中央暦1640年1月14日
フィルアデス大陸 パーパルディア皇国
工業都市デュロ
工業都市デュロには、年明けに皇都エストシラントを出港したシウス将軍率いるパーパルディア皇国軍の大艦隊が停泊していた。砲弾や魔石といった武器をはじめ、水や食料、さらにはアルタラス王国侵攻で大いに活躍した人造魔獣たちの受領のため、工業都市デュロで最後の補給を受けていたのだ。
アルタラス王国を完膚なきまでに叩きのめした強大な軍の次なる目標は、フェン王国である。
「シウス将軍、全艦、物資の補給作業完了しました。また『魔帝遺跡研究班』のアルバート主任より、エビラとアンギラスも受領致しました。艦隊はいつでも出撃可能です!」
「よし、本日午後、フェン王国に向けて出撃する!」
昨年の9月末、事もあろうに皇国監察軍が敗北を喫しており、シウス将軍は今から敵対するでろうフェン王国軍とそれに味方する日本国への闘志を燃やす。
「それとシウス将軍、アルバート主任から要請のあった『例の男』ですが、補給作業開始前に魔帝遺跡研究班へと引き渡しました。それにしてもまったく、主任は何の目的で敗戦国の副将を務めていた男などを欲しがったのでしょうね・・・」
副官は意図がわからないといった顔をしながら報告する。
「さあな・・・。外人任用試験の魔獣使役能力において、ヤツは皇国内でもトップクラスの成績を出したらしいから、次に配備予定の新型魔獣のテストでもさせるのかもしれないな。」
「旧ロウリア王国には、国家戦略局の連中がこっそりと『カマキラス』を支援していたらしいです。本人は否定していたようですが、もしかするとカマキラスを使役していたのは『アデム』なのかもしれませんね・・・。」
その数時間後、シウス将軍率いるフェン王国侵攻軍の大艦隊がフェン王国に向けて出撃した。
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中央暦1640年1月18日
第三文明圏外東方フェン王国
ニシノミヤコ
ニシノミヤコから西に約3㎞の沖合には、人の住めない離れ小島がある。この小島には以前から沖合いを見張るための簡素な監視所が置かれ、武士数人が常駐していた。
正午前、いつもと変わらぬ西の方角の水平線上に、小さな黒い点がいくつも見え始めた。それは次第に大きくなり始め、『特徴的な地竜があしらわれた国旗』をマストに掲げた帆船で構成された大艦隊へと変貌していく。
「つ、ついに来やがった・・・、パーパルディア皇国の大艦隊だ! 狼煙を上げろ!!」
監視していた武士の一人が狼煙を点火し始めるのと同時に、数人の武士たちが小さな小舟に乗り込んでいく。彼らは、『アマノキ事変』においてパーパルディア皇国の皇国監察軍東洋艦隊との戦闘で壊滅し、海上自衛隊の護衛艦隊に救助されたフェン王国水軍兵であった。
「フェン王国を狙う無法者どもめ! フェン水軍の意地を見せてやる!!」
全員が死地に向かうような、覚悟を決めた顔をしている。その中には、一矢報いることなく旗艦『剣神』を撃沈されたクシラ水軍将の姿もあった。
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フェン王国侵攻軍司令官のシウス将軍は、旗艦である120門級超フィシャヌス級戦列艦『パール』の艦上から、フェン王国の領土を望遠鏡で眺めつつ、部下の報告を受けていた。すでに偵察用のワイバーンロードが竜母から出撃しており、兵の詰め所や投石機など上陸後に障害となりそうな施設の位置を魔信で報告してきていた。
「シウス将軍、フェン王国の水軍らしき船は一隻足りとも見当たらないとのことです。やはり、ポクトアール提督の皇国監察軍によってすべてが撃沈されているものと思われます。」
「そうか、ではまずは海岸堡を確保し、上陸に向けての準備を開始するとしよう! ・・・ん? おい、あの小舟は何だ?」
広大な砂浜が広がった海岸線を揚陸地点として見定めていたとき、吹けば飛びそうな小さな小舟が数艘、浮かんでいるのが望遠鏡越しに見えた。
「おそらく、ニシノミヤコの漁船かと思います。放置しておいても何も問題ないかと・・・」
シウス将軍は、皇国の大艦隊が見えても逃げようとしない小舟の様子を見て、若干の違和感を感じていた。しかし副官の言う通り、こちらの魔導戦列艦と衝突すれば簡単に転覆するようなサイズの小舟では何も出来ないだろうと、路傍の石のように無視することにした。
最前列にいた魔導戦列艦『ロプーレ』とフェン王国の領土との距離が2kmを切り、艦砲射撃が開始されようとしたところで、小舟に異変が生じた。
それまで乗っていた漁師のような男たちが必死にオールを操作し、手漕ぎで動かしていた小舟が突如、船尾の方で水飛沫を上げながら急加速し、物凄いスピードで魔導戦列艦『ロプーレ』へと向かってきたのだ。
小舟はそのまま魔導戦列艦『ロプーレ』の左舷へと突っ込み、衝突した瞬間、魔導戦列艦が揺れるほどの大きな爆発が発生した。突然の衝撃に、艦砲射撃に向けて船内で魔導砲の発射準備をしていた海兵たちが転倒し、また甲板で作業していた水兵も海へと転落する。
またこの爆発でロプーレの左舷の喫水線近傍に大きな破孔が生じ、大量の海水が流入し始めた。無事だった水兵たちが必死に破孔を塞ごうと対応したが、徐々にその船体が傾き始め、発射直前であった魔導砲の砲弾や魔石が転倒し、誘爆。魔導戦列艦『ロプーレ』は大爆発を起こし、船体が二つに裂けて沈んでいった。
この漁船は、海上自衛隊に救助されたクシラ水軍将が、ある一冊の本を護衛艦の中で読み、発想を得たものであった。その本とは、90年代以降に発生したテロリズムについて書かれた本であった。クシラが偶然開いた頁には、自身の乗っていた旗艦『剣神』よりも遥かに大きな鋼鉄の艦船が、小型ボートの自爆攻撃を受けて大損害を受けた事件の写真が載っていた。
そう・・・、この偽装漁船は、生き残ったフェン王国水軍が自らの命を懸け、一隻でも多くのパーパルディア皇国軍を道連れにするために用意した自爆ボートだったのだ。
質素な漁船であるかのように偽装して接近し、距離が1kmを切った時点で船尾に設置した風神の涙を暴走させて急加速して特攻、大量に積み込んだ爆薬で敵艦の喫水線に大穴を開けるという作戦であった。
残った五艘の偽装漁船も、パーパルディア皇国の魔導戦列艦に向かい、特攻を開始し始めた。