中央暦1639年11月5日
第三文明圏の南
文明圏外国 アルタラス王国
日本国が第二文明圏にある世界第二位の列強国『ムー連邦』と約1万2000年ぶりの再会を果たし、対等な立場での国交締結や本格的な通商、貿易を開始し始めた頃、第三文明圏の南では新たな悲劇が生まれようとしていた。
第三文明圏唯一の列強国『パーパルディア皇国』が君臨するフィルアデス大陸、その首都『皇都エストシラント』から海を隔てた南方の海域には、日本国の本州と同等の面積をもつ『アルタラス島』という大きな島がある。その島には、文明圏外国としては規格外の国力、そして約1500万の総人口を抱えた『アルタラス王国』が存在している。
アルタラス王国は、魔法文明において必要不可欠な鉱物資源である『魔石』の輸出国として、様々な文明圏で国名が通っている。元々地球にあった大陸のため、魔石が殆ど採掘できないムー大陸とは真逆で、アルタラス王国にはシルウトラス鉱山をはじめとする大規模な魔石鉱山が国内に複数存在していた。そして、その良質な原石を輸出することで得られる『オイルマネー』ならぬ『魔石マネー』により、文明圏外国としては破格の豊かさを誇っていた。
だが、その『豊かさ』ゆえ、強欲の化身と化した列強国の『次なる獲物』として、目を付けられることとなってしまうのであった・・・。
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文明圏外国 アルタラス王国
王都ル・ブリアス アテノール城
人口約50万人を抱えるアルタラス王国の王都ル・ブリアスにあるアテノール城では、アルタラス王国の国王ターラ14世が頭を抱えていた。長年、魔石を輸出していた大口顧客の列強国『パーパルディア皇国』から、常軌を逸した内容の要請書という名の命令書が送られてきていたからだ。
・ シルウトラス魔石鉱山の献上
・ 王女ルミエスを奴隷として差し出すこと
前者はアルタラス王国の経済を支える大黒柱を喪失することを意味しており、後者に至っては『アルタラス駐在パーパルディア大使の個人的嗜好のため』という公の場における公式外交文書としては意味不明なものであった。
ちなみにアルタラス駐在パーパルディア大使は、パーパルディア皇国の第三外務局に所属するカストという脂ぎった中年のデブオヤジであり、アテノール城に訪れるたび、女官やメイドに痴漢やセクハラを行う超問題人物として有名であった。
パーパルディア皇国が、わざと受け入れられないレベルの無理難題を吹っ掛け、それを拒否したことを口実に戦争を仕掛けて来る腹積もりであることは、ターラ14世も含めたアルタラス王国首脳陣も予想出来ていた。
しかしあまりにも理不尽かつ屈辱的な要求内容、そしてカストの外交官と思えない態度を前に、ついにターラ14世の堪忍袋の緒は切れ、パーパルディア皇国との国交断絶や資産凍結を決定。アルタラス王国海軍・陸軍総出で、パーパルディア皇国監察軍の襲来に備えつつ、同時に一人娘である王女ルミエスのロデニウス大陸方面への脱出準備を進めるのであった。
ターラ14世やアルタラス王国軍上層部は、旧式装備しか持たない皇国監察軍が相手であれば、十分善戦可能であると見積もっていた。皇国監察軍を押し戻し、早期に和平交渉が出来れば、少なくともこの理不尽な要求よりはマシな内容で終戦を迎えられると考えたのだ。
実際、『魔石マネー』により、文明国から輸入した魔導砲を多数搭載した魔導戦列艦隊、地球の11世紀頃の中国で発明された火薬を燃焼させて飛ぶ最初期ロケット弾こと『火箭』の魔法版である『風神の矢』を実践配備しているなど、アルタラス王国軍は通常の文明国と同程度の軍事力を保有していたため、この予測はあながち間違いではなかった。
唯一見誤った点としては、パーパルディア皇国は最初からアルタラス王国を次のターゲットと見定めており、『皇国監察軍』ではなく『皇国正規軍』が全力で相手をするつもりだったということであった・・・。
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中央暦1639年11月12日
列強国 パーパルディア皇国
皇都エストシラント パラディス城
皇都エストシラントの中央部に鎮座する『皇宮パラディス城』にある玉座の間では、現皇帝である『ルディアス・ド・ラ・エストシラント』が出席する帝前会議が開催されていた。
磨き抜かれた大理石でできた床、第三文明圏ではまだまだ高価な無色透明のガラスがはめ込まれた窓、銀の燭台や金色の魔法灯具が設置された純白の壁など、豪華絢爛で眩い宮殿内部とは対照的に、玉座の間で跪いた男はまるでこの世の終わりかのような暗い顔をしていた。
パーパルディア皇国第三外務局の局長『カイオス』である。
「面をあげよ」
冷や汗をかいた真っ青な顔をあげると、視線の先にはルディアス皇帝が不機嫌そうな顔で玉座から見下ろしていた。
「フェン王国への懲罰で皇国監察軍を派遣した件だが、余への報告はどうした? よもや失敗したわけではないだろうな。第一外務局から、『旧式竜母部隊が全滅した』などというよくない話を耳にしたがなぁ・・・。」
皇国に逆らおうとしている『敵』について、信憑性の高い調査結果と各部署への根回しがある程度完了してから・・・と考えていたカイオスは、予想以上に早くバレてしまったことに何も言葉を発することが出来なかった。
「誠に申し訳ございません・・・。現在、第三外務局の全力を挙げて我が皇国に土を付けた敵の調査を行っている次第でございます。」
「『全力を挙げて』か・・・。勿論、局員たちは『365日24時間、死ぬ気で調査する』くらいの心意気で対応しておるのだろうな。」
27歳という若さからは想像できないほどの威厳を放っているルディアス皇帝の『圧の籠った問いかけ』に、カイオスはさらに委縮した。18歳で即位してから、皇国を現在の勢力まで一気に急成長させた豪傑が発した言葉は、非常に重かった。
「いつも貴様らに説いているが、『無理というのはホラ吹きが使う言葉』だ。資材が不足しているから建造するのは無理、作戦開始日までの時間が少ないから準備が間に合わない・・・。そもそも途中で止めてしまうから、無理になってしまうのだ!」
ルディアスは玉座から立ち上がり、持論を続ける。
「鼻血を出そうが疲弊しようが、とにかく目標に向かって全力でやる。魔力や技能の乏しい蛮族の現地民でも、農園や鉱山で365日24時間働かせて使い潰せば、資材だろうが時間だろうが捻出することは可能だ。そこまですれば、その者はもう無理とは口が裂けても言えぬだろう!」
現代社会の感覚をもつ読者諸君からすると、身の毛もよだつような超絶ブラックな発言内容だが、持論を至高だと考えているルディアスは演説に満足して玉座に座り込んだ。
「カイオスよ、調査の期日は来月までだ・・・。その国には必ず責任を取らせる。偉大なる皇国に逆らうという事がどういうことになるか、フェン王国もろとも皇国本軍をもって叩き潰してきっちり教養を行う! よいな!!」
「ははっ!!!!」
カイオスは、さらに深く頭を下げる。頭を下げ過ぎて、傍から見れば完全に土下座のようなポーズになってしまっている。
「皇帝陛下、もう一つご報告したいことがございます。アルタラス王国の件ですが、予定通り、シルウトラス鉱山の献上を断ってきました。さらに王国内での皇国資産の凍結、国交断絶まで伝えてきました」
「こちらは予定通りだな。」
カイオスの報告を聞いたルディアスの顔に、残忍さの籠った笑みが満ちる。某シスの暗黒卿皇帝のような邪悪な笑みを浮かべた彼は、玉座の間に響く大きな声で高らかに宣言した。
「我が皇国に反逆するアルタラス王国に対し、余は宣戦布告する! アルタラス王国は皇国監察軍ではなく、皇国正規軍によって叩き潰す!!」
「アルデよ、皇軍の出撃準備はできておるな?」
皇国皇軍最高司令官アルデは、自信たっぷりに答える。
「ははっ! 皇帝陛下の命があれば、いつでも出撃可能です。今回のアルタラス王国攻略においては、海戦用のE型魔獣に加え、陸戦用のA型魔獣も投入予定です! 数日のうちに、アルタラス島全土を陥落させてご覧にいれましょう!!」
この帝前会議の五日後、パーパルディア皇国はアルタラス王国に宣戦布告。アルタラス島に向かって皇国正規軍の大軍勢が出撃した・・・。