中央暦1640年1月18日
フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国
皇都エストシラント 外務局
背景が船上から陸上へと切り替わった装置の水晶体には、数百人のフェン王国人が、皇国兵に魔導銃や剣で処刑され、巨大カマキリやトンボ型の魔獣の餌にされている・・・まさにこの世の地獄とも表現できる映像が流され始めていた。
「に、日本人だけに飽き足らず、こんなにも大勢のフェン王国の人たちまで・・・。お前たちは、一体何のためにこんな大虐殺をするのだ!?」
同じ人間のすることとは思えないような悪逆非道な行いに、朝田と篠原は鬼のような形相でレミールに怒鳴る。あまりの怒りに、拳を握りしめた二人の掌からは、爪が食い込んで血が流れていた。
「なんのためかだと・・・。列強である我が国が再三再四にわたり、何度も要求した命令書をフェン王国は文明圏外国家の分際で拒否し続けている。言ってわからぬ蛮族には、こうやって厳しく躾けてやるほかなかろう。」
レミールは装飾の施された豪華なソファーに身を任せたまま、水晶体に映る地獄絵図を横目で見ながら優雅に紅茶を飲む。
「それに奴らは漁船を装った騙し討ちを仕掛け、我が皇国の艦船一隻に大きな被害を出した。この中にも、このような卑劣な破壊活動をする愚か者がいるやもしれぬ。『疑わしきは罰せよ』、それが私のやり方だ。」
「早いうちにこの命令書に従うのであれば、日本人の犠牲者は先程の20人程度で済む・・・。自国の民のことを考え、フェン王国のようになりたくないのであれば、身の振り方をよく考えるのだな、話は以上だ。」
レミールは涼しい顔をしたまま、持論を語り終えた。
「私は日本国を代表する立場ではないが、これだけは言わせて貰う・・。」
怒りに震える声を絞り出し、朝田が立ち上がる。
「特殊生物を生物兵器として使用し、罪のない大勢の人たちを一方的に大虐殺する野蛮な貴国は・・・、パーパルディア皇国は『日本国政府だけでなく、日本人や日本に住む全員』の怒りを買うことになるだろう。」
「今回の行為に関して、日本国は、決して見てみぬふりはしない。十中八九、貴国は『ムウ帝国』につづき、二例目の『特テ国』に指定されるだろう。またこの蛮行の主犯者には、必ず裁きと償いを受けて貰う。」
意味を理解出来ずに首を傾げるレミールを、朝田は眼鏡越しに睨みつける。こうしてこの世界に国家転移して以来、最悪の結末を招いた日パ会談は終了した・・・。
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中央暦1640年1月19日
第三文明圏の東 大東洋
日本国 首都東京
「間もなく麻生首相の記者会見が開かれます」
日本と国交を締結し、日本国内に大使館を設置した各国の大使は、大使館内に設置された薄型テレビの画面を食い入るように見つめる。
フェン王国に侵攻したパーパルディア皇国が、日本人の医療ボランティアに加え、ニシノミヤコの住民数百人を大虐殺した蛮行は、日本国民だけではなく、日本と国交を有するすべての国にも知れ渡った。
ただの虐殺ではない、虐殺した上に生物兵器として使役している特殊生物の餌にするというあまりに凄惨な行為に、日本国内の世論は激しく沸騰していた。
麻生首相がスーツ姿で現れると、記者たちが構えたカメラから無数のシャッター音が鳴り、フラッシュがたかれる。
麻生首相の顔は、かつてGフォース司令官を務め、二代目ゴジラが毎年のように大暴れしていた90年初頭の頃以上に険しく、笑顔など微塵もない。
「皆さんご存知の通り、昨日18日、フェン王国西部の町ニシノミヤコがパーパルディア皇国の侵攻により陥落しました。ここにおいて、医療支援ボランティアのために滞在していました何の罪もない日本人が捕らえられました。」
「彼らは医療関係者であり、すぐに釈放するように外務省からパーパルディア皇国へ要求しました。しかし、彼らは・・・信じられないことに、捕えた日本人を虐殺しました。それだけに飽き足らず、その遺体を生物兵器として使役している特殊生物の餌にするという、同じ人間のすることとは思えないような非道極まりない行為を行いました。」
「日本人だけではありません、ニシノミヤコの住民数百人も同じように大虐殺され、餌とされました。・・・私たちは、この蛮行に目を瞑ってはいけません。今回の虐殺の実行者、及び首謀者には、必ずこの大罪を償ってもらいます。地の果てに逃げようとも追い詰め、絶対に逃がしはしません!」
演説する麻生首相の声に力が入る。
「またこのままパーパルディア皇国軍を放置すれば、数日後にはフェン王国の首都アマノキへも到達し、その凶刃はいずれ日本本土や他の文明圏外国家へと至ることでしょう。・・・。日本国政府は日本を、日本人の命を守るという事に責任があります。そして、我が国の同盟国であるフェン王国も平和、ひいてはこの第三文明圏の安定に寄与する社会的役割も担っています!」
「我が国は平和を愛する国であり、平和的な問題解決を目指していました。しかし他国民の奴隷化を要求し、何の罪もない人々を一方的に虐殺するような無法者に対しては、断固とした態度で対応し、自衛のために彼らを追い払わなければなりません!!」
「我が国と同盟国たるフェン王国は、両国民を守るためにお互い協力しあい、侵略者をフェン王国から撃退することで合意致しました。私は首相の命令として、自衛隊に対し、あらゆる措置をとるよう指示致しました。」
麻生首相に続いて、Gフォース現司令官の結城晃が演壇に立つ。彼は1995年の『スペースゴジラ事変』において MOGERA 隊の指揮官を務め、同事変の福岡決戦時には自ら『MOGERA』に搭乗し、スペースゴジラの撃退に貢献したパイロットでもあった。
麻生孝昭がデストロイア事変後にGフォース司令官を引退し、その後を引き継いだ兵藤巌副司令官とともに、今日までGフォースを支えてきた中心人物の一人である。
「Gフォース司令官の結城です。今回の『ニシノミヤコ事変』で使用された巨大エビや巨大地竜、さらに昨年の『ロウリア事変』における巨大カマキリなど、パーパルディア皇国は多種多様な特殊生物を生物兵器として使役しており、Gフォースとしては、かつての『ムウ帝国』を超える超危険国家と判断しました。」
「本件を踏まえ、パーパルディア皇国を史上二例目の特テ国、『特殊生物を用いたテロ主導国家』と認定する方向で日本国政府と協議を進めています。認定後には、Gフォースは自衛隊と協力し、彼らの使役する特殊生物殲滅のために超兵器群を実戦投入致します。」
パシャパシャパシャとシャッター音がひっきりなしに鳴り響く。様々な質問が行われ、首相会見は終了した。
※ 特テ国(特殊生物を用いたテロ主導国家)
1963年の『ムウ事変』において、巨大な海竜の特殊生物『マンダ』を使役し、全世界に大きな被害を与えた『ムウ帝国』に対し、国連で最初に指定された。
特殊生物を自国の利益やテロ目的で使役するような行為を国家が主導しており、超危険国家として判断された場合に指定・明確化される。
『特テ国』に指定されると、『対特殊生物に関する相互協力条約』を締結した全国家から『敵性国家』として認定され、特殊生物駆除のために『Gフォース』戦力が出撃することさえある。
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中央暦1640年1月21日
第三文明圏の東 大東洋
日本国 沖縄県
沖縄県に設置された巨大な超電導レール、在日米軍やGフォースと共同利用しているマスドライバー『カグヤ』の施設内にある制御室には、自衛隊関係者や特殊研究本部の科学者やエンジニアたちが、発射のときを固唾を飲みながら見守っていた。
その中には、メカキングギドラの両翼に搭載された反重力浮揚システムを解析し、重力制御技術や重力子兵器『侵蝕弾頭』の開発に貢献した吉沢佳乃や工藤元の姿もあった。
すでにカウントダウンが開始されており、莫大なローレンツ力を生み出す超電導レールへ大電流が流されようとしている。その発射台に鎮座する人工衛星の側面には、次元の潮流を意味する『Dimension Tide』というアルファベットが記載されていた。
この日、日本国とその友好国にとっては最後の切り札である守護星が、敵対国家にとってはありとあらゆるものを文字通り『消滅』させる死の星が、空高く打ち上げられていったのであった。