中央暦1640年1月27日
第三文明圏外東方 フェン王国
首都アマノキ西 ゴトク平野
「ベルトラン陸将・・・、そろそろ竜騎士隊、メガニューラ隊、そしてカマキラスがゴトク平野の東側付近へと到達し、敵部隊と会敵する頃かと思われます・・・。」
「また豪雨によるぬかるみに足をとられ、アンギラスの進撃がやや遅れています・・・。アンギラスが到着するまでは、地竜隊の魔導砲で後方支援の砲撃に徹した方がよいかと・・・」
陸戦参謀のヨウシが、ボソボソとした声で上申する。豪雨のなか、大空へと飛び去って行った飛行部隊に続き、陸戦部隊の本体もゴトク平野の中央部へと到達しつつあった。
ワイバーンロードや人造魔獣部隊の上空からの強烈な攻撃で敵部隊に致命傷を与え、追い打ちで牽引式魔導砲による後方支援砲撃で壊滅へと追い込む。要塞や出城などに立て籠もって防御している相手には、鉄壁の防御力を誇るアンギラスを単騎突入させて、内部から陥落させる・・・。
味方の被害は最小に抑えつつ、敵には致命的な最大の被害を与える。パーパルディア皇国軍の誇る魔導兵器や人造魔獣、そしてそれを効果的に運用する戦術は、ここ百年における侵略戦争で洗練されており、第三文明圏において最強であることは疑いようのない事実であった。
「今回も・・・皇国が勝つ! リントヴルムを横一列に布陣させて面制圧砲撃の準備を急げ! 敵部隊の突撃に備えろ!!」
ベルトラン陸将は気合を入れ直し、各部隊に指示を出す。地竜リントヴルムや歩兵部隊が陣形を整え始めたタイミングで、ゴトク平野の上空に異変が起こる。
ゴロゴロ・・・バリバリッ! ドカーン!!
目の前が眩いばかりの強烈な閃光に包まれる。間髪を置かずに、空を真っ二つに裂いたかと思われるような轟音が響き、全身を硬直させるような地響きが伝わってくる。竜騎士隊が飛行していたであろうエリアに、雷が落ちたのだ。
一つや二つ程度であれば、自然現象として説明がつくだろう。だが、ゴトク平野上空の暗雲からは、雷神が罪人に裁きを下しているかのように、連続して落雷が降り注いでいる。落雷だけではない、雷撃に加勢するかのように青白い閃光がゴトク平野の東の方角から次々に照射され、豪雨の空を色煌びやかにに染めていく。
遠目からでも、「出撃すれば容易く数国を滅ぼす」とまで評されたワイバーンロードと竜騎士たちが・・・、ワイバーンロードよりも優れた飛翔能力をもったメガニューラが、縁日の的当てのように雷撃と青白い閃光に焼き尽くされ、枯れ葉のように落ちてゆく。
一匹たりとも逃がさないつもりなのか、ゴトク平野中央部の上空から離脱しようとしていたカマキラス二匹に対しても、落雷と青白い閃光が直撃した。
数万アンペアにも及ぶ雷撃の大電流が、全身の筋組織を破壊して運動機能を奪い、陸上メーサー部隊の放ったメーサー照射が羽根と外骨格を焼き尽くし、カマキラスたちは陸戦部隊本体のすぐ前方の地面へと落下する。
第三文明圏において最強の存在であった筈の飛行部隊が無様に落下していく様子を見せつけられ、不祥事が発覚した会社の株価のごとく、陸戦部隊の士気はストップ安まで下がり続けている。
「ええい、落ち着け! 我々にはまだリントヴルムや魔導砲、そしてアンギラスも残っている! この程度のことで怯む腑抜けは偉大なる皇国軍にいないはずぞ!!!」
ベルトラン陸将は兵士たちを激励して士気の立て直しを図るが、皇国陸戦部隊にとっての悪夢は始まったばかりである・・・。
「ベルトラン陸将!! 何かがこちらに向かってきます!!!」
最前列に布陣した銃兵隊に所属する兵の一人が叫ぶ。激しい雨が降り続けるなか、東の方角から、奇妙な物体が複数体こちらへ近づいてきていた。車輪とは異なる方法で走行してきたそれらは、中央に装備された一本の細長い筒をこちらへ向けている。
またかなり見え辛いが、その後方から、さらに巨大な軍勢がゆっくりと接近してきているのが見えた。全体像はよくわからないが、最前列にいる物体のような細長い筒ではなく、植物の蕾のようなかたちをした白く輝く金属鏡が搭載されていた。
「なんだあれは? 生物・・・ではなさそうだが、ムー連邦の自動車とかいう機械式荷車とも似通っていないな・・・。」
ベルトラン陸将やヨウシ陸戦参謀は、それらの正体を理解できていなかったが、敵、おそらく日本国の兵器であると予想し、牽引式魔導砲の発射準備を指示する。
その直後、ゴトク平野に空気を切り裂くような鋭い発射音がこだました。落雷の直撃をを複数回も受けたことで全身が麻痺し、地面で動けなくなっているカマキラスたちに向け、『90式戦車』中隊が砲撃を開始したのだ。
120mm滑腔砲から発射された装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)は、カマキラスの外骨格をあっさりと貫き、体内の内臓や骨を衝撃波でぐちゃぐちゃに破壊する。追撃するかのように、その後方からメーサー中隊がメーサー砲を照射し、カマキラスの全身を焼き尽くしていく。
「あの怪物どもに向けて牽引式魔導砲を撃て! このままではカマキラスたちがやられてしまうぞ!!」
ベルトラン陸将から命令が下され、魔導砲を牽引するリントヴルム隊が前進する。しかしカマキラスはすでに事切れる、または文字通り虫の息となっており、とどめをメーサー部隊に任せて目標を変更した90式戦車中隊は、リントヴルムに向けて手痛い先制攻撃をお見舞する。
硬い外骨格をもったカマキラスでさえ防げない徹甲弾の直撃を耐えられる筈もなく、地竜リントヴルムは次々に頭部から尻尾まで通じる風穴を開けられ、断末魔の叫び声を上げながら即死する。さらにリントヴルムを貫通させた徹甲弾は、背後で牽引されていた魔導砲や砲兵たちを巻き込んで着弾し、周辺は地獄絵図と化す。
「な、なんて威力の魔導砲だ! 一番近い敵に集中砲火を加え、ただちに撃滅せよ!!」
ベルトラン陸将が指示を出すが、豪雨の影響で魔石が湿気てしまい、発火プロセスがうまく作動しないのか、いつも以上に発射準備に手間取っている。その間にも、90式戦車中隊からの砲撃は続いており、無事なリントヴルムや牽引式魔導砲はみるみる減っていく。
「ア、アンギラスはまだか!! 飛行部隊に続き、このままではリントヴルム隊までもが全滅するぞ!!!」
「リントヴルム隊、全個体死亡! 牽引式魔導砲もすべて破壊されました!!」
航空部隊も地竜部隊も、手も足も出ずに全滅し、皇国兵たちは既に戦意を喪失していた。数時間前までの威勢はどこへやら、圧倒的に劣勢な状況をみて、さらに動揺が広がった歩兵部隊の中には、勝手に第三文明圏における降伏の合図・・・、隊旗を逆さに付け替えて左旋回に振り始める者までいる始末であった。
残された皇国陸戦部隊の歩兵大隊が、絶体絶命の危機に陥ったそのとき・・・
『クウゥ〜グァ! グァァァァァァ!!』
喉の奥の方から重低音の咆哮を響かせながら、60メートル前後の体躯をもった巨大地竜『アンギラス』が、全滅したリントヴルム隊のすぐ後方に到着した。
「よし、アンギラスを敵陣地へ突入させ、その隙に陣形を立て直す!」
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ゴトク平野東
陸上自衛隊 現地作戦本部指揮所
「パーパルディア皇国軍のワイバーンロード、及びトンボ型特殊生物は全騎撃墜! またカマキリ型大型特殊生物も TC システムの雷撃と陸上部隊の攻撃で完全に沈黙したようです!」
「皇国軍の地竜や魔法版大砲も、90式戦車中隊の攻撃で全滅状態です!!」
「敵巨大地竜、ゴトク平野中央まで到達しました! すべてのパーパルディア皇国軍戦力は、ソニックビームシステム車全車の有効範囲へ入りました!!」
陸上自衛隊は、パーパルディア皇国陸戦部隊の追い込みに成功していた。後は、敵巨大地竜を中心に、『M8500TCS』の雷撃に合わせてソニックビームシステム車で特殊な電磁場を展開すれば、その周辺は巨大な電子レンジと化し、フィールド内にいる生物は灼熱地獄のごとく、強大なマイクロ波ですべてが焼き尽くされることになる・・・。
これを同じ人間に対して行ってよいか、一瞬葛藤する。しかし、もし慈悲で連中を見逃してしまえば、ニシノミヤコの惨劇が繰り返されてしまう。実際、皇国の外交担当であった皇族の女が、アマノキでも虐殺することを公言していた・・・という内容が外交文書にも記載されていた。
意を決した天野二等陸佐が命令を出そうとしたとき、皇国軍の兵士たちが旗を逆さまに持ち、それを左に振り回し始めたという報告が入る。一瞬、降伏の合図かとも考えたが、その行為を実施しているのは一部の部隊だけで、敵巨大地竜が攻撃体勢に入ろうとしているとの連絡も入る。
防衛大臣からは、『白旗を掲げて降伏』以外の意志表示をした場合は、すべて『攻撃の合図、または攻撃魔法のための儀式』と見做すよう指示されていた。
天野二等陸佐はどこか悲し気な、無表情な顔をしたまま、命令を下した。
「敵巨大地竜を中心に特殊電磁場の展開を開始! また万が一、敵巨大地竜が耐えた場合に備え、メーサー部隊と90式戦車の全部隊はすべての火力を集中し、これを確実に殲滅せよ!!」
アンギラスがトゲトゲした硬い巨体を丸め、攻撃体勢を取ろうとしたとき、上空の黒雲から放たれた雷撃が何度も直撃する。それと同時に、アンギラスやその周囲に展開した皇国陸上部隊の歩兵大隊、カマキラスの周囲の気温がぐんぐんと上昇し、豪雨でぬかるんだ大地が急速に乾燥し始めた・・・。