中央暦1639年12月21日
トーパ王国 城塞都市トルメス
ミナイサ地区 魔王軍本陣
トーパ王国特別派遣部隊の活躍により、魔王ノスグーラの両腕あるレッドオーガ・ブルーオーガ、さらにその騎馬であるゴロザウルスは、大きな被害を出すことなく、駆除された。さらに大講堂や学校、議場などで『食糧』として囚われていた生存者204名も救出され、残すは魔王ノスグーラと赤竜のみとなっていた。
既に日没が近付いており、夜目が利く魔物たちから夜襲を受ける危険性を加味され、魔王ノスグーラと赤竜の討伐は、翌日へと持ち越されることとなった。
一方、魔王軍本陣と化したミナイサ西側地区の領主館では、青筋を立て、憤怒の顔をした魔王ノスグーラが、怯えるゴブリンから報告を受けていた。
正午になっても朝食すら届かないことに腹を立て、ブルーオーガに『食糧庫』の様子を見に行かせたが、何時間経っても戻ってこない。夕方になり、ようやく斥候のゴブリンが慌てた様子で戻ってきたが、その報告内容は荒唐無稽なものであった。
レッドオーガはおろか、ゴロザウルスと共に出陣したブルーオーガまでもが、人間どもに使役される魔獣たちによって倒され、いくつか確保していた『食糧庫』のすべてを奪還された・・・というものであった。
ゴブリンの話を聞き終えた魔王ノスグーラは、怒りを抑えて静かに考える。まさか、この時代にも『太陽神の使者』が召喚されているのでは・・・・と疑うが、1万年前に戦った記憶を思い起こしても、オーガたちはともかく、魔帝様から下賜されたゴロザウルスを『鉄の地竜』たちが倒せるとは思えなかった。
だとすると・・・。
魔王ノスグーラはあることを思い出し、はっとした顔をする。『太陽神の使者』たちが召喚される前、フィルアデス大陸での戦いにおいて、各種族が連合軍を作って魔王軍に抵抗してきた。そのときはエルフ族の魔法だけが脅威であったが、連合の中に『ある種族』の姿がなかった。
自分を創造した古の魔法帝国こと『ラヴァーナル帝国』に対し、唯一対抗出来たとされる竜神の国『インフィドラグーン』・・・。竜魔戦争の終盤、魔帝様が使用されたコア魔法により、かの国の首都は消滅。残された竜人族は四散したとされており、そのためか、かつての連合軍の中に竜人族は一人もいなかった。
もしかすると自分が封印されていた長い年月の間にヤツらが再結集し、再度、国を興せるほどまで勢力が回復しているのではないだろうか。そして魔帝様の尖兵たる我の復活を聞きつけ、トーパの民に力を貸していると考えれば、ゴロザウルスがやられたのも説明がつく!
「もし竜人どもがトーパの民に協力しているのであれば、厄介だな・・・。侮れば太陽神の使者に敗れた過去の轍を踏むことになるか・・・。明朝、我の全力をもって奴らを叩き潰す!!」
創造主である『ラヴァーナル帝国』ないし『光翼人』の影響を受けているのか、魔王ノスグーラは竜人族に対する闘志をメラメラ燃やす。明朝の決戦に向け、領主館の近くで崩れている土塊や『世界の扉』の残骸に対し、怪しげな呪文をかけ始める。
「我の極大閃熱魔法には耐えられなかったとはいえ、この破片はなかなかの耐久性がありそうだ・・・。これを材料にしてみるか。」
魔王の詠唱が完了すると同時に大地が割れて盛り上がり始め、土や岩の塊がみるみる人の形へと変貌していく。さらに『世界の扉』の残骸であるコンクリート片が、巨大なゴーレムの周囲を鎧のように覆い始めた。
「もし神竜や亜神龍が派遣されていれば、真っ先に我の討伐に来ているだろう。それを行っていないということは、派遣されている戦力はおそらく属性竜どもで、まだ様子見段階といったところか・・・。属性竜のブレスであれば、コヤツが数体もいれば十分だな。」
明朝の決戦に向けた魔王ノスグーラの粘土工作は、深夜にまで及ぶのであった・・・。
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中央暦1639年12月22日
トーパ王国 城塞都市トルメス
トルメス城
魔王軍に囚われていた民間人の救出に成功した翌日の早朝、放射冷却により発生した濃い霧に覆われたトルメス城内に、けたたましい警鐘が鳴り響いた。
魔王ノスグーラ率いる軍勢が、ミナイサ西側地区を出陣したというものであった。問題は、ついに魔王自らが出陣したことではない。17メートルを超える巨大な石のゴーレム三体を近衛兵のように従え、赤竜や残存する魔物たちとともに、魔王軍総出で大攻勢を仕掛けてきたのだ。
魔王の側近であるマラストラスに加え、昨日に実施された生存者救出作戦において、自身の両腕たるレッド・ブルーのオーガコンビやゴロザウルス、オークロードなど魔王軍の主戦力を多数喪失したため、一気に攻勢をかけてきたのでは・・・と推測された。
既にミナイサ区域境界の城門前広場では、迎撃に向かった北方貴族の騎士アボン率いる騎士団と魔王軍の先鋒であるオーク部隊と戦闘を開始したらしい。
「全隊に通達、第一種戦闘配備! 全戦闘車両、及びスーパーX2改はミナイサ区域境界の城門へ向けて出撃せよ!!」
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ミナイサ区域境界の城門前の広場では、トーパ王国騎士団とオーク部隊が激闘を繰り広げていた。数に勝り、城壁からの攻撃魔法や弓矢による後方支援を得られている騎士団、一方の魔王軍はオークやゴブリンなどのいわゆる二軍戦力ということもあり、戦況は騎士団の方が優勢であった。
魔王ノスグーラは赤竜の背に設置された玉座に鎮座し、戦況を静観していたが、突如玉座から立ち上がり、奮戦する騎士たちを見下ろしながら不敵に笑う。
「ふん・・・、下等種どもも少しはやるようだわい・・・。どれ、竜族が出てくる前に軽く掃除しておこうか・・・」
魔王ノスグーラがトーパ王国騎士団に対して漆黒の手をかざすと、手の先から黒い炎が出現する。魔王の詠唱とともに黒炎は鳥のかたちへと姿を変え、戦っていた旗下の魔物諸共、騎士団を焼き尽くす。
地面にうっすら積もっていた雪はすべて蒸発し、騎士たちは1人残らず、馬もろとも黒い炎に包まれ、消し炭となって消滅した。
「下等種どもの掃除には、この程度の魔法で十分ぞい・・・。カイザーゴーレムたちよ、あの城壁を突き破り、思い上がった下等種どもに思い知らせてやれ!!」
魔王の命令を受けた巨大な石のゴーレム三体が、緩慢な動きで城壁へ向けて歩き出す。城壁から投石機(カタパルト)による攻撃が繰り返し行われるが、17メートルを超える巨大な岩石に対し、発射される小さな岩石や金属塊では衝突時に表面の一部を削る程度で全く効果がない。
トーパ王国の誇る超エリート魔導士集団『王宮戦闘魔導隊』が大魔法を放ち、強烈な暴風雨が竜巻を発生させ、誘導雷をいくつも落下させたが、破壊力不足で有効打となり得なかった。切り札であった魔導士たちも今の一発で魔力を消耗し尽くし、肩で息を吸う者や膝から崩れ落ちる者がいるほどに消耗している。
一体だけでも手を焼いているというのに、まだ無傷な巨大ゴーレムが二体もいる。さらにその後ろには、万全の状態の魔王ノスグーラと赤竜まで控えているという絶望的な状況・・・。
万事休すと思われたその時、城壁上空にキーンというジェット音が鳴り響く。底部に設置された垂直上昇用の六基、後部に設置された推進用の二基のジェットノズルの音をたなびかせ、アイロンのような形状をした全長 34 メートルの巨大な飛行物体が出現した。
トルメス城から発進したスーパーX2改が、陸上部隊に先んじて到着したのだ。
「デカさは17メートル弱ってところか・・・。昨日相手をした青鬼のペットの恐竜野郎よりは大分小さいが、岩の塊ってことはそれ以上の重量がありそうだな。さてどう戦おうか・・・」
スーパーX2改に乗り込んだ猿渡分隊長が、独り言を呟く。それを聞いたモアが事前に渡してあった無線機を通し、助言を伝える。
「猿渡殿、魔導士によって作られるゴーレムは、一般的に胸のあたりにコアが存在します! そのコアを破壊できれば制御を失い、ゴーレムは崩れ落ちる筈です!!」
「こちら百田。猿渡、モア殿の助言に従い、スーパーX2改のバルカンとミサイルランチャーでゴーレムの胸部に攻撃を開始しろ! もし魔王が熱線魔法を放ってくるようであれば、『鏡』の使用も許可する!!」
「こちらの陸上戦力は後数分でそちらに到着する。それまで城壁を死守せよ!!」
「こちら猿渡分隊、了解!」
一方、赤竜の玉座に鎮座する魔王ノスグーラからも、城壁上空に到着したスーパーX2改の姿が見えていた。
「なんだあの奇妙な竜は!? 魔力反応も全然感じない、それ以前に羽ばたいてもおらん、太陽神の使者の鉄竜のように鼻先が回転したりもしていない・・・。得体のしれぬヤツじゃ。念のため、極大魔法で早めに始末しておくか・・・」
魔王ノスグーラは呪文の詠唱を始め、『世界の扉』を飴細工のようにドロドロに溶融し、城壁上部を大きく抉りとった極大魔法の発射体制を取る。
「魔王の腕先に高熱エネルギーの発生を確認! 熱線魔法の発射体制に入った模様!!」
「ネオファイヤーミラー展開! 反射目標 : 前方で接近する巨大ゴーレムの胸部!!」
スーパーX2改が城壁を守るように前へ躍り出ると、機体前面の装甲が左右に割れ、何かを展開し始める。装甲の動きが止まると、三面鏡状に配置された巨大な反射板のような鏡体が姿を現した。何かでコーティングされているのか、その表面は青白く光り輝いている。
「何をするつもりか知らぬが、奇妙な蚊トンボよ、墜ちるがよい!!」
魔王ノスグーラが宣告すると同時に、握り拳の先から高熱を帯びた熱線が撃ち放たれ、スーパーX2改が展開した鏡体に直撃した!
極大魔法を放った魔王ノスグーラは、上空で蒸発して爆散する奇妙な飛竜の姿を想像していたが、現実はまったく予想していない事態となる。
「フン、他愛無・・・え・・・!?」
吸い込まれるように奇妙な飛竜の前方を直撃した熱線は、その青白く輝く鏡体内部で受け止められる。それだけではない。受け止められた熱線が自分が放った時以上の威力に収束され、接近中のカイザーゴーレムに向かって反射されたのだ!
反射された黄緑色の光線は、最も近くにいたカイザーゴーレムの胸部に命中し、胸から上を木っ端微塵に吹き飛ばす。コアのある胸部を消失したカイザーゴーレムは、魔力の制御を失い、形成されていた元の土や岩へと崩れ始めた。
カイザーゴーレムを貫通した光線はその威力を保ったまま、魔王がゴーレムの背後に控えさせていた魔物部隊に直撃し、これを一瞬で消滅させた。
「魔王とやら・・・。今後もし自衛隊と戦う機会があれば、覚えておくのだな。これが二代目ゴジラの熱線すら反射したファイヤーミラーの強化改良版『ネオファイヤーミラー』だ!!」
魔王軍との最終決戦が開始された・・・。