中央暦1639年12月21日
トーパ王国 城塞都市トルメス
ミナイサ地区の大講堂
城塞都市トルメスのミナイサ地区で飯屋を営んでいたエルフのエレイは、押し込められた大講堂のなかで恐怖に震えていた。毎日何人かが料理のために連れて行かれ、この大講堂の押し込められていた人の数も、既に100人以下まで減ってしまっていた。
空腹と疲労、そして絶望のなかでぐったりへたり込んでいると、給仕担当のゴブリンたちがやってきた。家畜を選ぶような目で自分たちを品定めしながら、魔王の食事の気分について話していた。
「魔王様、今日ハあっさりしたモノガ喰いたいのだとよ」
「じゃあ今日のメインは野菜にして、メスのエルフの肉でも添えておくか・・・。おばえ食べ頃のイイ肉をしているな、コイツを出荷するど~!」
エレイの近くにやってきたゴブリンが下品な仕草で匂いをかぎ、右手を掴んだ。
「イヤァァ神様ァァァ助けてぇぇぇ!!!!!!」
「ゴ、ゴラ、暴れんナ!」
「今シメルと味が悪くなって魔王様に怒ラレル。殴って気絶させるダケにシテオケ」
悲鳴をあげながら暴れて抵抗するエレイに対し、ゴブリンが棍棒を振りかざしたとき、大講堂の外から大きな爆発音と魔物の叫び声が聞こえた。
「ナ、ナンダ!?」
突然鳴り響いた爆発音に驚き、ゴブリンたちはあたふたしている。
「オイ、ノロマなゴブリンども。早くしやがれ!」
驚き戸惑っているゴブリンの様子を見かねたオークロードが、片手でエレンの体を担ぎ上げたとき、大講堂の正面扉が勢いよく開いた。
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● 犬神分隊
ミッション内容 : 生存者の救出と保護
城島分隊が、大講堂前に陣取っていたレッドオーガとその配下の魔物たちの注意を引きつけ、90式メーサー殺獣光線車たちが待ち構える広場への陽動作戦を実行していた頃、犬神分隊はモアとガイに案内され、涸れた地下水道の中を移動中であった。
この涸れた地下水道は、一番生存者が多いと思われる大講堂の裏へと繋がっており、城島分隊の陽動作戦にあわせて、残っている魔物たちを掃討し、生存者を救出する手筈となっていた。
市街案内役のモアとガイを先頭に、後ろから分隊長の犬神剛が続く。分隊という名目ではあるものの、自衛官は二人だけであり、この場にいる生きている人間はモア、ガイを含むトーパ王国騎士団の別動隊を合わせて五人程度しかいない。しかし地下水道内に響く足音は、明らかにその倍の人数がいるように聞こえる。
「なあ犬神さん、本当に俺らだけで大丈夫か・・・。ゴブリンくらいなら大丈夫だが、もし大講堂内の見張りにオークが複数匹いたら、こんな人数じゃ全滅するぜ・・・」
ガイが心配そうな声で、犬神分隊長に声をかける。
「レッドオーガを城島分隊たちが引き離してくれれば、後は十分対処可能だ! まあコイツらもいるし、安心してくれ。」
自信満々な犬神分隊長の後ろには、厳めしい魔神のような強面のゴーレムたちが青い目を光らせながら、整然とついて来ていた。
(本当にこんなゴーレムなんかで大丈夫なのかよ・・・)
半信半疑な様子のガイであったが、大講堂裏手の貯水池跡に到着したタイミングで、城島分隊から連絡が入った。
「こちら城島分隊。広場の赤鬼とその配下の魔物の誘導、及び駆除が完了。無人ドローンによる上空偵察の結果、青鬼は恐竜型魔獣とともに、領主館のある西側地区にいる模様。そちらには百田分隊が向かっている。」
「こちら犬神分隊、了解した。これより地上へ出て救出ミッションを開始する。」
犬神分隊とモア、ガイを含むトーパ王国騎士団の別働隊は、涸れた地下水道を通じて大講堂の裏にある貯水池跡から飛び出した。レッドオーガが不在となった中央の広場には、ゴブリンやゴブリンロードなどの魔物たちがまだ10体近く見張りとして残っていたが、これらをあっさり掃討して大講堂への突入を敢行する。
だが運の悪いことに、大講堂に入ってすぐにあるメインエントランスには、二匹のオークロードが、まるで門番のように立ちはだかっていた。
「クソ、最悪だ。オーク一匹ですら騎士10人がかりでようやく討ち取れるっていうのに、よりにもよって上位種のオークロードが二匹もいるのかよ・・・」
悪態をつきながら剣を構えるガイの後ろから、モアが奥を指さしながら叫ぶ。
「ガイ、奥を見てみろ!! あのオークロードに担がれている女性は、エレイじゃないか!?」
奥の方をよく見ると、一匹のオークロードと数匹のゴブリンたちがエルフの女性たちを担いで連れて行こうとしている様子が見えた。よく見るとそのうちの一人は、なんと幼なじみのエレイであった。
「エレイ!?」
ガイは剣を構え、エレイのもとに一直線に走り出そうとしたが、手前にいるオークロードたちが侵入者を排除するかのように襲い掛かって来た。
「クソ、このままではエレイが!!」
焦るガイの隣から、メーサーライフルを構えた犬神分隊長が、何かに指示を出す声が聞こえる。
「目標 : 前方の有害小型特殊生物群! BJJ(バトル・ジェットジャガー)かかれ!! また奥の一匹の近くには民間人がいる。その周辺での火器使用は禁じる!!!」
犬神分隊長から攻撃司令が下されると、その背後から現れた対小型特殊生物用人型戦闘マシン『バトル・ジェットジャガー』五体が、オークロードたちへ一斉に襲い掛かった。
手前にいた二匹のオークロードは、メーサーライフルを装備した三体のバトル・ジェットジャガーと犬神分隊長の攻撃により、あっという間に真っ黒に焦げたローストポークやチャーシューと化し、あっけなく駆除される。
あのオークロードをあっさり始末した自衛官やゴーレムたちの強さに圧倒されつつも、門番のオークロードが排除された隙をついたガイとモアは、奥で連れていかようとしている人たちへ向かって全力で走り出す。
しかし二人よりも速く、片手でエレンを持ったオークロードへ強烈な一撃を叩き込んだ存在がいた。一体のバトル・ジェットジャガーが、向かってきたゴブリンたちの頭上を飛び越え、オークロードへ強烈な飛び蹴りを喰らわしたのだ!
150kg の本体重量に加え、メーサーライフルなどの重装備が施されたバトル・ジェットジャガーの総重量は、200kg にも及ぶ。それほどの重量をもった金属の塊が、駆け出した勢いのまま放った飛び蹴りを喰らうとどうなるか?
200kgの鉄球に激突されたような重い衝撃を喰らったオークロードは、ボロ雑巾のように盛大に吹き飛び、奥にある石壁へとめり込んだ。同時に、掴まれていたエレイが解放される。
「オ怪我はありませんか?」
エレイが見上げると、目を青く光らせた強面の甲冑が手を差し出していた。
「えーっと! 助けて下さり、ありがとうございます! 貴方は一体?」
「私ハ日本国トーパ王国特別派遣部隊所属 BJJ-03 デス。今のウチにお逃げ下サイ」
(素手であんな大きな魔物を蹴り飛ばすとは、なんて勇猛果敢な兵隊さんなのかしら・・・! きっとこの甲冑の下は、イケメンな英雄さんに違いないわ!!)
バトル・ジェットジャガーの外部装甲の下は、メディカル・ジェットジャガー同様、電子回路や駆動モーター、各種センサーなどばかりで顔など付いていないのだが、特徴的な甲冑を着込んだ異国の兵士だと思ったエレイは、うっとりした顔をしながら BJJ-03 に心惹かれていた。
後に BJJ-03 に中の人などおらず、科学技術で作られたゴーレム(ロボット)と知ったエレイは、傷心のあまり、二日ほど寝込むこととなるのはまた別のお話。
「ぬおー! よくもオデをコケにしてくれたな! オメェぶっ殺シテやるド~!!」
石壁にめり込んでいたオークロードが復活し、怒りの表情のまま BJJ-03 へと掴みかかる。オークロードとの体格差は1メートル近くもあるが、両者ともに掴み合ったま動かない。パワーだけでいえば、両者は拮抗しているようにも見える。
ふいに BJJ-03 がオークロードを見上げるように顔を向けると、特徴的な厳めしい顔に付いた口元が開く。次の瞬間、BJJ-03 の口からオークロードの顔に何か液体のようなものが吹きかけられた!
「フゴ!? 目がぁ~目がぁ~!!」
吹きかけられた液体が目や鼻の中に入ったオークロードは、激痛のあまり、地面をのたうち回る。これは1998年のダガーラ事変において、大量発生したベーレムが生成・発射していた強酸性の毒液『ウレコット・エッカクス』を特殊研究本部で分析し、対小型特殊生物制圧用として人工的に作りだしたものであった。
三代目モスラをも苦しめた猛毒をもろに浴び、とても戦闘出来る状態でなくなったオークロードへ BJJ-03 が追い打ちをかける。無防備となったオークロードの頭部へ強烈な鉄拳がめり込み、頭蓋骨を粉砕してとどめをさす。
「初の実戦だったが、バトル・ジェットジャガーの働きぶりは素晴らしいな! 今後も積極的に実戦投入するよう、帰ったら上申しておくか・・・」
数か月後、この判断は民間人への狼藉を働いたパーパルディア皇国兵の一部を地獄へと叩き落とすことになるのだが、それはまた別のお話・・・。
こうして大講堂に押し込められていた全部で85人の生存者は、犬神分隊の活躍で速やかに救助されたのであった。