中央暦1639年10月7日午前
第二文明圏ムー大陸
列強国ムー連邦 ムー歴史記念館
御園と佐伯の二人の外交官は、ホテルから自動車で約一時間ほどの距離にある『ムー歴史記念館』に案内されていた。宿泊していた高級ホテルをはじめ、近隣にあった超高層ビルなどの大規模な建造物は、鉄筋コンクリート造や鉄骨造と予想されるものであったが、目の前にある『ムー歴史記念館』や『アイナンク空港』のメインゲートやターミナルは、かつての『ムー帝国』を彷彿とさせる削り出された巨石で出来ていた。
『マリン』に描かれていた『マンダ』に酷似した国籍マークの件とあわせ、現時点において、『ムー連邦』は『ムー帝国』と関係が『ある』とも『ない』ともいえない曖昧な状態であるため、御園と佐伯は緊張した面持ちでムー歴史記念館へ入館していった。
中央ロビーを抜けた先にある古代史エリアに案内されると、そこには二つの大きな惑星模型が展示されていた。一つは日本国が転移したこの巨大な惑星が、そしてもう一つは見覚えのある地理配置の惑星、忘れようのない故郷『地球』の模型であった。
唖然とした様子の二人に、マイラスが説明を始めた。
「各国の方々には、神話や御伽噺と言われて中々信じて貰えませんが、我々の先祖は、この星の住人ではありませんでした。今から約1万2000年もの遥か昔、『大陸大転移』と呼ばれる天変地異が発生し、この惑星へムー大陸ごと転移したきたのです。このことは、当時『ムー王国』と呼ばれていた王政国家だった政府の公式記録として残されています。」
マイラスが惑星模型の横にある大きなガラスで仕切られた一角に展示された巨石を指さしながら、説明を続ける。大英博物館に展示された『ロゼッタ・ストーン』の文字面を丁寧に切り出したかのような巨石のプレートには、古代文字がびっしりと書き記されている。
「ムーは昔から巨石文化が発達しており、重要な出来事や記録などは風化しないよう、巨石を切り出した石のプレートに文字を彫り込んで記録していました。この巨石技術を用いた建築も盛んでしたが、今ではコンクリートや鉄骨といった容易に強度を出すことが可能な建築素材が開発されたため、巨石を用いた建築は伝統や歴史に関するものに限られています。」
「ちなみにお二人がご覧になられています惑星模型は、こちらに転移する前にムー大陸があった星の模型です。大きさでいえば、今の惑星の 40% くらいの直径だっのではと推測されています。」
「な・な・・、こ・これは・・まさか・・」
「御園さん、こ・この・・この星って・・」
「「地球だぁ!!!」」
二人の発した『地球』という聞き覚えのない単語に、マイラスや一緒にいた歴史館の職員は首を傾げる。
「ん!? この大陸の配置は紛れもなく地球だが、この大陸は一体・・・。それになぜ南極大陸が、こんな緯度の位置にあるのだ?」
「それに『ムー帝国』が存在していた海溝は、太平洋のこのあたりだった筈です。この地球儀では、やや東にズレた位置にムー大陸がありますよ!」
興奮した様子の二人の様子を見たマイラスは、歴史館の職員から指示棒を受け取り、脚立に乗って解説を始めた。
「お二人が南極大陸と呼ばれている大陸は『アトランティス』と言います。転移前のムー王国を中心としたこの大海洋側の陣営と世界を二分するほどの力をもった国家でした。ちなみに・・・」
マイラスと職員が手動で地球儀を回転させ、かつてムー帝国が存在していた太平洋の海域を二人の前に移動させる。
「転移する前のムー大陸こと『ムー王国』はこの周辺にありました。お二人が指さされている海域にある大きめの島は、兄弟国の『ムウ公国』ですね。先程お話しましたムーの高い石材加工技術は、ここを中心に発展していましたが、『大陸大転移』の際に一緒に転移せず、旧世界へ置いてけぼりになってしまいました・・・」
「高い技術力をもった兄弟国でしたが、同盟国を属国扱いするなど、その素行や品性に問題があったと伝わっています。陣営の中心であった我が国が転移して消失してしまったことで、今頃は同盟国諸共、アトランティスに支配されてしまっているでしょうね・・・」
「同盟国・・・ということは、他にもムー王国側の陣営に参加していた国家が存在するのでしょうか?」
御園がマイラスに尋ねる。
「ええ、こちらの大きな大陸の隣にある4つの大きな島の国家『ヤムート』は、ムー王国一の友好国であり、大陸への睨みを聞かせていたそうです。後はヤムートの南にあった『ニライカナイ』なども、ムー王国の陣営に参加していたようです。」
衝撃の事実に、御園と佐伯の二人は石化したかのように茫然と固まっていた。古代日本は『ムー王国』陣営に参加していた友好国であり、『ムー帝国』の前身である『ムウ公国』とは同陣営であったというのだ。
ムー連邦領海外の海中で待機している護衛艦の自衛官たちにも、二人のスーツにセットされた無線機を通してこの事実が聞こえており、全員が面喰っていた。道理で『ムー連邦』と『ムー帝国』の間に、似ているようで似ていない微妙な距離感がある筈だと思った。
第二次モスラ事変(1992年)におけるコスモスの証言やダガーラ事変(1998年)におけるニライカナイ遺跡の調査結果を踏まえ、凡その流れが頭に浮かんだ。
①
1万2000年前、ムー王国がムー大陸ごと転移して地球上から消滅。
②
この影響で地軸が大きくズレてしまい、人の住めぬ極寒の環境となったアトランティスが滅亡。またムー大陸消滅による地殻変動の影響により、近くにあったムウ公国も海中に沈んだが、海底に国家を築いて密かに生き延びる。
③
アトランティス同様、大規模な気候変動の影響を受けた古代日本国ことヤムートや沖縄近海にあったニライカナイも滅亡。
④
インドネシア諸島にあるインファント島周辺にて、独自の文明を築いていたコスモスでは、科学者が気象コントロール装置を開発し、転移による大規模な気候変動を制御しようとしたが、バトラが誕生したことで計画が破綻。最終的に、モスラが北極海へバトラを封印することに成功するが、バトラに気象コントロール装置を破壊されたことで気象変動に加えて大洪水までもが発生し、インファント島以外のコスモスが全滅。
⑤
地上の気象環境が落ち着いた頃(1963年)を見計らい、ムウ公国が新生ムーこと『ムー帝国』を名乗り、全世界に宣戦布告。いわゆる『ムー事変』が発生。
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『ムー連邦』と『ムー帝国』の関係がよくわからないという読者向けに、かつて存在したソビエト連邦を例に挙げて説明したいと思う。
現実世界において、1991年までユーラシア大陸北部に存在したソビエト連邦は、ロシアやウクライナ、ベラルーシなどで構成されていた。そしてソ連が中心となり、中国や東ドイツ、ポーランドなどが参加する東側陣営が形成されていた。
ここでムー王国をロシア、ムウ公国をベラルーシに置き換えて考えて貰いたい。ある日、ソ連の大部分を形成するロシアやウクライナが転移して消滅し、ベラルーシだけが取り残されたようなかたちとなってしまった。長い年月を経て、ベラルーシが新生ソビエト連邦ことソビエト帝国を名乗り、世界征服を開始(これがいわゆる1963年のムー事変)・・・のような感じである。
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この世界に転移したムー王国こと『ムー連邦』は、『ムー事変』の首謀者である『ムー帝国』と直接的には無関係であること、それどころか古代日本と友好関係にあったことが判明したため、御園も『日本国の正体』を明らかにすることにした。
「マイラス殿、ご説明ありがとうございました。今お話いただきました内容について、少々よろしいでしょうか?」
「はい、我が国を説明するのに、最も良い方法が出来ました。」
御園の発言に、佐伯が折りたたまれた二種類の地図を鞄から取り出し、近くの休憩スペースに設置された机の上に広げる。
「我が日本国も別世界から転移して来た転移国家です。同一次元にあった惑星かについてはまだ不明ですが、今ご説明頂きました『ヤムート』と呼ばれる島国、そして『ニライカナイ』が、現在の我が国であると推測されます。」
マイラスをはじめとしたムー連邦の面々に対し、衝撃の内容が明かされ始めた。