東宝世界線の日本国召喚   作:T1001

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本話のシーンを描写するために、三連休にデッドマンズチェストを見返していました。


045. 海中の悪魔

 

中央暦1639年11月24日

第三文明圏の南

文明圏外国 アルタラス王国

 

 

アルタラス島の北東方向約130kmの沖合いには、多数の軍船が白い航跡を描きながら南西方向へ向かっていた。列強パーパルディア皇国の要求を拒否し、真正面から反抗する姿勢を取ったアルタラス王国を侵略するため、皇都エストシラントにある海軍本部から出撃した皇軍本体約350隻である。

 

戦列艦や竜母、揚陸艦などで構成された大艦隊の中央には、100門型フィシャヌス級戦列艦の旗艦『シラント』が約12ノットの速さで進んでいた。皇国海軍が配備している魔導戦列艦は、両舷に多数の魔導砲を搭載し、対魔弾鉄鋼式装甲で覆われた特徴をしている。

 

しかしこの旗艦『シラント』には、他の魔導戦列艦には見られない『ロブスターの彫刻が載せられた台座』のついた巨大なキャプスタンが艦の中央に設置されていた。そしてその周囲には、それぞれの首輪と足枷を鎖で繋がれた20人あまりの男たちが待機させられていた。

 

彼らは『クーズ王国』と呼ばれていた地域から無理やり奴隷として連行された人たちであり、約20年前にパーパルディア皇国の侵略を受けて属領の一つにされてから、絶え間ない搾取と抜け出せない貧困に喘いでいた。

 

そんな旗艦シラントの船尾楼では、侵攻軍司令官『シウス』が、約17km先の水平線上にうっすらと見え始めたアルタラス王国海軍の船影を睨みつけていた。皇国内でも冷血で無慈悲な将軍として恐れられており、『最小の被害で最大の効果』となる戦略を頭に描いていた。

 

「エストシラント新聞の記者よ、皇国海軍はなぜ第三文明圏において最強かわかるかね?」

 

今回のアルタラス王国侵攻では、エストシラント新聞の従軍記者も取材のため、旗艦シラントに乗り込んでいた。戦闘準備を進める海兵たちの様子などを書き連ねていたが、ふいにシウス将軍から声をかけられた。

 

「はい、総合力が優れているからです。長射程の魔導砲を搭載した戦列艦に加え、皇国海軍の中核たる竜母が存在することで、二次元的な戦闘しか出来ない蛮族共に対し、三次元の攻撃を仕掛けられるからです!」

 

「ほぉ、よく勉強しているな。その通り! 陸戦でも海戦でも、戦場を制することが出来るのは、制空権をもつ側なのだ!!」

 

シウス将軍は、周囲の海兵たちも聞こえるような大きな声で力説する。

 

「だが、陸戦と海戦で唯一異なることがある。それが何かわかるかね?」

 

回答がわからず、深く考え込む記者の様子を見たシウスは、まるで演説を始めるように甲板の上で錫杖をもった右手を高く掲げた。

 

「先ほど君が答えた『三次元の攻撃』だが、海戦にはそれが二種類存在する。竜母艦隊から飛び立ち、『海の上』の大空を舞う竜騎士たち、そしてもう一つは・・・『海の中』だ!!」

 

「見せてあげよう、皇国の新たな力を!!」

 

シウスの右手にもった錫杖の先についた宝石が、ゆらめくような淡い光を放ち、怪しく輝き始める。その様子を見た甲板長が、キャプスタンの周囲に繋がれた奴隷たちに強烈なムチを振るう。

 

「おらぁクズのクーズ人共、偉大なる皇国のために懸命に働きやがれ~!」

 

奴隷にされた人たちが巨大なキャプスタンを必死に回し始めると、中央のロブスターの彫刻が載った台座が少しずつ上昇を始めた。約2メートル近く上昇したタイミングで、錫杖の先についた宝石から、魔力で出来た念の塊のようなものがロブスターの彫刻へと放たれる。

 

「誰にも喜びの声をあげさすまい。希望を胸に空を仰ぐことを許すまい。我ら今日という日を呪い、いざ、ここに目覚めさせん! 『エビラ』を!!」

 

次の瞬間、勢いよく台座が落下し、旗艦シラントから海中へ衝撃波のようなものが伝搬していった・・・。

 

 

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「我が王国を食い物にしようとする悪魔どもめ!」

 

「我々がいる限り、そう易々とアルタラス島に上陸などさせるものか!!」

 

アルタラス王国の海軍長ボルドや海兵たちは、これから会敵するであろうパーパルディア皇国海軍への闘志を燃やす。

 

先日、ターラ14世から発表された『国内最大の魔石産出量を誇るシルウトラス鉱山の献上』と『ルミエス王女の奴隷化』というパーパルディア皇国からの理不尽な要求は、彼を含めたアルタラス王国軍人は勿論、国民の大多数を『反パーパルディア皇国』という怒りの感情に染め上げていた。

 

アルタラス王国軍はこの日に備え、何代も前からパーパルディア皇国を仮想敵と定め、『魔石マネー』により軍備を増強し続けてきた。文明国に匹敵する魔導砲を数多く導入し、またこの海域での演習を積み重ね、季節ごとの海流の状態を熟知してきた。魔導砲やワイバーンの性能は皇国の方が上であるだろうが、地の利はこちらにあるともいえ、十分善戦可能であると考えていた。

 

そんな自信に満ちた彼らであったが、最前列にいた戦列艦『ベシアル』が突如、座礁したかのように大きく揺れる。まるで凪であるかのように船が進まなくようになり、海面には無数の気泡が発生し、ブクブクと泡立っている。自分の庭といえるほどにこの海域を熟知した彼らが、こんな大事な局面で座礁するはずない。そもそもこの周辺には、座礁するような岩礁や浅瀬は存在していない。

 

怪訝な顔をするボルド海軍長や海兵たちであったが、次の瞬間、とんでもない光景が彼らの目に映る。泡立つ海面から巨大な赤いハサミのようなものが現れ、戦列艦を両舷から挟み込んだのだ。戦列艦を構成する木材がギシギシと音をたててしなり、つなぎ目の各所に次々と亀裂が発生し始める。両舷から強烈な力を受け続けた戦列艦は、やがて船体強度の限界を超え、真っ二つに捻り潰された。

 

真っ二つにされた戦列艦に搭乗していた海兵たちは、次々に海へと落下していく。破壊された戦列艦の木材片に捕まり、他艦からの救助を待つ彼らに『海中の悪魔』が襲いかかった。

 

泡立つ海面から、右手に巨大な鋏をもち、ロブスターのような頭部をした巨大生物が姿を現す。そして左手の鋭利な槍状の鋏を器用に動かし、海面を漂流する海兵たちを突き刺して捕食し始めたのだ。

 

「な、なんだあのエビの化け物は!? ま、まさか皇国の新型魔獣か!?」

 

「海軍長、魔導砲であの怪物を攻撃しましょう! このままでは我が艦隊の被害が拡大します!!」

 

近くにいた戦列艦『シディ』がゆっくりと旋回し、エビラに向けて魔導砲を発射し始めた。だが、エビラは再び海中へと素早く姿を消し、発射された魔導砲は海面に水柱を立てるだけであった・・・。

 

海中から攻撃されるとは露とも思っていなかったアルタラス王国海軍は、エビラの出現により大混乱に陥っていた。艦隊戦のために準備しておいた戦列艦の魔導砲や風神の矢は、海中から攻撃を繰り出すエビラに全く効果がなく、次々に戦列艦が破壊されていく。

 

エビラによる海中からの攻撃に加え、ワイバーン同士の空中戦を制したワイバーンロード、魔導砲の射程に入った50門級、80門級、100門級の各魔導戦列艦隊からの波状攻撃も追加され、数時間もしないうちにアルタラス王国海軍は総崩れとなり、全滅したのであった・・・。

 

 

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「アルタラス王国海軍、艦隊全滅しました! 我が艦隊、竜騎士隊とも被害なしです!!」

 

一方的ともいえる海戦結果に、従軍記者は圧倒されていた。

 

「どうかね、圧倒的じゃないか、我が皇国海軍は!」

 

「シウス将軍、ひとつお尋ねさせて下さい。あの巨大なエビのような魔獣は一体・・・。私は従軍記者として数多くの戦場へ同行させて頂きましたが、今までカマキラスやメガニューラのような陸棲生物の魔獣しか見たことがございません。」

 

「あれは新型魔獣『エビラ』だ! 巨大な右腕のハサミは、旧型の50門級戦列艦程度であれば、容易に握り潰すほどの凄まじいパワーをもっている。空のワイバーンロード、海上の魔道戦列艦、そして海中のエビラ。これらの総合力こそが、第三文明圏において皇国海軍が最強である所以である!!」

 

アルタラス王国海軍を無傷で撃破したパーパルディア皇国軍は、アルタラス王国の首都ル・ブリアスを落とすため、揚陸地点のあるル・ブリアス北側の地点へ向かっていった。

 

 

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