中央暦1639年12月7日
フィルアデス大陸の北東
トーパ王国 城塞都市トルメス
トーパ王国の北東部にある城塞都市トルメスでは、『世界の扉』から魔物大陸こと『グラメウス大陸』の方向を数千年以上の永きにわたり、監視してきた。
しかし1万年以上昔の神話時代、勇者たちの活躍で『魔王ノスグーラ』が封印されてからというもの、出現する魔物はゴブリンやオーク程度であり、高さ20メートルを超える鉄壁の『世界の扉』から安全に対処可能な状態がずっと続いていた。そのため近年では、『世界の扉』に交代で常駐させるトーパ王国兵の数を減らし、代わりに傭兵を非常勤として雇うほど、グラメウス大陸の脅威を軽視しがちになっていた。
7日の朝も、『世界の扉』からはいつもと同じような穏やかな景色が広がっていた。この日の監視当番だった騎士モアと傭兵ガイは、監視塔からグラメウス大陸の方向を眺めながら、今日の監視任務も何事も無く、無事に終わるだろうと思っていた。
ゴォォォ・・・ウォォォ・・・ギャァァァス・・・。
地平線の先から、悍ましい唸り声や叫び声とともに、土煙を巻き上げながら何かが近づいてくるのを肌で感じる。『世界の扉』の監視塔に設置された望遠鏡を覗き込むと、雪が降り積もって白銀の世界が続くグラメウス大陸の大地が、少しずつ黒く変色していく光景が見えた。
グラメウス大陸の大地を埋め尽くすほどのゴブリンやオーク、ケルベロスやサイクロプスなどで構成された魔物の大軍勢が、『世界の扉』に向かって進撃していた。冷や汗をかきながら望遠鏡を覗き込む騎士モアの目には、さらに目を疑うような光景が映る。
魔物の大軍勢の中央に、30メートル以上の恐竜のような魔獣に騎乗した『レッドオーガ』と『ブルーオーガ』の姿が確認出来たのだ。『魔王ノスグーラ』の側近といわれた伝説の魔獣『オーガ』・・・、トーパ王国の神話では『レッド』、『ブルー』、『イエロー』、『ホワイト』の四体がいたと言い伝えられており、イエローとホワイトは神話時代に勇者たちに討ち取られたとの伝承が残っている。
「嘘だろ・・・、伝説の魔獣レッドオーガとブルーオーガだと!?」
「おいモア、そいつらの奥を見てみろ! オーガなんかよりもっとヤバいのがいるぞ!!」
ガイが震えるような声で叫ぶ。望遠鏡をさらに後方へ向けると、恐竜のような魔獣に騎乗した赤と青のオーガの後ろに、パーパルディア皇国の地竜『リントヴルム』を三倍以上も大きくした赤い地竜のような生物が見える。そしてその背には、オーガよりも立派な体格をした角の生えた黒い魔人が、巨木を切り出して作られた木製の玉座に鎮座していた・・・。
「せ・・・せ・・・・赤竜とま・ま・まお・・『魔王ノスグーラ』!!!?」
モアがその名を口にした瞬間、監視室の通信兵が世界の扉の南方にある城塞都市トルメスと王都ベルンゲンへ緊急の魔信連絡を行う。
「緊急連絡、緊急連絡、こちら世界の扉、こちら世界の扉。グラメウス大陸から魔王ノスグーラの大軍勢が接近中。至急、援軍を要請する!!」
騎士長の命により、モアとガイが世界の扉を脱して城塞都市トルメスへ状況報告に向かった数10分後・・・。
「守備隊がたった150人しかいないとはいえ、1万年以上もフィルアデス大陸を守護してきた鉄壁の『世界の扉』、そう簡単に破れると思うなよ! 射程に入り次第、弓兵とバリスタは攻撃を開始せよ!! 王国軍の本隊が到着するまでの間、一体でも多くの魔物を討ち取り、ここを死守するぞ!!!」
騎士長は接近してくる魔物の大軍勢を睨み、闘志を燃やす。
一方、赤竜の背にある玉座に鎮座する『魔王ノスグーラ』は、目の前に立ちはだかる『世界の扉』を見ながら、指の関節をポキポキ鳴らし、不敵な笑みを浮かべる。
「ほぉ、我が封印されていた間に、下等種どもは随分と大層なものを造り上げたようだな・・・。だが、所詮は塵芥どもの矮小な工作に過ぎぬわ」!
魔王ノスグーラは玉座から静かに飛び上がると、『世界の扉』に向けて漆黒の手をかざす。両手の先から黒い炎が出現し、そのまま左右に腕を開く。両手から激しく噴きあがった炎が頭上で渦を巻きながらアーチを描き、魔法の詠唱にあわせて高熱のエネルギーを圧縮するかのように、頭上で両手を合わせてスパークさせる。
「その工作物とともに魂まで燃え尽きるがいい・・・」
魔王が宣告するかのような一声を発すると、頭上に形成された強大な熱エネルギーが握り拳の中にギュッと包みこまれた。次の瞬間、握り拳の先から高温の熱線が撃ち放たれ、『世界の扉』の中央部に直撃した!
コンクリートの融点1200℃を超える熱量が直撃した『世界の扉』は、飴細工のようにドロドロに溶融し、城壁の上部が大きく抉られる。城壁上にいた弓兵たちは、あっという間に消し炭となって消滅し、辺りには灰になったものがヒラヒラと舞い落ちる。
「ふん、他愛無い・・・。全軍、我の破壊した箇所周辺より突入せよ! 下等種どもを血祭に挙げてやれ!!」
急激な高熱に晒され、強度が大幅に落ちた『世界の扉』に、2万匹を超える魔物が殺到した。生き残った守備隊が必死に応戦するも、多勢に無勢であり、数時間の戦闘で守備隊は全滅。約1万年ぶりに、フィルアデス大陸へ魔王軍の侵入を許すこととなってしまった・・・。
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中央暦1639年12月9日
列強国パーパルディア皇国
皇都エストシラント 第三外務局
パーパルディア皇国駐在のトーパ王国大使は、第三外務局を訪れていた。本国から魔王復活の緊急魔信を受け、魔王討伐部隊の援軍要請をするためである。
必死にフィルアデス大陸の全国家と全生命の危機であることを訴えるが、担当した第三外務局員の態度は、実に冷ややかなものであった。
「皇国は少々忙しくてな、小隊とはいえ他国のために軍を派遣する余裕など、今はないのだよ。それに文明水準の低い1万年も昔に猛威を振るった魔物の一匹や二匹程度、現在の水準では大した問題ではなかろう。」
トーパ王国大使が徹夜で準備した資料をペラペラめくって読んでいたが、興味なさそうに鼻クソをほじりながら返答する。
「それに貴国はつい先月、我が国からの奴隷献上の要望に難色を示したのでしたっけ? もしも貴国がそのまま陥落し、魔王とやらがフィルアデス大陸まで侵攻してきたら、その時は我が国も対処を考えるだろうし、あっさりと滅してやろうぞ。」
パーパルディア皇国は、旧式化した各種技術や工具、部品などの供与と引き換えに、文明圏外国から資源などを献上させていた。寒冷な気候のために農産物があまり収穫出来ず、また魔石などの地下資源が乏しいトーパ王国の場合、人的資源、つまり奴隷を献上させていた。
そして、もし文明圏外国がこれらの献上を拒否した場合には、その一国だけそれらの供与を停止させる。そうなると他国との発展速度に差が生まれ、他国に先を超されたその国は衰退の一途を辿ることとなる・・・という流れを外交手段の一つとして利用していた。
しかし、大東洋に日本国が転移したことで、この関係が瓦解し始めていた。品目に制限があるとはいえ、パーパルディア皇国の数百年先をいくであろう超技術で作られた道具や機械、書籍などを、日本国が貿易で普通に輸出するようになったのだ。
そうなると、傲岸不遜な態度で、日本国と比較して数百年前の骨董品にあたるような技術や道具を不平等な取引で供与していたパーパルディア皇国はどうなるか・・・。子供でも容易に想像できるように、誰もがそっぽを向き、相手をしなくなり始めたのだ。
特に第三外務局では、既に日本国と国交締結した文明圏外国を多く担当しているため、ここ数か月、出した要求をことごとく拒否される事態が頻発していたのだ。トーパ王国も例外でなく、パーパルディア皇国からの技術供与を停止される代わりに、来年からの奴隷献上を拒否していた。
このときは、まさか神話の魔王が復活するとは思いも寄らなかったため、パーパルディア皇国の要求を突っぱねてしまった。
パーパルディア皇国の援軍要請に失敗したトーパ王国大使は、肩を落としながらトボトボと第三外務局を後にしたが、その帰り道、ある国のことを思い出す。国外に軍を派遣することに消極的ではあるが、魔王のような特殊生物に関したことであれば、もしかすると・・・。
大使館に戻った大使は、パーパルディア皇国の援軍要請に失敗した旨、そして『日本国に援軍を要請するよう上申する旨』を本国へと連絡した。
魔法発射時のイメージは、ハドラーのベギラゴンだったりします。
また、熱線を使う相手へのガチメタな空飛ぶ兵器といえば・・・(次話をお楽しみに!)