中央暦1640年2月25日
第三文明圏の東 大東洋
日本国 首都東京 防衛省
この日、麻生内閣総理大臣は防衛省庁舎にある大会議室を訪れていた。麻生総理がここを訪れるのは、今年に入って二度目であった。
ちなみに一度目は、約1か月前にニシノミヤコ事変に対して自衛隊を派遣するにあたり、特殊戦略作戦室の黒木特佐をはじめとした自衛隊幹部から、作戦概要の説明を受けた時である。
今回は先日のルミエス女王との協議を踏まえ、アルタラス島を占領するパーパルディア皇国軍の攻略、そしてアルタラス正統政府が再独立を果たした後に建設する基地についてが主な議題だ。
スクリーン上には人工衛星によって撮影されたアルタラス島が写されており、作戦の要所となるポイントをレーザーポインターで指しながら説明が開始された。
「現在アルタラス島を占拠しているパーパルディア皇国軍ですが、島内に三カ所の基地らしきのを設置していることが確認出来ました。まず一つ目は首都ル・ブリアスの東側に位置するこの平野。ここにはワイバーン用の滑走路らしきものがいくつも併設されており、ワイバーンの継続飛行距離を加味すると、隣国であるシオス王国への侵攻を将来的に考えている可能性があります。」
「次に、首都ル・ブリアス内に併設された湾港施設。侵攻時に破壊した港湾施設跡を再建しそのまま使用しているようです。ここにはフェン王国侵攻時に確認されたものと同型の魔導戦列艦約20隻の停泊を確認し、そしてその沖合では、例の巨大エビ型特殊生物らしき影の撮影に成功しました。」
「最後にかつてアルタラス王国軍が築いていたルバイル城堡跡地。この数キロメートル先には、新たに掘削が開始された魔石鉱山と島民たちの収容施設があるようです。おそらく、魔石鉱山で強制労働を強いられている島民たちを監視するための施設と思われます。」
いずれの拠点も人口密集地から外れており、また戦力規模もフェン王国侵攻軍と比較するとずっと小さい。そのため脅威となるエビ型特殊生物の無力化を最優先で対応しつつ、航空機による空爆や護衛艦の艦砲射撃でこれらの拠点を破壊。そして、仕上げに首都ル・ブリアスに置かれている統治機構や収容所などへ戦闘用ジェットジャガーを投入して援護すれば、元アルタラス王国人の手で実効支配力を奪還可能かと思われた。
この後も協議が重ねられ、アルタラス王国奪還作戦の計画が着々と進められた。
「それでは、アルタラス島奪還後の基地建設についての協議に移ります。ルバイル平野に建設されています飛行場ですが、所有権をもつ旧アルタラス王国政府と建設したムー連邦から使用許可と拡張・改造許可を頂けました。」
「海岸にも近いことから、湾港機能をもった海・空複合型の大型基地施設への拡張を計画しています。特に滑走路については、スーパーXⅢや量産型ガルーダなど大型 V/STOL 機の離発着にも耐えられる仕様への大幅な増強を考えています。」
「ただし本基地の建設、及びアルタラス王国再独立後の継続使用を許可することへの見返りとして、先日の会談時にルミエス女王から本基地へ『マーカライトファープ』の設置を要望されています。」
正式名称 : 対特殊生物迎撃用超大型メーサー砲台マーカライトファープ。身長50メートルの初代ゴジラはおろか、100メートル級であった二代目ゴジラにも匹敵する巨大なパラボラアンテナ状の砲身をもった超大型のメーサー砲台だ。
90式メーサー殺獣光線車の『誘導放出型』、92式メーサータンク以降の『プラズマ加熱ミラータイプ型』のいずれの方式も、メーサー砲の威力は出力と収束性の影響が最も大きい。早い話が高いエネルギーをかけ、砲身のレンズ直径を大きくしてメーサー収束性を向上させれば、メーサー光線の威力が高くなるということだ。
一例を挙げると、1995年の『スペースゴジラ事変』において活躍した『MOGERA』の腹部には、『プラズマメーサーキャノン』という武装が装備されている。こちらもパラボラアンテナ状の砲身をもったメーサー兵器であるが、二基のレーザー核融合炉からの膨大なエネルギー供給に加え、陸上メーサー兵器の比ではないほどの砲身の大きさを誇る。
従って、その威力は92式メーサータンクの5倍ほどもあり、両目のプラズマレーザーキャノンとの一斉射撃時には、余波だけでも二代目ゴジラを昏倒させるほどであった。
※ ちなみに二代目ゴジラの真横で、モロに直撃を受けたスペースゴジラはピンピンとしていた。
マーカライトファープの場合、その砲身自体が100メートル級という化け物砲台であるため、その威力はプラズマメーサーキャノンを遥かに凌駕する超兵器であるものの、照射するには原子力発電所(トカマク型核融合炉)一基分に相当する莫大な電力が必要となる。
そのため日本国内においても、首都東京の防衛目的で設置された横須賀周辺や原子力発電所が集中している若狭湾周辺など、まだ限られたエリアにしか設置されていない代物であった。
「確かに国家転移の影響で建造を中断していた一機が、『ロウリア事変』を受けて建造を再開し、あと少しで完成するとは聞いているが・・・。発電所はどうする? 砲台部分だけあっても肝心の発電所がなければ、ただのハリボテだぞ。」
麻生総理の指摘に、自衛隊幹部や外務省職員たちは困ったような顔をしながら頭をかく。
国家転移後、日本国は国交を締結した友好国に対し、政府開発援助(ODA)の一環で湾港設備や鉄道などのインフラ整備を行っていた。発電所の建設も行っていたが、そのほとんどは建設工期が短く、また完成後の管理も容易な太陽光発電所であった。
そのため、完成後の運用においても高度な科学知識や技術を要求される原子力発電所の建設に難色を示すのは無理もなかった。
「パーパルディア皇国軍の日本本土への侵攻に備え、私は対馬に設置した方が良いと思うが、どうだろうか? 電力に関しても、九州本土からの海底ケーブルで対応可能だからな。」
麻生総理の意見に出席していた閣僚や自衛隊幹部たちがうんうんと頷くが、ただ一人、特殊戦略作戦室の黒木特佐はアルタラス島への設置案を推薦する。
「私はアルタラス島への設置案を推薦します。電力に関してですが、ごうてん型護衛艦やスーパーXⅢの動力炉と同型のレーザー核融合炉を転用すればどうでしょうか。非常交換用の予備品が常備されており、なおかつ設置型のトカマク型核融合炉よりもずっと小型なため、自衛隊基地内へ短期間で設置可能かと思います。」
「確かに発電所で導入されていますトカマク型核融合炉と比較すれば出力は落ちるため、国内に既設したものとは異なり、連続照射は不可能となります。しかし、長射程かつ超高威力のメーサー砲台が、第三文明圏や我が国の転移した大東洋に繋がるチョークポイントに設置されていることは、パーパルディア皇国戦後において非常に重要な意味をもつと考えます。」
黒木特佐はスクリーンに写された衛星画像を、第三文明圏のある『フィルアデス大陸』と第一文明圏のある『ミリシエント大陸』が写されたものへ切り替え、説明を続ける。
「この世界で『列強国』と呼ばれる国家のうち、我が国がコンタクトを取れているのは二か国です。その一か国である『ムー連邦』ですが、かつて地球にあった頃の同盟国という歴史的背景もあったため、非常に友好な関係を結ぶことが出来ています。」
「もう一か国である『パーパルディア皇国』についてですが、こちらは今更説明するまでもないでしょう・・・。」
「現在、外務省が『ミリシエント大陸』にある列強国『エモール王国』へ外交官を派遣していると伺っています。大陸間の行商を生業としている商人たちからの情報では、『選民思想が高い国家』として有名らしく、ガハラ神国の風竜のような様々な属性竜やそれ以上の戦闘力をもった大型竜を使役しているそうです。」
「一方、同大陸南部に位置しています『神聖ミリシアル帝国』については、『ムー連邦』に仲介を依頼しています。しかし世界最強国家というプライドの高さに加え、我が国の名声がまだまだ低いためか、先方からの反応は薄いようです。」
黒木特佐の説明に、会議室内の何人かはロウリア王国やパーパルディア皇国のような高慢な国家を連想し、溜息を吐く。
「万が一、ミリシエント大陸に存在するこれらの列強国が同様に覇権主義国家であった場合、我が国との戦争で瀕死、または滅亡したパーパルディア皇国の本国や属領にされていた地域を狙い、侵攻してくる可能性が考えられます。その場合に備え、ロデニウス大陸や我が国へのチョークポイントであるアルタラス島へ、マーカライトファープを設置した鉄壁の防衛線を事前に形成しておくことは非常に重要と考えています。」
その後も議論が重ねられ、戦後を見越した黒木特佐の意見が重視され、アルタラス島奪還後に拡張・改造されるルバイル基地へ、マーカライトファープが設置されることが決定された。