中央暦1640年2月1日
フィルアデス大陸 列強国 パーパルディア皇国
皇都エストシラント 第一外務局にある迎賓用庭園
フェン王国に派遣された自衛隊の活躍により、パーパルディア皇国のフェン王国侵攻部隊が完膚なきまでに叩き潰された数日後、日本国外務省職員の朝田と篠原が滞在するホテルに第一外務局から出頭命令書が届いていた。
先月18日に実施された皇女レミールとの初会談において、『フェン王国における戦いが終結後、再度会談を行う』旨を約束していた。一応、この世界における『列強国』という肩書をもっている以上、流石に外交官を傷付けるような行為はしないだろうと考え、二人は前回の会談以降も皇都エストシラントに滞在していたのだ。
また小型の衛星通信機を通し、二人は日本国政府からある密命も受けていた。パーパルディア皇国の出方次第ではあるが、以前の会談時に要請した内容を拒絶するようであれば、皇国にとって『死刑宣告』ともいえる内容を伝えることになっていた。
余談ではあるが、レミールが『特殊生物を用いた大虐殺』という凶行を指示したことを受け、二人をフィルアデス大陸まで派遣した大型練習帆船『日本丸Ⅱ世』は一足早くパーパルディア皇国を出国し、既に日本国内へと帰港していた。
フェン王国の戦いにおいて、侵攻部隊を壊滅させられたことを知った皇国側が激昂し、難癖をつけて船の拿捕や乗組員の身柄を拘束する可能性が考えられた。また万が一、朝田と篠原の身に危険が及ぶような事態となった場合、本船で日本まで安全に逃げ帰ることの困難さを憂いたためでもあった。
一応このような緊急事態に備え、エストシラントの上空・・・、ワイバーンなどの飛竜はおろか通常の航空機では到達不可能な高度である低軌道上には、炊飯器のような形状をした金属の物体がカグヤより打ち上げられていたのであった・・・。
==============================================================
皇女レミールは、第一外務局内に併設された迎賓用庭園へと向かっていた。局地戦とはいえ、文明圏外国家に敗北するとは万に一つも思っていなかったため、日本国外交官との会談に向かう足取りは重い。
今回の皇軍敗北を受け、調子に乗った日本国が前回よりも生意気な要求をしてくるだろうことを想像し、イライラした感情が積もる。しかし見方を変えれば、『正式な宣戦布告』に加え、『殲滅戦という民族浄化』というルディアス皇帝の意思をダイレクトに相手方へ伝達することが可能である。
列強国から殲滅戦を宣言され、つけあがった蛮族の外交官たちが恐怖と絶望に染まった顔へと変わるであろうことを考えると、少しばかり気が紛れる。
「自分たちがどれほど愚かなことをしたか、思い知るがよい」
レミールは、随行するサポート役の外務局員をちらりと見ながら呟く。外務局員の手には外務関連の書類が入った鞄に加え、豪華な装飾が施された小型ケースがあった。
会談場所を会議室ではなく、本来、国賓客をもてなすための施設である迎賓用庭園という屋外を指定した理由は、その中に保管されたある魔法道具を使用し、絶望を増幅させるためであった。
迎賓用庭園に設置された屋外テーブルには、すでに朝田と篠原が待っていた。
「お久しぶりです。フェン王国における戦いの結果は、すでにご存じかと思います。通告通り、我が国はフェン王国に展開します貴国の軍を排除しました。」
前回同様、朝田が感情を削ぎ落としかのような無表情な顔で淡々と話し始める。
「貴国のためにも、そして貴国の民のためにも、前回提示しました我が国からの要求について、考えていただけましたでしょうか?」
「フン、わかりきったことを聞くのだな。もちろん断る!!」
レミールは要求を即座に拒否したが、こうなることをある程度予想していたのか、朝田は表情一つ変えずに答える。
「そうですか・・・。では残念ながら日本国としては、」
「こちらからお前たちに伝えることがある! 心して聞くがよい」
レミールが朝田の言葉を遮って話始める。
「お前たちは我が皇軍の侵攻を妨げただけに飽き足らず、我が属国たちへ独立や反乱を扇動する愚か者を保護するなどした。ルディアス皇帝陛下は実にお怒りだ・・・。自分たち行為が、どれほど愚かなことかを理解できていない蛮族など、この世に要らぬ!」
あまりに傲慢な発言に、朝田と篠原は困惑を隠しきれず、口を開けて呆れ果てる。
「お前たちは、列強国の力を舐めすぎている。もはや慈悲など与えぬ・・・。愚かな日本国と日本国民よ、我がパーパルディア皇国は、日本国に対し宣戦布告する! 日本国を属国化し、一人残らず日本人を抹殺することを決定した!!」
パーパルディア皇国が宣戦布告してくることは可能性の一つとして予想していたが、それを上回る最低最悪の内容・・・、民族浄化宣言までしてきたことに、流石の朝田と篠原も驚愕の表情を浮かべた。
「あ、あ、あなた方は国を挙げ、日本国民に対して民族浄化を行うつもりなのですか!?」
「そうだ、お前たち二人も帰国後、侵攻してくる我が皇軍の兵士や魔獣部隊に殺されるのだ。これを見るがよい!」
サポートの外務局員が、小型ケースから通常とは異なる形状の魔導マスケット銃を取り出し、レミールへ手渡す。レミールが得意げな顔で空に向かって発砲すると、まるで発煙筒や狼煙のような鮮やかな煙が噴き出した。
「信号弾か?」
訝し気な表情でレミールを見ていたが、空から巨大なワイバーンが飛来し、近くに降り立った。
「見るがよい、これこそが我が皇国の誇る『ワイバーンオーバーロード』だ。古の魔法帝国こと『ラヴァーナル帝国』の魔法生物技術を解析し、我が国が生み出した最強の飛竜だ!」
「お前たちがフェン王国で戦った皇軍のワイバーンロードはおろか、ムー連邦の飛行機械すら凌駕する飛行性能と火力をもつ! このワイバーンオーバーロードに加え、此度の日本国との戦いでは、とっておきの人工魔獣も投入予定だ! 皇軍の軍靴の音が聞こえるそのときまで、日本人は毎日を震えて眠るがよい!!」
ドヤ顔で台詞をばっちり決めたレミールに対し、朝田と篠原はまるで無知な大バカを見るかのような冷めた表情で答える。
「呆れましたね。自分たちの置かれている状況が見えていないばかりか、特殊生物を用いた虐殺を良しとするとは・・・。あなた方ほどの愚か者と交渉したのは初めてですよ。先輩から聞いていたムウ帝国の方が、まだマシなレベルだ・・・。」
「では我が日本国からも宣言します。この度のフェン王国における大虐殺、ならび今ここで宣言された日本国民の民族浄化宣言を受け、日本国政府ならびに国連G対策センターは、貴国を史上二例目の『特テ国』こと『特殊生物を用いたテロ主導国家』に認定します! 以降の貴国に対する対応は、すべて本指定に基づいた内容で実施致しますが、悪しからず。」
朝田と篠原が席を立つ。
「貴国を『特テ国』と認定した以上、これ以上貴方と話すことなど何もありません。それにしても、列強という肩書があってもこの程度の品格とは・・・。外交担当が貴方のような最低レベルの人間なら、国のトップである皇帝も殲滅戦を宣言する時点で同レベルの野蛮人ということでしょうね。」
篠原が最後に言い放った一言が、レミールの地雷を踏んだ。
「貴様、今ルディアス皇帝陛下を侮辱したな! 文明圏外国家の蛮族が列強国の皇帝陛下を侮辱するなど万死に値する行為と思え!!」
「衛兵、この者を不敬罪で取り押さえよ!」
心酔するルディアス皇帝を侮辱するような発言をされ、完全にキレたレミールは衛兵に命じて篠原の身柄を拘束した。
外交官の身柄が拘束されるという最悪の事態に対し、日本国政府は今回のような万が一の事態に備え、低軌道上に待機させていた『有事用移動シェルター』の投入を決定。残された朝田に対し、小型無線機を通して迎賓用庭園で時間を稼ぐように指示を出したのであった。