中央暦1639年12月28日
フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国
皇都エストシラント
外交使節団を乗せた大型練習帆船『日本丸Ⅱ世』は神戸港を出港後、既に湾岸施設などのインフラ整備で活気づいているシオス王国で補給を行い、民間船団とともに皇都エストシラントの隣町にある湾港へ到着していた。
皇都エストシラントにある湾港施設を直接使用出来るのは、他列強の四ヶ国(レイフォルが滅亡した現在、正確には三ヶ国)くらいらしく、日本国外務省から大使として派遣された朝田外交官と補佐の篠原は、隣町から鉄道馬車を乗り継いで皇都エストシラントまで移動する必要があった。
ようやく皇都エストシラントにある第三外務局に着いたはよいものの、文明圏外国は受け付け番号順に対応という銀行窓口のような扱いを受ける。さらに悪いことに、窓口の職員に袖の下・・・いわゆる賄賂を渡した国から優先的に対応されたため、受け付け番号順とはいうものの、実際にはかなり後回しにされてしまった。
結局、帝前会議で議題に挙がった『日本国』の外交使節が来訪している・・・という報告が第三外務局の局長であるカイオスの耳に届き、外交協議が開始されたのは年末の仕事納めである28日になってからであった。
報告書上は外交会談とはいうものの、その実態はまるでブラック企業の圧迫面接を彷彿させるようなものであり、パーパルディア皇国側の態度は本当にこの世界の列強国かと疑うような実に酷いものであった。
そのときのやり取りを一部抜粋してみよう。
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「9月下旬にフェン王国の軍祭において、我が国の派遣艦隊と貴国の監察軍が衝突してしまいました。我々は本件についての現状確認、そしてこれを踏まえて関係修繕について模索するために参りました。」
広い会議室の中央に、ちょこんと置かれた背もたれもない簡易な椅子に座らされた朝田外交官が口を開く。その向かいには、カイオス局長を含めた第三外務局のトップ五人が長机を前に着席している。
「栄えある皇国監察軍に攻撃を仕掛けておいて、関係修繕だとぉ!? ふざけるな貴様!! 名もなき文明圏外国家の分際で、タダで済むと思っているのか!!!」
朝田外交官の淡々とした挨拶に、東部島国担当課のバルコ課長が速攻ブチキレ、恫喝するような口調で怒鳴り始める。
通常の文明圏外国家の使者であれば、列強国の外交担当を怒らせたことに動揺してしまうだろうが、朝田は涼しい顔のままで、まったく怯んだ様子を見せない。一方の篠原は、『外交部署の管理職のくせに、沸点の低さはヘリウム並みだな』・・・と内心呆れている。
「貴国とフェン王国の間で何かしらのトラブルを抱えていたのかもしれませんが、軍祭に参加していただけで、まったくの無関係であった我が国の艦船や周辺国から来訪していた観光客に対し、何の事前通告もなく、無差別攻撃を仕掛けてきたのは貴国です。」
朝田外交官はバルコ課長の怒号にびくともせず、逆に強い口調でビシッと反論する。
「貴国のワイバーンやトンボ型魔獣による無差別攻撃で、何の罪もない民間人にも多数の死傷者が出ました。本来であれば、貴国の非常識な軍事行動に対して説明と謝罪、そして被害者への賠償を要求するところですが、我が国の護衛艦の行った正当防衛により、貴国の竜騎士や艦船にも被害が出ているため、それについても実務者協議が出来ればと思っています。」
「ポクトアール提督の東洋艦隊をやったのは、貴様らだったのか!! 五大列強国の一つである皇国に対して謝罪要求だぁ!? 貴様らのような文明圏外の蛮族国家が謝罪と賠償くぁwせdrftgyふじこlp 」
怒りのあまり、何を話しているのかわからない状態になるまで錯乱したバルコが退席させられたため、以降はカイオス局長が場を取り仕切り始めたのであった・・・。
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慣れない帆船での船旅に加え、ガタガタ揺れて乗り心地が悪い鉄道馬車、挙句の果てに外交使節に対する対応とは思えないような扱いを受け、日本国外務省職員の朝田と篠原はぐったりと疲れ切っていた。
パーパルディア皇国と同じく、五大列強国の一つである『ムー連邦』を来訪し、国交樹立に尽力した外交官の御園と佐伯から聞かされた内容とは正反対の対応であったこともあり、二人のパーパルディア皇国に対する印象は最悪になっていた。
唯一、局長であるカイオス氏だけはまだ話が通じる人間であったが、『相互理解を深める目的で提案した特使の派遣』については、既に年末に入ってしまったことで職員が不在になってしまった部署が多く、十分な協議が出来ないというカイオス氏の申し出により、年明けの1月下旬まで回答が見送られることとなった。
やむなく朝田と篠原は、皇都エストシラントから比較的近いシオス王国内にある日本大使館で待機することとなり、日本丸Ⅱ世でパーパルディア皇国を後にしたのであった。
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中央暦1639年12月29日
フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国
皇都エストシラント
年末休みに入り、閑散とした第三外務局では、カイオス局長が局長室のデスクに広げられた資料を読み漁っていた。
昨日の外交協議会談にて、日本国大使から渡された質の良い真っ白な紙に第三文明圏共通言語で書かれた資料、部下に撮影させた日本国使節の乗って来た船舶・・・『日本丸Ⅱ世』の魔写、そして貿易商から入手した日本国についての情報であった。
日本国の人口は中規模国家規模の国土面積に対して1億2000万人と、皇国の7000万人よりも多いが、軍事力や先進技術、国力が図れるような写真は資料に添付されておらず、正確な国力は不明。国家転移とかいうムー連邦の神話を彷彿とさせる内容も記載されていたが、詳細は不明・・・。
大使が乗って来た帆船も、皇国海軍の100門級フィシャヌス級魔導戦列艦に匹敵するほどの大きさであったが、大砲が1門もついていないどころか武装すらされていない。造船技術はなかなかに高いようだが、魔力反応が一切なかったことから、風神の涙のような魔導技術はかなり遅れていることが予想された。
一方、貿易商たち、特にロデニウス大陸の三国やトーパ王国との行商を生業としている者たちから収集出来た情報は、それらと全く異なる内容であった。
皇国海軍でもたった3隻しか配備されていない150門級超フィシャヌス級戦列艦を遥かに超える大きさの巨大な艦船(それも軍船だけではなく、ただの輸送用の貨物船でさえも)、トーパ王国で復活した『魔王ノスグーラ』率いる魔王軍を鎧袖一触に殲滅したという『鉄の地竜』や『鉄の蠍』、『鉄の飛竜』という謎の兵器群・・・。
あまりに技術レベルが乖離しており、カイオスは日本国の実力を判断しかねていた。しかし10月初頭にポクトアール提督が話していた『東洋艦隊の竜母轟沈』の内容、昨日の外交協議における日本国大使の発言を加味すると、『日本国は真の実力を隠している』のではないだろうか・・・と彼は思い始めていた。
カイオスは、シウス将軍宛にある依頼文書を急ぎ作成する。シウス将軍はアルタラス王国に続き、年始から開始される『フェン王国侵攻作戦』の総司令官を任されており、そのカイオスが作成した依頼文書の内容とは、もしフェン王国侵攻時に日本人を捕えた場合の処遇についてであった。
万が一、日本国がパーパルディア皇国に匹敵するような国力をもつ転移国家であった場合も想定し、フェン王国侵攻作戦においてフェン王国内で捕えた日本人を人質として丁重に扱い、日本国との外交交渉に利用しようと考えていたのだ。
現時点において、日本国は文明圏外国に該当するため、通常であればカイオス局長を中心とした第三外務局が外交を担当することになる。しかし、先日の会談議事録が『外務局監査室』に所属する『虐殺皇女』の目に留まったことで、カイオスの思惑とは裏腹に、パーパルディア皇国の運命は最悪の方向へと転がることとなってしまうのであった・・・。