東宝世界線の日本国召喚   作:T1001

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073. 皇国の焦り

 

中央暦1640年1月23日

第三文明圏の東 大東洋 

日本国 首都東京 東京拘置所

 

 

後の歴史書において、『日本国に初めて入国したこの世界の住民』として記載されているのは、昨年2月にクワ・トイネ公国の使節団として日本国へ派遣されたハンキ将軍たちである。

 

では、嘗て第三文明圏唯一の列強国として恐れられた『パーパルディア皇国』の皇国民と限定した場合だと、一体誰になるだろうか。答えは、特A級竜騎士のレクマイアである。

 

彼は自身の所属していた皇国監察軍東洋艦隊が懲罰と称し、フェン王国の軍祭を襲撃した『アマノキ事変』において、親善派遣されていた日本国の艦隊からの反撃を受けて壊滅した竜騎士隊唯一の生き残りであった。

 

彼は日本国の首都・東京にある東京拘置所に10月初旬から収監されており、日本語と第三文明圏共通言語の辞書を片手に、新聞を読むのが日課となっていた。

 

そんな日々を過ごしながら年を越した1月上旬、日本国の外務局職員らしい男との面会があり、皇国との外交コンタクトを開始した旨を聞かされた。ある程度、皇国側との話し合いが進展したタイミングで、自分を含めた皇国人の処遇についての協議も始めるからもう暫く待って欲しいとのことであった。

 

自分以外に収容された皇国人がいるのか・・・と驚いたが、なんでも12月下旬に不法入国をしようとした者がいたらしい。どこぞの商会に所属する商人あたりが身分詐称でもして、第三国経由で入国しようとしたのだろうとそのときは全く気にも留めていなかった。

 

それよりも、あのプライドの塊のような祖国が、自国の監察軍を文明圏外国に撃破されたにも関わらず、まともな交渉を始められたなと意外に思っていた。もしかすると、上官であった東洋艦隊司令のポクトアール提督が第三外務局のカイオス局長に上申し、日本国のことをきちんと調べたのかもしれないな・・・とほっと胸を撫でおろした。

 

その数日後、いつものように朝食を食べ終えて新聞を読み始めたレクマイアであったが、先日の安心感を木っ端微塵に粉砕するような見出しの記事が目に飛び込んできた。

 

『パーパルディア皇国、日本人医療団とフェン王国住民を大虐殺!!』

 

日本国政府は『この蛮行を絶対に許すことはできない』と、フェン王国へ自衛隊を派遣することを決定。さらに、パーパルディア皇国を『ムウ帝国』に次ぐ史上二例目となる『特テ国』へ指定する方向で国連G対策センターと協議を進行中。

 

見出しの記事を読み進めるにつれ、徐々に彼の指先は汗に濡れ、やがて脂汗は全身へと広がり、新聞と辞書を持つ手はカタカタと震え始めた。

 

「ま、まさか、これはレミール様がやってしまったのか・・・」

 

レクマイアの顔が絶望に染まる。現地民を殺処分し、その遺体を魔獣たちの餌にするこのやり方は、十中八九、『外務局監査室』の『虐殺皇女』の仕業であることが容易に想像出来た。

 

『虐殺皇女』こと『皇女レミール』はパーパルディア皇国のトップ層である皇族の一員、それも現皇帝ルディアスの妃最有力候補とされている。そのため、その独善的な性格も相まって、外務局長クラスの地位であったとしても迂闊に上申することすら出来ないような相手であった。

 

おそらく第三外務局で進めていた日本国に対する方針に異議を唱え、外交担当権を剥奪したのと同時に、いつもの脅迫外交の手段を取ったのだろう・・・。

 

新聞の記事を読む限り、ロウリア事変やアマノキ事変のときとは比べ物にならないレベルに日本国が怒り心頭であることがヒシヒシと伝わってくる。もはや、日本国との戦争は避けられないだろう・・・。

 

「皇国は・・・勝てるだろうか?・・・」

 

日本国の国力は、レクマイア自身、この数か月の生活で嫌というほど身に染みている。アンギラスをはじめとした最新の人造魔獣が配備されているとはいえ、相手はワイバーンロード以上の俊敏性や飛翔性をもったメガニューラを大砲で撃墜するような兵器を有した日本国である。

 

少なくともフェン王国に派遣された部隊は、完膚なきまでに叩き潰されるだろう。その時点で祖国が誤りに気付いてくれれば良いが、万が一、レミール皇女が文明圏外国に敗北したことに逆上し、全面戦争などを宣言しようものなら・・・。

 

レクマイアは祖国の未来を憂い、その日の昼食は殆ど喉を通らなかったのであった。

 

 

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中央暦1640年1月25日

フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国

皇都エストシラント 外務局

 

 

レクマイアを絶望へと追い込んだ張本人であるレミールは、第一外務の執務室で書記に作成させて報告書に目を通していた。

 

「愚かな蛮族が・・・破滅へと向かって突き進むか。」

 

神の視点をもつ読書諸君からすると、某野党なみの特大ブーメランに感じられる独り言を呟いたレミールに対し、横で同席していたエルトも同意した発言を行う。

 

「仰られる通りです、日本国は滅亡の危機に晒されているということが、まったく理解出来ていないようですね。そういえは、降伏の仕方はお伝えされなかったのですか?」

 

「皇国を侮辱した罪でアマノキにいる連中共々、殺処分してやることにした。これで多少は自分たちが犯した過ちに気付くだろう。」

 

レミールはソファーにふんぞり返ったまま答える。皇国は数多の国を滅ぼし、併合してきた。フェン王国と日本国もその一部となるだろう・・・。

 

両国への哀れみを感じ始めたエルトであったが、決裁書類をもって入室してきたハンスの報告を聞き、雷に打たれたような衝撃を受ける。

 

「ムー連邦は皇国ではなく、日本国に観戦武官を派遣したことが判明しました・・・」

 

執務室にいた全員が、凍り付いたかのように固まった。

 

 

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中央暦1640年1月26日

フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国

皇都エストシラント ムー連邦大使館

 

 

レミールとエルトの命令を受けた第一外務局の職員ニソールは、エストシラントの大使館街の一角に設置されたムー連邦の大使館を訪問していた。その目的とは、今回のフェン王国で勃発することが予想されている日本国との戦闘において、『ムー連邦が日本国に観戦武官を派遣したこと』について、ムー連邦大使に確認を取るためである。

 

ムー連邦には『情報分析課』という諜報機関が存在し、その非常に高精度な分析能力から、『勝率が高い国』へ観戦武官を派遣するとことで有名であった。そのため、『ムー連邦の観戦武官が派遣された時点で勝敗が決している』とまで、囁かれているほどであった。

 

従って今回の場合だと、『日本国に観戦武官が派遣された』イコール『ムー連邦は日本国が勝つと判断した』という等式が成り立ってしまうのだ。

 

「急な会談要請とは、一体どうされました?」

 

ムー連邦のパーパルディア皇国駐在大使『ムーゲ』が入室し、応接室で待っていたニソールへ声をかける。

 

「ご対応いただき、感謝申し上げます。早速本題ですが、現在、我がパーパルディア皇国とフェン王国が戦争状態にある事はご存知と思います。」

 

「はい、存じております。しかも皇国はニシノミヤコを占領した際、フェン王国民だけではなく、医療活動のために滞在していた日本人たちも国家の意思をもって殺害した、と聞き及んでいます。今回の戦いは日本国を巻き込んだ熾烈なものになることが予想されるため、我が国も非常に関心をもって注視しております。」

 

「では、日本国側に観戦武官を派遣したというのは、本当でしょうか? もしそうならその真意をお伺いしたいのですが・・・」

 

「確かに我がムー連邦は、日本国へ観戦武官を派遣しました。理由については私は軍人ではありませんので、詳しいことは分かりかねます。しかし、我が国の軍部や情報局の人間が分析を行い、協議した結果、日本国へ派遣するのが相当と判断したと伺っています。」

 

ムーゲ大使は特に隠す様子もなく、二ソールにあっさりと説明する。

 

「日本側に派遣したということは、まさかムー連邦は、我が皇国が日本国との戦いに敗北すると分析しての事でしょうか?」

 

ニソールは我慢できず、核心をつくことを尋ねた。

 

「申し訳ありませんが、その事に関しては保秘命が出ています。私の口からお伝えすることは出来ません。ですが、ムー連邦は貴国に敵対する意志はない、ということだけはご理解下さい。」

 

残念ながら派遣の根拠を聞き出すことは出来なかったが、皇国よりも上位列強であるムー連邦が敵対するつもりでないことを聞き出せ、二ソールは内心ほっとしていた。

 

「ではこちらからも、貴国にお尋ねさせて頂いてよろしいでしょうか。今回、彼らが医療従事者であることが伝えられたにも関わらず、皇国は聞く耳すら持たずに虐殺したと日本国大使から伺っています。しかも前回の『先進11ヵ国会議』において、我が国が提唱した『医療への攻撃禁止』を否定するかのような発言までされたとか・・・。それは事実でしょうか?」

 

ほっとしたのも束の間、二ソールは胃を握り潰されそうなプレッシャーに襲われる。ムーゲの顔は、明らかに蛮族を見下したかのような冷めた目になっていた。

 

「すみません、私はそのときの担当ではないため、即答はしかねます・・・。当時の議事録を確認し、後日に回答をさせて下さい。」

 

「わかりました、あともう1つお話させて下さい。私は貴国に駐在して長く、妻も皇国人です。外務局には友人もいます。ここからの発言は、私の個人的な見解としてお聞き下さい。」

 

「貴国は『日本という国を分析し、勝てるという結論に至った』からこそ、日本国の逆鱗に触れる、いや叩き割るかのような行為に出たと私は考えています。しかし我が国が分析した結果、いえ私個人の考えとしても、ムー連邦は日本国に敵対できるほどの国力を持ち合わせてはおりません。」

 

「何度も申し上げるように、これはムー連邦としての正式な意思ではなく、私の私的な意見です。大変厳しい戦いになると思いますが、私は貴国の勇気に敬意を払いたいと思います。それでは・・・」

 

ニソールの背中から冷や汗が吹き出る。ムーゲのこの発言を最後に、ムーパ会談は終了した。彼は急ぎ足で外務局へ戻り、緊急調査報告書の作成にとりかかり始めた。

 

その翌朝、地獄の釜の蓋がついに開いたのであった。

 

 

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