しすこん・ざ・ろっく!   作:そるるん

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執筆中のデータが消えて暫く執筆意欲が死んでおりました。
時間がかかってしまい申し訳ございません。
今回の話は筆の勢いのまま書き上げました。


13『先輩くんと後輩ちゃん』

 

 

 

 前回までのあらすじっ!! 

 

 

 

 

 

「喜多ちゃんに拉致られた……」

 

「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ!?」

 

「いやぁ、だってぇ、まさかぁ、こんなぁ、陽キャ御用達ぅみたいなぁ? 超お洒落カフェにぃ、連れてこられるなんてぇ、思ってもみなかったしぃ」

 

「その気持ち悪い喋り方はすぐにやめてください……鳥肌が立ってゾワゾワするわ……」

 

「ギャルってこんな感じで喋るんじゃねえの?」

 

「喋りませんよ!? 先輩のギャルへのイメージコテコテすぎるでしょ!?」

 

 

 

 という訳でぇ、俺達が今いるのわぁ、喜多ちぁんが連れてきてくれたぁ、とあるお洒落カフェ。

 前に来たカフェと違ってぇ、何かもう全部がキラキラしてるんだよねぇ。店員さんもぉ、お客さんもぉ、運ばれてくる料理やぁドリンクまでぇ、全てがキラキラしてるぅ。光ってるわけぇ、極端な話をするとぉ、喜多ちぁんがそこかしこにいるぅ、みたいなぁ? 

 こんな眩しくてぇ、キラキラした空間に長いこと居たらぁ、まぢでおかしくなりそぉ。

 

 

 もうマヂ無理……死ぬ程この喋り方面倒臭いし、飽きたからもうやめよ。

 

 

 

「んで、喜多ちゃん。態々二人きりになるタイミングを狙って俺をカフェに誘った訳だけど目的は何なのさ?」

 

「だから言い方ですよ!? 何でそんな少し危なげな言い方をするんですか!」

 

「面白いから」

 

「最低だわこの人!!」

 

 

 

 そうやって喜多ちゃんが一々リアクションしてくれるからつい弄りたくなるんだよなあ。

 打てば響くし、叩けば鳴る。これだけレスポンスが早いんだから弄らない方が勿体ない。

 

 

 

「喜多ちゃん将来は俺と漫才やらない?」

 

「やりませんよ!! バンド活動始めたばっかりなのにする訳がないでしょ」

 

「俺と喜多ちゃんなら芸能界のトップを狙えると思うぜ? なんならそこで有名になってから、その地位と名声を利用して結束バンドを一気に有名にする事も」

 

「先輩、そろそろいい加減にして下さいね?」

 

「あ、はい。すいません」

 

 

 

 

 喜多ちゃんの語気が冷たくなるのを感じ、俺は速攻で謝罪をした。

 喜多ちゃんは笑顔を浮かべているが、その纏う雰囲気は真っ黒でどんよりとしている。

 これは完全にキレてる、間違い無い。

 流石に調子に乗りすぎた。

 

 

 

 

「……後藤先輩、本当はこんな人だったのね……前に話した時は凄く頼もしく思えたのに……」

 

 

 

 

 喜多ちゃんが失望したようにそうボヤいていた。

 

 

 痛い痛い痛い!! 心が、痛いっ!! 

 そうだよ、これが俺の本当の姿だよ! あの時みたいに真面目なモードの時もあるけど、デフォルトはこんな感じなんだよ!! 

 

 

 

 

「一応、喜多ちゃんにはいつでも頼られる先輩でいたいからこれからも宜しくな!」

 

「あれだけマイナス点稼いでおいて、よくそんな風に言えますね?」

 

 

 

 くそ、辛辣だ……ぐうの音も出ねえ。

 

 

 

 

「それで、ホントのホントに何で急にお茶しようだなんて誘ってきたんだ?」

 

 

 

 ようやく本題に入る為に俺はそう切り出した。

 そうなのだ、この場に誘ってきたのは喜多ちゃんで、その誘い文句というのが「暇だったらお茶でも呑みながらお話しませんか?」だったのだ。

 

 

 詳しい理由は分からない。何故なら理由を聞く前に喜多ちゃんに強引にこのカフェに連れてこられたから。

 

 

 あれは凄かったね。俺ただ、暇だけど? って答えただけなのに、その後、眩しい(物理)笑顔(光線)で俺の事を焼きながら、俺の腕を掴んで強引に連行されたからね? マジで腕がもげると思ったし、全身の皮膚が焼けたかと思った。

 

 

 

 

「ええと、ごめんなさい。別に本当に深い意味とかはないんです。ただ、せっかく二人きりになれたのでお話したいなって思っただけで……」

 

「へえ、俺と二人きりになりたかったって事?」

 

「────っ!!! ち、違います!! そういう意味じゃなくて! 本当にただ先輩ともっと仲良くなりたいなってそう思っただけで、この間のお礼とかそんなのも伝えたくて!!!」

 

「分かった! 分かったから!! 今のは俺が悪かった!! だから一旦落ち着くんだ喜多ちゃーんっ!!?」

 

 

 

 

 俺が変な冷やかしを入れたせいで、顔を真っ赤にした喜多ちゃんは頭から湯気を出し、目をグルグルとさせていた。

 流石にやりすぎたと感じた俺は必死に喜多ちゃんに呼びかけ、落ち着かせることに躍起する事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 あれから暫くして何とか喜多ちゃんの落ち着きを取り戻すことが出来た。出来たのだが…………

 

 

 

「………………」

 

 

 

 喜多ちゃんはへそを曲げてしまい口も完全に噤んでしまった。

 今は注文したアイスカフェモカをちびちびと口にしている。目は全く合わせてくれない。

 

 

 これは、完全にやりすぎた…………控えめに言ってもやりすぎだし、率直に言ってもやりすぎだ。

 結論を言うとやりすぎた。

 はは、下らねえ。

 

 

 それはそれとして、やべえ、この状況どうしよう。

 この歳の女の子……妹のひとりでさえここまで機嫌を悪くさせた事はない。というかあの子とは一度も喧嘩した記憶もないな。

 

 

 それにも関わらず今目の前でへそを曲げて口を噤んでしまっている喜多ちゃんは、ひとりと同級生で陽キャで人気者で誰にでも優しくて、勉強も運動も出来る完璧人間。

 

 

 そんな完璧人間である喜多ちゃんのへそを曲げさせ、あろうことか口を噤むがせてしまった愚かな高校男児は一体誰でしょう? そう俺です。

 

 

 あれ、これひょっとして、いやひょっとしなくても、俺とんでもない重罪を犯しているのでは? 

 

 

 喜多ちゃんの友人、知り合い、家族、その殆どに石を投げつけられてもおかしくないような、そんな行為をしちゃってるんじゃなかろうか? 

 

 

 いや、逆に考えるんだ。そんな温厚で優しい喜多ちゃんを唯一怒らせることが出来たんだ、俺、凄いやろ、と。

 

 

 なんて馬鹿な事を言ってる場合じゃない。

 とにかく何とかして喜多ちゃんに機嫌を直して貰わないと、これも調子に乗ってへそを曲げさせた俺の責任だからな。

 

 

 

「き、喜多ちゃん、何か話したいことあるんだよな? 何でも聞くから俺にドーンと話しちゃいなよ!」

 

「………………」

 

「あ、ほらひとりとは上手くやってる? この間もギターの練習してたよね! 大分弾けるようになってて俺感動しちゃったよ!」

 

「………………」

 

 

 

 零人 は ごきげんどり を おこなった! 

 

 

 きたちゃん は しらんぷり を した! 

 

 

 

 ダメだあ……全く機嫌を直してくれねえ……目も合わせてくれねえ……ずっと座った目をしてアイスカフェモカちびちび飲んでる……

 スマホいじって無視されるより全然マシだけど、これはこれで逆に怖えよ……

 

 

 でも、俺は諦めねえ! 

 こうなりゃ数打ちゃ当たる、当たって砕けろだ! 

 とにかく話題を振り続けよう、いつか喰いついてくるかもしれない。

 

 

 

「喜多ちゃんって家だと自主練してるの?」

 

「………………」

 

「星歌さん……店長って見た目は怖いけど実は超がつくツンデレで可愛いものに目がないんだよね知ってた?」

 

「………………」

 

「に、虹夏の頭の触覚? いやくせ毛か、あれドリトスみたいだよな」

 

「………………」

 

「…………リョウって実は」

 

「リョウ先輩っ!?!?!?」

 

「うわあっ!?」

 

 

 

 今までの話題は全スルーしてた癖に、リョウの話題を出したら急に反応を示しやがった!? それもかなり食い気味で。

 

 

 

「どこですか!? リョウ先輩はどこにいるんですか!?」

 

「い、いやいない!! ここにはいねえよ!?」

 

 

 

 喜多ちゃんに肩を掴まれ全力で体を前後に揺すられる。

 

 

 いや、力、つよ……脳が揺れて、よ、酔いそう……うぷっ

 

 

 

「あ、何だ。後藤先輩まだ居たんですね」

 

「うぷ……い、いや、ここに連れてきてくれたのは喜多ちゃんだし……喜多ちゃんを放って帰れるわけないよ……」

 

「早く帰ればいいのに」

 

「急に辛辣!? いや、言われて当然のことをしたとは思ってるけども!! 喜多ちゃん本当にごめん!! 後輩だからと思って調子に乗りすぎました!! 喜多ちゃんを侮辱して本当に最低な事をしたと思います!! マジですみません!!」

 

 

 俺はこの時とにかく全力に全力で全力の謝罪を披露した。

 

 

 

「……本当に悪いと思ってます?」

 

「…………」ブンブンブンブン

 

 

 

 喜多ちゃんの問い掛けに全力で頭を縦に振る。

 そんな俺の姿を見た喜多ちゃんは大きなため息を一つ付くと苦笑いを浮かべた。

 

 

 

「……しょうがないですね。先輩には結束バンドに戻してもらった借りもありますし、今回は許してあげます。でも、次また同じような事をしたらもう許しませんからね!」

 

「ありがたき幸せ!! 喜多ちゃん最高っ!! 喜多ちゃんしか勝たん!! 喜多ちゃん……」

 

「先輩、また怒りますよ?」

 

「あ、はい。すいません」

 

 

 

 また少し調子に乗り始めた俺を喜多ちゃんがたった一言で消沈させた。

 そんな俺を見て喜多ちゃんが悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

 

 

「ふふ……先輩すっかり私に飼い慣らされちゃいましたね!」

 

「あはは……今後はちゃんと頼りになる先輩だと思われるように努力していくよ」

 

「はい! 私から頼られるように懸命に努力してくださいね」

 

 

 

 そんな小さな約束事を交わした俺と喜多ちゃんは見つめ合って互いに笑顔を浮かべたのだった。

 

 

 

 

「ああ、それで、ようやく本題に入れそうな訳だけど……」

 

 

 話し合いの場が色々と乱れてしまった為、改めて仕切り直そうと俺がそう発言をすると

 

 

「あ、その事なんですけど、何だかもうどうでも良くなってしまったので大丈夫です!」

 

「ええ……」

 

 

 マジですか。

 何か俺と仲良くなりたいだとか、この間のお礼が言いたいとか言ってたのに、本当にいいのかそれ。

 

 

「あの、先輩まだお時間の方は大丈夫そうですか?」

 

「時間は……あ、うん。まだ大丈夫だけど」

 

「良かった! なら、次は外に行きましょう!」

 

「え、外?」

 

 

 外なんかで一体何を…………いや、待てよ。なんだろう、何だか嫌な予感が凄くするんだが……? 

 

 

「次はイソスタの写真撮影に付き合ってください!」

 

「え、い、イソスタ……?」

 

 

 悪い予感は的中した。そうだった、喜多ちゃんは自他共に認める。イソスタグラマーであり、結束バンドのSNS大臣だった……

 

 

 出来ることなら面倒臭いから断りたい。

 

 

 断り、たいけど……! 

 

 

「あ、いいよ」

 

 

 

 そんなキラキラと期待した目をされたら断ろうにも断り辛えよ!! 

 まあ、さっきの俺の無礼の件もあるし、大人しく付き合ってあげよう……

 

 

 

 

 △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 カフェを出て急遽喜多ちゃんと二人で映えスポットを巡ることになった。

 範囲は喜多ちゃんにお願いして下北沢駅周辺で絞って貰った。理由はあまり遠くまで行くと俺の帰りが遅くなる。長距離歩くのが面倒臭い。あとは単純に面倒臭いから。

 

 

 喜多ちゃんには最初の理由しか話していないが、後の二つの理由は我ながら酷すぎるな。面倒臭いが二つもあるって普通に終わってるわ。

 

 

 さて、今回の映えスポット散策において俺の役割だが特にはない。ただ、喜多ちゃんについて行って、喜多ちゃんが写真を撮影するのを喜多ちゃんの気が済むまで待つだけだ。

 

 

 あれ、俺いらなくね? 

 帰ってもいいかなもう。

 

 

 そう何度も思ったが結局帰ることはせず、ずっと付き合って上げている。

 というのも、撮影が終わる度に喜多ちゃんが俺に撮影した写真を見せてくるからだ。

 見せてくる度に「どの写真が一番可愛いと思います?」なんて聞いてくるものだから困ったものだ。しかも、見せて貰った写真は全部似たような写真なのである。

 

 

 正直、どれも同じように見えるし、どの写真も喜多ちゃんの写りが良すぎるので適当にこれと選べば喜んでその写真をイソスタに投稿していた。

 

 

 あれ、やっぱ俺いらなくね? 

 本当に帰ってもいいかなもう。

 

 

 何度目かの正直、そろそろ本当に帰宅を決行するべきか迷っていると、喜多ちゃんがこんな事を提案してきた。

 

 

 

「せっかくですし、先輩も何か写真撮ってみましょうよ!」

 

 

 

 あーあ、また帰るタイミング逃しちゃった…………

 

 

 

 という訳で喜多ちゃんと一緒に何か撮影する物を探す事になり、再び下北沢の街を散策する。

 

 

 面倒臭いので適当に映そうな壁とか建造物を撮影しようとしたのだが、喜多ちゃんから「それはもう私が撮影してるのでダメです!」と却下された。なんでだ。

 

 

 何を撮影しようが俺個人の自由でしょうがー。何でもいいから撮影させろー。何で任意の撮影の筈なのに縛りがあるんだよー。教えはどうなってんだ! 教えは! 

 

 

 心の中でそんな事を愚痴りながら散策をしているが、撮影したいものが一向に見つからない。

 俺のタイムリミットも刻一刻と迫ってはいるので、下手をすると帰宅をしなきゃいけないかもしれない。

 

 

 そんな焦る気持ちが頭の中を横切り始めた時だった。

 

 

「わあ〜! 見てくださいよこの坂! すごく急な坂道じゃないですか!? 下北にもこんな道あったんだ〜」

 

 

 喜多ちゃんがはしゃぎながら坂道を走って登っていくのを見て思わず「はしゃぐと転ぶぞ」と声をかけそうになった。

 

 

 その時だった。

 

 

 眼前に真っ直ぐと伸びる坂道、その延長戦には丁度夕日が存在しており、その夕日とはしゃぐ喜多ちゃんが重なり、喜多ちゃんのシルエットが出来上がっていた。

 

 

 パシャリと気がつけばスマホからシャッターを切る音が鳴っていた。

 今撮影した写真を見てみれば、正に自分が今、衝動的に撮りたいと思った写真。

 夕日の中に浮かぶ元気な少女のシルエットの写真が撮れていた。

 

 

 

 瞬間にハッとする。

 

 

 これ、盗撮やん…………

 

 

 シャッターの音が聞こえたのか、喜多ちゃんが俺の元に急いで近づいてきている。

 ま、まずい。この写真を見られたら、また軽蔑されてしまうかもしれない!? 

 

 

「写真撮影したんですね! ちょっとみせてください!」

 

 

 そう焦った俺だったが、その気持ちも虚しく、パーッと近づいてきた喜多ちゃんにスマホを奪われ今しがた撮影した写真を見られてしまった。

 

 

 お、終わった……

 せっかく仲直り出来たのに、また嫌われてしまうかも……

 

 

 そう思っていたのだが

 

 

「……凄い上手」

 

 

 喜多ちゃんの口から零れたのは、罵倒でも非難の声ではなくまさかの賞賛の声だった。

 

 

 え、マジで? 

 

 

「先輩やっぱり写真撮るの凄くお上手ですね……! 何かこの写真見てるだけで、こう心に直接訴えかけてくるというか、心の底から何か感情が込み上げてくるというか……こう上手く言葉に出来ないんですけど、とにかく凄いですよ!」

 

「ええっ!? いくら何でも褒めすぎじゃねえか!? これ衝動的に撮影しただけだぞ!? あとモデルも勝手に喜多ちゃん使っちゃったし……」

 

「私がモデルなんてそんなの全然気にしてませんよ! 寧ろこの写真のモデルになれた事こそ光栄です!! 先輩はもっと自信を持ってください! 写真の撮影本当にお上手なんですから! 本当に凄い! プロが撮影したみたいだわ! あとこの写真いただきますね」

 

 

 急な褒め殺しを喰らって全身が急に痒くなった。

 やめろ……それ以上はもう褒めないでくれ……

 

 

「先輩もイソスタ始めてみたらいいのに、これだけ撮影が上手なんですからきっとすぐにフォロワーも増えますよ」

 

「あー、イソスタはまだいいかなあ……」

 

「ええ!! そんな勿体ないですって! 先輩の撮影した写真は世の中に広めるべきですって」

 

「いや、そう言われても……あ! もう時間だからそろそろ帰らないとなあ!? これ以上遅くなると皆心配するし帰ろ帰ろー!」

 

「え、ちょ先輩っ!? もーっ! 逃げないでくださいよ〜!」

 

 

 

 こうして、俺と喜多ちゃん二人きりの交流譚は幕を閉じる。

 

 

 

 後輩っていうのも案外悪くないな。

 

 

 帰りの電車の中、俺は今日の思い出を噛み締めながらそんな事を思うのであった。

 

 

 

 

 △ ▼ △ ▼

 

 

 〜後藤家〜

 

 

「ただいまー」

 

「お兄ちゃんおかえり〜!!」

 

 

 帰宅して早々玄関まで迎えに現れたのは妹のふたりだった。

 ふたりは走って近づいてくるや否やその小さな体で俺の足にしがみついて来た。

 

 

 はうあ!! 天使過ぎる!!!! 

 

 

 俺は足にしがみつくふたりに腕を伸ばすとそのまま抱き上げてやると、ふたりの頬に俺の頬を擦り付ける。

 

 

「わー! お兄ちゃんくすぐったいよー!!」

 

「ふーちゃーんお前は本当にかわいいなぁ」

 

 

 ふたりはくすぐったいと言ってはいるものの嫌がる素振りは一つも見せない。

 俺は遠慮なく頬を擦り付け続ける。

 

 

 あ、やっばい。マジで幸せだわ。俺、今このまま死んじゃっても別にいいや。

 

 

「あらあらー? 帰ってきたのにリビングに現れないと思ったら、れいくんこんな所でふたりと戯れてたのね〜」

 

 

 のんびりした口調でそう喋りながらリビングから現れたのは母さんだった。

 

 

「ただいま、母さん」

 

「はい、おかえりなさい。ほら、ふたりお兄ちゃん今から手を洗ったりするから、一旦離れなさいね〜」

 

「えー」

 

「えー」

 

「う〜ん、ふたりが嫌がるのは分かるけど、れいくんも何で一緒に嫌がってるのかしら〜?」

 

 

 そりゃ嫌がるとも。せっかく手に入れた天使ふたりえるを、俺の癒しをどうして手放さなくちゃならないのか。

 そう、今この場にふたりを手放す理由は無いのだ!! 

 

 

「ほら、ごはんも出来てるかられいくんは手を洗って来なさ〜い。ほら、だからふたりを離して」

 

「いや、ふーちゃんを手放す理由がない。このまま手を洗い、夕食も共に過ごさせて頂く」

 

「すごさせていただく〜!!」

 

「何をお馬鹿なことを言ってるの? 行儀が悪いからすぐに辞めなさい〜!」

 

「あ、はい」

 

 

 母さんが怒り始めたので素直に言うことを聞き入れてふたりを床に下ろしてやる。

 ふたりはぶーぶーと駄々をこねようとしていたが、ここですかさず帰りにコンビニで買っておいたゼリーを手渡す。

 

 

 ゼリーを受け取ったふたりは目を輝かせながらリビングの方へと消えていき、母さんもふたりを追うようにリビングへと向かっていった。

 

 

 さて、俺も母さんの言う通り手でも洗って晩飯を頂くとしますかあ。

 

 

 

「お兄ちゃん、お帰り……」

 

 

 

 手を洗おうと洗面所に向かおうとした時だった。2階に続く階段から眠たそうに目を擦るひとりが現れ、俺にそう声を掛けてきた。

 

 

 はうあ!! 天使すぎる!!!! (二回目)

 

 

「ただいま、ひーちゃん。もしかして今までずっと寝てたのか?」

 

「あ、うん……ずっと寝てた」

 

 

 そう言ってまだ眠たそうに欠伸をするひとりの目元は、今朝方確認できていた大きな隈は綺麗さっぱり無くなっていた。

 

 

 良かった。どうやら本当に熟睡してたみたいだな。とりあえずは一安心だ。そんな事よりも眠たそうにしてるひとり最高に可愛いんだけど。天使じゃん。

 

 

「まあ、これに懲りたらあんまり連続で徹夜とかすんじゃねえぞ。せっかくバンド始めたのに体をぶっ壊したんじゃ本末転倒だからな。バンドマンは体が資本なんだし、もっと健康に気を使うんだぞ」

 

「あ、うん。ありがとう…………って、そうだっ!!!! お、おおおお兄ちゃん!? 歌詞は!? どうだった!? 皆どんな反応してた!?!?」

 

 

 急に思い出したかのようにひとりは俺に泣きつくようにしてそう言ってきた。

 いや、可愛いなおいっ! 

 

 

「歌詞なら大丈夫だよ。皆からちゃんと好評の声を貰ったから」

 

「ほ、ホントに?」

 

「嬉しい話なのに態々嘘なんかつかないって、ちゃんと皆、褒めてくれてたよ」

 

「そ、そっかー……よ、良かったあ……」

 

 

 俺の話を聞いて本当に心の底から安心したのか、その場に崩れ落ちるひとりを俺はすんでのところで支えてや……あ、これ本当に体が溶けて崩れちゃってるわ。

 

 

 ドロドロに溶けてしまったひとりが復活するのを待つこと数分、ひとりは元に戻った。

 

 

「そう言えば、リョウさんは……? 何か言ってた?」

 

 

 液体から人間体に戻ったひとりは不安げな顔をして俺に聞いてきた。

 リョウのやつ結局ひとりには何にも連絡してやってないのかよ……

 

 

 俺はリョウが言っていたこと伝えてくれと言ったことをひとりへと伝えた。

 

 

「私らしくて……いい」

 

「うん。俺もあの歌詞読んだけど前書いた応援ソングの歌詞よりも断然ひーちゃんっぽいなって思ったよ。それにひーちゃんが書いてるからこそ共感できる歌詞が多いなとも思ったかな。やっぱり俺もひーちゃんには作詞の才能あると思うぜ!」

 

「作詞の……才能!? えへへ……い、いや〜そりゃあ私が作詞したんだからいい歌詞が書けて当然だよ〜ふへへ」

 

「こーら。すぐ調子に乗らない。ひーちゃんの今後の課題はおだてられても調子に乗らないようにする。だな」

 

 

 結局こないだの作詞で苦しんだのだって調子に乗って自爆したのが原因だったわけだし、次からはその辺の感情をコントロール出来るようにならないとな。

 

 

「あ、そうだ。お兄ちゃん歌詞ノート今持ってる?」

 

「持ってるよ」

 

「貸して! 書き足したいことがあるから!」

 

 

 そう言うひとりに俺は歌詞ノートを手渡してやる。するとひとりはその場で歌詞のページを開き何やら文字を書き足している。

 

 

「出来た」

 

「ひーちゃん、一体何を書き足したんだ?」

 

「曲名! 作詞してる時は思い付かなかったんだけど、さっき寝る前に思いついたから」

 

 

 ひとりはそう言うと俺に歌詞のページを見せてきた。

 そのページの一番上そこにはひとりの丁寧な文字でこう書き足されていた

 

 

 

 

『ギターと孤独と蒼い星』

 

 

 

 

 

 

 〜おまけ〜

 

 

「あれ、そう言えばお兄ちゃん今帰ってきたんだよね?」

 

「うん、そうだよ」

 

「遅くない? 今日はSTARRYでシフトも入ってなかったよね?」

 

「あー、それは、喜多ちゃんと遊んできたからね」

 

「あ、そうなんだ。へー喜多さんと……遊んだっ!!!!?」

 

「ひーちゃん……急に大きな声出さないで……」

 

「な、ななななんで、き、きききき喜多さんと!?」

 

「何でって言われても向こうから誘ってきたからなあ。あ、遊びって言ってもカフェでお喋りして、喜多ちゃんのイソスタ撮影に付き合っただけだから」

 

「か、カフェでお喋り……! イソスタ撮影……あ、が」

 

「あ、フリーズしちゃった。おーいひーちゃーん戻ってこーい。ひーちゃーん」

 

 

 

 

 

 






勢いで書いたのでキャラの口調とかぶれっぶれになったかも。
ただ、零人くんのキャラクターに関しては大分定まってきたかもしれません。


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