中央暦1640年1月27日
フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国
皇都エストシラント 第一外務局
パーパルディア皇国の皇都エストシラントにある第一外務局の一室では、とある魔導装置のメンテナンスと調整が行われていた。約10日前、医療支援ボランティアの日本人やニシノミヤコの住民を大虐殺し、その凄惨な様子を日本国の外交官たちへ見せつけるために使用されたあの魔導映像通信機である。
虐殺皇女ことレミール皇女は、フェン王国の首都アマノキの陥落後、再度同様のことを行おうと考えており、魔導技師たちに調整とメンテナンスを命じていたのであった。
すでに調整は完了しており、首都アマノキを陥落させられるであろう本日夕方、本機が設置されたニシノミヤコの仮設統治機構庁舎から事前テストを兼ねた連絡が入る予定となっていた。
ズ・ズズ・ズズズ・ビー
突如として魔導映像通信機が反応し始めたため、部屋にいた魔導技師は関係者を部屋の中に集め、通信準備を始める。
「こちら皇都エストシラントの第一外務局、ニシノミヤコ聞こえるか、どうぞ」
「た、助けてくれ! 俺たちはとんでもない連中を敵にしてしまった!!」
質の悪い映像の先には、怯えきった表情の通信技師と皇国兵の姿が映っており、部屋のドアには家財道具でバリケードが設置されている様子が見えた。また周囲からは悲鳴や爆音が絶えず聞こえており、ニシノミヤコで非常事態が発生していることを示唆していた。
「落ち着け、一体何が起こっている? 状況を詳しく伝えろ!」
「日本軍だ、日本軍がフェン王国の侍どもと一緒に攻めて来た! すでに侵攻部隊の魔導艦隊や地上部隊は全滅、エビラやアンギラスなどの主戦力もすべて喪失した!!」
報告を終えると同時に、得体のしれない何かが石壁をぶち破って入室してきた。砂埃が周囲に舞い上がり、視界が悪いためによくわからないが、その目は青く光っており、人のような姿をした何かであった。シチュエーションとしては、某製薬会社の最高傑作 B.O.W ことタイラントが強襲してくるシーンに近いだろう。
「き、来やがった! うわぁ~!!」
「ここはもう持たない、至急援護を! そして早急な講和を!!」
護衛していた皇国兵が魔導マスケット銃を発砲して応戦するが、ゆっくりと接近して来るそれにはまるで効果がなく、皇国兵は頭部をアイアンクローで掴まれ、そのまま空中に吊るされる。次の瞬間、掴まれていた皇国兵の頭部が林檎のように握り潰され、周囲へ血や肉片が飛び散った。
その直後、通信技師の悲鳴とともに、魔導映像通信機の映像は切れてしまった・・・。第一外務局の一室を沈黙が支配する。この情報はすぐに関係部署に共有され、局長執務室で協議中の元凶たちへと報告されることとなった・・・。
※ 通信技師は兵士と異なり、有害小型特殊生物と認定されていないため、無事です。
またフェン王国では、パーパルディア皇国の侵略から救われた日として本日を祝日とし、船の形に組んだ木を焼く『火柱祭』が各地で開催されるようになった。また大多数の市民が戦闘用ジェットジャガーの無双振りを見かけたニシノミヤコでは、ジェットジャガーのマスクを付けた集団が子供のいる家庭を訪問するという『なまはげ』のようなユニークな催しも実施されるようになった。
「皇国兵のような悪い子はいねぇかぁ!!」
鉄人様という親しみやすい名称とは裏腹に、きちんと目が青く光る LED 搭載型のマスクをわざわざ日本から輸入する徹底ぶりで、毎年ニシノミヤコの子供たちを大泣きさせているらしい。
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第一外務局の局長室では、今後のフェン王国と日本国に対する措置について協議が開催されていた。出席者は帝前会議にて都合の良いデータのみを提示し、日本国に対する誤った認識を与えたエルト第一外務局長、皇軍最高司令官アルデ、そして大虐殺の首謀者たるレミール皇女など、今回の紛争の元凶ともいえる者たちであった。
「そろそろフェン王国の首都アマノキも我が皇国軍の手に陥ちているでしょう。レミール様、今回も捕まえた日本国民は全員処刑してもよろしいのですか?」
「構わん。此度の蛮族には、列強国に対する礼儀というもの理解出来ぬようだからな。そのような連中には、徹底した厳しい教育が必要だ。アルデよ、前回は楽に殺してしまったから、今度は生きたまま魔獣の餌にするなど、より苦しむ内容で処刑をせよ」
エルトの問いかけに対し、レミールは悪魔のような冷酷な表情で答える。あれだけの大虐殺を指示したにもかかわらず、罪悪感は一片も感じていないようであった。
「それにしてもあの『ムー連邦』が日本国側に観戦武官を派遣するとは・・・。ムーは一体何を掴んでいるのでしょうか。」
「結論だけ言えば、『フェン王国での戦いは日本国が勝つ』とムー連邦は見ている・・・ですか。もしかすると、最初から皇国と全面戦争をするつもりで何年もかけて周到に準備していた・・・とかかもしれませんな。」
様々な予想が議論されたが、『エビラ』や『アンギラス』といった切り札がある以上、皇国軍が敗北することなど万に一つもないという結論に至り、全員が安堵した状態でくつろいでいた。
優雅な午後のひと時を破るかのように扉をノックする音が響き、汗にまみれた第一外務局の職員が入室してきた。
「緊急の案件につき、失礼します!!」
「フェン王国に派遣していました皇国軍は全滅! 海軍はすべての魔導戦列艦や竜母、エビラを、陸軍はアンギラスをはじめとしたすべての陸上戦力を喪失!! ニシノミヤコ占領維持部隊も日本・フェン連合軍を前に壊滅し、残された後方支援部隊と臣民統治機構の職員たちは全面降伏しました!!!」
あまりに衝撃的な内容に、局長室内の温度が急降下し、そして時が止まる。ただの敗北ではない、完膚なきまで叩き潰されたレベルの全滅である。エルトだけではなく、アルデすら口を金魚のようにパクパクさせながら、狼狽している。
「文明圏外の蛮族ごときにぃ!! 誇りある皇国軍が敗北しただとぉ!!!」
静寂を破るように、女性の怒号と食器の割れる音が室内に響く。レミールが持っていたティーカップを床に叩きつけ、鬼のような形相でブチ切れたのだ。真っ赤に血走らせた目を吊り上げ、顔中に青筋を走らせた顔はまさに山姥のようで、見た者を恐怖に陥らせるほどの威圧感を放っていた。
「アルデェェェ!! 貴様、奢ったなぁ!!!」
完全にブチ切れたレミールを前に、アルデは逃げるようにそそくさと退出する。八つ当たりする相手を失ったレミールの怒りは収まる筈もなく、怒りで冷静さを失った彼女は取り返しのつかない最悪の決断を下してしまった。
「殲滅だ! 列強国たる皇国をここまでコケにする日本国は、一人残らず殲滅するしかない! ルディアス陛下に殲滅戦を進言しに行くぞ!!」
その直後、日本国内から第三文明圏のみならず、ムー連邦協力のもと全世界へ向けて、元アルタラス王国王女ルミエスの演説が映像付きで放映された。
フェン王国の戦いにおいて、日本国自衛隊との戦闘で皇国軍が手も足も出ずに完全敗北した事実が全世界に周知されたことで、皇国の運営基盤を揺るがしかねない事態であることを理解したパーパルディア皇国は、日本国との全面戦争へと突き進んでいくのであった・・・。