しすこん・ざ・ろっく!   作:そるるん

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始めまして。

ぼっちちゃんに兄貴がいたらという妄想から執筆してみようと思いました。

楽しんで頂けたら幸いです。


01『JUST ONE LIFE』

 

 

「お兄ちゃん。ど、どうかな? 今日の私、すごくバンド女子っぽくない?」

 

 

 気恥ずかしそうに俺にそう尋ねてくるのは、妹の後藤 ひとり。

 今日のひとりの格好は髪色と同じいつものピンクのジャージ姿。

 だけど、今日のひとりはそれだけじゃない。

 

 

 両腕には大量のラバーバンド。

 手提げの鞄には大量の缶バッジ。

 その鞄から少しだけ覗いている複数のバンド雑誌。

 背中に背負われているギターケース。

 

 

「只者じゃない感が半端ない……! これなら、私みたいな芋女がライブハウスに行っても、違和感が無いはず!? あ、もしかしたらそのライブハウスに偶々有名なレーベルの人とかが居て───」

 

 

「あー、はいはい。ひーちゃん。また自分の世界に入り込んでるから、一旦落ち着こうな。今日見に行くライブハウスは小さな箱だし、そんな奇跡万が一にでもねえからな」

 

 

 自分の世界にトリップしてしまったひとりに声をかけ、現実に引き戻す。慣れたけど、毎度毎度、会話をする度にトリップするのはいい加減自重して欲しいものだ。

 

 

「はっ!? ごごご、ごめん! お兄ちゃん! 私また自分の世界に……」

 

「いや、大丈夫だよ。もう慣れてるし。それよりも、ひーちゃんのその格好の事だけど……」

 

「やっぱり、CDも持ってった方がいいかな!? もっとバンド好き感を前面的に押し出すべき?」

 

 

 自信満々にニコニコと俺にそう語ってくるひとりは『おめえの話なんて聞く耳持たねえから!』という感じだった。可愛い。

 しかし、残念ながら俺はひとりに無情な事を伝えねばならない。

 

 

「今日もひーちゃんは可愛いなあ……じゃなくて、そのバンド女子設定に拘る理由が分かんないけど、とりあえずその大量のラバーバンドとバッジは外しなさい」

 

「え"っ!? な、なんで!?」

 

「いや、何でって、ラバーバンドとバッジの量、明らかにおかしいだろ!」

 

「え、だ、だってネットにライブハウス見に行く人達ってバンドのグッズを身に着けて行くって書いてあったから……」

 

「いや、その認識は間違いじゃない、けど! 限度ってもんがあるでしょうが!」

 

 

 その後、何故か渋るひとりからラバーバンドとバッジを無理矢理剥ぎ取ったのであった。

 

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 

「今日見に行くライブって、お兄ちゃんの知り合いの人達のバンドなんだよね?」

 

「ああ、そうだよ。知り合いっていうか、クラスメイトなんだけどね」

 

 

 最寄りの駅へ向かう道中、俺の服の袖を掴み少し不安な表情でこちらを見あげるひとりがそう聞いてきた。うわ、くぁわいいいいい!!! 

 

 そう、今日のライブで俺達の目当てのバンドは、俺の通う高校のクラスメイトのバンドなのだ。バンドメンバーはクラスメイト2人と、他校の後輩1人の所謂3ピースバンド。

 クラスメイト2人とはそれなりに親交が深い為、そのよしみで今回、ライブを見に来て欲しいとチケットを渡されたのだ。

 

 それなら、どうせならと、以前からギターを弾いており、バンドに興味を持つひとりの為、もう1枚チケットを頂戴したのだった。

 

 

「うう……お兄ちゃんの知り合いとは言え、や、やっぱり知らない人と会うのは、き、緊張する〜……」

 

「うーん、人見知りが激しいひーちゃんには少ししんどいかもしれないけど、大丈夫だよ。あいつらすごく良いヤツらだから」

 

「い、いや、別にしんどいとかそういう事はないから大丈……いや、待てよ? そもそもライブハウスって沢山人がライブを見に来る場所だよね? 沢山の人……狭い箱で……沢山の人……」

 

「ひーちゃん、顔色悪いけど本当に大丈夫か……? やっぱり人の多いところがしんどいなら、無理して見に行かなくてもいいんだぞ?」

 

「……ううん。大丈夫。せっかくお兄ちゃんが私の為にライブのチケット取ってきてくれたんだもん、そ、それに、今さら見に行けませんって言うのも、そのバンドの人達にも悪いから……少し辛いけど、私が、頑張る!」

 

 

 表情は強ばったままだが、ひとりはそう言うとガッツポーズを取った。

 まあああああああああ!!!! なんて健気でいい子なんだ!!! 俺の事だけじゃなく、ちゃんと俺のクラスメイトにも配慮出来るなんて!!!

 

 

「ひーちゃん、俺が絶対幸せにしてあげるからな!」

 

「え……? う、うん……?」

 

 

 俺の発言の意図が分からないのか、首を傾げ返事をするひとりを見て、また理性をぶっ壊しかける俺なのであった。

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 電車に揺られること、約2時間。下北沢駅で下車した俺達はいよいよ目的地であるライブハウス『STARRY』へと寸での所まで近付いていた。

 

 

「あ、うぅ……ひい!? ひ、ひひひ人がいっぱい! こ、こここ怖い!?」

 

 

 今日は5月の大型連休ど真ん中という事もあり、下北沢は人の喧騒と雑踏でごった返していた。

 俺にくっ付いているひとりが、人の多さに戦慄しているのを宥めつつ、少しずつ『STARRY』へと歩を進めていく。

 

 

 現在時刻は午後16時、ライブハウスの開場が17時からで開演が18時からと聞いているので、時間にはまだ大分余裕がある。

 駅から『STARRY』まではおよそ5分程度なので、ひとりとゆっくり歩いて行っても十分に時間にあまりが出来るだろう。

 

 

「そ、そう言えば、お兄ちゃんライブハウスの場所知ってるの?」

 

「ああ、知ってる。実は何度かお邪魔させてもらったことがあるんだ。だから駅からの道のりも知ってるし、何ならそこの店長さんやスタッフさんとも顔見知りだよ」

 

「お兄ちゃんって意外に人脈広いんだね……」

 

「うん? そんな別に大した事じゃねえよ。偶々、俺のクラスメイトの家がライブハウスなだけで、そこの店長がそのクラスメイトのお姉さんなだけだから、まあ、色々あってそこのスタッフさん達に何度かお世話になったんだよね」

 

「……私はクラスメイトと会話すら出来ないから、人脈を作ることすら出来ないのに……ああ、私ってやっぱりダメ人間なんだ……これから先もきっと、人との繋がりなんか作ることが出来ずに、社会という荒波に飲み込まれて、一人孤独にひっそりと誰にも気付かれずに人生をフェードアウトしていくんだ……」

 

「ひーちゃん!? ここで一人の世界に入り込むのはやめてくんないか!?」

 

 

 その後、駅の隅っこの方でひとりが落ち着くまで宥め続け、ひとりが元に戻ったのはそこから更に10分後の事だった。

 

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

「──さて、着いたぞ。ここが今日の目的地、ライブハウス『STARRY』だ」

 

「……魔境?」

 

 

 駅前の通りをひとりにがっちりと背中からホールドされながら歩く事5分、俺達は遂に目的地である『STARRY』へと到着した。

 着くや否やひとりが何やら失礼な事を口走った気がするが、ここに来るまでのひとりの頑張りに銘じて聞かなかった事にしておこう。

 

 

「……ここまで来てなんだけど、ひーちゃん本当にいいのか?」

 

「うん、大丈夫……では、ないけど、ここまで来たら後にはもう引けないから……そ、それに今はお兄ちゃんが一緒にいるし……!」

 

「う、ふぉう……よ、よし、なら早速中に入ってみるか! きっと今なら俺のクラスメイトも中に居るだろうし」

 

 

 あ、危なかった……また、理性が崩壊する所だった。

 ひとりの純真さズルすぎるだろ。こんなん可愛すぎて理性がマジで持たねえよ。

 

 俺はライブハウスの扉に手を掛ける。いつもは友達の家に行く感覚で行っていたので、何も感じなかったが、今回改めて客として入ると考えると、謎に緊張が芽生えてきた。

 隣で緊張が伝播したのかひとりが固唾を飲むのが分かった。

 

 よし! 開けるぞ! なんて事ない、何時も通り軽い気持ちで扉を押せばいいだけだろ! そう、こんな感じ────に? 

 

 

「うおおお!?」

 

「え!? きゃっ!?」

 

 

 俺が扉を押そうとした瞬間、扉が勢いよく開き、俺はそのまま前のめりに倒れ込んだ。どうやら、向かい側で誰かが扉を開けたらしい。痛いし、すげえ、恥ずかしい。

 前のめりに倒れたのでひとりの顔は見れないが、恐らく驚いた表情をしてるんじゃないだろうか。

 

 

 うん。とりあえず、立とう。

 扉の向こうに居た人も、俺が突然倒れ込んで来て驚いてたみたいだったし、ちゃんと謝罪しないと。

 

 

 そう思い立ち上がって、扉の向こうの人物に顔を向けた。

 扉の向こうに居た人は驚愕の顔をしていた。

 その時の俺も同じような顔をしていたと思う。

 何故ならその扉の向こうに立っていた人物は───

 

 

「……え? 零人くん?」

 

「に、虹夏……」

 

「……あ、お兄ちゃん、だ、大丈夫?」

 

 

 俺のクラスメイトの一人で、今日のライブに出演予定のバンドのメンバー伊地知 虹夏だったのだから。

 

 

 

 あと、ひーちゃん、俺の心配してくれてありがとう。すち。

 

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 

「ええ!? ギターの子が逃げた!?」

 

「そうなの……今日は本番だから集合時間を少し早めにして、全員でリハする予定だったんだけど……」

 

「集合時間を過ぎても、その子が現れなかったと?」

 

「そう! それでその子に連絡も入れてみたんだけど、音信不通で連絡が着かなくて……このままじゃ、ライブが出来ないし、そんなの嫌。だから──」

 

「代わりのギターを探す為に外に飛び出したら、今到着したばかりの俺達と鉢合わせしたって事か」

 

「そー! いやー、びっくりしたよ〜! まさか扉を開けたら人が倒れ込んでくるんだもん。しかも、その人が超顔見知りだったっていう」

 

「何が驚いただよ。お陰で俺も妹の前で恥晒しちまったじゃねえか」

 

 

 あはは〜ごめんね〜。とバツが悪そうにする虹夏にそう言葉をぶつける。

 すると虹夏の興味は今度は俺ではなく、俺の背中に隠れていたひとりへと向いた。

 

 

「そーいえば、零人くんの背中にずっと張り付いてるその子が妹さん?」

 

「おー、そうだぞ。ほら、ひーちゃん。俺の背中に隠れてないで挨拶しなさい」

 

「ぇ……あ……ぴぃ……」

 

「え? ひーちゃん何て?」

 

「えっと、始めまして! わたしは下北沢高校2年の伊地知 虹夏です! 零人くんとは同じクラスメイトなんだよー。よろしくね!」

 

「……あ、ご、ごごご後藤ひひひ、ひひとりです!! 秀華高校1年です…… あ、あああ兄の後藤 零人がおおおおお世話になってましゅ……」

 

 

 朗らかで元気な声で自己紹介を済ました虹夏に続いて、声量のバランスがぐちゃぐちゃになっているひとりが自己紹介を済ました。兄の事まで言えるなんて偉いぞー。後、最後噛んでたのすごく可愛い。

 

 

 ちなみに後藤 零人(れいと)というのが俺の名前だ。

 

 

「そんなに固くならなくても大丈夫だよ。よろしくねひとりちゃん! ところで、ひとりちゃんが背負ってるそれって……もしかしなくてもギターだよね?」

 

「あ、はい……一応ギターです」

 

 

 虹夏がひとりの背中に背負うギターを指差しながらそう言うと、ひとりも、たどたどしく、それに応じた。

 そうひとりは何故かギターを背負ってこの場にやって来ていた。ラバーバンドとバッジを無理矢理剥ぎ取った後、ギターも部屋に置いてくるように言ったのだが。

 

 

『ギ、ギターだけは、どうかご勘弁を! こ、これがあれば、今日は何とか頑張れそうな気がするから! お願いします! どうかライブハウスに持っていかせて下さい!!』

 

 

 と、ひとりも土下座をしながら俺に言ってくる物だから渋々OKを出した訳だ。いやマジでこれに関しては俺にも意味が分からんかった。

 まあ、当然、この状況だ。今や猫の手だろうが陰キャのギタリストだろうが何でも借りたいと思うのが虹夏の心理だろう。

 という事は流れ的にこれは、もしかして……? 

 

 

「……ねえ、ひとりちゃんってギター弾けるの?」

 

「……? あ、そこそこ、かと思い……ます」

 

「そっかー、なるほどね〜……ふむふむ……」

 

「え、えと、あ、あの? 虹夏……ちゃん?」

 

「よし! 思いっきって言っちゃおう! ひとりちゃんお願い! 今日1日だけでもいいから、サポートギターしてくれないかな!!」

 

「え……え……? え、ええええええええええっ!!!!?」

 

 

 虹夏の突然のお願いに思わず大声を上げるひとり。

 

 

 いやー、やっぱりかー。まあ、そうなるよね。

 ギターの子が逃げたと思った矢先に突然目の前に現れたギタリストを目の当たりにすれば、虹夏の行動も至極当然だと思う。

 

 

 はてさて、上手く行けば、ひとりの夢も願ったり叶ったりな訳だけども、ひとりは一体どうするのかな? 

 

 

 

 




原作から大分改変してしまいました。

まずライブの日が5月の大型連休中という事にしました。現実と同じGWですね。

そこから、ぼっちちゃんが兄貴と一緒に『STARRY』までライブを見に行くという展開にしてみました。


次回も乞うご期待。


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