しすこん・ざ・ろっく!   作:そるるん

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大変お待たせしてしまいました。


今回文字数多めです。



11『My World』

 

 

 

「……お願いします。お兄様。この愚図で何の使い物にもならない脳みそを持つ哀れな妹をどうか……! どうか!! お助け下さい……!!」

 

 

 

 時刻は夕方。

 俺の自室にやってくるなり、見事な土下座と命乞いを披露している哀れな少女は誰でしょう? 

 

 

 そうひとりです。

 

 

 昼間に俺達がひとりの部屋から追い出された後、ひとりは作詞をするから……と俺達にそう告げ、そのまま部屋に閉じ籠ってしまった。

 …………閉じ籠った筈だったのだが、現在、そのひとりは何故か俺の部屋にやって来ており、それどころかこうして俺の目の前で土下座をして助けまで求めて来ている。

 

 

 昼間はあんなに手を差し伸べられる事を拒んでいたのに、今はそれが一転して、まるで正反対な態度をとるひとりだが、これにはきちんと理由がある。

 

 

 きっかけは、つい先程届いたばかりのロインだった。

 差出人は虹夏で、内容は『明日の15時に下北沢駅に全員集合!!』という物だった。

 

 

 このロインを受け取ったひとりは、まず作詞が全然上手くいっていない事を危惧したそうだ。

 そして、次にひとりが想像したのは、調子に乗った上に全然歌詞を書き上げてこないひとりにシビレを切らした虹夏がブチ切れている図。

 そこから更にひとりの妄想は膨らみ続け、最終的には結束バンドのメンバーに吊るし上げられ全員から糾弾されるという結末に辿り着いたらしい。

 

 

 

 いや、ひとりの妄想する虹夏達、鬼畜過ぎんだろ。吊し上げなんて一体いつの時代の話だよ。

 まあ、明日何をするのか詳細も目的も書いてない虹夏も虹夏だけど。

 

 

 

 ……それでまあ、そういう訳で、作詞の目処が未だに立ってない事に危機感を覚えたひとりは、助けを求めて俺の自室にやってきているのだった。

 

 

 

「とりあえず、ひーちゃんは頭を上げて……土下座なんかしなくたって、俺は存分にひーちゃんの力になるつもりだからな?」

 

「うう……お兄ちゃん優しい……ありがとう……」

 

 

 ひとりに優しく声を掛け、土下座を辞めるように促すと、ひとりは顔を上げ目元に涙を浮かべながらそう答えた。

 

 

 

 はあっ!?!?!?!? ちょっと俺の妹可愛すぎなんだが!?!?!?!? 

 

 

「…………んで、作詞に行き詰まってるって話だったけど、進捗はどんな感じなんだ?」

 

 

 ひとりのあまりの可愛さに昂る気持ちを何とか抑えつつ、ひとりに作詞の進捗状況を尋ねてみる。

 すると、ひとりは俺の部屋に来る時に一緒に持って来ていた歌詞ノートを手に持ち俺に差し出してきた。

 

 

「えっと、実は……ほとんど歌詞は、完成してて……」

 

「いや、完成してんのかいっ!」

 

 

 ノートを受け取る際ひとりはそんなことを言った。

 何と衝撃の事実。

 一週間作詞に悩んでいた妹、既に歌詞を完成させていた。

 

 

「あれ、なら一体何に悩んでるんだ?」

 

 

 思った事をそのまま口にする。

 実際その通りだろう。俺はてっきり一行も書けてないから相談に乗って欲しい。みたいなことばかりだと思ってた。

 俺の口にした言葉を聞いて、ひとりは申し訳なさそうに肩を竦め、俯き、俺から顔を逸らした。

 

 

「えと、一応完成はしてるんだけど、その可笑しくないかなって……ほ、ほら! 私、作詞なんて初めてやったし、ちゃんと書けてるのか自信がなくて……」

 

 

 ひとりは本当に自信が無いのか徐々に声の大きさが小さくなっていった。

 

 

「なるほど。つまり……もし、虹夏達にこの歌詞を見せて気に入って貰えなかったら、自分は袋叩きに合うかもしれない、だから、そうなる前にまずは俺に確認してもらって、虹夏達に見せても大丈夫かどうか判断してもらいたい。こういう事だな?」

 

「あ、え!? そそそ、そうだけど、何で!? 何で私の考えてる事が分かるの!?」

 

「そりゃー16年もひーちゃんの兄貴をやってたらね。ひーちゃんの思考を読み取るなんて造作もねえよ」

 

「そんな当たり前だろみたいに言われても普通に怖いんだけど……」

 

 

 ひとりはドン引いた顔をして俺を見てくる。えー、別にこれくらいの事、世の中の妹や弟を持つ兄貴姉貴には出来て当たり前だと思うんだけど? なあ、世の中の兄貴姉貴諸君? 

 

 

 ひとりを引かせてしまったことに反省しつつ、俺はようやくひとりから受け取った歌詞ノートに手をかける。

 

 

「それじゃあ、歌詞見せてもらうけどいいよな?」

 

「う、うん。お願いします……」

 

 

 ひとりの許可を得たので俺は早速歌詞ノートを開く。

 ふむふむ、こ、これは……!! 

 

 

「……ど、どう?」

 

「そうだなあ……個人的にはこの真ん中のサインが可愛らしくて好きかなあ」

 

「……え、さ、サイン?」

 

 

 俺はノートを捲って最初のページに書かれていた沢山のサインの一つを指さして感想を述べた。

 それを聞いたひとりは驚いた様子で俺の持つノートを覗き込んで

 

 

「こ、このページじゃないよ!? その次、次のページだからぁ!?」

 

 

 顔を真っ赤にして焦った様子でそう言った。可愛いなあ。

 俺はそんなひとりに苦笑いを浮かべながら、ひとりの言う通りにページを捲る。

 そのページには大量の文字が羅列されており、今度こそひとりの書いた歌詞と対面することとなった。

 

 

「これは……応援ソングか?」

 

「う、うん。最初は青春ソングにしようと思ったんだけど……何も言葉が思い浮かばなくて……」

 

「青春…………まあ確かにひーちゃんとは無縁なものだもんなあ」

 

「ぐはっ!?」

 

 

 俺の何気ない一言がひとりの精神に多大なダメージを与えてしまったようだ。

 口から緑色の液体を流しながらビクンビクンとしている。この姿はあんまり可愛くない……

 仕方ない、ひとりの意識が戻るまでの間に残りの歌詞を全部読んでしまおう。

 

 

 

 

「んはっ!?」

 

「あ、おかえり。ひーちゃんが意識飛ばしてる間に歌詞読んどいたから」

 

「え……? あ、ありが……とう……?」

 

「うん。どういたしまして……それで、早速歌詞のことだけど」

 

「あ、うん。ど、どうだった……?」

 

 

 ひとりは不安そうな顔をしながらそう問いかけてくる。

 その問いかけに俺は返事をする。

 

 

「悪くは無いんじゃないか? 初めての作詞なのにここまで書けるなんて普通に凄いと思うぞ」

 

「す、凄い…………? えへへへへ……そ、そっか凄いのかあ……やっぱり私には作詞の才能があるんだろうなあ……!」

 

 

 素直に思った事を伝えてやると、ひとりはニヤニヤとしながらすぐに調子に乗り始めた。

 うーん、可愛い。

 ただ、残念ながら褒めることだけじゃないんだよなあ。他にもこの歌詞を読んで思ったことがある。

 

 

「ただ、この歌詞なんかひーちゃんっぽくないよね」

 

「あ、え? わ、私っぽくない……?」

 

「……そのなんて言うか、ひーちゃんにしては歌詞が明るすぎるよなーって」

 

「うぐっ……」

 

「てっきりもっと陰気で暗い歌詞を書くのかと思ってた」

 

「あぐっ……!?」

 

「あと、この歌詞何か内容が薄っぺらいような……」

 

「がはあっ!?!?!?」

 

 

 俺のダメだし三連発を聞いたひとりは、苦しそうに胸を押さえつけたまま体を大きく仰け反った後、その場で一気に床に倒れ込んだ。

 あ、やばっ。もしかして、また気絶させてしまったか!? 

 

 

「あ、ああ……うう……」

 

 

 よかった。

 今度はちゃんと意識があるみたいだ。

 褒めるべきところはしっかりと褒めてはやるけど、ダメだと思ったところもきちんとダメだしはしてやらねえとな。

 褒められて調子に乗った結果、現在進行形で痛い目を見てるんだから、褒めすぎも良くないんだなと今回の事で俺は学んだ。

 これからはひとりの教育方針は厳しく、飴と飴と飴と飴と鞭と飴くらいの塩梅でやっていこうと思う。

 

 

「うう……わ、分かってはいたけど、実際に面と向かって言われると結構キツイ…………」

 

 

 不意にひとりが俺から体を背けて横向きに寝転んだままそう呟いた。

 うん? 今分かってたって言ったよな? 

 

 

「ひーちゃん、自分の歌詞に違和感があったこと気づいてたんだ?」

 

「……うん、自分で書いてて明るすぎるなって思いながら書いてたよ。途中拒絶反応で何度も気持ち悪くもなったし……」

 

「そ、そうか……」

 

 

 そりゃ、そうか。

 明るい歌詞は下手をするとひとりの青春コンプレックスを刺激することになる。

 書いてるうちに何度も発動したんだろうな青春コンプレックス。

 

 

「暗い歌詞だったらいくらでも書けるけど、私一人のバンドじゃないし、アクの強いバンドになるのも皆望んでないはず……」

 

 

 ひとりは仰向けになると、天井を見つめながらそう言った。

 

 

「かと言って、私みたいな陰キャに青春ソングとか応援ソングみたいな明るい歌詞書けるわけがないと思って、それで明るい人間になりきろうと思って喜多さんの真似事をしてみたりして……」

 

「昼間のあの奇行は…………そういうことだったのか…………」

 

 

 あれ喜多ちゃんの真似してたのかよ。ひとりが放つ陰キャオーラに惹かれて寄ってきた悪霊に取り憑かれたのかと思って、家族総員で心配したんだからな。

 

 

「で、でも、やっぱりお兄ちゃんに相談してよかった…………やっぱり今の歌詞のままじゃ中身が薄っぺらく感じるし、もっと内容が濃くなるように、また一日使ってよく考えてみるね」

 

「……ひーちゃん」

 

「あ、今度はもっとちゃんと喜多さんになりきらないと…………いや、喜多さんじゃ陽キャ成分がまだ足りない? 喜多さん以上に陽キャな人の動画を見てもっと研究を…………」

 

「いや、それ絶対努力の方向を間違えてるから!? マジで心配になるからなりきるのはもうやめな!?」

 

 

 あの光景見ていて軽くトラウマになったし、あの地獄を繰り返すのだけは本当にやめて欲しい。

 

 

「それじゃあ、ありがとうお兄ちゃん。私、また押し入れにでも篭って歌詞考えてみるね……」

 

「ひーちゃん、ちょっと待って」

 

 

 用は済んだからとそそくさと俺の部屋から出ていこうとするひとりを呼び止める。

 俺の呼びかけにひとりは部屋のふすまに手をかけたまま、こちらを振り返った。

 ここでひとりを部屋に返してもきっと状況は何も変わらない。なら、この状況をガラッと変えるそんな一手をそろそろ投じるべきだろ。

 俺はひとりと会話をしながら考えていたその一手をひとりに伝えた。

 

 

 

「明日、その歌詞ノートを皆に見せよう」

 

「ええええええええええええっっっ!?!?!?!?」

 

 

 ひとりの驚きの声が部屋中に響き渡った。

 

 

 

 △ ▼ △ ▼

 

 

 

 そして、迎えた翌日。

 俺とひとりは虹夏の指定した時間通りに下北沢駅までやって来た。

 駅前には既に俺とひとり以外のメンバーが集まっていた。あ、いや、俺はメンバーじゃないんだけどね…………

 

 

 そうして虹夏達に合流した直後、早速ひとりがやらかした。

 

 

「ゆゆゆ、許してくださいっ!!!」

 

「後藤さん!?」

 

「いきなり何っ!? どうしたの!?」

 

 

 喜多ちゃんと虹夏が驚きの声を上げる。

 驚くのも無理は無い。だって、到着するや否やこの子いきなり土下座を始めるんだもん。

 二人の声を受けて顔を上げるひとり、首からはいつの間に取り出したのか『私は約束通り歌詞を書き上げられませんでした』と書かれたフリップを提げていた。

 

 

「調子に乗った癖に全然歌詞を書き上げてこない私を吊るし上げる会なのでは……?」

 

「そんな外道な事しないよ!?」

 

 

 虹夏が呆れたようにそうツッコムとひとりは安堵したのか「で、ですよね〜……」とぎこちない笑顔を作りながら答えていた。

 まだ、そんな事考えてたのかよ……

 

 

「それで虹夏。貴重な休日の最終日、それもこんな時間に態々呼び出しといて一体なんの用事だ?」

 

「めっちゃたっぷり嫌味を言うね!? いや、確かに悪いなとは思ってるけどさ」

 

 

 当然だろ。こっちは遠路遥々2時間も掛けて来てるんだ。

 正午過ぎに家を出て、到着したらこの時間だぞ。

 これで大した用事じゃなかったらちょっとキレるかもしれない。

 

 

「今日、皆に集まって貰ったのはね。じつはまだ合ったんだよ。バンドらしい事」

 

 

 虹夏はそう言うと親指と人差し指を使ってカメラのような形を作り、カメラマンの様に撮影する真似事をすると

 

 

「アー写を撮ろう」

 

 

 そう言った。

 

 

「アー写って、アーティスト写真の事だっけ?」

 

「そ! 4人揃ったし皆の都合が合う今日この時間に撮ってしまいたいなって思ってね。だから急に誘ってしまったのは本当に悪かったよ〜! 皆ごめんね!」

 

 

 アー写と言われ首を傾げるひとりに変わって俺が虹夏に尋ねると、虹夏はそう答えてくれた。

 なるほど、また急な招集だなとは思ってたけど、そういう事情があったのか。

 

 

 その後も虹夏はアー写について色々と説明をしてくれた。

『アー写はバンドの方向性やメンバーの特徴を写真一枚で伝える大切な物』だとか『ライブハウスのサイトやフライヤーや雑誌、どんな媒体で使われてもインパクトが残ることが大事』だとか。

 俺はその話を感心しながら聞いていた。

 確かに言われてみたらアー写って一目見ただけで「あ、この人達はこういう雰囲気の曲を歌いそうだな」みたいなのが伝わってくるかもしれない。

 

 

「あれ、じゃあこの間のライブの時もアー写撮ってたのか?」

 

 

 ふと気になったので虹夏に聞いてみる。

 ひとりが完熟マンゴーを被って出演したあのライブの時の話だ。

 俺がその話題を振った瞬間、虹夏は苦笑いをし、その隣に立っていた喜多ちゃんは肩をビクッと震わせていた。

 

 

 あっ……(察し)

 

 

「一応、ライブ前に撮ったのはあるけど……見る?」

 

 

 虹夏にそう言われ俺は一度喜多ちゃんに視線を移す。

 喜多ちゃんは何かを察して欲しそうに首を小刻みに横に振っていた。

 

 

 よし。

 

 

「頼む、虹夏。見せてくれ」

 

「おっけ〜」

 

「ちょ、後藤先輩!?」

 

 

 確か、前のライブ逃げたギターの子が居たよなあ!? 

 その時撮った写真なんて絶対面白いに決まってる。そんなの見ないなんて事ある訳ないよなあ!? 

 

 

 虹夏はスマホを取り出すと俺達に例のアー写を見せてくれた。

 そこに映っていたのはピースサインを作って前に突き出した笑顔の虹夏と、壁にもたれて相変わらず気だるそ……クールな雰囲気を醸し出しているリョウ。

 そして、写真の左上、まるでクラスの集合写真を欠席したせいで撮影出来なかった生徒のように、丸い楕円の中に真顔の喜多ちゃんが映っていた。

 

 

「うわあ……これは確かに酷いアー写だな……」

 

「あはは……ほら、喜多ちゃん逃げちゃったから……」

 

「ぅぅ……ご、ごめんなさいっ!!」

 

 

 本当に申し訳なさそうに涙目になりながら喜多ちゃんは俺達に謝罪した。

 ……ちょっと意地悪しすぎたかな。

 まあ、でもこれに懲りたらもう二度と皆を裏切るような事はしない事だ、あっはっは。

 

 

 

 

 

「先輩の意地悪…………」

 

 

 

 小さく消え入りそうな声だったが、はっきりと聞こえたそれは、俺を後ろめたい気持ちにさせるには十分だった。

 

 

 いや、ごめん。マジで

 

 

 △ ▼ △ ▼

 

 

 

 さて、こうして始まったアー写撮影会。

 撮影場所はここ下北沢の様々な場所で行われた。

 公園だったり、階段だったり、フェンス越しだったり。

 本当に思ってたよりも沢山撮影した。

 

 

 因みにカメラマンは俺です。

 何でメンバーでもない俺まで呼ばれたのかこれで理由がハッキリしたよ。

 メンバー4人で撮影しようと思ったら三脚だったり、自撮り棒だったり、撮影用の機材をそれなりに用意しないといけないが、撮影役が一人入ればそれらの手間が全て省ける。

 だから虹夏はカメラマンとして俺の事も呼び出したという訳だ。

 本当、姉に似て人使いが荒い奴だ。

 まあ、俺としてはひとりの写真が沢山撮れるので願ったり叶ったりで最高な訳だけど。普段は嫌がって写真なんか全然撮らせてくれないからな。

 

 

 そんなこんなで、かれこれ一時間は撮影しただろうか、そろそろ撮影会の方も大詰めとしていきたい。

 下北沢駅周辺だけに絞っているとは言え、ひたすら歩き回って撮影し続けたのだ、そろそろ俺も含め全員に疲れも見え始めてくる頃だろうし…………

 

 

「次はどんなところで撮影しましょうか!? もう公園とか階段とか撮影はしましたし……あ! あそこ!! あそこの何かいい感じの壁の前とか良さそうじゃないですか!?」

 

 

 訂正、一名だけ何故か未だに元気ハツラツでした。喜多ちゃんである。

 彼女は軽やかな足取りで俺達の数歩先を歩き、緑のペンキで塗りたくられ落書きされ放題の壁を指さして元気よくそう言っていた。

 その際、喜多ちゃんから放出される謎のキターン光線が溢れだしていた。

 

 

 嘘やろ……この子何でこんな元気なん……? 

 俺なんかもう大分足取りが重たいっていうのに、隣を見れば虹夏も同じ気持ちなのか、前を歩く喜多ちゃんをドン引いた顔をして見ていた。

 

 

 後ろを振り向けば既に体力が限界なのか、フラフラとした足取りで歩くリョウとひとりの姿があった。いや、この二人は別の意味でやばい、今にでもぶっ倒れそうじゃねえかよ。

 

 

 流石に危機感を感じた俺は隣で歩く虹夏に提案をし、喜多ちゃんが見つけた何かいい感じの壁の前での撮影を最後にする事を決めたのであった。

 

 

 

 

 

「はい、チーズ」

 

 

 パシャと俺のスマホがシャッターを切る音を出力する。

 それと同時に撮影のモデルとなっていた面々が、今撮影した画像の確認をしに来る。

 

 

「メンバーのキャラは出てるけどいまいちバンド感が……バンドっぽさを感じる要素が欲しいなあ」

 

 

 画像を確認するや否や虹夏がそう言った。

 俺は撮影してるだけなので虹夏の言うバンドっぽさ、というのが何なのかさっぱりだ。

 

 

「別にこれでもいいんじゃねえの?」

 

「良くないよ〜! さっきも話したけど、アー写ってのはメンバーの特徴やバンドの方向性を伝える大事な物なんだから、もっとバンドっぽさを出さないといけないの」

 

「でも、ひーちゃんのお陰でメンバーの特徴もバンドの方向性もより際立ってると思わねえか?」

 

「思わないよ!? これそのままアー写にしちゃったら、オカルト好きのファンしか付かなくなっちゃうから!!」

 

「え?」

 

「おお、オカルトだけに憑くってか?」

 

「やかましい!!」

 

「え?」

 

 

 俺と虹夏がギャーギャーと戯れていると、今まであまり口を開かなかったリョウが珍しく発言をした。

 

 

「そんなにバンドっぽさを求めるなら『バンドマンのお手本たる存在』こと私の表情を真似してみて」

 

「その湧き出る謎の自信はどこから来てるの?」

 

「すっげえドヤ顔決めてやがるし……」

 

「でも、先輩の言う通りにすれば間違いなんてないわよね! ねっ! 後藤さん!」

 

「あっはい」

 

 

 胸の前に手を置き謎の決めポーズをしながらドヤ顔を披露するリョウに虹夏と俺は冷めた反応をしたが、後輩組の二人は肯定的な反応を示した。

 

 

「イエスマンが二人……分かったよ〜撮るだけ撮ってみよっか」

 

 

 後輩二人の意見を尊重してなのか虹夏は特に否定などはせず、リョウの言う通り全員がリョウの真似をして撮影することになった。

 その結果……

 

 

「……お通夜みたい」

 

「ですね……」

 

 

 初めに撮った写真と比べて何かすっげえ暗い写真になった。

 リョウの真似事をするという事は気怠い感じになる=死んだ目になる。ってことだからな。

 全員、ハイライトの消えた目をしている写真を見て虹夏と喜多ちゃんは揃ってそんな感想をあげたのであった。

 

 

 それから更に数枚撮影したが結局しっくり来る写真が撮影出来ないままでいた。

 そこで、少し小休憩を挟む事にし、ちょっとした談笑会が始まった。

 

 

「それにしても喜多ちゃんはどの写真も可愛いね」

 

 

 虹夏は俺のスマホを弄り、今日撮影した写真を見ながらそんなことを言った。

 

 

「そんな事ないですよー……でも、私写真慣れてるんですよ! よくイソスタにあげるので!」

 

「出た、イソスタ。この間もイソスタの話してたけど、あれって何が楽しいんだ?」

 

 

 俺は喜多ちゃんに向かってそう疑問を問いかけた。

 日常の一部を写真として載っけて一体何が面白いのか、俺には到底理解が出来ない行為だ。

 

 

「うーん……幸せのお裾分けと言うか、楽しいを共有するのって凄くいい事だと思いませんか?」

 

「幸せのお裾分け……? 楽しいを共有……?」

 

「あー、私は何となく分かるかも……自分が好きな物を撮影して投稿して、そしたら色んな人にその自分の好きが評価されて、共有された時は凄く気持ちがいいかも」

 

「それですよ! それ!! 流石伊地知先輩! イソスタのいい所ってまさにそう言うところだと思うんですよね!」

 

 

 うーん、分からん。

 他人に自分の生活の一部を晒して何が楽しいのかマジで分かんない。

 

 

「っていうか零人くん、せっかく写真撮るの上手なんだしイソスタ始めてみたらいいのに?」

 

「いいですね! それ! 確かに後藤先輩、写真撮影凄くお上手ですよね! 私がお教えしますからイソスタ始めてみましょうよ!」

 

 

 おっとー? これは意外な展開が来たぞー? 

 まさかのイソスタ始めてみろ展開。

 面倒くさそうなのでここは全力で拒否するとしよう。

 

 

「いや、俺は別にいいよ。幸せのお裾分けだとか楽しいの共有だとかよく分かんないし」

 

「えー! でも、こんなに写真撮影上手いんだから勿体ないよ!」

 

「そうですよ! これだけ上手ならたっくさんいいねも貰えると思いますし、沢山の人に評価してもらえると思いますよ!!」

 

「いや、でも……」

 

「始めてみようよ! あたしすぐフォローしてあげるからさ〜」

 

「先輩始めましょうよ! 分からない事全部教えて差し上げますから!」

 

「…………あ、じゃあ、考えときます」

 

 

 くっそぉ、断りきれねえ!! 押しに弱いんだよ俺は! 

 考えとくと伝えると、二人とも何故か嬉しそうにうんうんと首を何度も縦に振っていた。

 まだ、やるとは言ってないからね? 考えとくって言っただけだからな!? 

 

 

 

 そうして小休憩も終わり、撮影の続きに戻ったのだが、相変わらずバンドっぽさを出す事に拘り続ける虹夏の事もあり、中々撮影を終えることが出来ずにいた。

 

 

「あっ、ジャンプとかどうですか? 絵になるし、皆の素の感じが出そうですけど」

 

「確かにそれいいかも! 喜多ちゃんてんさーい!」

 

 

 そんな時、喜多ちゃんが打開となりそうな案を提案した。

 虹夏も気に入ったのか、速攻でその案が採用された。

 何でもいいから早く撮影終わらせたい……俺もう疲れたよ……

 

 

「有識者が言っていたOPでジャンプするアニメは神アニメだと」

 

「それで、お前は一体何の話をしてんだ」

 

 

 腕を組みまたもドヤ顔でそう語るリョウ。

 何で毎回ドヤ顔? 

 有識者ってのもどこのどいつなんだそれ。

 

 

 結局、喜多ちゃんの出した案の通りジャンプをして撮影をし、何枚か写真を撮ったところで虹夏が納得してくれたので、ようやく写真撮影は終わりを迎えた。

 

 

「ああ、くたびれたあ……」

 

 

 両腕を上に突き上げ思いっきり伸びをする。

 全身の緊張した筋肉達が弛緩していき気持ちがいい。

 

 

「おつかれ〜零人くん。今日は本当にありがとう! お陰でいいアー写が出来上がりそうだよ〜!」

 

 

 伸びをしていると、虹夏がやってきて俺にそう労いの言葉をかけてくれた。

 疲れたけど、喜んでくれてるみたいならやって良かったのかな。

 何か写真撮影の才能が俺にはあるみたいだし、今度、写真でも取りにふらっと出かけてみるか……

 

 

「人気バンドの夢にまた一歩近づいた! 結束バンド本格始動だよ!!」

 

 

 そんな事を考えていると、虹夏が元気よくそう宣言した。

 他のメンバーも虹夏に続いて「おー!」と腕を上に突き上げている。

 そんな四人の様子を見ながら、俺は少し和やかな気持ちになった。

 ひとりも何だかんだ言ってあの中に馴染めているみたいでホントに良かった。

 

 

「夏までに曲作って(未定)ライブ! (未定)デモCD配布(未定)今冬ファーストミニアルバムリリース(未定)下北沢発祥エモエモなエモロックになる予定!!」

 

「確定事項が何一つないですね!?」

 

 

 大丈夫だよな……? 

 このバンド…………

 

 

 

 

 それから、撮影も無事終わったので解散となり、後はいよいよ帰宅するだけとなった。

 休日の貴重な時間を使ってはしまったけど、まあまあ、有意義な時間を過ごせたんじゃないだろうか。

 まあ、もうすることも無いしこのまま真っ直ぐ帰宅するとしよう。

 

 

「ひーちゃん、もう用事がないなら帰るよー……ってどうした?」

 

 

 ひとりに帰ることを告げようと、周囲を探すとベンチに腰掛けるひとりを発見した。しかし、ひとりのその顔はどこか暗い。

 

 

「あ、お兄ちゃん…………どうしよ、タイミングが中々なくて皆に見せそびれちゃった…………」

 

「え、何を?」

 

「何をって、これ、歌詞ノート」

 

 

 

 あ。

 

 

 

 

 やばい、作詞の存在をかんっっぜっっん!! に忘れてた……!! 

 

 

 

 

 

 






ぼざろのアニメ公式ガイドブック買いました。
読み応えがあって凄く面白かったです。


キャラクターの設定~施設の背景や設定までしっかり網羅してあって思わずすげえってなりましたね。
二次創作を執筆させて頂いてる身としては、これ一冊でかなり捗るんじゃないかなと思います。執筆速度が早くなるとは言ってない……


本編、かなりスローペースで進んでおり大変申し訳ないのですが、どうかもう少しだけお付き合い頂ければ幸いです。


遅筆ではありますがこれからもよろしくお願い致します。
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