中央暦1639年11月20日
第三文明圏の東 大東洋
日本国 首都東京
パーパルディア皇国の皇国監察軍東洋艦隊に所属していた特A級竜騎士であり、MN隊ことメガニューラ隊の指揮官であったレクマイアは、日本国の首都・東京にある東京拘置所に10月の初旬から収監されていた。
彼は『アマノキ事変』において、ほぼ全滅したフェン王国懲罰部隊のなかで、唯一生き残ることが出来た竜騎士であった。他の竜騎士たちと異なり、軍祭へ派遣されていた護衛艦隊の艦主砲や『きょうてん』のプラズマメーサービーム砲の直撃を受けなかったため、幸運にも五体満足の状態で海へと落下し、海上を漂流していたところを救助されていたのだ。
言うまでもないが、これらの直撃を受けたレクマイア以外の竜騎士たちは、騎乗していたワイバーンロードごと跡形もなく木っ端微塵に吹き飛ぶか、黒焦げになりながら水風船のように爆散し、アマノキ海上で汚い花火と化すいう悲惨な運命を辿っていた。
レクマイアは救助された後、フェン王国民や観光客などの民間人を特殊生物を用いて虐殺した罪、及びアマノキへの放火の罪で逮捕され、護衛艦の一隻に収監されて取り調べを受けた。これら鉄船の造船技術は秀でているかもしれないが、『竜母のように航空戦力を送り込む発想のない蛮族』と思い、皇国がもつ魔導技術の素晴らしさや皇国軍の規模、属領の多さなど国力の凄まじさを力説した。
皇国の力を伝えて畏怖させることで、自分への扱いを丁寧にさせる魂胆であったが、『日本国』とかいう新興国の軍人(自衛官と呼称されていた)は、『無知な者に対する哀れみ』や『犯罪者に対する軽蔑』などの態度をとるばかりであった。
数日後、日本国の本土に到着した際、なぜ自分がそのような態度を取られていたのか、その要因が判明する。皇都エストシラントを遥かに超える高層建築物が立ち並んだ都市、皇都にのみ配備されている『ワイバーンオーバーロード』ですら追いつけない時速500kmを超える超高速で浮上走行する鉄道、ムー連邦よりも洗練された馬なしの自走車両、そして巨大な鉄竜の飛び回る空・・・。皇都エストシラントですら片田舎とさせ思えてしまうような未来都市へと連れられ、レクマイアの日本国に対する印象は、逮捕されたときと正反対のものになっていた。
そのまま首都東京にある東京拘置所とかいう牢屋に投獄されたが、皇国にある監獄と異なり、看守から理不尽に暴行されることもなく、温かい食事もきちんと三食提供された。さらに、この国で発行されている新聞までもが閲覧可能で、第三文明圏共通言語の辞書まで貸し出された。
他にすることもなかったため、1か月以上にわたり新聞を毎日のように読み続けていたレクマイアは、辞書さえあれば断片的に内容を理解できるレベルにまで達していた。
ある日、いつものように新聞を眺めていると、思わず見返してしまうような見出しの記事が目に飛び込んできた。
『1万2000年ぶりの再会! 日本国政府、ムー連邦と国交締結!!』
世界第四位の列強国パーパルディア皇国よりも、さらに上位である世界第二位の列強国『ムー連邦』が、日本国と対等な立場で国交開設や通商条約を締結したという内容であった。
ムー連邦は早い段階で、日本国の真の力を見抜いたのだな・・・と感心するのと同時に、祖国であるパーパルディア皇国のことを考えると気分が重くなる。
9月時点における皇国軍の侵攻目標はアルタラス王国であり、第三外務局がシルウトラス鉱山の割譲をはじめとした外交圧力をかけていると小耳に挟んでいた。その次のターゲットは、シオス王国かフェン王国になるだろうと噂されており、そうなると間違いなく、日本国と衝突することが予想される。
レクマイア自身がそうであったように、パーパルディア皇国民は、自国が第三文明圏における最強国家であることを誇りに思っている。それゆえ、地球における『中華思想』のような、自民族中心主義の考えが蔓延っている。
※ 中華思想(華夷思想)
自国こそが卓越した世界の中心であり、その文化や思想こそが最も価値のあるものである。自国から離れた周辺の諸国や民族は、文化の遅れた低劣な『野蛮人・蛮族』であると蔑視し、夷狄(いてき)と称してこれを差別する考え。
プライドの塊のような祖国が、自国の監察軍を文明圏外国に撃破されたことを知れば、烈火の如く怒り狂い、高圧的な態度で理不尽な要求を行うだろう・・・。そしてそれを拒否するであろう日本国に対し、いつもの要領で『不敬な蛮族を滅する』と戦争を吹っ掛けてしまえば、取り返しのつかない結末になるだろうことが容易に想像でき、頭を抱える。
レクマイアの考えたこの悪い予想は、この数か月後、より最悪な内容で的中するのであった・・・。
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日本国
首都東京 国会議事堂
レクマイアが東京拘置所で頭を抱えていた頃、『ロウリア事変』や『アマノキ事変』の件で、国会審議は紛糾していた。野党からの追及で最も焦点となったのは、対特殊生物向けのメーサー兵器を竜騎士たちに向けて使用したことであった。
「総理、ハーグ陸戦条約の23条5項についてご存知でしょうか?」
座憲官主党に所属する国会クイズマンこと大東議員が、内閣総理大臣の麻生孝昭に質問する。
「国会はクイズ番組ではありません。クイズのような質問は、生産的ではありませんのでお答えできません。」
「実に呆れました。こんなことも答えられないとは、総理大臣失格ですね! 『不必要な苦痛を与える兵器を使用してはならない』です。メーサー兵器を対人使用したのは、本項にあるような、人道に反した行為ではなかったのでしょうか!!」
鼻息を荒げた大東議員が、指を差しながら麻生総理を追及すると、呆れた顔をした防衛大臣が答弁を始める。
「大東議員は、『こちらの世界に生息しているワイバーンは、小型特殊生物に準ずる能力をもつ生物である』・・・という特殊研究本部からの報告をお読みにならなかったのでしょうか? 」
「硬い外皮と優れた飛翔性を有し、さらには粘度の高い可燃性物質で形成された火炎弾まで発射可能な攻撃能力まで有しており、例えるなら『空飛ぶ装甲車』のような生物です。まさかとは思いますが、こんな生物に騎乗する相手に対し、小火器だけで応戦しろ・・・などという無責任なことを現場の自衛官たちへ命じろと仰るのでしょうか!?」
怒気を込めた防衛大臣の反論に、大東議員がたじろぐ。
「ですが、この世界に来て一年も経過していないにも関わらず、麻生内閣は二度も紛争を引き起こしている! これは日本の軍国主義の再来ではないのですか!!」
分が悪いとみた大東議員は、論点をすり替えた糾弾を行った。
「いずれも友好国と締結した『対特殊生物に関する相互協力条約』に則ったうえでの行動です! それだけこの世界は、特殊生物による民間人への被害、そしてそれらを悪用するような事例が多いということです。地球にいた頃の価値観だけで話をするのは、国家を運営していく者としてあまりに非常識です!!」
良識ある与野党の国会議員、国民世論の大多数は、これらについてまったく問題視していなかったが、余計な騒ぎたてを行った一部マスメディアとそれに便乗した一部の極左議員による追及が活発化していた。
またシオス王国と異なり、ムー連邦による空港施設が存在していなかったフェン王国については、インフラ整備のために民間人が多数滞在している・・・といった事情もなかった。それゆえ、上記に配慮するかたちとなり、邦人保護のための自衛隊派遣は行われず、渡航制限(渡航中止勧告)が出されるのみとなった。
日本国のこの対応も、数か月後、最悪の事態を引き起こす要因の一つとなってしまったのであった・・・。