しすこん・ざ・ろっく!   作:そるるん

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あれGW終わってる……?




02『MOVIN' ON』

 

「わ、私がサポートギター……? そ、それも今日!?」

 

「ギターの子が、突然音信不通になっちゃって! ある程度曲が弾ける人ならすぐ出来る曲だから! ね! どうかな!?」

 

「あ、ぅ……お、お兄ちゃん……」

 

 

 虹夏のあまりの剣幕に気圧されたひとりが思わず俺に助けを求めてくる。その顔は不安と緊張で今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 

 

 しかし、俺はそんなひとりにニコッと笑顔を作って返事の代わりとした。そんな俺の返事を受け取ったひとりの顔はどんどん青ざめていく。

 すまんな。今回ばかりは俺も口出しするのは我慢しなきゃいけない。

 

 

「ありがとう! 早速ライブハウスへGO!」

 

「あ、まだ何も言ってな───」

 

 

 ひとりが何か言いかけていたが、虹夏は聞く耳を持たずにそのままひとりの腕を引いて『STARRY』の中へと消えて行ってしまった。

 

 

「相変わらず強引なやつだなあ」

 

 

 誰も居なくなった入口で苦笑いをしながら俺はそう呟くと、2人の後を追うようにドアを押して奥へと入っていった。

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 さて、扉を押し開け建物の中へと入ると、最早見慣れたライブハウスの景色が広がっていた。

 その中でも更に見慣れた人物が3人、妹のひとり、虹夏、そしてもう1人は青髪のボブヘアにクールな雰囲気を纏った少女、俺と同じクラスメイトその2の山田 リョウがひとりを囲うようにして話をしていた。

 

 

「……あ、零人だ」

 

「あ!? 零人くんの事完全に忘れてた!?」

 

「あ、ああ……お兄ちゃ、た、たすけ……」

 

 

 3人共俺の事に気が付くと各々が反応を示してきた。

 リョウはいつもと同じ表情を変えずに飄々とした感じに、虹夏はぎょっとして目を見開いた顔を、ひとりは……あ、え? ゾンビ? 

 

 

「ひーちゃんがゾンビみたいになってんだけど、お前ら寄って集って俺の妹を虐めたのかよ?」

 

「え!? ご、誤解だよ!? ライブハウスに入って、スタッフさんとかリョウの事紹介してただけだから!! 気がついたらひとりちゃん、こんな姿になってたの!!」

 

「ひーちゃんは極度の人見知りだから、あんまり他人と関わりすぎるとこんな風に人間辞めちまうんだよ」

 

「人見知りだから人間辞めるって何!? 初めて聞いたよそんなの!」

 

「ヴァ……ワタシハニンゲンヲヤメルゾ……」

 

「とりあえず、ひーちゃんを元に戻すか。ほーら、ひーちゃん戻っておいでー」

 

 

 ひとりに声を掛けながら頭を撫でてやる。すると、屍人の状態から徐々に人間の状態へと戻っていく。

 血色の良い肌に戻った頃には、ひとりも意識を取り戻していた。

 

 

「……んは!? 私、一体何を……」

 

「すごい! 本当に人間に戻った!」

 

「まさか本当にゾンビ化した人間を再び人間に戻すなんて……こんな力持ってるんなら、零人はゾンビ映画の世界にぶち込んだら無双出来るのでは……?」

 

「えっ……ゾンビ……?」

 

 

 俺がゾンビひとりを人間ひとりに戻したのを見て、虹夏とリョウが感嘆の声を上げた。当の本人は何が起こっていたのか分からなかったようだけども。

 

 

「さーてと! ひとりちゃんも元に戻った事だし、早速スタジオ行って合わせの練習してみようよ!」

 

「あ、合わせの練習……ですか?」

 

「私も賛成。本番まで時間があまり無いし、何よりひとりのギターの腕前がどの程度なのか気になる」

 

「あ、わ、私のギターの腕前はそ、そこそこ……なので」

 

「そこそこ?」

 

「ひ……あ、はい。そ、そこそこです」

 

「へー」

 

 

 ひとりの事をじーっと見つめるリョウ、対してひとりはそんなリョウに完全に怯えてしまっている。

 ひとりは恐らく睨まれてるとか思ってるんだろうけど、リョウにはそんなつもりは全くないんだろうなあ、あいつ常に思考停止状態で生活してるし。今も既にひとりから興味は無くしてるんだろうし、ただ、ボーッと突っ立ってるだけなんだろうけど。

 

 

「おい、リョウ。無言でひーちゃんを見つめるのやめてやれ、怖がってんだろうが」

 

「あ、うあ……お、お兄ちゃん……! わ、私何かリョウさんの気に触る事しちゃったのかな?」

 

「ん? いや、ひーちゃんは何も悪いことしてないよ。これがリョウにとっての通常運転だから気にすんな。普段から脳みそ使ってないだけだから」

 

「零人、それは流石に私に失礼。まるで私が思考停止系美少女みたいに言うのはやめて欲しい」

 

「いや、脳死で生活してるのは事実だろ? あと自分で自分の事美少女って言うな」

 

「それ以上褒めちぎるのはやめて欲しい。照れる」

 

「一つも褒めてねえんだけど!?」

 

 

 こいつの面の皮の厚さ一体何なんだ。

 リョウの何を言われても自分を決して曲げようとしない信念には感服するが、如何せん図々しい部分はどうにかならないもんだろうか。

 そのせいで俺と虹夏も、どれだけこいつに迷惑をかけられているか……

 

 

「皆ー! 今確認したらスタジオ使っていいみたいだから、早速合わせの練習をやろうー!」

 

「お、そうか。なら、俺は本番までここで待ってるから。悪いけど虹夏とリョウ、ひーちゃんのこと頼むわ」

 

「え"っ!? おおお兄ちゃん、 一緒に来てくれないの!?」

 

「いや、流石にここの関係者でもない俺が付いていくのはまずいでしょ……」

 

「え? 何で? 零人くん別に無関係じゃないでしょ? ひとりちゃんのお兄ちゃんだし、わたしとリョウとも知り合いだし、バンドメンバー全員と関わりあるんだから、零人くんも立派な関係者でしょ。あと店長の私のお姉ちゃんとも面識あるんだし、零人くんがスタジオに入っててもお姉ちゃん別に何も言わないって〜」

 

「ええ、マジかよ……」

 

 

 そんな確かに店長さん……星歌さんとも何度か面識はあるけど、だからってそれだけで関係者を名乗ってもいいものなんだろうか。

 それから虹夏のペースに乗せられたまま、俺とひとりはスタジオへと連行されるのであった。

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 初めて入ったスタジオの感想は『思ったよりも狭いな』というものだった。壁側にはアンプやエフェクター等の機材が置かれており、部屋の奥にはドラムセットがドン! と鎮座している。

 部屋の広さ自体はそこそこあるんだろうけど、機材もドラムも場所を取ってるから実際の間取りよりも大分狭く感じるだろうな。

 

 

「はい! これ今日演奏するセットリストとスコアね!」

 

 

 そう言いながら虹夏はひとりに用紙を数枚渡した。ひとりと一緒に確認してみると、どうやら今日演奏するのはここ最近バズったバンドの楽曲のようだった。

 

 

「お、この曲とか最近話題になったドラマの主題歌じゃん。どうだ? ひーちゃん弾けそうか?」

 

「あ、うん……この曲なら多分大丈夫。そんなに難しい譜面じゃないし、すぐ弾けると思う」

 

「おお! それは心強いねー! じゃあ、早速だけど、通しで1回演奏してみよっか!」

 

「あ、は、はい!」

 

 

 虹夏にそう言われ、ギターを取り出し演奏の準備を始めるひとり。俺はその様子を部屋の隅っこに置かれたパイプ椅子に座りながら眺めていた。

ひとりは慣れた手つきでギターのチューニングを済ませると、次にギターとアンプをシールドで繋いでいく。

 因みに、虹夏の担当楽器はドラムでリョウはベースだ。

 

 

「よーし! 準備完了! そしたら合わせやってみよう!」

「ん」

 

「は、はい!」

 

「……何か見物人が居るとちょっと緊張するけど……よーし! じゃあ、準備はいい? いくよー! 1234──」

 

 

 虹夏のカウントを合図に3人の演奏が始まった。

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

「……ド下手だ」

 

「ぷっ」

 

「ぐふっ!?」

 

 

 合わせの演奏が終わり、虹夏とリョウはひとりを見ながらそう発言した。

 ああ……語るまでもないがひとりは精神的に大ダメージ受けてるなありゃ。

 

 

 虹夏達の感想はごもっともである。実際にひとりの演奏を聞き慣れてる俺も、今回のひとりの演奏に違和感を感じた。

 俺も別に音楽に凄く詳しい訳ではないから、専門的な事は分からないけど、何だか音ズレていたというか、ひとりのギターの音だけ偉く突っ走っていった気がする。

 

 

「……ど、どうもー……プランクトン後藤です……」

 

「何か売れない芸人みたいな人が出てきた!?」

 

「あーあー、ひーちゃん。床に寝転がったら汚いから、ほら起きて」

 

 

 床に寝転がるひとりを抱え起こしてやると、不意にひとりが俺の袖を掴んできた。

 

 

「お兄ちゃん……」

 

「ん?」

 

「今の私の演奏……下手だった?」

 

「え? えーと……いつも通りひーちゃんらしい演奏だったと思うぞ?」

 

「ひとりは突っ走る演奏して、リズム隊の私達を置いてけぼりにしただけだから、大丈夫」

 

「や、やっぱり、私の演奏が下手くそなせいで皆に迷惑を掛けてたんですね……」

 

「おいいいいいっ!? リョウお前! もっと優しくオブラートに包んで伝えろよ!?」

 

「そうだよ! そんなストレートに伝えたらひとりちゃんだって傷つく───って、ひとりちゃん!? どこ入ってるの!?」

 

 

 リョウのストレートな物言いのせいで、何とか保っていたメンタルをぶち壊されたひとり。虹夏の悲鳴のような叫びに俺も慌ててひとりの方を見る。

 

 

 ひとりはスタジオ内に設置されたゴミ箱の中にすっぽりと入り込んでいた。

 俺と虹夏は大急ぎでひとりへと駆け寄った。

 

 

「こらっ!! ひーちゃん!? 汚ねえからそっからすぐ出ろ!?」

 

「ひとりちゃん! ごめんね!? あたしもリョウも言い方が悪かったよね!! 本番も始まっちゃうし! お願い出てきてー!!」

 

「や、ややややっぱり私には出来ません……む、無理です……」

 

「し、しょうがないよ! 即席バンドなんだし! ……ほ、ほら! あたしだってそんなに上手な訳じゃないし!」

 

「私は上手い」

 

「山田ァ!! お前は少し黙ってろ!!」

 

「あ、え、演奏もですけど、MCもお役に立てないですし……あはは私の命をもってハラキリショーでも……バンド名くらい覚えて帰って貰えるはず……」

 

「ロックすぎるよ!? ひとりちゃん!」

 

「大丈夫。ひとりが野次られたら私がベースでぽむってするから」

 

「ベースってそんなファンシーな音鳴るのかよ……?」

 

「ま、まあ流血沙汰もロックだから!」

 

「ロックだから」

 

「ロック免罪符すぎんだろ。おい」

 

「それに今日ウチのバンド見に来るの、多分、あたしの友達だけだし! 普通の女子高生に演奏の善し悪しなんて分かんないって〜」

 

 

 他所に聞かれたら間違いなく炎上するだろそれ。

 と、ここまで全員でひとりの説得(1名煽ってるようにしか思えない)を試みたが、当の本人は完全に自信を喪失してしまっているようで、俯いたままゴミ箱から出ようとはしない。

 

 

 こうなったら、別の方法を……と、俺が考えた時だった。不意にリョウが口を開いた。

 

 

「無理強いするもんじゃない」

 

「リョウ……!」

 

「今回のサポートギターのお願いだって、私達からの一方的なお願いでしょ? そこにひとりの意思が尊重されてないのなら、別に無理して頼みを聞く必要なんてない筈だよ。ひとりにだって選ぶ権利はある」

 

「あ……」

 

「リョウ……お前」

 

「それにさっきはひとりにああ言ったけど、別に演奏の技術が悪い訳じゃないよ。ただ、突っ走った演奏をしただけ、さっき一緒に演奏してて気が付いたけど、演奏中ひとりって私達と一度も目を合わせてないんだよ。だから、私達と息が合わないから突っ走った自分だけの演奏をしたんだと思う」

 

「リョ、リョウさん……!」

 

「言葉足らずでごめん。ひとりは演奏技術も悪くないから、経験さえ積めば息の合った演奏も出来るようになるよ」

 

 

 

 

 

「おい……虹夏? あれ、本当にリョウか?」

 

「それな? あんな真剣に話すリョウ、しかも、誰かに教えを教授するなんて姿、初めてみたんだけど……」

 

 

 いや、本当に誰だよあれ。

 普段はあんな導き系のキャラじゃねえだろ。

 

 

「あ、あの! ごめんなさい! 私、ライブしたくないとかじゃないんです! バンドに誘って貰えた事、本当はすっごく嬉しかったんです! バンドはずっと組みたいって思ってて! ただ、メンバーが集まらなくて……」

 

「普段は何弾くの?」

 

「あ、いつバンドに誘われてもいいように、ここ最近の売れ線バンドの曲はほとんど弾けます……」

 

「え、すご!? 売れ線のバンド……って何か『ギターヒーロー』さんみたいだね? 知ってる? ギターの演奏動画上げてる人なんだけど、すっごく演奏が上手なんだよね!」

 

「私も知ってる。最近、動画のオススメ欄に出てくるから何曲か聞いてみたけど、凄く上手だった」

 

「っ!?」

 

 

『ギターヒーロー』その名前を聞いた時ひとりも俺も驚愕の顔を浮かべていただろう。

 それもそうだろう。『ギターヒーロー』とは他でもないひとり自身の事なのだから。

 

 

 ひとりがギターを弾き始めたのは中学一年生の時だった。

 当時、ひとりのギターの才能に一早く気づいた親父の勧めで、ひとりは演奏動画の投稿を始めた。その時に作成したチャンネルの名前が『ギターヒーロー』

 それから3年の年月が経ち、現在はチャンネル登録者数は3万人、動画の再生数も100万再生超えの物が数本存在する。人気のチャンネルへと成長していた。

 

 

 これは単純にひとりのギターの腕前と流行りの曲を片っ端から演奏動画として上げていったお陰だろう。

 現にコメント欄もひとりの演奏を賞賛する声が後を絶たない。

 

 

 しかし、そこそこの人気のチャンネルとは言え、まさか虹夏もリョウも認知していたとは……いや、音楽業界の人間だし当然と言えば当然なのか? 

 

 

「……そうだ。どうしても、人前に出るのが怖いならこれ被れば?」

 

「ええ……リョウそんなのどっから持ってきたの……」

 

「物置きに置いてあった。これなら人の目線を気にせず演奏出来るよね」

 

 

 ふと、そんな会話が聞こえて来て俺は視線を虹夏達に向ける。すると目に飛び込んできたのは、俺の背丈ほどありそうなドデカい箱……もとい段ボールだった。

 

 

「え、何だこれ?」

 

「い、いつも弾いてる環境と同じです!!」

 

「おわ!? ビックリした!? ひーちゃん中に入ってんのかよ!?」

 

「待って、零人くんとひとりちゃんってどんな所に住んでるの?」

 

「ん? 普通の一軒家だけど? ひーちゃん普段、部屋の押し入れの中でギター弾いてるから、同じ感じだと思ったんじゃないかな?」

 

「あ、あー……そういうこと……」

 

「み、皆さん! 下北盛り上げていきましょう!!」

 

「何か気が大きくなってる」

 

 

 

「あ、そう言えば、ライブで紹介する時なんて呼んだらいい? ひとりちゃん?」

 

「え、あ、いや。名前はちょっと……」

 

「じゃあ、あだ名とかないの?」

 

「ちゅ、中学では『おい』とか『あのー』とか『ちょっと』とか……」

 

「それあだ名じゃないよね!?」

 

「ひとり……ひとりぼっち……『ぼっち』は?」

 

「またデリケートな所を!?」

 

「ぼぼぼぼぼ『ぼっち』です!!」

 

「ええ……喜んでる……?」

 

「良かったなあ……ひーちゃん。交友関係に乏しいから、あだ名付けられたの初めてで嬉しいんだよな……」

 

「こっちは何か泣いてる!? 零人くんは兄として、妹に不名誉なあだ名を付けられたことを怒るべきだと思うよ!?」

 

「あ、そう言えば、ま、まだ、バンド名聞いてないです……」

 

「『結束バンド』だよ」

 

「うっ……だ、ダジャレみたいで寒いし! 絶対変えるから!!」

 

 

 虹夏は顔を真っ赤にしながら叫ぶようにそう言った。

 俺はそのバンド名、結構好きだけどなあ。既存の商品の名前と同じだからこそ逆にインパクトになるというか、ダジャレっぽい感じも逆にご愛嬌というか。

 

 

「『結束バンド』さん、そろそろスタンバイの方をお願いします!」

 

「と、とにかく下手でも怖くても楽しく弾くことだけは心掛けよ! 音って物凄く感情が現れやすいから! 演奏技術を求めていくのはこれからで全然いいよ! 次頑張ろっ!」

 

 

 虹夏のその言葉を聞いてひとりの表情がパアっと明るくなったのを見て、俺は何だか微笑ましい気持ちになった。

 あの子の念願だった『バンドを組む』という夢が叶う瞬間を目の当たりにして思わず目頭が熱くなるのを感じる。そうか、ひとりはもうひとりぼっちじゃないんだな。

 

 

「じゃあ、俺はそろそろ戻るよ。『結束バンド』の演奏楽しみにしとくわ。それと──」

 

 

 俺はひとりに視線を移し、ひとりの瑠璃色の瞳をじっと見つめる。

 うん。やっと覚悟が決まったみたいだな。良い目になった。緊張や人前に立つ恐怖なんかはまだあるんだろうけど、いつものギターを弾いてるのひとりと同じ目をしてる。

 

 

「ひーちゃん……頑張れ!」

 

 

 それだけ伝えるとひとりは目を大きく見開いて、力強くコクリと頷いた。

 

 

「あ、あと虹夏とリョウもがんば」

 

「あたしたちはついでかい!! ……でも、うん! ありがと! 頑張るねっ!」

 

 

 拳を突き出す虹夏に俺も同じ様に拳を突き出す。拳と拳が触れ合うと、虹夏は太陽の様に眩しい笑顔をこちらに向けてくるのであった。

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 スタジオから戻ると、ステージの前には既に数名の人が集まっていた。次の演者は『結束バンド』なので、恐らくあそこに群がっているのは虹夏の友人達なのだろう。見知らぬ顔ばかりなので、恐らくは中学の頃の同級生とかだろうか。

 

 

 俺どの辺で観ようかなあ、出来ればひとりが安心して演奏出来るようにひとりの視界に入る場所で見たいんだけど、前の方は虹夏の友人達が陣取ってるし、大人しく後ろの方で見るか……? いや、それだとひとりが安心して演奏が……ってか待てよ? そもそもひとりって顔を上げて演奏なんか出来るんだろうか? タダでさえ人の視線だけでビビり散らす子なのに、ステージの上で演奏なんて耐えきれなくて、その場で爆発四散しちゃうんじゃ──

 

 

 

「あれ、後藤じゃん? 来てたのか」

 

「ふぁっ!? って、何だ星歌さんか」

 

「気持ちわりぃ声を出すな……ってか久しぶりに会ったってのに随分な挨拶だな?」

 

「あ、すみません。ご無沙汰してます」

 

 

 そう言って俺はぺこりと頭を下げる。そんな俺を星歌さんは怪訝な顔をして見つめながら溜め息を吐いた。

 

 

 彼女の名前は伊地知 星歌さん。

 虹夏の実のお姉さんで、この『STARRY』の創設者であり店長をしている女性だ。特徴は金髪で美人、ただし滅茶苦茶柄が悪い。

 

 

「今日は虹夏達のライブ見に来たんだろ?」

 

「ええ、そうですね。妹と観に来ました」

 

「妹……? あっ! もしかして前に話してくれた妹さんの事か? ギターが弾けてバンドに興味があるっていう」

 

「はい。そうですその子です」

 

「へー! わざわざ来てくれたんだ! でも、あれ? 今は一緒じゃないのか?」

 

「あー、えーと……実は……」

 

 

 俺はここまでにあった経緯を星歌さんに話した。

 俺の話を話を聞いた星歌さんは最初こそ驚いた顔をしたものの、それだけで、後は黙々と俺の話を聞いてくれた。

 

 

「ふーん、なるほどねぇ……逃げたギターの子の代わりにサポートギターやるんだ。まあ、良かったじゃん。これで妹さんの夢も叶えられるんだし、まさに願ったり叶ったりだな」

 

「ええそこは俺も神に感謝してますよ。まさかこんな奇跡が起きるなんて思ってもみませんでしたから。今までの妹の苦労も報われたのかなって考えると嬉しくてたまらないですよ」

 

 

 本当にそう思う。そうでなきゃ、今ひとりが即席バンドとは言え、こうして今からステージに立って演奏をするなんて事、絶対に起こりえないことだと思ってたから。

 

 

「それで妹さんは、ギター上手いの?」

 

「それが、さっき皆で合わせの練習したんですけど、その時は虹夏とリョウに二人して下手くそだって言われちゃって……あ、でも本当はめちゃくちゃ上手いんですよ! 家で一人で弾いてる時とかもうプロのギタリストみたいな感じなんで!」

 

「お、おう。そうか。ま、まあ、今までバンド組んだこともなくて、ずっとソロ弾きしかして来なかったんなら、下手でも仕方ねえよ。演奏の技術は二の次! まずは楽しく演奏する事が大事だからな」

 

「それ、さっき虹夏も同じこと言ってましたよ。流石姉妹よく似てますね」

 

「……うるせえ、それ以上何か言うつもりなら店からつまみ出すからな!」

 

 

 虹夏と似てると言われ分かりやすく照れる星歌さん。顔をそっぽに向けぶっきらぼうにそう話す。普段は大人で頼れる姉貴分のような人だけど、こういう風に時折見せるギャップ萌えのような可愛さもこの人の特徴でもあるのだ。

 

 

「……お、そろそろ始まるな。さてアイツらの拙い演奏でも聞いてや──え? んだあれ……?」

 

 

 星歌さんの珍しく動揺した声を聞いて、俺もステージ上に視線を移す。するとそこには虹夏とリョウ。そして、見覚えのある巨大な段ボール……完熟マンゴーとデカデカと印字されているその段ボールは他でもない先程スタジオでひとりが被っていたものだった。

 

 

「お、おい後藤。あの段ボールまさか……」

 

「あ、はい。そのまさかです。あの中に俺の妹が入ってます」

 

 

 その会話の後、虹夏の短いMCが入り、ついに『結束バンド』の初ライブがスタートしたのであった。

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

『結束バンド』の出番が終わり、虹夏がひとりの歓迎会兼打ち上げをしようと提案してくれたのだが、慣れない事を沢山経験したひとりは既に精神面のキャパをオーバーしていた為、それを断り今日は大人しく帰路に着くことにした。

 

 

 正直、虹夏の気持ちを考えると胸が痛いが、俺の中では優先順位が圧倒的ひとりなのでそこはしょうがない。今度お詫びに何か飯でも奢ってやろう。山田? 知らない子ですね。

 

 

 さてさて、そんなこんなで『STARRY』から駅までの帰り道、俺とひとりは並んでゆっくりと歩いていた

 

 

「お兄ちゃん」

 

「うん?」

 

「私、バンド組んじゃった……」

 

「ああ、そうだな」

 

「バンド組んじゃった!!」

 

「ひーちゃん、嬉しいのは分かるけど、夜遅いから声量はもう少し抑えてな」

 

「あ、ごめんなさい……」

 

 

 ひとりはバンドを組めたことが余程嬉しかったのか、虹夏達と別れてからずっとこの調子だ。うへへ……とたるみ切った笑顔を浮かべながら横を歩いている姿は何とも愛くるしい。え、何この生物? いくら何でも可愛すぎないか? 

 

 

「あ、でも、本当に私なんかで良かったのかな? 私ってコミュ障だし、人の目を見て会話出来ないし、今日の演奏だって、本当はもっと上手く出来た筈なのに……あ、あれ? 別に私じゃなくても良いのでは……? ギターが弾ける人なんて他にも沢山いるだろうし、私みたいなミジンコ以下の人間にバンド組むなんて行為自体、烏滸がましかったですよね……へへ……あ、お兄ちゃん、今から『STARRY』に戻っていい? 虹夏ちゃん達にバンド辞めること伝えてくるから……」

 

「戻らないし、辞める必要なんてねえから。ったく、せっかくバンド組めたんだから、もっと素直に喜べって。それに虹夏達がひーちゃんを見て失望なんかしてたか? 演奏技術だってこれからでも全然いいって言ってたろ? ひーちゃん本当はめちゃくちゃギター上手いんだし、場慣れしてけば本来の実力を出せるようになるよ」

 

「そ、そうかな? そ、そうだよね! だって私『ギターヒーロー』だし!! ヒーローは遅れてくるものだもん!! ね! お兄ちゃん!?」

 

「お、おう。分かったから!? ひーちゃん静かに! 夜だから声抑えて!!」

 

 

 そこからひとりを落ち着かせるのに5分掛かった。

 一度エンジンが掛かるとアクセルをベタ踏みしてしまう癖も早いうちに何とかしないとな……

 

 

 




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