中央暦1640年1月27日
第三文明圏外東方 フェン王国
首都アマノキ西 ゴトク平野
上下水道やガスなどと並び、我々の生活において必要不可欠な社会インフラの一つに電気が挙げられる。電気の用途は多岐にわたるが、電気と言われた際にそれぞれの家庭にある電化製品のことを連想する人は多いと思われる。
そのなかでも白物家電とも呼称される電化製品は、家庭内の家事の労力を減らしたり、または日々の生活に密着した機能をもったものが大多数であり、特に身近に感じられるだろう。
白物家電には炊飯器や冷蔵庫など、調理に関する機器も多数該当する。そのなかでも『電子レンジ』は、火を使わずにボタン一つで冷凍食品や冷えた総菜を簡単に調理可能であり、忙しい社会生活を送る現代人にとって無くてはならない家電の一つとなっている。
非常に便利である反面、その加熱原理が不可視のマイクロ波による分子振動を用いたものであるため、調理対象のものが突沸して火傷を負うなど、急激な加熱に起因した事故がよく発生している。料理下手なキャラクターが、卵やソーセージ、イカ飯などの薄い殻や膜で内部が覆われた食品を電子レンジで加熱しすぎてしまい、爆発させてしまう行為はアニメや漫画でよく目にする光景であろう。
この現象は、食材内部の水分がマイクロ波で加熱されて水蒸気へと変化した際、周囲を殻や薄膜で覆われていることでその圧力を逃がすことができないことに起因している。水が水蒸気へと変化すると、その体積は約1700倍にも膨張する。そのため、閉鎖された環境で水蒸気への変化が始まると、内部圧力はみるみる高くなり、やがて耐えられない圧力まで上昇したとたんに爆発してしまうのだ。
家庭用の電子レンジ程度の出力でさえ、1、2分加熱するだけで幼児や飼い猫に大火傷を負わすだけのエネルギーをもっている。
※ 実際にやった大バカが、海外にいたようです。
では、その数万倍以上にも及ぶ膨大なエネルギーを照射されると、どれほど恐ろしいことになるだろうか・・・。
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ベルトラン陸将の率いる陸戦部隊陸戦部隊は、ゴトク平野中央部へと追い込まれていた。無敵を誇っていた航空部隊と地竜部隊は、黒雲から降り注ぐ人工落雷やメーサー部隊と90式戦車中隊による攻撃で全滅しており、生き残っているのはアンギラスと歩兵大隊のみである。
唯一の頼みの綱であったアンギラスだが、攻撃体勢を取ろうとしている最中に落雷の集中砲火を浴びる。全身が感電したことで運動能力が大幅に低下したことに加え、体を丸めたタイミングと重なったため、そのまま甲殻が下側になったまま裏返ってしまい、身動きが取れない状態であった。
またアンギラスは、素体である地竜リントヴルムと比較にならないほど高い防御力とスタミナを手に入れた反面、それらが有していた火炎放射のような中遠距離攻撃手段を喪失していた。
そのため、裏返って身動きが取れない状態へと陥った今の姿では、『単なる大きな生きた的』でしかない・・・。
「どうすればいい・・・、『降伏』か・・・」
ベルトラン陸将は心の中で自問するが、すぐに首を横に振る。ルディアス皇帝陛下の関心が高いこの戦いで、文明圏外国家に降伏や敗北をすれば、エストシラントで帰りを待つ妻子や親族たちがどんな目に遭わされるか分かったものではない・・・。
「ええい、こうなったら全ての歩兵部隊は、あの鉄地竜と鉄蠍どもに突撃せよ! 小回りの利かない至近距離まで肉薄し、携帯型の魔導爆弾を炸裂させてやれ!!」
あまりに無謀な突撃命令を下したベルトラン陸将に対し、陸戦参謀のヨウシが額に汗を垂らしながら駆け寄る。いつものようなボソボソとした話し方はしておらず、それだけでも彼の必死さが伝わってくる。
「ベルトラン様! ベルトラン様!! 手負いのアンギラスと歩兵だけではとてもじゃありませんが、我々に勝ち目はありません! 早急に、早急に降伏して下さい!!」
「しかし、我々は日本人を殺した部隊だぞ。ニシノミヤコや道中の集落で兵たちがやってきたことを思い返してみろ! 万に一つ、日本国が捕虜を取るような寛大な国だったとしても、当事者のフェン王国は間違いなく、我々をなぶり殺しにするぞ!!!」
「ですが・・・」
ベルトラン陸将とヨウシ陸戦参謀が全面降伏するか否かで言い争っているなか、アンギラスや歩兵大隊の周辺に異変が起こり始めた。
それまでは激しい豪雨により、辺り一面にぬかるみや水溜まりが散見されていた大地が、突如として乾燥し始めたのだ。
「!? 一体何が起こり始めた? 何だ、この身を焦がすような暑さは・・・」
兵たちはあまりの暑さに身を悶え始め、携帯している水筒の水を飲もうとしたが、中身は既にお湯と化していた。異変はそれだけではない。それと同時に、まるでサウナに入っているかのように、周囲に水蒸気が立ち込めだした。
人間をはじめとした生物は、身体の大部分が水分で構成されている。状態としては、それらが皮膚や肉体といった薄い『殻』のようなもので覆われているのと同義である。
したがって・・・。
「あ、暑い・・・、助けてく・・・」
次の瞬間、最前線にいた歩兵たちや、すでに息絶えているカマキラスの遺骸が、突如として水風船のようにパンパンに膨張し、臓器や内部組織をまき散らしながら炸裂した。
血液をはじめとする体内にある水分が、メーサー砲の比ではない莫大なマイクロ波加熱を受け、瞬時に加熱・沸騰される。体内という閉じ込められた領域で発生した水蒸気は行き場を失い、まるで電子レンジで加熱された卵のごとく、全身の皮膚を突き破ったことで破裂したのだ。
陸戦部隊の歩兵たちは悲鳴をあげる間もなく、次々に膨張・破裂して焼け死に、周囲へと飛散した肉片はさらなるマイクロ波加熱を浴びて炭化し、人であった形跡すら残さずに消滅していく。
すでにサンダーコントロールシステムの人工落雷を受け、全身にダメージを負っていたアンギラスも、その巨大な体躯のいたるところをマイクロ波で焼かれていく。
さらにダメ押しと言わんばかりに、メーサー部隊と90式戦車中隊から、ひっくり返ってさらけ出している無防備な腹への砲撃を受け、60メートルを超えた巨体はついに動きを完全に止めた。
部下の兵たちが、次々に破裂して消滅していく凄惨な光景を目にしたベルトラン陸将とヨウシ陸戦参謀は、自分たちがこれまで行ってきたことを棚に上げ、怨嗟の叫び声をあげる。
「こ、これが同じ人間に対してすることか!!!」
「おのれぇぇ! 蛮族共めぇ!!」
その直後、二人の体も破裂して爆散し、永遠に意識を失った。さらに地下へと浸透し始めていた雨水さえも次々と水蒸気へと気化し、陸戦部隊が存在していた周辺は水蒸気爆発により、跡形もなく吹き飛んだ。
この日、パーパルディア皇国軍陸戦部隊は、フェン王国ゴトク平野において日本国陸上自衛隊と激突。一人の自衛官の殺害どころか、一発の魔導砲を発射する間すらなく、完全敗北した。
戦場となったゴトク平野には、隕石が衝突したかのような巨大なクレーターが形成されており、巨大な地竜の遺骸(正確にはトゲトゲした甲殻部のみ)を除き、皇国軍陸戦部隊は肉片すら残らず、文字通り跡形もなく消滅したのであった。
※ マイクロウェーブ8500サンダーコントロールシステム(M8500TCS)
出典 : ゴジラvsビオランテ(1989年)
1989年の『ビオランテ事変』において、二代目ゴジラの体温を上昇させる目的で緊急投入された初期型『M6000TCS』の最新版システム。
ヨウ化銀コロイドを対象エリア上空で航空機から散布し、人工雷雲を成長させる。その後、地上に固定した電位差発生装置に向け、人為的な落雷を発生させて攻撃することが可能。
前述の『M6000TCS』は、誘導雷をはじめとした科学実験用の設備として開発、研究されていた人口落雷発生装置であったが、二代目ゴジラに対して、抗核エネルギーバクテリア (ANEB) を活性化させるほどの体温上昇に成功させたという実績があったため、本システムまで改良が続けられていた。
特筆すべき改良点としては、テトラポットと同等の大きさであった電位差発生装置がマンホールサイズにまで小型化されたこと、そして『ハイパワーレーザービーム車改』と連携することで、電位差発生装置の直上にいない目標についても、曲射するかのような軌道を描き、正確に落雷を誘導できるようになったことが挙げられる。
また初期型同様、落雷による攻撃に加え、巨大なアンテナを備えたソニックビームシステム車から特殊な電磁場を展開することで、フィールド一帯に莫大なマイクロ波加熱を発生させ、対象を焼き尽くすようなことも可能である。