4月11日
ガタン、ゴトン、と。
電車が定期的に伝える音を、キミはやや鬱陶しく思いながら聞き続けていた。
何で電車というのはもっと静かに走れないのだろうか。せっかく窓際の端っこ、寝るには絶好の場所を確保できたというのに、時たま来る振動、響く音が自分が寝ようともたれかかった窓から直接頭に伝わってくるせいで意識は夢と現の間でくすぶったままだ。
何か持ってくれば良かった、と今更ながらに後悔しつつあるが、もう遅い。粗方重要なものは段ボールに入れて送信済み……手元にあるのは最低限の小物と衣服だ。
そもそもキミは自分がそんな片手間を何かで潰す様な事をあまりしない事を思い出し、少し溜息を吐く。目的地まで眠れば済む問題などと気楽に考えていた電車に乗る前の自分をぶん殴りたいと何となく思う。
それでも暇な事に変わりはない。仕方が無いので、今自分が向っている場所について考える。
稲羽市、八十稲羽駅。
この列車は、キミが昨日まで住んでいた町から大した距離は無い場所に向かって進んでいる。
理由は単純、転校だ。
転校の理由もまたつまらないもので、この春休みにキミは「ほんの少し」暴れすぎてしまった事により、転校をするべき状況となった。それだけの事。
そしてその様な時に限って両親は転勤が決定。色々と話し合った結果、稲羽市にいる父親の知り合いの家に1年ほど、居候する事が決まったという訳だ。
「……くだらね」
思わずぼそっと呟きながら、キミは外を眺める。田んぼや遠くの山のシルエットが多くを占めるその景色は、自分が田舎に向かっているのだとキミに認識させる。
今回の事で不良という名のレッテルは確実となった事だろう。間違ってはいない、だって気に食わない事を拳で解決しようとするのは事実なのだから。ちょうど、この春休みの様に。
どうしようもない人間?そうと言われれば、間違いなくそうだとキミは答える。だがそれを変えるつもりもあまりない。
そうやってあっさり変われたら、人生苦労しないだろうし、何よりこの世の中とやらも、もう少しマシになるんじゃないか。キミはそう思っているのだった。
『……羽、八十稲羽。間もなく八十稲羽、終点です』
程なくして、キミの耳に朗報が届いた。考え事をしていたら、やはり何だかんだで時間は過ぎ去ってくれるらしい。
棚の上に上げておいた荷物を下ろし、肩にかけて抱える。無いとは思う忘れものの存在を確認した後、キミは列車を降りて八十稲羽の地を踏みしめた。
「……何も無いな」
それが改札を出たキミの第一声だった。
桜の景色は綺麗だと思ったが、それだけだ。情緒だとか、そんな類のものはあまり君と縁が無い。
改めて田舎、という言葉を実感する。
辺りを見回す。
パッと見、キミの視界に移るのは黒髪の少女だけ。
田舎とはちょっと不釣り合いな服装だと感じたは良いが、すぐにキミは興味を失った。
ここに迎えが来ると聞いている。解りやすいように、もうちょっと前に歩いておこうかと思い、脚を動かす。
と。
そんなキミの足元に、紙切れが風に吹かれて飛ばされてきた。
くすんだ様子も無く、まだ白く見えるのを考えると、ついさっき落ちたばかりだろうか。
そう考えると、キミは屈んで紙切れを拾い上げた。
「あ、すいません、それ……」
後ろからの声に振り替える。
黒がかった茶髪の女子が鞄を抱え、キミを見ていた。
澄んでいてどこかクールさを感じさせる瞳に、整った怜悧さをどことなく醸し出す顔立ち。
女子云々には疎いキミでも解る、いわゆる美少女という奴だった。
「……君の?」
メモを示しながら聞けば、少女はこくりと頷く。
渡せば、その少女はありがとうございます、と頭を下げて歩き去って行った。
「……何じゃこりゃ」
思わずキミはぼやいた。
ものを拾ってお礼される事なぞ、普通は無い。
それがこんな引っ越してきた日に起こるものなのだから、余計に困惑する。
そんな「たまたま」にキミは苦笑しながら、再び足を動かそうとした。
「……ねぇ」
そんな時だった。
キミはまた声をかけられ、反射的に振り返った。
黒髪の少女。
先程君が目の端で捉えていた女の子だった。
その顔を見て、またキミは一瞬戸惑った。
背中を向けた姿しか見ていなかったからこそ解らなかったが、この子もまた美人だったからだ。
何より、間近で見ると解る白い肌と、透き通るような瞳が綺麗だと、キミは感じた。
「落ちたよ、これ」
その子が持っていたのはメモ用紙を適当に折りたたんだもの。
キミが家を出る際に、両親が念の為にと無理やり持たせてきた連絡先などが記されたメモだった。
おそらく、さっき屈んだ際に鞄の外側の適当に突っ込んだ部分から落ちてしまったのだろう。
「……ありがとう」
「別に良い、拾っただけだから」
思わずぶっきらぼうに礼をしてしまったキミだが、少女もそっけなく言葉を返し、そのまま歩き去ってしまう。
「……何だこりゃ」
まぁ、キミがそうやって呟くのも無理はないだろう。
引っ越した日に、落としたものを拾い、拾われ。
関ったのは両方美少女。
ラノベじゃないんだから、とも言いたくもなるだろう。
「おーい、こっちだ」
見れば、少女と手を繋いでいる男性が片手を振っている……迎えとは、あれの事だろう。
キミは鞄を担ぎ直し、メモを突っ込むと、歩みを進めた。
さぁ。
キミの物語は、こうして始まる。
結局TRPGクロスオーバーに戻ってくる私なのであった。
お久しぶりの方は、お久しぶり。
初めましての方は初めまして。
ドラゴマキナでございます。
P4Gアニメ化、毎週楽しんでおります。
それを記念(?)し(遅くね?)、この物語を始める事と相成りました。
相変わらずのクォリティでございますが、どうか見守っていただければ幸いでございます。