中央暦1639年10月7日
第二文明圏ムー大陸
列強国ムー連邦 海軍基地
1963年の『ムウ事変』において、『ムウ帝国』が使役していた巨大な海竜の特殊生物『マンダ』。全長150メートルを超える巨体とその大きさに反した水中での高い運動能力を誇り、ムウ事変では貨物船など多数の船舶がマンダに襲撃され、全世界で大きな被害を出した。
キングギドラの引力光線、スペースゴジラのコロナビーム、デストロイアのオキシジェン・デストロイヤー・レイ、そしてウラニウムハイパー熱線やバーンスパイラル熱線をはじめとするゴジラの放射熱線・・・。
マンダは、後年に出現した最強格の特殊生物が使用したような『強力な遠距離攻撃手段』をもっていなかったため、脅威性について一般人から軽視されがちなところがある。しかし『水中戦』という限定された領域においては、ゴジラに次ぐ戦闘能力を有していたとされており、その存在は『ごうてん級』や『白鯨級』といった海上自衛隊の艦船思想に大きな影響を与えた。
実際、『ムウ事変』当時の最新鋭潜水艦でさえ耐えられない深海の水圧下を縦横無尽に泳ぎ回るマンダに対し、水上艦の爆雷の投下攻撃を命中させることは不可能に近く、また潜水艦による攻撃も魚雷攻撃を仕掛ける前に接近され、その長く太い体で締め付けられて圧壊される始末であった。
さらに、対特殊生物において高い効果をあげていたメーサー兵器(正確にはその前身である原子熱線砲)をはじめとした指向性エネルギー兵器が、減衰率の高さから水中で使用できなかったという点も、その脅威性に拍車をかけた。
東西冷戦の真っ只中という歴史的な背景も加わり、アメリカ合衆国では水上艦からも発射可能な艦載用対潜ミサイル『アスロック』が、日本国では初代『轟天号』がマンダに引導を渡した『冷線砲』を発展させ、水中でも使用可能な『超低温レーザー砲』(通称、冷凍メーサー)などの対潜や水中戦闘向けの兵器が開発されていくこととなった。
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御園と佐伯の二人の外交官は、海軍将校たちと共に祈りを捧げいたマイラスの後ろで蛇に睨まれた蛙のように固まっていた。目の前には、巨大な海竜が海面から四本のツノが生えた頭部を出し、こちらをじっと見つめていたからだ。
「そ、御園さん・・・。あ、あれってマ、マ、マンダ・・・」
辛うじて喉から漏れ出た空気を声にかえて、佐伯が震えながら話しかけた。話しかけられた御園の方も、言葉を吞み込んだかのように黙り込んでいる。
「ご紹介しましょう! 我がムー連邦の守護神『マンダ』です!!」
ムー歴史記念館のとき以上に驚愕し、完全に固まってしまった二人の様子を見て満足したマイラスは、したり顔をしながら目の前に現れた水竜の紹介を始める。
「第三文明圏の東にあるガハラ神国では、風竜たちと契約を交わして使役していることはご存知かと思います。ガハラ神国同様、我々は旧世界のムー王国だった頃からこの巨大な海竜『マンダ』の一族と契約を交わし、ムー大陸の守護神として崇めていました。」
「午前の歴史記念館でお話しました『大陸大転移』によりムー大陸が転移した際、ムー大陸近海に生息していました『マンダ』の一族も巻き込まれ、こちらの世界へ一緒に転移してしまったのです。しかし、生息していたすべての個体が巻き込まれたというわけではなく、ムウ公国同様、少数の個体が旧世界に取り残されてしまったと伝わっています。」
「またこの世界へ転移後に現地国家から侵略された際、ムー大陸全土が征服されなかったのも、『マンダが一緒に転移していたことで制海権を守りきれた』というのが大きかったようです。」
外洋を往来する船舶にとって、ムウ事変におけるマンダの存在が、いかに脅威であったかを聞かされていた二人は、なるほどと納得する。1960年代の大型タンカーや潜水艦ですら容易に沈める力をもつマンダに対し、木造船程度ではひとたまりもないだろう。
『お主らがこの度ムーを訪れた者たちか』
御園と佐伯の頭の中に、重みをもった威厳ある声が響く。
極めて特殊な事例だが、高い知性を有している特殊生物のなかには、テレパシーで意思疎通が可能な種族が存在する。代表例でいえばモスラが該当し、コスモスやエリアス、人間でも三枝未希などのテレパシー能力を持つ超能力者に限り、コミュニケーションが可能であった。
御園と佐伯はいずれも超能力者でなく、ましてやテレパシー能力などもっていなかった。頭の中に声が響いてくる・・・という予想外の事態に、状況を理解できていなさそうな二人の様子をみたマイラスが、すかさずフォローを入れる。
「お話し忘れていましたが、マンダは風竜と同じく、念話によって人との会話も可能です。旧世界では、マンダと意思疎通が取れる人間は王族や神官などごく一握りでしたが、魔素が豊富なこの世界に転移してから、私たちのような一般人とも会話可能になったと記録が残っています。」
まさかマンダから話しかけられると思っていなかった二人は呆気に取られていたが、御園が勇気を振り絞り、どうにか喉から声を出す。
「お、お、お初にお目にかかります。に、日本国より参りました御園と申します。こちらにいるのが、補佐の佐伯です。」
『心配せずとも我らは下等種のように見境なく取って喰うようなことはせぬよ。日本国と申したか・・・、其方らに一つ確認しておきたいことがある。』
『我らが縄張りであるムー領海のすぐ近く、ちょうどここから東の方角にあたる海域に二隻の奇怪な船がおるが、それは其方らの船か?』
ムー連邦領海外の海中で待機している『しんてん』と『白鯨』の存在を、既にマンダに感知されていたことに、御園は息を呑む。
ムー連邦とムウ帝国の関係性が不明だったこともあり、今回の使節団には、ごうてん型対特殊生物戦闘護衛艦の2番艦『しんてん』とはくげい級原子力潜水艦の1番艦『はくげい』が、道中の護衛と万が一の事態に備えて派遣されていた。
もしここでごまかしたり、とぼけるようなマネをすれば、良好なファーストコンタクトが行えたムー連邦との関係が悪化する懸念がある。何より『では不審船として沈める』と、マンダが二隻に攻撃を加える恐れもある。
御園は、即時に決断した。
「はい、そちらの方角に待機しています艦船は、我が国の護衛艦です。我が日本国から貴国まで約2万キロメートルも離れていますので、旅路の護衛として一緒に派遣されました。」
「我が国が今年の始めにこの世界に転移し、ロデニウス大陸の国々とファーストコンタクトを取った際、大型の護衛艦で来訪してたことで襲撃しに来たと誤解され、現地が大騒ぎとなってしまったことがございました。貴国ムー連邦とは、お互い初めてのコンタクトだったことも踏まえ、同じ轍を踏まないよう、私たちが乗ってきました護衛艦だけを寄港させて頂きました。」
『それならば心配はいらぬな・・・。我らもムーへ危害を加える意思のない者たちへは攻撃しない。その二隻もマイカルへ寄港し、帰路に備えてゆっくり休息するがよかろう。それにしても我らの故郷から同じく転移してきた者たちか・・・、実に興味深い。』
御園たちに念話を伝えると、マンダは再び海中へと戻っていった。
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マンダからムーへ直々に招待されるという予想外のこともあり、『しんてん』と『白鯨』も商業都市マイカルへと寄港していた。ムー連邦が誇る最新鋭の戦艦『ラ・カサミ』以上の大きさをもち、海中に潜水が可能という空想物語の産物のような艦船が現れた事に、昨日のアイナンク空港のときと同様、二隻が停泊する港にも海軍関係者や造船技術者の人だかりができていた。
マイラスも『謎のドリル戦艦』の同型艦を間近で見られたことに興奮しており、自衛官に許可を取ったうえで、ムー連邦首脳部へ提出する報告書に添付するための魔法写真を撮影していた。
・ 日本国は、我が国を遥かに凌駕する科学技術を有している。
・ 日本国は我が国同様、転移国家であり、旧世界におけるヤムートとニライカナイである可能性が非常に高い。
etc
後日、マイラスが作成した報告書(後にマイラスレポートとも呼称される)には、とても受け入れることが出来ないような内容が数多く記載されていた。しかし、以前に情報分析課から送られていたものとは比較にならないほど鮮明な『V-22 オスプレイ』や『しんてん』、『白鯨』の魔写が一緒に添付されており、合成画像や幻術魔法による偽装とは思えなかった。
上記に加え、これらの機体や船体を間近で目撃した軍関係者や技術者の間で、『日本国という第三文明圏外からやって来た新興国は、マリンを超える航空機やラ・カサミを上回る艦船を持っている』という認識が広がったこともあり、ムー連邦首脳部は『信じられないような事実』として受け入れた。
旧世界の友好国と1万2000年ぶりの再会であり、またムー連邦ではまだまだ理論研究段階のものや空想上の産物としか思えないような先進技術を、日本国が保有している点も高く評価された。
そして西に第八帝国こと『グラ・バルカス帝国』の脅威が急浮上した状況下において、『友好的な日本国を拒否する理由はない』として、ムー連邦首脳陣は日本国と対等な立場で国交を締結することを決定したのであった。
※ はくげい級原子力潜水艦 1番艦『はくげい』
出典 : 蒼き鋼のアルペジオ
1963年の『ムウ事変』や1998年の『ダガーラ事変』を踏まえ、水中戦に特化した特殊生物に対抗するために試験開発された原子力潜水艦。
ごうてん級同様、大型レーザー核融合炉を動力源としているが、艦首から無数の気泡を放出して水との摩擦を極限まで減らし、ロケットモーターにて超高速で海中を移動するスーパーキャビテーション航行が可能など、水中・水上・空中・地中とあらゆる戦場に対応可能なごうてん級と異なり、水中戦に特化していることが特徴である。
船体はユニット構成になっており、中央の指令ユニット以外のユニットを専用ドックで換装することにより、100メートル級から最大1000メートル級(岩蟹などの機体を収納可能な潜水母艦形態)まで、任務に応じて複数の仕様へとモデルチェンジを行うことで非常に高い汎用性を誇る。
ごうてん級よりも早い時期に試験的に建造されたが、換装するユニット次第では戦略ミサイル原子力潜水艦のような運用も可能なため、東アジアの国々から批難と抗議が殺到した。こうした政治的な背景もあり、現時点では一隻しか建造されておらず、汎用性の高さとノウハウはごうてん級へと引き継がれたのであった。
補足であるが、ムー連邦への派遣時は、200メートルスケールの攻撃型潜水艦形態であった。(アルペジオ原作におけるハルナ&キリシマ戦の形態)