三章から物語の都合上、少しずつオリキャラが出てきますが、ご了承下さい。
063. 忍び寄る影
中央暦1639年12月12日
フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国
皇都エストシラント パラディス城
トーパ王国の城塞都市トルメスが、魔王ノスグーラ率いる魔王軍に襲撃されていた頃、第三文明圏唯一の列強国『パーパルディア皇国』の皇都エストシラントでは、『皇宮パラディス城』にある玉座の間で帝前会議が開催されていた。
会議の冒頭で、つい先月に73ヵ国目の属領と化したアルタラス島の占領状況について、カイオスをはじめとした各省の局長クラスや軍上層部など、出席者全員への共有が行われる。
「アルタラス島の掌握は遅延なく完了し、めでたく我が国の73ヵ国目の属領となった。これを踏まえ、本日の会議では次の軍の運用について協議したいと思う。そうだな・・・アルデよ、貴様はどう考える? 述べてみよ。」
ルディアス皇帝に指名された皇国皇軍最高司令官アルデは、自らの考えを答える。
「私としては、アルタラス島の東にある島国『シオス王国』へ進軍すべきと考えます。掌握したばかりのアルタラス島を前線基地として使用でき、さらにシオス王国の陥落後には、資源が豊富なロデニウス大陸への足掛かりにすることも可能です。」
アルデ司令官は、シオス王国への進攻を提案した。
「なるほど、シオス王国か・・・。軍事的には良いプランだが却下だ。そうだな・・・、第二外務局はどう考える?」
アルデ最高司令官の案を一蹴したルディアス皇帝は、第二外局長のリウスに尋ねる。
「第二外務局としては、北方の文明国『リーム王国』を攻めるべきと考えます。新たな資源獲得を狙うのは当然として、あの国は我が国に産業スパイを送りこむなど、列強である我が国に対して舐めた態度を取っており、身の程をわからせてやる必要が・・・」
「却下だ、リーム王国以上にきつい灸を据え、再教育する必要のある国が他にあるだろう。」
第二外務局長のリウスはリーム王国をはじめとした北方への進攻を提案したが、話し終わる前にルディアス皇帝はリーム王国進攻案を一蹴する。氷のような冷酷な顔をしたまま、ゆっくりと話を続ける。
「余は怒りに満ちているのだ・・・。皇国監察軍を一度退け、周辺の蛮族共を調子に乗らせている愚か者に対してな! 『日本国』・・・とかいう聞いたこともない蛮国だったか。」
最初に日本国の存在を知りながら、その報告書を廃棄するなどして隠蔽していた旨で、国家戦略局・文明圏外国担当部所属のイノスとパルソが処断される。彼らは『ロウリア事変』において、ロウリア王国を裏から支援するなどして暗躍していたが、ロウリア王国敗北の知らせを受け、徹底的に情報隠蔽していたのだ。
本来であれば死罪相当の背信行為にあたるが、身銭を切って少しでも損失を補填しようとしていたことなどの点が顧みられ、ボーナスカットと減俸処分のみとされた。
もしこのとき、二人が処分した日本国に関する資料・・・、例えば観戦武官ヴァルハルが詳細に書き記した『ロデニウス大陸沖大海戦』や『ジン・ハークの戦い』の戦闘内容などをこの場で共有しておけば、多少なりともパーパルディア皇国の運命はマシな方へ傾いていただろう・・・。
しかしこの場で共有されたのは、エルトら外務局に属する人間によって取捨選択された『皇国にとって都合の良い情報』であった。その最たる例は、『日本国は国家予算の5パーセント程度しか防衛費とかいう軍事費に割いていない』という内容である。
※ GDP(国内総生産)比では、1から2パーセント程度
実際は、世界第三位の経済大国における年間国家予算の5パーセントであるため、軍事費というかたちで比較すれば、修羅な地球において世界9位の規模である。それも『防衛費』に限った額であり、Gフォース維持費の分割負担金をはじめとした特殊生物災害に関する予算・・・、通称『特災費』がさらに別枠で存在するため、それらを合計した実際の予算額でいえば、インドやロシアなどの上位国を上回るほどであった。
余談ではあるが、同盟国であるアメリカ合衆国の軍事関連費は、言わずもがなぶっちぎりの第一位であり、『スーパーメカゴジラ』の次世代型である『SMG - Ⅱnd』を独自に建造するなど、この世界線においても圧倒的なチート戦力を誇っていた。
しかしこういった事実があるにも関わらず、よく精査もせずにこれらの情報だけで『侮ってはいけないが、恐れるほどではない』、『早い段階で叩いておいた方が良い』などと結論付けられてしまい、ルディアス皇帝へ進言されてしまったのだ。
「まずは日本国と友好関係にあるフェン王国を滅ぼし、日本侵攻への橋頭堡とせよ。文明圏外の蛮族どもに、日本と友好的な国がどういう運命を辿るか知らしめてやれ!」
ルディアス皇帝の宣言に対し、全員が黙して肯定の意を示す。こうしてパーパルディア皇国は最悪の未来へ向けてまた一歩、歩みを進めてしまうのであった・・・。
「ところでアルデよ。此度のアルタラス島攻略において、新型魔獣のエビラとアンギラスを投入したとのことであったが、そやつの働きはどうであったか?」
「はは、此度の侵攻軍を指揮したシウス将軍からは、『兵研』から聞いていた以上の凄まじい活躍だったと伺っています。文明国に匹敵する国力と軍事力をもっていたアルタラス王国でさえ、エビラとアンギラスの前に手も足も出ず、あっさり壊滅しましたからな! 奴らが加わったことで、もう誰も皇国の覇道を止めることは出来ないでしょう!!」
アルデの報告を聞いたルディアスは、先程とは打って変わって満足気な顔になる。
「そうか、そうか・・・。余は満足であるぞ! 今日の会議には、貴様たちに紹介しておこうと思ってその立役者を呼び付けている。入って参れ!」
大きな扉が開かれ、玉座の間にオールバックの金髪男が入って来た。
「お初にお目にかかります。兵研の『魔帝遺跡研究班』主任を務めておりますアルバートと申します。」
パーパルディア皇国において最先端の魔導技術研究に努め、皇国の頭脳と称される先進兵器開発研究所、通称『兵研』には、約10年ほど前に新たに増設された部署があった。
その部署名は『魔帝遺跡研究班』。
事の発端は、ルディアスが皇帝の座に即位して間もない中央暦1629年、工業都市デュロの近くで古の魔法帝国の遺跡が発見されたことであった。何かの研究施設跡であることは辛うじてわかったが、遺跡の魔導技術があまりに高度すぎて、兵研のベテラン研究員でさせも、まったく理解出来ないありさまであった。
調査が難航するなか、助手見習いとして発掘作業に参加していた若者の一人に、遺跡について断片的に理解できる者がいた。それが、アルバートであった。
ルディアスが他者の才能発掘とそれを最大限に活かす人材配置に長けており、また実力のある者は身分・出自を問わない実力主義であったこともあり、新たに設置した『魔帝遺跡研究班』のトップとしてアルバートを抜擢したのであった。
ルディアスの目論見通り、彼は遺跡の研究施設跡を使用して一年足らずで皇国初の人造魔獣である『カマキラス』を誕生させ、数年のうちに主力であるワイバーンロードと共同作戦可能なほどの飛行能力をもった『メガニューラ』の量産化に成功するなど、その才能を開花させていった。
エビラやアンギラスといった今回のアルタラス島攻略において投入された新型魔獣を開発したのも、彼であった。
「アルバートよ、貴様の働きで皇国軍は、史上最強の軍へと変貌を遂げようとしている。今後も皇国のため、皇国による世界統一のため、その類稀な能力を活かしてくれ。」
「はは」
アルバートは、ルディアスに深々と頭を下げる。
==========================================================
中央暦1639年12月16日
フィルアデス大陸 パーパルディア皇国
工業都市デュロ
帝前会議の数日後、アルバートは工業都市デュロにある自宅へと戻っていた。部屋に入ると上着を脱ぎ捨て、ソファーに腰を下ろす。
「下らない会議のために、わざわざデュロからエストシラントまで呼び寄せやがって。まったく蛮族の考えることは、理解に苦しむ・・・」
ワイシャツのボタンを外しながら、皇国上層部への愚痴を吐く。
「『皇国のために』か・・・。フフフ、私は常に『皇国のため』、一生懸命に働いていますよ、愚かな陛下・・・」
首に付けられたチョーカーを外すと、アルバートの背中から片方が白、もう片方が黒の翼が現れたのであった・・・。