中央暦1640年1月18日
第三文明圏外東方フェン王国
ニシノミヤコ
「フェン王国水軍の自爆漁船、すべてエビラが撃破しました。魔導戦列艦ロプーレ以外の被害なし。」
「ロプーレの乗組員の救助を急げ! 救助作業が完了次第、ニシノミヤコへ艦砲射撃を開始する。蛮族の侍共に皇国軍の恐ろしさを思い知らせてやれ!」
約10分後、100門級戦列艦を含む、100隻を超える魔導戦列艦の大艦隊の側面に連続した閃光が走った。強大な爆発音とともに艦隊は発生した白い砲煙に包まれ、魔導砲から一斉に砲弾が射出される。発射された大量の砲弾は、風切り音を立てながらニシノミヤコへ向けて飛翔し、着弾とともに轟音が炸裂する。
いつもであれば平和な昼過ぎであった海沿いに面したニシノミヤコの西側市街地は、艦砲射撃の爆発と発生した火災により、あっという間に地獄のような光景へと変貌しつつあった。港に急造されていた侍詰所や物見櫓などの施設も、着弾した魔導砲の爆発であっさりと倒壊し、ただの瓦礫へと化していた。
パーパルディア皇国軍の行った艦砲射撃はまさに『熾烈』であり、時代劇で見られる木造の平屋や長屋が立ち並ぶ市街地へ、雨のように魔導爆弾が容赦なく降り注ぐ。そして次々に建物を破壊し、逃げ遅れた人々諸共、すべてを燃やし尽くしていったのであった。
半時間にも及ぶ艦砲砲撃の後、総数100艘の小型揚陸船から人員にして約1000人の銃兵が上陸した。上陸後、砂浜に忍者のように潜んでいたフェン王国兵200人前後から奇襲を受け、近接戦に長けた侍衆との戦闘で約400人が死傷するというかなり大きな損害を出しつつも、約5倍の戦力差で押し切り、橋頭堡の確保に成功。
「武装して反抗する者は一人残らず殺して構わないが、非戦闘員は無駄に殺すなよ。それと日本人と思わしき者を捕えた場合、決して殺さずに所属する部隊の上官へ報告するように。」
シウス将軍から司令が下されると同時に、皇国陸軍の本軍や牽引式魔導砲、地竜『リントヴルム』など陸戦兵器の揚陸が開始され、最後に陸戦の切り札たる巨大地竜『アンギラス』がフェン王国本島へ上陸したのであった。
「シウス将軍、先程ご指示された日本人への処遇についてですが、外務局から何か要請があったのでしょうか?」
今回のフェン王国侵攻陸戦部隊の指揮官を務めるベルトラン陸将が、シウス将軍へ確認を取る。
「年始に皇都エストシラントを出港する直前、『外務局監査室』から命令書が届いてな。フェン王国で捕えた日本人で『いつものあれ』をやるつもりだろう・・・」
シウス将軍は咥えたパイプを放し、ふぅと溜息をつく。
「そういうことですか・・・。正直、気分の良いものではありませんが、蛮族共がレミール様の御慈悲を理解出来る程度には知恵があることを祈りますよ。」
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「第一侍衆の奇襲である程度の打撃を与えることに成功しましたが、兵力差を覆すことができず、パーパルディア皇国軍は、すでに西海岸から上陸を開始しています。」
「迎撃に向かわせた騎馬小隊も、敵に被害を与えることもなく全滅しています。やはり、魔導銃や陸戦用の魔導砲を有した皇国軍に対し、正面をきって戦うのは分が悪いかと・・・。」
ニシノミヤコの中央に位置する『西城』では、パーパルディア皇国軍襲来の知らせと絶望的な戦況が西城の城主ゴタンのもとへ次々と届いていた。
「ここ西城から最も近くに設置されています烽火台へ早馬を遣わしました。各地に緊急設置されています烽火台や旗振り通信などと連携すれば、本日夕刻までには首都アマノキの剣王シハン様へパーパルディア皇国軍襲来のご連絡が出来るかと思います。」
※ 熟練の旗振り士だと、大阪から広島まで30分程度で伝達できたらしいです。
「シハン様からの援軍が到着するのは、おおよそ10日後といったところか・・・。それまでは持つまいが、ここ西城を囮にし、一人でも多くの市民がアマノキのある東方向へ脱出するまでの時間を稼ぐぞ! 忍び衆は市民の避難誘導を補助しつつ、数日以内にここが落城した場合に備え、シハン様からご指示された工作を開始せよ!」
パーパルディア皇国軍の襲来を想定して建城された西城は、天然の河川と二重の空堀に囲まれた要塞であり、本丸は魔導砲の射程距離以上に離れていた。そのため、城主ゴタンは、数日程度であれば籠城戦が可能と考えていた。
「皇国軍が巨大な地竜を先頭にこちらへ向かってきています! ・・・!?」
「物見櫓どうした? 一体何が見えた?」
「緊急連絡、緊急連絡!? 上空に多数のワイバーンロードに加え、二体の巨大なカマキリやトンボ型の魔獣を確認! 日本国から情報提供のあった『ロウリア事変』や『アマノキ事変』にて使役されていたものと同種と思われます!!」
皇国軍は魔導砲による攻撃が期待できないと察したのか、空からの攻撃で西城を落とすことにしたらしい。西城からはバリスタや弓矢で必死に反撃が行われたものの、同日夕方、防衛拠点であった西城は焼け落ち、フェン王国の西部都市ニシノミヤコは陥落したのであった・・・。
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同日夕刻
フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国
皇都エストシラント 外務局
年末に第三外務局のカイオス局長らと約束した実務者協議日を数日後に控え、日本国外務省職員の朝田と篠原は、皇都エストシラントにあるホテルに滞在していた。
そんな折、第一外務局から『貴国の担当部署が変更されたことに伴い、すぐ皇宮へ来るように』という旨の命令書が届いたのだ。
「皇国の外交担当組織が変わったからといって、すぐに来るようにとは・・・。それに国同士のやり取りで命令書とは、一体どこまで常識がないのだこの国は・・・」
呆れ顔で馬車に乗り、指定された皇宮パラディス城へ向かった。途中、朝田の靴紐が切れたり、空が突然の曇天となって大雨が降り出すなど、これから起こることを暗示するかのような不吉な雰囲気に満たされていた・・・。
皇国の使者に案内された先には、ゴテゴテと豪華な装飾がされた扉があり、その中はこれまた煌びやかに装飾された応接室があった。
応接室の中には、豪勢なソファーに腰掛けた20代後半くらいの美しい銀髪の女性が座っており、入室してきた朝田と篠原を見定めるかのような鋭い眼光でカッと睨みつける。
「パーパルディア皇国、外務局監査室のレミールだ。今後は第1外務局に出向というかたちをとってカイオスに代わり、お前たち日本との外交を担当する。」
初対面にも関わらず、高圧不遜な話し方で自己紹介するレミールに対し、朝田と篠原は少し眉を顰めながら、自己紹介をする。
「日本国外務省の朝田です。こちらは篠原と申します。急な用件との事ですが、レミール様が我が国のご担当になられたことに関してでしょうか?」
頭にティアラを飾り、豪華な服を着飾ったレミールを見て、皇族かその関係者と考えた朝田は、言葉を選びながら丁寧に尋ねる。
「いや、今日はお前たちに面白いものを見せてやろうと思ってな・・・。これはルディアス皇帝陛下のご意思でもある。」
レミールが指をパチンと鳴らすと、水晶の板が貼り付けられたオルガンのような見た目の装置が応接室内に運びこまれた。
「これは、魔導通信を進化させたものだ。この音声に加え、映像も付いた魔導通信を実用化しているのは、神聖ミリシアル帝国と我が国くらいのものだ。」
自国の魔導技術力を誇るかのように、レミールがドヤ顔で説明する。レミールの意図が読めない朝田は、間の抜けた声を出す。
(魔法版のテレビ電話みたいなものか? 何を始めるつもりだ?)
「これを起動する前に、お前たちにチャンスをやろう・・・。それを読むがよい!」
先ほどデカい魔法版テレビ電話を運んできた使用人が、日本人からすると少し質の悪い紙を手渡してきた。フィルアデス大陸共通言語で『命令書』と書かれた紙には、あり得ない内容の文章が多数書かれていた。
1. 日本国の王は、皇国人とし、皇国から派遣された者を置くこと。
2. 日本国内の法を皇国が監査し、皇国が必要に応じ、改正できるものとする。
3. パーパルディア皇国の民は皇帝陛下の名において、日本国民の生殺与奪権利を有する事とする。
4. 日本国は皇国の求めに応じ、毎年指定数の奴隷を差し出すこと。
・・・etc
このように非常識で無茶苦茶な要求・・・、日本を属国以下の植民地する旨の内容が多数記載されていたのだ。
「な・、何ですか、この内容は!! 我が国を植民地にするおつもりですか!?」
朝田は拳を強く握り締め、抗議する。
「皇国の国力を知らぬ者が行う愚かな行動だな。お前たちの国は比較的皇国の近くにあるにも関わらず、皇国の国力を認識できていない・・・。当初から治外法権を認めないだの、為替を制定しろだの、まるで列強のような要求まで行う。実に不愉快だ。」
「成熟した先進国であれば、当然のことではないでしょうか?」
「何が先進国だ、ばっと出の文明圏外の国家が。身の程知らずもいいところだ!」
朝田と篠原の頭が氷のように冷めていく。昨年末に会ったカイオス局長の態度を見て、皇国にもまだ話せる人間がいると思っていたが、新たに担当となった目の前の女性はまともに話すら出来ないタイプの人間らしい・・・。
呆れ果て、言葉を失った二人の様子を見たレミールは、二人が畏怖したと勘違いし、いよいよ得意顔になって語り続ける。
「では問おう、日本人よ・・・。その命令書に従うのか、それとも国ごと滅びたいのか・・・。どちらの未来を望むか選ぶがよい!」
命令書の内容に従える訳も無いが、いきなり列強と戦争をしても良いといった指示も受けていない。朝田と篠原はあくまで皇国との関係修繕と国交交渉のために派遣されていたため、回答を先延ばしにしようとした。
「我々は、貴国と国交を開くために参上した外交担当者であり、全権特命大使ではありません、国家の未来がかかった内容のため、まずは本国に報告し、対応を検討させて頂けませんでしょうか・・・」
これを聞いたレミールは、悪魔のような邪悪な笑みを浮かべる。
「ほっほっほ、やはりそう言うと思ったぞ。皇帝陛下がおっしゃられた通り、やはり蛮族には、『教育』が必要なようだな。」
「哀れな蛮族、日本国の民たちよ。お前たちは皇帝陛下に目を付けられた。しかし、陛下は寛大なお方だ。喜べ、お前たちに更生できる余地があるのか・・・教育の余地を与えて下さった。これを見るがいい!!」
レミールが指を鳴らすと、装置が起動して水晶体に質の悪い映像が映し出される。背景からは、船の上のようにも見える。
「こちらフェン王国侵攻軍旗艦『パール』です。こちらの映像はエストシラントへ届いていますでしょうか?」
「よく見えているぞ。日本国の大使に例のものを見せてやれ。」
映像が切り替わると首を縄で繋がれ、縛り上げられた20人前後の人たちが、船から突き出した板の上に立たされた姿が映っていた。全員が身ぐるみを剥がされ、中には明らかに乱暴されたような女性の姿もあり、皆脅えて憔悴しきった顔をしている。
「先程、フェン王国にあるニシノミヤコを攻め落とした時に捕らえた者たちだ。医療関係者と言っていたらしいが、住民に紛れていたこやつらは、我が国に対する破壊活動をする恐れがあるため、スパイ容疑で拘束した。お前たちの返答次第で、こやつらを見逃してやってもよいぞ?」
「に・・・日本人!! 彼らは医療支援のためにフェン王国を訪れていた医師や看護師たちで、何の罪も無い人々だ。彼らにこのような仕打ちをするとは、人道に反する行為だ!! 即刻釈放を要求する!!!」
さすがの朝田も看過できずに抗議するが、これがレミールの逆鱗に触れてしう。
「蛮族が列強たる皇国に要求するだと!? 立場を弁えぬ愚か者めが!! そやつらを処刑しろ」
一番左の板の上にいた男性の首元に、皇国兵の振り下ろされた大剣がめり込み、噴水のように鮮血が噴き出す。皇国兵が、力なく倒れこんだ男性をゴミのように海へと蹴り落とすと、海中から巨大なエビの怪物が出現し、それを貪り喰った。
皇国兵はまるでライン作業のように次々と処刑し、海へと突き落としていく。
「や、やめろぉ!! 今すぐやめさせるんだ!! お前たちは、自分が何をしているのか解っているのかっ!!」
「レミール様に近寄るな! 愚かな蛮族めが!!」
レミールに詰め寄ろうとする朝田であったが、屈強な近衛兵に蹴り飛ばされ、近くに置かれていた家具に勢いよくぶつかる。
「こ、これが列強国のすることなのか!? 同じ列強国のムー連邦からは、この世界でも『医療への攻撃』は人道に反する恥ずべき行為だと伺っているぞ!!」
蹴り飛ばされた朝田を介抱する篠原が、怒りの籠った声で叫ぶ。
「何を言い出すかと思えば・・・。第三文明圏は、唯一の列強国である我が国を中心に回っている。その皇族である自分の決定が、ここでは最も遵守されるべき法のようなものだ。第二文明圏で取り決められたことなど、ここでは通用しない。」
ふふんと鼻で笑うような態度をとるレミールに対し、朝田と篠原は怒りに震えていた。
「蛮族蛮族と偉そうにしているがな、お前たちこそ、我が国の国力を見抜けない。見ようともせず、盲目的に目を瞑る本当の愚か者だ!!」
ついに最後の一人が処刑され、全員が巨大なエビの魔獣の餌とされた。
「そんな大口を叩けるのも、いつまでかな? ニシノミヤコには20人程度の日本人たちがいたが、フェン王国の首都アマノキには、いったい何人の日本人がスパイ容疑にかけられるのだろうな?」
レミールはソファーでふんぞり返ったまま、いやらしい笑みを浮かべる。
「皇国軍を止めることの出来ない自分たちの国力の無さを痛感し、アマノキが落ちるまでに、我が国の要求を飲むか飲まないかを決めよ・・・。もし要求を断った場合、自国がフェン王国のように消滅の危機に晒されている状況を学ぶがよい。」
「日本の本国にいる民たちを、このような目に遭わせたくはなかろう。」
さらに水晶体の画面が切り替わり、今度は数百人のフェン王国人が、魔導銃や剣で処刑され、巨大カマキリやトンボ型の魔獣の餌にされている画像が流されたのであった・・・。
レミール「では問おう、どうする?」
日本「二度と再起できないレベルまでボコボコのギタギタにします!」