中央暦1639年10月6日午前
第二文明圏ムー大陸
列強国 ムー連邦
情報通信部の情報分析課に所属する技術士官のマイラス少尉は、ムー大陸の南東にある『商業都市マイカル』にある湾港から、大慌てで空軍基地が併設されている『アイナンク空港』へ移動中であった。
『商業都市マイカル』には、大規模な物流を支えるための広大な港湾施設が整備されており、またムー連邦外務省の文明圏外国用窓口も設置されている湾岸都市であることから、長距離の飛行が可能な航空機を有する最上位列強の一国を除き、他文明圏から来訪する外交使節はこの都市へ寄港することが慣例化している。
またつい先日、ムー統括軍の上層部から『来港予定の日本国の艦船や技術について調査せよ』との指令が情報分析課に下されたという背景もあり、マイラスは商業都市マイカルの湾口付近にある外務省機関へ出向いていた。
しかし海軍による臨検後、海軍に同行していた外務省職員が会談場所をアイナンク空港に指定したところ、日本国使節にあっさりと承諾され、直前になってアイナンク空港へ変更されたとのことだった。外務省職員的には、飛行機械をはじめとした自国の技術的優位と機械科学文明の素晴らしさを見せつける算段であったようだが、こちらにも事前の情報共有くらいしておいてくれよ・・・とマイラスは揺れる自動車の中で溜息をつく。
海軍からの連絡によれば、飛行許可を出した後に艦船から見たこともないタイプの飛行機械が発艦し、それに乗って飛んで行ったらしい。まさか船内から飛行機械が現れ、滑走路もなく飛び立つことなど、外務省の職員には想像できなかっただろう・・・。面倒なことになったが、艦船に加え、飛行機械についても調査出来るようになったのだから、情報分析課としては五分五分か・・・などと考えていた。
約1時間後、『アイナンク空港』に到着したマイラスであったが、日本国の使節が乗ってきた飛行機械は、既に空港の東側にある空軍基地の駐機場に着陸していた。他国の飛行機械という物珍しさもあり、整備班の技師や研究開発部門の研究員たち、飛行機械の設計士など、基地にいる技術系の人員による大きな人だかりができており、その中心には白銀色で塗装された両翼の先にプロペラが付いた飛行機体『V-22 オスプレイ』が鎮座していた。
先導した海軍の主力空軍機『マリン』のパイロットによれば、鉛直方向に向いた両翼端のプロペラを高速回転させ、浮き上がるように発艦したらしい。この機体のような『回転翼機』については、空軍の研究開発部門において次世代の飛行機械として研究されていた。しかし、プロペラの回転で発生させる推力だけで金属の塊を浮かすほどの揚力を生み出すには、相当なパワーのエンジン出力が必要になる。そのため、今のムー連邦の技術で作製可能なエンジンでは、出力不足で離陸すらできないだろうとされ、いまだ構想段階で頓挫していた。
この時点でも十分に驚愕すべき内容であったが、さらにマイラスへ追い打ちをかける内容が追加報告される。発艦直後は、先導していた空軍機よりも遅い速度で飛行していたようが、回転翼軸の角度が徐々に水平方向へと傾きはじめ、一気に加速し始めたというのだ。最終的に水平方向に傾き切った状態になった以降は、最高時速 380km/h で飛行するマリンに軽々とついて来るほどであったらしい。
そしてアイナンク空港の上空近くまで到着すると、回転翼軸の角度を徐々に後傾させて減速し始めた。最終的に鉛直方向に90度回転させた状態へと移行し、その場でホバリングしながらゆっくりと着陸したというのだ。
『回転翼機の垂直離着陸能力』と『固定翼機の高速飛行能力』の両方の特性を使いこなす飛行機械・・・というあまりの技術力の高さに、マイラスを含めた技術者たちは茫然となっていた。だが同時に、『いまだ構想段階でしかなかった回転翼機、それも研鑽された実物が目の前にある』という事実に、童心にかえったかのようなワクワクした高揚感も感じていた。
「一体どうなることやら・・・」
航空機分野では技術的に完敗しているという事実に不安感を抱きつつ、もしかすると魔写に写されていた『謎のドリル戦艦』も見られるかもしれないという期待感が入り混じったマイラスは、外務省の職員とともに、日本国の使者たちが待つ応接室へ向かっていった。
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第二文明圏ムー大陸
列強国 ムー連邦
アイナンク空港
日本国の外務省から代表大使として派遣された御園と佐伯の二人の外交官は、アイナンク空港内の応接室に通されていた。佐伯の方は緊張を紛らわすためか、何度も水を飲んでいる。相手はこの世界第二位と謳われる列強国であり、約50年前の1963年に『ムー事変』を引き起こし、全世界に大きな被害を出した『ムー帝国』に関係している可能性もある。
そういった背景もあり、外交官の二人には通常のような国交開設交渉に加え、ムー連邦の正体を探るよう日本政府から密命が下されていた。そのため、二人が着用しているスーツには超小型の無線機が仕込まれており、万が一の事態が発生した場合には、ムー連邦領海外の海中で待機している『二隻』の特殊な護衛艦が即時、救援に向かう手筈となっている。
ドアをノックする音が響き、20代後半くらいのボブカットの髪型をした人間種の男性が入室してきた。
「初めまして。ムー連邦へようこそお越しくださいました、本日から会談までの一週間、お二人にムー連邦の事をご紹介させていただきます、マイラスと申します。」
「日本国より参りました外交官の御園と申します。今回、ムー国をご紹介頂けるとのことで、感謝致します。こちらにいるのが、補佐の佐伯です。」
互いに腹に一物ある状態ではあるが、それぞれが落ち着いた丁寧な態度で挨拶し、和やかな雰囲気で握手と自己紹介を行う。約50年前に相対したムー帝国人は、傲慢不遜な態度で地上国家を見下し、体から火傷するほどの高熱を発していたと聞いていたが、少なくとも目の前のマイラスとかいう案内役はそういった様子は見られなかったこともあり、『やはり無関係の別国家か』・・・と御園は少しだけ安堵した気分になった。
その後、空港内を案内され、隣接した空軍格納庫に格納されている『マリン』と呼ばれるムー連邦の主力機の説明を受けた。ミリタリーマニアの佐伯は、内燃式レシプロエンジンを搭載した複葉機であるマリンをみて、レトロな感じがすると興奮していたが、マリンの機体側面にペイントされた国籍マークを見た御園は目を疑った。
マリンの機体側面には、『特徴的な海竜』の紋様が描かれていたのだ。国籍マークのため簡略化されているものの、自衛官やGフォースなど特殊生物に関する機関に所属する人間が見れば、一目で『マンダ』とわかるデザインであった。
「すみません、マイラスさん。貴国のマリンに描かれている海竜の紋様ですが、貴国の象徴のようなものでしょうか。」
「第三文明圏の列強国『パーパルディア皇国』の国旗は、彼の国の拡大期に活躍した地竜を象徴として描かれている・・・と伺ったことがございます。貴国にも、象徴になるような海竜がいるのかな・・・と思いまして。」
不自然にならないよう、パーパルディア皇国の国旗を例に挙げ、マンダに酷似した紋様について御園がマイラスに尋ねた。
「この紋様に気付かれるとは、なかなか良いセンスをされていますね。明日、お二人には、我がムー連邦の歴史と海軍の一部をご案内する予定です。そのとき、この紋様の正体についてもお話させて頂こうと思います。」
マイラスはニコニコした笑顔をしながら答えた。
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以下、御園が作成した簡易レポートの一部を抜粋。
航空機や自動車の技術レベルは、おおよそ1930年代後半程度と推定される。ムー帝国人の特徴であった高熱の発生等は確認されず、この世界における人間種と同様であった(魔法使用の可否については不明)。また本日だけでも多種多様な種族をみかけており、地球におけるアメリカ合衆国のような多民族国家ならぬ、『多種族国家』のようなものと推測される。
大型の建造物も殆どが鉄筋コンクリート造や鉄骨造と予想されるが、会談場所に指定されたアイナンク空港のメインゲートは、かつてのムー帝国同様、巨石による建造物であった。また『マリン』と呼ばれるムー連邦の主力機には、マンダを彷彿とさせる国籍マークが描かれており、ムー帝国とは関係が『ある』とも『ない』ともいえない曖昧な状態である。
明日のムー連邦の歴史館と海軍施設の見学時に、そのあたりも明らかになるらしいが、引き続き警戒は必要である。