中央暦1640年1月22日
フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国
皇都エストシラント 第一外務局
『秋の空は七度半変わる』という表現がある。日本列島の上空を流れる偏西風の影響により、低気圧や高気圧が日本付近を通過していくことが多くなる。それゆえ、秋の天気が変わりやすくなるということを例えたものだ。
これが転じて、人の心の変化や気まぐれさを指すことわざとしても使われることがある。この日、虐殺皇女こと皇族レミールの心情の変化は、まさにこれで表現されるものであった。
午前中には、最愛の相手にして敬愛するルディアス皇帝との雑談に花を咲かせ、彼の前時代的で独裁的な考えに心酔し、感動して目に涙を浮かべる。
かと思えば、日本国からの急遽会談の申し入れに怪訝な顔をし、不服そうな顔を覗かせる。数秒後には、会談後もフリーというルディアス皇帝の言葉に、満面の笑みを浮かべながら会談に向かうという変わりっぷりであった。
日本国外務省職員の朝田と篠原は、第一外務局の会議室でレミールの到着を待っていた。両者とも目は氷水のように冷たく、一切の感情を見せない完全な無表情であった。
「急な来訪だな。まあ、国の存続がかかっているのだ。アポ無しではあるが、国の存続がかかっている者たちだ。皇国は寛大だ、今回は許して使わそう。」
二人の様子を見たレミールは上機嫌で席へ着く。
「事前連絡なしに訪問したことについて、まずはお詫び致します。日本国政府の意向が決定しましたので、ご相談に参りました。ではまずあなた方、パーパルディア皇国のために、こちらを提案を致します。」
1. フェン王国に展開するすべての軍の即時撤退。
2. 公式な謝罪と賠償
3. 虐殺に関与した者の身柄を一人残らず日本へ引き渡すこと
etc
「!? 何だ、この内容は!!」
二人が本国から先日の要求書を受け入れ、従属するように指示されて来たと思っていたレミールは、驚きと怒りの声をあげる。パーパルディア皇国に全面降伏するのかと思いきや、まさかの謝罪要求であった。
「上記が確約されなければ、日本国は実力でフェン王国から皇軍を排除致します。無論、それだけでは終わりません。犯罪者には貴女も当然入っており、ルディアス皇帝も虐殺の嫌疑がかけられている重要参考人ですので、一人残らず身柄を引き渡して頂きます。」
「・・・皇帝陛下の御慈悲が解らぬとは、やはり未開の猿共だな。そんなに自国を滅し、民を不幸にしたいのか?」
呆れたような顔をするレミールに対し、朝田は表情を変えずに淡々と話し続ける。
「いえ、我々は平和を愛する国です。しかし、何の罪なき人々を一方的に大虐殺し、平和を脅かす危険な犯罪者に対しては、断固とした対応を取っているだけです。」
レミールは苛立ちを露わにし始め、歯を見せるように顔を歪める。
「まあ良い、お前たちにはまだ教育が必要なようだな。アマノキを落とした後、そこにいる日本人も一人残らず殺処分してやる。そこで、止められない自らの力を思い知る事になるだろう。皇帝陛下がその気になれば殲滅戦となり、すべての国民が殺処分される運命になりうることを理解しろ。」
「では、私どもも通告します。日本国は、フェン王国を侵略するパーパルディア皇国軍に対し、全力で実力行使して排除致します。その後に、再度会談を致しましょう。その頃には、貴国が『特テ国』に指定された旨もお伝えすることになるでしょう・・・。」
「最後に一点、日本国に降伏する場合は、白い無地の旗を振って下さい。」
朝田と篠原は席を立つ。
「栄えある皇国軍に降伏しろだと・・・!? 愚か者が! 貴様らこそ、命乞いの準備でもしておけ!!」
会談は日本が攻撃の意思を明確に示し、終了した。言うまでもなく、朝田と篠原が通告した降伏方法は、侵攻軍へは一切連絡されず、レミールの掌で握り潰されることとなったのであった。
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中央暦1640年1月23日
第三文明圏の東 大東洋
日本国 防衛省
統合幕僚監部が設置されている防衛省庁舎の大会議室では、特殊戦略作戦室の黒木特佐をはじめとした自衛隊幹部が麻生首相に対し、フェン王国に侵攻したパーパルディア皇国軍の攻略について作戦概要を説明していた。
ちなみにこの会議は、フェン王国の日本国大使館にもリモート中継されたウェブ会議形式をとっており、剣王シハンや側近のモトムなど、フェン王国の関係者も招待されていた。
「パーパルディア皇国軍は当初、フェン王国西部の町『ニシノミヤコ』を落とした勢いのまま、近隣の村々へも侵攻しようとしていたようです。しかし、フェン王国の忍び衆によって、住民の避難後に家屋や田畑をすべて焼き払われ、大小の河川に架かる橋もすべて破壊されました。この焦土作戦を敢行されたことで、物資や食料の現地調達が出来ず、侵攻速度も大幅に低下しているようです。」
「しかし陥落させたニシノミヤコを拠点化し、再出撃の体制を整えつつあるようですので、一刻の猶予も許されない状態は変わりません。」
スクリーンには、人口衛星で撮影された精巧な地図が表示されており、自衛隊幹部がレーザーポインターを使って状況を説明する。
「パーパルディア皇国軍の海上戦力ですが、砲艦と呼ばれる魔法版の大砲を搭載した戦列艦が約200隻、ワイバーンを海上で運用するための空母のような艦『竜母』が約20隻、他に陸上戦力を運ぶ揚陸艦が約100隻、計300隻を超えるの大艦隊がニシノミヤコ沖合いに展開しています。さらにルミエス王女の祖国『アルタラス王国』侵攻時に使用されたのと同種と思われる巨大なエビ型特殊生物1体が確認されています。」
「次に航空戦力ですが、強化型ワイバーンとされるワイバーンロードが約300騎に加え、『アマノキ事変』にて確認されたトンボ型特殊生物が約100匹ほど確認されています。」
「陸上戦力ですが、歩兵や砲兵などを含めた約1万人、ワイバーン以外の特殊生物としては、地竜と呼ばれる小型の竜が32体、『ロウリア事変』で使役された巨大カマキリが2体、そして『巨大地竜』が1体確認されています。先程のトンボ型特殊生物やワイバーンロードの一部は、これら陸上部隊とともに行動しているようです。おそらく陸と海から首都アマノキを包囲し、一気に攻め込むつもりと思われます。」
昨年秋にアルタラス王国を侵攻したときを上回る圧倒的な軍勢に、会議に参加している全員が息を呑む。
「敵海上戦力への対応については、第1護衛隊群だけで十分かと思われます。しかし、マンダのように水中戦を得意としている巨大エビ型特殊生物への対策として、ごうてん型対特殊生物戦闘護衛艦の2番艦『しんてん』と『スーパーX2改』、さらに撃退後のニシノミヤコ奪還作戦向けに潜水母艦形態の『はくげい』を派遣致します。」
「敵陸上戦力への対応については、陸上メーサー群や通常陸上兵器群に加え、『スーパーXⅢ改』を投入します。奴らをゴトク平野に展開しました『M8500TCS』フィールドへと誘い込み、これらの火力を結集して一気に殲滅します。」
ここで騎士長マグレブが、挙手して質問する。
「すみません、ゴトク平野にて皇国陸軍を迎撃する旨は理解しましたが、『M8500TCS』とは何でしょうか? 数日前、ゴトク平野に実験向けの科学設備が搬入されたと伺っていますが・・・」
「はい、マグレブさんからご質問頂きました『M8500TCS』ですが、先日貴国へ搬入させて頂きました『科学実験設備』のことで間違いありません。こちらの機器ですが、正式名称は『マイクロウェーブ8500サンダーコントロールシステム』といいます。人工的に生成させた雷雲から、地上に固定した電位差発生装置に向け、人為的な落雷を発生させる装置になります。」
黒木特佐の説明と共に、1989年の『ビオランテ事変』において、若狭湾近辺で敢行された『サンダービーム作戦』の記録映像が参考に流される。このときは初期型である『M6000TCS』が投入され、二代目ゴジラの体温を上昇させ、その体内に撃ち込まれた抗核エネルギーバクテリア (ANEB) を活性化させる目的で使用された。
「落雷による攻撃に加え、ソニックビームシステム車と呼ばれる専用の特殊車両を用い、周辺に特殊な磁場を展開することで、フィールド一帯に莫大なマイクロ波加熱を生じさせます。このとき放射される凄まじい熱量は、雷撃と合わせ、戦車と呼ばれる鋼鉄製の戦闘車両を容易に溶かすほどです。」
皇国の人造魔獣を遥かに凌駕する超強大な特殊生物・・・、『二代目ゴジラ』に対して人工の雷撃が雨のように降り注ぐ映像に、剣王シハンや側近たちは「おぉ!」と驚嘆した声を出しながら凝視していた。
これらのシステム全体を一言で説明すれば、雷撃による攻撃能力を有した超巨大な電子レンジともいうべきものである。
人間やワイバーンをはじめとした生物において、身体の大部分は水分と熱に弱いタンパク質で構成されている。そのため、通常のメーサー兵器群とは文字通り桁違いの・・・、二代目ゴジラにさせ有効であったほどの絶大なマイクロ波加熱を喰らえば、どういった恐ろしいことになるのか・・・は、もはや語るまでもないだろう・・・。
「敵陸上戦力、海上戦力の主力を消滅させた後は、フェン王国を支援してニシノミヤコ奪還作戦へと移行します。市街地戦闘がメインとなるため、『魔王事変』において有用性が確認された『BJJ』(バトル・ジェットジャガー)100体を投入します。駐留している皇国軍を一気に撃滅し、虜囚にされている住民たちを解放します。」
黒木特佐が説明を終えて下がると同時に、統合幕僚長が発言し始める。
「昨年末の『魔王事変』において、トーパ王国の魔導士集団『王宮戦闘魔導隊』が集団で儀式のようなものを行い、暴風雨や雷撃の大魔法を発生させ、魔王の操る巨大ゴーレムを攻撃したことが報告されています。」
「そのため今回の作戦では、『白旗を掲げて降伏』した兵を除き、パーパルディア皇国兵の殺傷制限はすべて解除します。それ以外の意志表示をした場合は、すべて『攻撃の合図、または攻撃魔法のための儀式』と見做し、直ちに攻撃して殲滅します。」
この会議が実施された数日後、パーパルディア皇国侵攻軍を撃滅するために編成された陸海空自衛隊の大部隊が、フェン王国へと派遣されたのであった。