中央暦1640年3月1日
第一文明圏(中央世界)
列強エモール王国 首都ドラグスマキラ
ウィルマンズ城の一室で実施された国儀『空間の占い』において、魔帝の復活というあまりに残酷な未来、そしてそれに対抗可能な日本国の存在が示唆された明朝、日本国外務省の使節団はエモール王国の国境ゲートへと到着していた。
国境ゲートの前には、他国の使節団と思わる集団や沢山の荷物を抱えた商人など、先に到着していた入国審査待ちの人たちで既に長蛇の列ができていた。ゲートの前にはエモール王国の国境警備隊と思われる竜人族が、列に並んでいる人たちを順番に案内しており、外務省の使節団も誘導に従って列の最後尾に並ぶ。
その数分後、列を無視して割り込もうとする集団が現れ、列に並んでいた人たちや誘導中の職員とトラブルを起こし始めた。
「我々は第三文明圏の文明国、リーム王国の使者である! 国交開設の再交渉に来ているのだ。貴国の外交担当の部署に取り次ぎをお願いする!」
ゴテゴテした装いをした集団は、周囲からのブーイングに臆する様子もなく、ゲート前で誘導案内をしている職員へ図々しく要求する。
「国の使者だろうと商人だろうと関係ない。我が国の国境の門で優遇されるのは、魔力の高い竜人族かハイエルフくらいので、それ以外は人族だろうと獣人族だろうとすべて同列だ!」
リーム王国の使節は、職員の竜人族に鼻で笑うかのような態度で要求を一蹴され、しぶしぶ最後尾に並ぶ。
地球にいた頃の隣国を彷彿させる行いに、外務省使節の荒尾と保木は苦笑いしながら様子を伺っていたが、今のやり取りからもエモール王国の『魔力絶対主義』という固定観念の強さがヒシヒシと伝わってくる。地球から転移してきた日本人は魔力を殆ど有しておらず、その点からも国交締結交渉が難航することが予想され、二人は溜息を吐く。
しばらくすると、ゲートの中から武装した護衛の騎士を引き連れ、身なりが明らかに異なる竜人族が現れた。職員の竜人族もその姿を目にした途端に慌てて頭を下げて対応しており、明らかに高貴な身分であることが判断出来た。
その貴族と思われる竜人族は、誰かを探しているかのように列に並んでいる人たちをチラチラみながら歩いていたが、荒尾と保木の前で足を止めた。
「我は列強エモール王国の外交担当の貴族、モーリアウルである。そなたらは何処から何の目的で我が国へ来た?」
「私たちは、ここより遥か東、フィルアデス大陸よりもさらに東にある大東洋の島国、日本という国から参りました。目的は貴国との国交締結をご提案するためです。」
モーリアウルの問いかけに荒尾が答えると、すぐ近くから品のない笑い声が聞こえてくる。先程、列を割り込んでトラブルを引き起こしていたリーム王国の集団だ。
「貧相な身なりと思ったら、文明圏外の蛮国か(笑)」
「我が第三文明圏の文明国であるリーム王国ですら、列強エモールとは話し合いすら難航しているというのに、まさか文明圏外国が来るとはな。」
聞えよがしに下品な中傷を並べるリーム王国の集団であったが、モーリアウルはその正反対の反応をする。
「おお、そなたらが日本国の使者か! お待ちしておりましたぞ。さあ、我に続かれよ。国交締結を前提に、交渉の席を用意させて頂こう!」
モーリアウルは満面の笑みで手を差し出し、困惑する荒尾の手を両手で握りしめながら力強く握手する。予想だにしなかった展開に、当事者の荒尾たちはもちろん、周囲の者も鳩が豆鉄砲を食ったようにポカンとした様子をしている。
「ま、待たれい。我らは、第三文明圏の文明国であるリーム王国の使者でございます。我々は、貴国と国交締結の再交渉を行うために参った。我が国はそこの貧相な文明圏外国家と違い、文明国であります。対応をお願いしたい!」
文明圏外国家が特別視扱いされたことに苛立ったのか、リーム王国の面々が喰ってかかるが、モーリアウルは溜息を吐きながら興味なさそうに言い放つ。
「リーム王国・・・。ああ、皇国の北にあるただの中流国だったか? そのまま列で待たれよ。」
有象無象のような扱いでバッサリと切り捨てられたリーム王国の面々は、顔を真っ赤にして口をパクパクさせながら抗議するも、まったく相手にされずにスルーされた。
一方、日本国外務省使節の荒尾と保木は、モーリアウルに連れられた貴賓室で国交締結の交渉を開始。エモール王国側との交渉は予想以上に円滑に進み、この世界における列強国としては『ムー連邦』に続き、対等な立場で国交を樹立した二か国目となったのであった。
文明圏外国家の日本国が、『魔力絶対主義』として有名なエモール王国とも対等な関係で国交を樹立したという衝撃的なニュースは、中央世界中に瞬く間に広がり、中央世界においても一目置かれる存在となるのであった。
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中央暦1640年3月2日
第二文明圏 ムー大陸
列強国ムー連邦
日本国とエモール王国が国交締結交渉を始めたのと同じ頃、すでに日本国と国交を締結し、友好国の一つとなっていたムー連邦でも大きな動きがあった。
フェン王国の戦いにおいて、日本国側の観戦武官として派遣されていた技術士官マイラスと戦術士官ラッサンが半月前に帰国し、その詳細をまとめた資料がムー連邦の政府高官や連邦軍上層部たちへ報告されたのだ。
戦闘時の様子を撮影した写真(通常写真と魔写の両方)や日本国内で購入した書籍などに加え、日本国側の厚意もあり、プロジェクターと呼ばれる鮮明な映像や動画をスクリーンに投影する機械を土産に持たせて貰っていた。
軍高官たちの中には、レポートや写真の説明だけでは懐疑的な顔をしていた者も少なからずいたが、緊迫感のある戦闘時の動画を音声付きで再生されたことで、何も反論することができず、置物のように黙り込んでいた。
「以上が日本国がフェン王国において、パーパルディア皇国と行った戦闘のすべてです。驚愕すべき事実として、これらの兵器は、すべて科学技術のみで開発・建造され、運用されているということです。日本国内で購入しました書籍によると、我々の技術は日本国や我が祖先が元いた世界、地球における約100年前くらいとのことです。従って、現在の我々の兵器が100年後に進んだ方向や概念が、今写真や映像でお見せしたものということになるでしょう!」
各護衛艦や10式戦車など殆どの一般兵器については、マイラスが報告した通り、約100年後という認識で相違ない。ただし、ごうてん級護衛艦(飛行システム)など一部の対特殊生物向け兵器については、メカキングギドラをリバースエンジニアリングすることで得られた23世紀のオーバーテクノロジーを基にしているため、ものによっては300年以上先の超技術といっても過言ではない。
会議室は、報告者であるマイラスとラッサンの声以外は何も響いておらず、深い海の底のような静けさに包まれていた。日本国と友好的な関係を結べて安堵している者(主に外務省系の高官)、自信とプライドを木っ端微塵に粉砕されて茫然としている者(軍関係者)など、その理由は様々だ。
「一例を挙げると、先ほどのミサイルと呼ばれる誘導弾ですが、あれは科学版の誘導魔光弾といえるものです。日本国が実戦配備しているものと比較すると、速度は遥かに遅いものになるでしょうが、初歩的なものであれば今の我が国の技術でも作れる可能性があります。」
「昨年秋にかの国と国交を締結し、官民含めた交流が活発になってきています。それにより、このような未来の知識や科学技術について書かれた書籍についても、容易に輸入することが可能となってきています。」
「また現在、パーパルディア皇国から宣戦布告に加え、民族浄化宣言まで受けたことに対抗し、日本国は皇国を『特テ国』へ認定した旨が報道されています。これにより、これまで防衛出撃のみであった日本国が、本気で皇国撃滅に向けて動き出すことが予想されます。これまで以上に強力な戦力が投入され、近い将来、皇国は第三文明圏の地図から消滅することになるかもしれません。」
マイラスは、帰国間際に購入した本のことを思い返しながら発言する。その本とは『別冊宝大陸 特集!自衛隊対パーパルディア皇国軍が衝突するとこうなる!?』というタイトルであった。その本の最終章では、皇国が『特殊生物を用いたテロ主導国家』、通称『特テ国』として認定された場合、『スーパーメカゴジラ改』や『MOGERA改』といった超兵器群が、皇国の人工魔獣殲滅のために投入される可能性についても記載されていた。
「今後、第三文明圏は日本国を中心とした勢力圏へと大きく変貌することになるでしょう。それを見越し、我がムー連邦は今まで以上に日本国との関係を強化し、かの国の技術や知識を取り入れていくことが重要だと考えます。少しでも早い段階でから対応することで、長期的に見て、我が国は技術的にも経済的にも『神聖ミリシアル帝国』を超える事が出来るのではないでしょうか!」
『ムー連邦』としてもこの世界における第二位の列強国として、日本国が転移してくるまでは唯一の科学技術国家であったプライドがある。しかし野心をむき出しに、第二文明圏を蹂躙し続ける『グラ・バルカス帝国』の脅威に晒されていることも事実である。
そもそもグラ・バルカス帝国については、本国の位置すら把握できていない状況であったが、つい先日、在日ムー大使館に勤めるユウヒ外交官から目を疑うような中身の郵便物が到着したことで、好転する。
封筒のなかには、第二文明圏があるムー大陸周辺を撮影した超高鮮明な写真が同封されており、その画像には第二文明圏があるムー大陸の西方約5000キロメートルの海域に大き目な島が映っていた。この海域にこれほど大きな島があったという報告は一度もなく、おそらくこれがグラ・バルカス帝国の本国であることが容易に想像できた。
同封された手紙によると、数日前に日本国政府から旧アルタラス王国に建設した空港の使用・改造許可について相談があった際、アルタラス島周辺の高精度な航空写真を見せられたらしい。日本国の説明によると、宇宙へ打ち上げた人工衛星を使うことで、航空写真とは桁違いに精巧な地表写真も撮影できるようであった。
本格的な戦争へ発展してしまったパーパルディア皇国の勢力圏を迂回するため、新たな航路について協議を実施した際、ムー大陸周辺の衛星写真を要望してみたところ、あっさり複写(カラーコピー)したものを提供されたとのことであった。
さらに『ムー連邦』に対する『新世界技術流出防止法』の一部緩和も検討され始めており、先ほどのプロジェクターもその一環であったようだ。
ムー連邦上層部はこれらの背景を踏まえ、日本国との関係性をさらに強化していく方針を決定。かねてから検討されていた日本国との経済協力協定の締結に同意し、第一弾として『商業都市マイカル』の湾港設備を超大型貨物船の停泊が可能なスケールまで強化、また空港についてもジャンボジェット機クラスの大型航空機が運用できるよう大改造が実施され、日本との直通便が開設される運びとなった。
これにより、商業都市マイカルには最新鋭の設備が導入された現地工場や大型商業施設が立ち並ぶこととなり、ムー連邦の中でも指折りの大都市として発展していくのであった。
このように現存する四か国の列強国のうち、二か国は日本国の真の力を早々に見抜き、列強国としてのプライドを抜きにして友好的な関係を構築することが出来た。
その一方、世界最強国家としてのプライドから対応が遅れてしまったもの、また列強国という高すぎる自尊心のために盲目的になり、アクセル全開で破滅へと突き進んでしまう対照的な国も存在するのであった・・・。