歌詞ノートを見せそびれちゃった。
ひとりのその言葉を聞いて、俺は己の間抜けさを自嘲した。
しまった……アー写撮影に夢中になり過ぎて、すっかりひとりの作詞の事を失念してしまっていた。
いや、失念していたと言うのはただの言い訳だな。
わざわざ俺がひとりの単独で歌詞を書き上げたいという信念を捻じ曲げてまで、無理矢理バンドメンバーに今書き上げている所まで見せようと提案したのに…………
それなのに、その提案した本人の脳内からすっかりその事が抜け落ちているとは、間抜けもいいところだ。
お陰でひとりを困らせる事態に陥らせてしまった。
とにかく、急いでメンバーの誰かに連絡しなければ。
幸い俺とひとり以外のメンバーは下北沢近辺に住んでるみたいだし、連絡さえつけばきっと来てくれるはずだ。
俺はスマホを取り出しロインでメッセージを打ちこもうとした、その時だった。
「あ、お兄ちゃん。わ、私この歌詞を見せたい人もう決めてるから、自分で連絡を取ってみてもいい?」
歌詞ノートを抱き抱えながらひとりは俺に向けてそう言った。
驚いた、まさかひとりの方から誰かと連絡を取りたいって言い出すとは思いもしなかった。
何度も言うが、この子は確実に成長している。以前までのひとりなら自分から誰かとコンタクトを取ろうなんて考えもしなかっただろう。
「分かった。なら連絡はひーちゃんに任せるよ」
「う、うん! じゃあ早速聞いてみるね」
ひとりはそう言うと手元のスマホを操作し始める。
きっとメッセージを作成しているのだろう。
緊張しているのか、少し手元が震えていた。
「…………よ、よし。そ、送信した……ああ……め、メッセージ打ち込むだけなのに何か凄く疲れた……」
本当に疲れたのだろう。
ひとりはそう言いながら、近くのベンチにふらふらと近付き腰を下ろした。
まあ、直前までアー写撮もしていた訳だし、普段、あまりやらない事を頑張ったからな。疲れがドッと出ても仕方がない。
「ところで誰に歌詞を見てもらうんだ? 虹夏かそれとも喜多ちゃんか?」
「うんん。リョウさんだよ」
「……え?」
マジで?
△ ▼ △ ▼
ひとりがリョウにメッセージを送信して間もなく、リョウから返信が来た。
どうやらひとりの書いた歌詞は見てくれるらしい。
俺とひとりはリョウの送ってきた位置情報を頼りにとある喫茶店の前まで来ていた。
「本当にいいんだな?」
「う、うん……大丈夫だよ」
「本当だな? ホントにだな!? ほんっとうのほんっとうに! リョウに歌詞を見せるんだな!!!?」
「だ、だからそれでも大丈夫って言ってるじゃん! お兄ちゃんちょっとしつこいよ……!」
「し、しつこ…………ぐっはあ!?」
未だにリョウに歌詞を見せようとするひとりが信じられず、何度も確認を取っていると、ひとりから鬱陶しがられてしまった。
俺はメンタルに甚大なダメージを受けた。
い、痛い……し、心臓がすごく痛い……!
胸を押さえ苦悶の表情を浮かべる俺を他所にひとりは俺の隣から喫茶店の入口の前まで移動をしていた。
そして、そのまま扉の前で10秒、20秒、30秒……特にひとりは中に入るようなこともせず、何故かただその場に立ち尽くしていた。
洒落た雰囲気のある喫茶店だし、ひとりもこんな場所に来るのは初めてだから、中に入ることに戸惑ってでもいるのだろうか?
何だか中に入ることに躊躇してる姿を見ると、結束バンドにひとりが加入してから初めてのバンドミーティングの日を思い出す。
あの日もひとりがSTARRYの扉の前で中に入ることを躊躇していたっけな。
しかし、このままではいつまで経ってもひとりは中に入らないかもしれない、仕方が無いので俺が先導を切ることにする。
俺は扉の前で立ち竦むひとりの隣に立つと扉に手をかける
すると、分かりやすいくらいにひとりがワタワタと焦り始める。
「うえ!? あ、ま、待ってお兄ちゃん……! ま、まだ心の準備が……!?」
「そんなの待ってたらいつまで経っても中に入らないでしょうが。 リョウも待たせてるし、いい加減店の中に入るぞ。怖かったら俺の後ろに隠れててもいいから」
店の中に入ることを渋るひとりをそう諭すと、俺は返事を待たずに喫茶店の扉を押し開けた。
慌ててひとりは俺の背中に隠れるようにしてくっついた。かわいいなあ。
店内に入ると接客にやって来た店員さんと二、三言会話を交わし店の奥へと案内された。因みに店に入ってから店員さんと俺が会話をしてる間、ひとりはずっと俺の後ろに隠れていたのだが、店に入った直後に一言だけ「へ、へい大将やってるぅ?」と俺にしか聞こえない声でボソッと呟いていた。
いや、どういう意味だよ。
喫茶店で使うような言葉じゃないしどちらかと言えば居酒屋とか屋台で使う言葉だよ、それ。
更に言うなら現役女子高生が使うような言葉じゃねえのよ。
仕事終わりのサラリーマンかおっさんしか使わねえよ、その言葉。
心の中でひとしきりにツッコミを入れ終わると、改めて店内を見渡し、俺とひとりの探し人を探す。
その探し人は案外簡単に見つけることが出来た。
店の奥にある大きな窓、その目の前には横長のテーブルが一つと椅子が幾つか置かれており、探し人である山田リョウはそのテーブルの右端、そこの椅子に腰を掛けていた。
俺は未だに後ろに隠れるひとりに視線を移す。
そうするとひとりも顔を見あげて来たので、顎で俺の前に出るように促す。
意図を理解したのか渋々俺の前へと立つひとり。
そのまま、リョウの座る席までゆっくりと近づいていく。
「あ、あの! りょ、リョウさん……!」
「ん……おお、ぼっちよく来た。でも、まだカレー食べてるから少しだけ待ってほし…………げっ!」
ひとりが声を掛けたことで後ろをゆっくりと振り返ったリョウは、ひとりの後ろに立つ俺の存在に気づくや否や露骨に嫌な顔をした。
しばいたろうか、こら。
「何で零人までいるの」
「いちゃ悪いかよ? ひーちゃんと行動してるんだから居て当然だろう」
「それもそうか、シスコンだしね」
俺がリョウの問いかけに真面目に答えると、リョウはシスコンという言葉を使ってすぐに納得してみせた。
いや、ほんましばいたろうか。
「とにかく、用事があるのはひーちゃんの方だから、悪いけど相談に乗ってやってくれ。俺は黙って聞いとくから」
「だ、そうだ。ぼっち」
「あ、うええっ!?」
ひとりが驚愕し大きな声をあげる。
店内の別の客達の視線が集まる。
カウンター内に居た店員さんが苦笑いを浮かべている。
ひとりは両手で口を押さえ、リョウは無表情のままひとりを見つめている。
俺は苦笑いを浮かべながらその場で店員さんと周囲の客に軽く会釈をしたのだった。
「……ご馳走様でした。さて、ぼっち。早速歌詞を見せてもらおうか」
「あ、はい」
リョウが食べていたカレーを完食し、ひとりに歌詞を見せるよう催促する。
因みにこのリョウがカレーを食べている間に俺とひとりは飲み物を注文した。
俺がメロンソーダでひとりはオレンジジュースだ。
喫茶店に来てまでジュースかよと思ったそこのお前ら、残念ながら俺もひとりも子供舌だから甘い物が好物なのだ。
コーヒーとか苦くてとてもじゃないけど飲めないのだ。
「お、お願いします……!」
「うむ、拝読致す」
ひとりから歌詞ノートを受け取り早速ページをめくるリョウ。
すると、読み始めてすぐリョウは「おお……!」と狼狽えはじめた。
リョウがあんな風に取り乱すなんて珍しい。
それ程までにひとりの書いた応援ソングの歌詞が衝撃的だったのだろうか。
「これでいいんだ?」
「え……あ、いや、はい。一応、一週間考え続けたので、その……け、傑作、です……!」
「ふむ……」
ひとりから視線を外すとリョウは少し考える素振りを見せ、もう一度ノートを凝視し始める。
「個人的にこのサインはロックバンドにしては子供っぽい気がする」
「そそそそ、そのページじゃないです!?」
いや、リョウもサインのページ見てたんかい。
ってか、そのサインが子供っぽいだと???
俺はひとりっぽくていいと思うけどなあ。可愛いは正義。
今度こそひとりの書いてきた歌詞を読み始めたのか、ノートをじっと見つめるリョウ。
その間もひとりはオレンジジュースちびちびと飲みながらリョウが歌詞を読み終えるのを待っていた。
メロンソーダうめえ。
「ぼっち的にはこの歌詞で満足してるの?」
「え……? あ、それは…………」
やがて、リョウは歌詞を読み終えたのか唐突にそう口にした。
ひとりもまさかそんな風に言われると思っていなかったのか明らかに動揺していた。
「言ったっけ? 私、昔別のバンドに居たんだ」
リョウがそう話し始めた時、俺は思わずストローから口を離した。
『ざ・はむきたす』
かつて結束バンドより前にリョウが所属していたバンドだ。
喜多ちゃんが前に話していたリョウに一目惚れした路上ライブをしていたバンドがこのバンドの事だ。
リョウは中学時代からこのバンドで活動を続けていたそうだが、去年の夏にリョウが脱退した事でその後解散してしまった。
リョウの脱退した理由だが、リョウはそのバンドの書く青臭いけど真っ直ぐな歌詞が好きだったそうだ。だけど売れる為に必死になって、どんどん歌詞を売れ線にしていった結果、リョウはそれが嫌になりそのバンドを辞めてしまったのだった。
辞める時もメンバーと一悶着あって、あの時も俺と虹夏でリョウのサポートに入って…………ああ、去年の事なのに何だかもう懐かしいなあ。
昔のことを思い出し感慨深くなってしまった俺は誤魔化すように離していたストローにもう一度口をつけメロンソーダを吸い上げる。
残り少なくなっていたせいか、ズズズと不細工な音をあげてしまった。
それと、ほぼ同時くらいにリョウもひとりに過去の話を話し終えた様だった。
ってか、作詞の相談相手リョウめっちゃ適任じゃん。
最初はひとりがリョウに相談するって聞いた時は、こいつ正気か? って本当に思ったけど、そいやこいつ基本ダメ人間だけどバンドの経験だけは他のメンバーに比べたら一番豊富だったわ。
だから音楽に関してはちゃんと考えてるし、一切の妥協もしないんだな。
「だから他人の事なんて考えて、つまらない歌詞を書くんじゃなくて、ぼっちの好きなように書いてよ。皆、ぼっちがいいと思ったから頼んでるんだ」
「私の好きなように…………で、でも、そうすると暗くてどんよりとした歌詞に…………」
「でも、それリア充っ子に歌わせたら面白そうじゃない?」
「何て事言いやがるんだお前」
あ、しまったついツッコミを入れてしまった。
いや、確かに? ひとりと何もかもが正反対な喜多ちゃんに、ひとりの書いた歌詞歌わせたら絶対に面白いとは思うけども。
「バラバラな個性が集まって、一つの音楽になって、それが結束バンドの色になるんだから」
おお……何か、すごく"ぽい"事言ってる。
こいつ、本当に山田リョウか?
こんなに真面目な事を言うやつだったけ?
見てみろ、こんな事言われてひとりもリョウに対して尊敬の眼差しを向けてやがる。
「……さて、そろそろ出ようか」
「あ、はい……!」
ひとりの憑き物が取れたような顔を見て、リョウはそう言った。
ひとりはいつもよりも少し元気な返事をして席を立つ。
どうやら、作詞の件はこれで上手く行きそうだな。
よかったよかった。
さて、そしたら、そろそろ動きますか。俺が本当にここにきた目的の為にもな。
俺は席を立つや否やレジに見向きもくれず喫茶店の出口に向かおうとするリョウの肩を掴む。
「おい、こら。待てリョウ」
「……何? 零人、私、早くこの店から出たいんだけど」
「まあ、そう言わずにちょっと話をしようぜ〜」
「え、あ……お兄ちゃんもリョウさんに話があるの?」
逃げようとするリョウを絶対に逃がすまいと、俺は両手でリョウの肩を鷲掴みにする。
「いや、私は別に話すことなんて何もな」
「そうだよ〜、とーっても大事な話を今からリョウとするからさ〜。悪いんだけど、ひーちゃん先に店の外で待っててくれねえか?」
「だ、大事な話……? あ! で、でも私ジュース代払わないと……」
「今日は俺が奢ってあげるからいいよ。ほら、作詞頑張ったご褒美に」
「ほ、ホントに!? ありがとう! お兄ちゃん」
「おう。じゃあ、ちょっとだけ外で待っててな」
「うん、分かった」
ひとりはそう返事すると、店の外へと出ていった。
…………さて、と。俺はリョウの肩から手を離すと、リョウと会話をする為にリョウの前に回り込む。
「リョウ、お前に聞きたいことがある。今からお前には嘘偽りのない真実のみを語ってもらうからな?」
「ありがとう、お兄ちゃん。私の分も奢ってくれるんだよね」
「いきなりど直球どストレート!? 少しは御託並べたり言い訳くらいしたっていいんだぞ!?」
「だって嘘偽りのない真実のみ語れっていうから」
「だとしても図々しいが過ぎるわ!! ってか、てめえやっぱ金持って無かったんかいっ!!」
これが俺がひとりに付いてきた本当の理由。
まあ、本当って言っちゃってるけど、一番はひとりが心配だったからなんだけど。
とにかく、リョウが態々、喫茶店を待ち合わせ場所として指定してきた時点でこうなる予感はしていた。
「お前がここに呼んだくせに奢らせるってマジでどんな神経してんだ」
「ごめん。お金が無かったから」
「なあ。知ってる? お金が無いなら普通は食べに来ないんだよ? 無銭飲食っていう犯罪になるからね?」
「……最近草しか食べてないから限界で、それにここオープンしたばかりで前から気になってて、どうしてもここのカレーが食べてみたくて」
「いや、だから金が無いなら普通は食べに来ないんだって言ってんだろうが。ってか、まだ野草生活してたのかよ」
つまり、金はないけど、野草生活で腹も減ってたし、どうしても、ここのカレーが食べたいからひとりをロインでここに呼んだと。
俺が来てなかったらひとりに奢らせてたんだろうな。
後輩にまで奢らそうとするとか、こいつマジでどうしようもないクズだな。
「……尊敬する後輩からの好意を下げるような真似をするなっつーの」
「もしかして、だからぼっちを先に外に出したの?」
「ああ、だって嫌だろ? 純粋に尊敬してた先輩が目の前で自分の兄貴に奢らす姿なんか見たら、絶対幻滅するに決まってるだろ」
ひとりと喜多ちゃんはまだ、リョウの屑っぷりを知らない。
せっかく二人ともリョウの事を尊敬しているんだ。
ここでリョウの本質を知ってショックを受けさすのは余りにも酷だと俺は思う訳よ。
世の中には知らない方が幸せな事が沢山あるからな。
まあ、いずれ鍍金は剥がれるだろうけども……
「仕方ねえから今日は奢ってやるよ……ひとりの相談にちゃんと乗ってくれたしな」
「恩に切るよ、お兄ちゃん」
「誰がお兄ちゃんだ。二度とそうやって呼ぶんじゃねえぞ」
俺はそう言いながらレジへと向かった。
「ジュース二つで1000円……はあ!? カレー1杯で2000円!?!?」
「どうせ、食べるならトッピング付けまくって食べたいなと思って…………ごっつぁんです」
「お前、やっぱ金返せ」
こいつ最初から奢ってもらうつもりだったからか、無茶苦茶トッピング付けてやがる……!
3000円の出費……高校生には痛すぎるって……
…………何かすげえ腹立ってきたから星歌さんにお願いしてリョウの給料から今回のカレー代差し引いて貰おうかな…………
△ ▼ △ ▼
ひとりがリョウに作詞の相談をしてから数日後。
ついにひとりが完成させた歌詞ノートを片手に俺はSTARRYを訪れていた。
「つーわけで、ひとりが完成させて来た歌詞だ。皆、目を通してやってくれ」
俺は歌詞ノートを顔の辺りまで掲げ、ひとりを除くメンバー三人を見ながらそう言った。
すると、不思議そうな顔をしながら辺りをキョロキョロ見渡した喜多ちゃんが片手をあげる。
「あのー、それで歌詞を書き上げてきた後藤さんは……?」
まあ、当然疑問に思うよな。
喜多ちゃんが質問したように、今この場にひとりは居ない。
俺は喜多ちゃんの質問に答えた。
「ひとりなら今日は家にいるよ。あの子歌詞に書くことに夢中になり過ぎてここ何日か徹夜してまともに寝てないみたいだったから」
「え!? 何日も徹夜!?」
質問の返答を聞いて酷く驚いている喜多ちゃん。
そりゃそうだ。
俺だってひとりの様子を見て驚いたもん。
顔色は悪いし目の下の隈は酷いし足取りはふらふらで覚束なかったし。
そんな状態なのに歌詞が完成したからSTARRYに行くって言うもんだから、流石に叱ったよ。
今頃はきっと布団に入って夢の中でギターでも弾いているのだろう。
「……どれどれ、ぼっちちゃんが身を削ってまで書き上げてきた力作、拝見致しましょう」
虹夏に歌詞ノートを渡すとそう言いながら、ノートをペラペラと捲っていく。
そうしてる間に虹夏を挟むようにリョウと喜多ちゃんも一緒にノートを覗き込み始めた。
「ひとりが少し暗すぎるかもって気にしてたんだけど、どうだろう?」
ひとりが今回書き上げて来た歌詞はリョウや俺に見せた明るい応援ソングではなく、暗く少し攻撃的な激しいまるで正反対なものだった。
これも、リョウの言った『ぼっちの好きなように書いて』というアドバイスが大きく影響したんだろうと思う。
この歌詞を読んで皆がどう思うかは分からないけど、俺はひとりの書いたこの歌詞が好きだ。
明るい応援ソングも良かったけど、こういう暗い歌詞の方がひとりらしさがあって俺は好き、なんだけど、実際のところこの三人はどう思うんだろうか? 良くも悪くもこの歌詞が採用されれば、結束バンドの最初のオリジナルソングは暗い雰囲気の楽曲が出来上がるだろう。
それに対して何か反感が生まれるんじゃないか、そう危惧していたのだが…………
「確かに暗いね」
「ちょ、リョウ先輩!?」
三人の中で一番最初にそう切り込んだのはリョウだった。
リョウの遠慮も配慮もない物言いに喜多ちゃんが立腹して声を荒げたが、それでもリョウは特に気に留めもせず話しを続ける。
「でも、ぼっちの正直な気持ちを書いてるって感じ、少ないかもしれないけど誰かに深く刺さるんじゃないかな。ぼっちらしくていいと思うよ」
リョウは俺に向けてそう言った。
その時のリョウの表情はいつものような無表情ではなく、少しだけ頬を緩め、柔らかい笑みを浮かべていた。
「って、ぼっちにも伝えといて」
「いや、そこは自分で伝えないのかよ」
突然の他力本願に俺は呆れ顔を浮かべた。
いや俺からも伝えるけども、そこは口頭でもロインでも何でもいいから直接伝えてやってくれよ。
絶対喜ぶだろうから。
その後、虹夏と喜多ちゃんからもひとりの歌詞は好評を受け、そのままオリジナルソングの歌詞として採用される事になった。
更にひとりの歌詞を読んだことでリョウもインスピレーションが湧いたようで、早速今日から作曲作業に入るとのことだった。
何だかこの数日で一気に色んな事が進んだ気がする。
4人揃った結束バンドのライブを見る日もそう遠くはないのかもしれない。
△ ▼ △ ▼
あの後STARRYでバイトのシフトが入っていた虹夏とリョウはそのままバイトに、シフトが入っていない俺と喜多ちゃんは帰宅することになった。
他愛のない会話(ガトリングトーク)を楽しみ、時々放たれるキターン光線に灼かれ苦しみながら歩く駅までの帰り道。
そのまま駅まで喜多ちゃんを見送った後、ひとりとふたりにおやつでも買って帰ってやろう。
当初はその予定の筈だったんだ。
なのに、なのにどうして…………
「オシャレな店内、可愛い店員さん、テンション上がるわ〜! ね! 先輩!!」
どうしてこうなった