しすこん・ざ・ろっく!   作:そるるん

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劇場総集編良すぎて三回見に行きました。
Zeppツアーは落選しました。



16『OVERLOAD』

 

 

 とある日の昼下がり。

 俺とひとりは近所にあるとある神社に来ていた。神社と言っても別に参拝に来たとかじゃなく、とある用事の休憩がてら一旦、人気の少ない場所に立ち寄ったという感じである。

 

 

 ではその用事とは何か? それはズバリ、ライブチケットをノルマ分全て売り捌く事である!! 

 

 

 ────と、決め台詞のように格好よく言ってみたのはいいものの…………実際のところチケットはまだ一枚も売れていないのが現実である。

 

 

 ライブ本番まであと十日。

 ひとりは絶望していた。日数が残りわずかだというのにチケットノルマが未だに後二枚残っているからだ。

 

 んで、この二枚をどうにしかして誰かに買ってもらわなきゃいけないわけだが、その為に今日は朝からひとりと一緒に駅の周辺を中心に人に声を掛けまくっていた。引きこもり体質、運動音痴、コミュ障、これら全てを持ち合わせているひとりにとって、これがどれだけ過酷な事か。そして、そんなひとりに更に追い討ちを掛けるように他のメンバーからノルマを達成したという報告のロインが届いて……

 

 

「終わった…………本当に終わった…………」

 

「うーん、あと二枚なのに中々買ってくれる人見つからねえな」

 

「こ、このままだと、ノルマすら達成出来ない人間は必要ないって理由でバンドをクビにされるんじゃ…………!?」

 

「いや、虹夏たちがそんな事するわけ…………」

 

「こ、このままじゃ私、皆に吊し上げられちゃう!?」

 

「だから虹夏たちがそんな事する訳ないって。……ひーちゃん、一旦落ち着こう。な?」

 

 

 相変わらず思考がネガティブに偏りすぎていて心配になる。いや、こっちのが平常運転だし逆に心配する必要はないのか……? 

 

 

「うう…………こんな事になるなら、あの時素直にお母さんに助けて貰えば良かった…………」

 

「………………」

 

 

 前言撤回。

 こんな落ち込んでる姿を見て、心配するなって言う方が無理な話だ。

 ひとりの悩みは俺の悩み、解決するためにしっかり寄り添ってやらねば……! 

 

 その為にはまずひとりの言う"あの時"についておさらいするとしよう。

 

 "あの時"というのはライブオーディションに合格した日、延いては家族全員にひとりがチケットを渡そうとした時の事だ。

 

 俺が予想した通り、ひとりはチケットノルマを家族に渡す事で達成しようとしていた。ウチは六人(五人と一匹)家族だし、ノルマ達成は楽勝だと思っていたらしい。

 しかし、そのひとりの目論見も失敗に終わった。

 星歌さんからこの間話を聞いていた通り、ふたりとジミヘンはスターリーに入ることは出来ない。そうなるとチケットは渡せるのは父さんと母さん、そして俺の三枚。必然的にチケットは二枚ひとりの手元に残ることになった。

 

 考えていた目論見が頓挫し、チケットを誰かに売らなくちゃという現実を前に絶望したひとり。そんなひとりに助け舟を出したのが母さんだった。

 事情を全て察していた母さんは知り合いを呼ぼうかとひとりに提案をしたのだ。

 俺も知り合いと言えばスターリーの人達や結束バンドのメンバーと身内ばかりだし、今回ばかりは力になってやれそうもない。なので母さんのこの提案はひとりにしてみれば正に僥倖であった。

 

 …………が、しかし。

 

 何を血迷ったのか。ひとりは母さんのこの提案を拒否。思いがけず降って湧いた幸運をドブの中に捨て去ったのである。

 お陰様でこうして現在進行形で滅茶苦茶苦しんでる訳だけど、まあ完全な自業自得だ。

 

 ──しかし、どうしてそんな事したのか、一応、理由はあるにはある。

 

 というのも、母さんが提案を出した直後、ひとりは『お姉ちゃんだれもお友達いないもんね!』とふたりにバカにされたのだ。

 いや、恐らくふたりには悪意はない。

 ただ、あれくらいの歳の子って相手の気持ちを考えて発言するみたいな事をするの難しいわけで、思ってる事を素直に口に出してしまっただけなのだろうが。

 

 とは言え、そう言われた事が相当悔しかったようで、俺たちの前で自力で何とかすると───そう、ひとりは豪語したわけだ。

 それが意地なのか、プライドなのかはよく分からないけど、とにかく、ふたりや俺たちの前で大見栄を張ったのだった。

 

 以上が"あの時"に起きた事の顛末である、結果は見ての通り散々で、結局、俺がこうして手伝う羽目になった訳なのだが。

 

 とにかく、今のこの状況を打破する為に、まずはネガティブ思考を拗らせて落ち込んでいるひとりを激励する事から始めるとしよう。

 

 

「────まあ、それはもう過ぎた話だろ? とにかく今回は俺らだけで何とかするしかねえよ。もう少し休憩したら、もう一度駅前で声かけ頑張ろう」

 

「………………うん」

 

 

 くよくよしてたって仕方がない。大事なのは前を向くこと。今日だってひとりが本当は他人に話し掛ける事が怖くてしょうがないだろうに、それでもこうして駅前で声を掛けて頑張ってるんだ。いつかチケットを買ってくれる人は絶対現れるよ。

 

 そうひとりを励ましてそろそろ声掛けの再開でもしようか。──そう考えていた時だった。

 俺たちのすぐ近くでどさりと何か大きな音がしたのは──。

 

 

「お、おおおお兄ちゃん…………ひ、人……女の人が倒れてる!!」

 

 

 声を震わせながらひとりが必死な形相なのを見て、恐る恐る後ろを振り返ってみると────ひとりの言う通りそこには、うつ伏せの状態で地面に倒れている女性の姿があった。

 

 

「へ? …………いや、ちょ、大丈夫ですか!?」

 

「……ぅ……ぅぅ……」

 

 

 突然の出来事に一瞬頭の中が真っ白になったが、何とか女性に声を掛け、そのまま駆け寄る。女性の様態はあまり芳しくないようで苦しそうに唸り声をあげていた。

 

 

「ね、ねえ、この人……い、行き倒れなのかな……?」

 

「分かんねえけど、容態がすっげえ悪いのは確かだ……! ひーちゃん悪いけど救急車呼んでくれる!?」

 

「え!? あ、う、うん!! ───あっ、も、もしもし! あ、あの人が、倒れてて!? ───あれ、これ時報だ…………」

 

「いやおバカ!? それ117番!! 救急車は1・1・9番!! ──何でこんな時にそんなお約束なボケをかますの!?」

 

「ごごごご、ごめんなさい!? で、でも、これは別にわざとじゃなくって──「…………み…………ず…………」──え?」

 

 

 事態は一刻を争う場面で、肝心な所でドジを踏んだひとりに思わず説教をしていると、俺とひとりの視線は真下──未だに地面に倒れ伏す女の人へと向く。

 声は弱々しくて、枯れていたからよく聞き取れなかったけど…………今、この人何か言ってたよな……? 

 次はきちんと声が聞き取れるように耳を凝らす。

 

 

「お水……ください…………」

 

「お水ですね!? 分かりました! すぐそこで買ってきます! ひーちゃん、俺、水買ってくるからこの人の事を見てて───」

 

「あっ! ま、待ってお兄ちゃん! この人まだ他にも何か伝えようとしてるよ!?」

 

 

 そう言って水を買いに行こうとする俺を引き留めたひとりは女の人の話を聞いてあげている。やがて、話を聞き終えたのかひとりは俺の元へと近寄ってきた。

 

 

「あの人はなんて?」

 

「う、うん。えっと、お水以外にも……酔い止めとしじみの味噌汁を買ってきて欲しいって」

 

「ふむふむ。酔い止めにしじみの味噌汁ね…………ん?」

 

 

 メモ代わりにスマホに入力していた指の動きが止まる。

 酔い止めとしじみの味噌汁? 

 

 

「あと、おかゆも食べたいって」

 

「え、おかゆ?」

 

「うん、それから介護場所は天日干ししたばっかのふかふかのベッドの上で───」

 

「いや待て待て…………何かすげえ注文多いな!?」

 

 

 要望の数が明らかに多すぎる。何で買い物だけの話から料理や介護まで話が広がってんだよ。──というか、もしかしてこの人…………。

 

 この女の人からの要望を聞いてから頭の中である一つの仮説を立てた。その仮説が合っているのかどうか確かめる為、女の人に近付くと傍に屈んで匂いを嗅いだ。

 

 うっ…………酒くせえ…………。

 さっきまで必死だったから気がつかなかったけど、強烈なアルコールの匂いがする。

 この人かなり飲んでやがるな? 

 

 

「……!? え、え!? お兄ちゃん……? 一体何して───」

 

「…………やっぱ思った通りだ。この人、ただの酔っ払いだよ…………おえっ…………」

 

「へ? 酔っ払い…………?」

 

「ああ。この人の要望を聞いた時にもしかしてと思ってな。それで試しに匂いを嗅いでみたら、案の定この人めっちゃ酒臭かった」

 

「あ、ああ…………な、なるほど。そういう事……? ならよかった…………じゃないっ!!」

 

「うおっ!?」

 

 

 俺の説明を受けて安堵する様子を見せたひとりだったが、突然、思い出したかのように大きな声を上げた。

 

 いや、普通にびっくりした…………急に大声なんか上げて一体どうしたってんだ…………。

 

 

「びっくりした…………ひーちゃん急に大声出してどうしたの?」

 

「ど、どうしたのじゃないよ! た、倒れてる人の……それも女の人の匂いをいきなり嗅ぐなんて……そ、そんな事しちゃダメでしょ!!」

 

「え……? あー、そういう事か。それなら大丈夫、これはこの人の容態を知るために必要な措置だったから──」

 

「必要だったとしても絶対しちゃダメ──ーッ!!!! お、お兄ちゃんの……へ、変態っ!!」

 

「へん……!? ひーちゃん!? ち、違うぞ!? 匂いを嗅いだりしたのは、酔っ払いかどうか確認するためであって、その行為に下心とかそういった下衆い感情の類は、その……一切無くって──」

 

「し、下心とかそういう問題じゃないの!! そ、そもそも匂いを嗅いだりした事がおかしいって話で───」

 

 

 それから暫く、珍しく激昂したひとりからガチ説教を受けながら、俺はその場でしどろもどろとするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「み、水ぅ……早く……買ってきてぇ…………うっぷ…………」

 

 

 

 △ ▼ △ ▼

 

 

 近くのコンビニで水と酔い止め、それからしじみの味噌汁も購入し女の人に渡した。女の人は苦しそうにしながらも、最初に水を少し口にし、それから酔い止めを一気に飲み干すと、それで少し楽になったのか、しじみの味噌汁も一気に飲み干す。

 

 

「っぷは────っ!! しじみが肝臓にしみわたる……助かった〜! 本当にありがとね。まさか本当にしじみの味噌汁まで買ってきてくれるとは」

 

「……どういたしまして」

 

 

 あんたを助けたせいでひとりにひどく叱られたよ! と思ったが、その気持ちは心の底にそっと仕舞った。

 大体ひとりに叱られたのは俺の落ち度のせいなので、それを口にしてまえばただの八つ当たりに過ぎない。

 嬉々として感謝してくる女の人に八つ当たりする程、俺は腐っていない。

 

 それでも、その主たる原因はこの女の人にある事実は変わらないのだが。

 

 

「あ〜さっきより体はだいぶマシになったけど、頭痛だけはどうにもなんないな〜やっぱ。あーあ、脳みそも頭の中じゃなくて肝臓の中にあったら良かったのにな〜」

 

 

 それはそれとして。

 この人は一体何言ってるんだ。いや、酔っ払いだし支離滅裂な事を言うのは当たり前なんだろうけど、いくら何でも言ってる事が無茶苦茶すぎじゃないだろうか。

 言いながら頭を抱えたり、体をクネクネと捻ってみたり、動きが完全に不審者だ。

 完全にやばい人だよ、この人。

 

 俺はとなりで遠い目をして女の人を見つめるひとりに小声で呼びかける。

 

 

「ひーちゃん。これ以上この人と関わるのは絶対やばい。これ以上面倒事に巻き込まれるのも御免だし、適当に挨拶を済ませてさっさとこの場から離れるぞ」

 

「う、うん。私もその方がいいと思う……」

 

「だよな。よし、それじゃあ俺が適当に挨拶してくるから、ひーちゃんはここで待ってな」

 

「分かった……けど、そんな上手く事が運ぶかな……?」

 

「大丈夫。サッと挨拶して、サッと立ち去ればいいだけだからさ」

 

 

 では早速実行に移しますか。

 後ろからひとりが応援の眼差しを向けてくれている気がする。

 おほっ! サイコーかよ! お兄ちゃん張り切っちゃうぜ!! 

 

 

「大事にならなくて良かったです! じゃあ俺達は用事があるんでこれで……」

 

「ねえねえ! 君ら名前なんていうの〜?」

 

 

 挨拶は愛想良く、去り際はクールに。

 それを実行に移す前に逃げ道を塞がれてしまう。

 前半部分の挨拶しか出来てねえよ。ちくしょう。

 

 

「後藤零人です……あの子は妹のひとりって言います……」

 

「お兄ちゃん……」

 

 

 背中越しにひとりから失望の眼差しを向けられているのをはっきりと感じる。

 ごめんひとり、俺の考え方が全体的に甘かったです。もっと簡単に逃げられると思ってました。猛省するから、どうか、どうか俺の事は見放さないで欲しいです。はい。

 

 

「へ~君ら兄妹だったんだ〜一緒に出掛けてるなんて仲良いんだね〜」

 

「仲良いだなんてそんな事……まあ全然ありますけどー」

 

「え、えへへ〜」

 

「え〜何〜? 照れてんの〜? 可愛いね〜じゃあそんな君らの仲の良さが末永く続く事を願って今から祝杯だ〜!」

 

「は? 祝杯?」

 

 

 仲が良いと言われ浮かれていた熱が一気に冷めていく。

 戻ってきた理性が女の人の発した言葉に疑問を抱く。

 しかし、女の人の手にはいつの間に何処から取り出したのか紙パックが握られていた。ってか既にストローを差し込んでゴクゴクと中身を飲んでいる。

 

 

「ぷはーっ! お酒は程々にしないとね! って言ったそばから飲んじゃうんだけど〜!」

 

「アンタさっき二日酔いで死にかけてたでしょうが!? 何でまたお酒飲んでるんですか!?」

 

「く〜〜〜っ!! 効く〜〜〜っ!! やっぱり二日酔いの後に飲む一杯は格別だね〜! 迎え酒〜! なんちって〜」

 

「話全然聞いてねえし……ってか迎え酒って……あれ迷信らしいですよ? マジで危ないし、これ以上は本当に飲まない方が……」

 

「え〜なに〜? れいとくんも飲みたいの? しょうがないなあ、これあげるよ安酒だけど〜」

 

「要らねえよ!! 未成年ですよ!! 俺は!!」

 

 

 何なんだこの人。さっきから言ってる事、やろうとしてるが滅茶苦茶過ぎる。特にお酒を追加してから様子がおかしい。また酔っ払ってんだろこの人。

 未成年にお酒を与えようとしてくるのもやばすぎる。法律無視かよ。倫理観はどこ行った。

 そもそも酔っ払いに倫理観を求めるのもおかしな気もするけども。

 

 

「え〜れいときゅん未成年なの〜? こんなに顔がおじさんみたいで肌もゴツゴツしてるのに〜?」

 

「それ俺じゃなくて弁財天様の石像です。あんまりペタペタ触るとバチが当たりますよ。あと俺の事変な呼び方で呼ばないで下さい」

 

「お、お兄ちゃん……そろそろ本当にここから離れた方がいいんじゃ……」

 

「あ! ギターだ! ひとりちゃんが弾くの? いいね〜私もこう見えてバンドやってんだーインディーズだけどね!」

 

「ひいっ!?」

 

 

 しまった! 今度はひとりが標的に……! 

 って待て、今バンドやってるって言った? ガチ? この人が? やばい人なのに? 酔っ払いなのに? 

 いつかリョウがバンドやってるやつには変人が多いって教えてくれたけど、この人はその変人の領分を軽々超えてる気がする。

 

 って今はそんな事考えてる場合じゃない。

 急いでこの人からひとりを引き離さなきゃ。

 この人はひとりにとって悪影響しか及ばさない、さながら歩く公害だ。今俺がそう定義した。

 言い方は酷いかもしれないが、この人にはそう思わずほどの凄みがあるのだから仕方ない。もちろん悪い意味でな。

 

 

「すみません、あまり妹にぐいぐい行かないであげて下さい。この子人見知りなんで」

 

「キュ〜…………」

 

「え、そうだったの? あちゃーごめんね?」

 

 

 ひとりと女の人の間に割って入り、間一髪引き離すことに成功した。

 良かった。ひとりの状態を見る感じ体のどこにも異常は無さそうだ。もし、もう少し引き離すのが遅れていたら、体が溶けていたか、爆発四散していたかもしれない。

 ただ、この人やけにすんなりと受け入れてくれたな……? 

 

 酔っ払ってはいるものの、物事の善し悪しを判断するくらいの理性はあるのだろうか? 

 いや、でも未成年に飲酒勧めてくるくらいだしなあ……。

 よく分からん。

 

 とりあえず、力尽きてその場に座り込んでしまったひとりを介抱してやりながら、ふと疑問に思ったことを女の人に投げけてみる。

 

 

「そう言えばバンドやってるって言われましたよね?」

 

「うん! そうだよー! 普段は新宿にあるライブハウスを拠点にして活動してるんだー! 昨日もそこでライブして来たばかりなんだよ!」

 

「へー新宿で……でもなら何で新宿から離れたここで行き倒れてたんですか?」

 

「あー、それは……確か、昨日ライブの後、新宿にある居酒屋で打ち上げしてたんだけど、それが終わった後も、何軒か居酒屋を梯子してて、気がついたらこの辺さ迷ってたんだよね〜」

 

「もう酒飲むのやめろよ」

 

 

 記憶が飛ぶくらい梯子酒して、この辺で二日酔いで行き倒れてたってアホすぎる。いい大人がマジで何やってんだ。

 自分で節制ぐらいしろよ。

 それに巻き込まれた俺とひとりが不憫すぎるだろうが。

 

 そもそも、そんな奴が本当にバンドマンなのかどうかも怪しく思えてきた。昨日ライブしてきたって言う割には楽器も持ってないし。

 

 

「……バンド組んでるってことは楽器も何か弾けるんですよね?」

 

「もちろん! ベース弾いてまーす! ベースとお酒は私にとって命よりも大切なものだから毎日肌身離さず持ってるの」

 

「なるほど……で、そのベースはいずこに?」

 

「ん? ……………………やべ、居酒屋に置きっぱなしだ……」

 

「命、軽すぎんか?」

 

 

 嘘だろおい。

 マジかよおい。

 

 

「一緒に取りに行くよー! ひとりちゃん! れいときゅん!」

 

「はあ!? ちょ、何で俺らまで!?」

 

 

 一目散に俺達の前から走り去っていく酔っ払い。酔っ払っているせいかその足元は凄く覚束無い。そのせいか走ってはいるものの大した速度も出ていない。

 

 いや、これチャンスなのでは……? 

 この場からあの人がいなくなるのであれば、ひとりを連れて逃げ出す絶好の機会だである。

 今この機を逃せば次いつ逃げ出せるか分からない。

 

 逃げる、か? 

 別にあの人にこれ以上付き合う義理はもうない。寧ろ最初から義理なんて無かったのだけれども、これ以上あんなやばい人と関わる必要なんて一ミリもないのだ。

 これ以上面倒事に巻き込まれる前に逃げてしまうのが絶対いい。

 

 その方が絶対にいい、筈なんだけど……

 

 

「〜〜〜っ!! あーくそ!! ひーちゃん起きろ! あの女の人の後追いかけるぞ!」

 

「っは!! え、お、追うの!? 何で!?」

 

「いいから! 行くぞ!」

 

「え、ちょ! 待ってよ! お兄ちゃーん!!」

 

 

 今ばっかりは自分のこのお節介焼きな性格を恨むぜ! ちくしょう!! 

 乗りかかった船だ。ここまで来たらトコトン付き合ってやろうじゃねえか!! 

 

 

 

 

 





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