活すると言われている古の魔法帝国こと『ラヴァーナル帝国』のとてつもない魔法技術力は、その研究施設跡を利用しているパーパルディア皇国も痛いほど理解している。

 

それゆえ、望遠鏡越しに見えている『空中に浮遊している黒い巨大船』は、魔帝のものではないかと錯覚した。泣きそうな顔になり、即座に撤退したい気持ちで一杯になっていたポクトアールであったが、黒い巨大艦との距離は既に8kmを切ろうとしていた。

 

次の瞬間、『空中に浮遊している黒い巨大船』の後ろにいた同サイズの灰色の船が光ったのが見えた。その直後、ポクトアールが搭乗する旗艦の右前にいた竜母が大爆発を起こす。

 

「な、なんだ!? 竜母が急に爆発したぞ!!」

 

「ま、まさか砲撃か!? まだ10km近くも距離があるというのに・・・」

 

周囲の戦列艦に搭乗していた水兵たちや士官は、突然の出来事に驚き、混乱状態に陥る。事態を把握する間もなく、もう一度灰色の船が光ると、今度は旗艦の左前にいた竜母が大爆発を起こした。

 

『こんな距離で一発も外すことなく、砲撃を連続で命中させることが可能な国は、魔帝しかあり得ない! 古の魔法帝国が復活したんだ!!』と完全に錯乱状態となったポクトアールは、全艦に通達を出した。

 

「全艦、すぐさま回頭し、全速力で撤退せよ! あれは魔帝の軍船だ!! 魔帝が復活したんだ!!!」

 

「ポクトアール提督、竜騎士隊とメガニューラ隊が未帰投ですが・・・」

 

「バカモン! 魔帝の相手なぞして生き残っている筈なかろうが!! だから一向に連絡してこないのだ!! 今は皇国本国に、この情報をいち早く届けることが最優先だろうが!!!」

 

ポクトアールから鬼気迫った声で撤退命令を聞いた各戦列艦は、即座に回頭を始めた。

 

皇国監察軍東洋艦隊の撤退開始を確認した海上自衛隊の護衛艦隊は、これ以上の攻撃を行わず、海面を漂流していた皇国監察軍やフェン王国水軍の救助活動を始めた。

 

こうして日本国とパーパルディア皇国との初めての艦隊戦は、ポクトアール提督が『きょうてん』を『ラヴァーナル帝国の空中戦艦』と誤解したこともあり、二隻の竜母が撃沈されただけで幕を閉じたのであった。

 

 

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