しすこん・ざ・ろっく!   作:そるるん

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03『GLORY』

 

 

 ひとりが『結束バンド』に加入して数日が経った。

 今日は連休明けの平日で、今は学校終わりの放課後だ。

 

 

 俺は今、虹夏とリョウの3人で『STARRY』の入口前で佇んでいた。

 入口前と言ったが正確には、入口の扉に続く階段前、その上から見守る様にピンク色の少女を見下ろしていた。

 

 

 ピンク色の少女……まあ、ひとりなんだけど、さっきから何度も扉の取っ手に手を付けては放し、頭を抱え、もう一度手を付けたと思ったらまた手を放し……をエンドレスで繰り返していた。

 

 

 その行動には何となく察しがつく、多分、ライブハウスの空気にビビって一人じゃ入れないんだろう。

 

 

 延々と繰り返されるひとりの動作がとっても愛くるしいので、もう少し眺めていたいが、このままではいつまで経っても俺達も中に入れないので、そろそろ声を掛けてやるか。

 

 

 

「おーい、ひーちゃ──」

 

「待って、零人」

 

「んあ? んだよリョウ」

 

「面白いからもう少し眺めてたい」

 

「人の妹を見世物感覚で見るんじゃねえよ! ……でももう少し眺めてたいのは同意見だ」

 

「はいはい。リョウも零人くんもアホな事言ってないで、早くぼっちちゃんに話しかけて中に入るよー」

 

 

 呆れ顔の虹夏が俺達にそう言うと、ひとりに声を掛け『STARRY』の中へと入っていくのを眺め、俺とリョウもその後ろに続くように中へと入っていった。

 

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 

「それじゃー、皆揃ったしバンドミーティング始めまーす!!」

 

 

 テーブルを広げ、全員がパイプ椅子に腰をかけるのを確認すると虹夏が朗らかな声でそう言った。

 

 

 バンドミーティング、今日全員が『STARRY』に集まったのはこれが理由だ。

 

 

「それで、ミーティングって何を話し合うんだ?」

 

「うん! まずは新メンバーである後藤ひとりちゃん改めてぼっちちゃんのこともっと知りたいなって言うのと、今後の活動について話したいなって思うんだ!」

 

 

 なるほど。要はメンバー全員の親睦を深めたいのと、バンド活動初心者のひとりに具体的な活動内容を教える会って事か。

 

 

 こう改めてひとりが他人に受け入れられてるのを、実感するとこうグッとくるものがあるな。

 本当に虹夏達と同じバンドに入れて貰えて良かった……

 

 

「それじゃえっと、う~~~ん……思えば全然仲良くないから何話せばいいか分かんないや」

 

「身も蓋もねえな!?」

 

「そんな時の為にこんな物を作っておいた」

 

 

 そう言ってリョウが取り出したものはサイコロ型の少し大きな箱だった。各面には文字が書かれていて、恐らく話題のテーマなんだろうけど……

 

 

「一つだけろくでもないのが混ざってんだけど?」

 

「普通の話題だけだとつまんないから入れてみた」

 

「それで何でバンジージャンプなんて発想が出てくるんですかね!?」

 

 

 そもそも何処でやるつもりなんだバンジージャンプなんて。

 ……いや、このサイコロを作ったのがリョウの時点でお察しか。多分、あと一つ話題のテーマが思いつかなくて適当に書いただけなんだろう。だから仮にバンジージャンプの面が出ても、本人はする気もやる気も無いのだろう。

 

 

 そうこうしてる内にサイコロをリョウが放り投げていた。

 

 

「何が出るかな♪ 何が出るかな♪ 学校の話〜!」

 

「略してガコバナー」

 

「が、がこばなー……」

 

 

 このやり取り、既視感があると思ったら、あれだわ。昔、母さんがお昼に見てたトークバラエティ番組だわ。ってか、ノリとかまんまそれじゃん。

 

 

 しかし、学校の話か。いきなりひとりにとって難題すぎる話題が来たな。直接見てる訳では無いので学校でのひとりの様子は分からないが、本人から直接聞いただけでも、中々に悲惨な現状だということは知っている。

 これはひとりにとっても中々辛い話になりそうだけども……

 

 

「あ……そういえば、三人とも同じ制服……」

 

 

 おお、あのひとりが自分から話題を振っている……

 目まぐるしい程の成長! ひーちゃん、お兄ちゃんは今猛烈に感動しています。

 さっき辛い話になるとか思ったけどまさかの杞憂だったか? 

 

 

「そ! 下高!」

 

「私と虹夏は下北沢に住んでるから近いところを選んだ」

 

「ぼっちちゃんは秀華高だよね? 零人くんもそうだけど、わざわざ県外の学校なんてどうして選んだの?」

 

「高校は誰も過去の自分が知らないところにしたくて……」

 

「ガコバナ終了ー!!」

 

 

 ああ、学校の話終わっちまった……

 ひとりの背景にある重すぎる理由に虹夏が耐えられなかったか……

 

 

「りょ、リョウもね、あんまり友達いないんだよ!」

 

「友達は虹夏と零人だけ」

 

 

 何か改めて俺達の関係を口に出されたら、あれだな、ちょっと小っ恥ずかしいな。

 

 

 ところで、リョウの友達少ない発言を聞いたひとりはというとパァと期待と希望の眼差しでリョウの事を見ていた。ええ、可愛い。ただ、悲しいかな、恐らくひとりは大きな勘違いをしている。

 

 

「りょ、リョウさんは私と同類なんだ……!」

 

「あー、ひーちゃん。その認識は少し語弊というか、勘違いしてるというか……」

 

「え?」

 

「休日は廃墟探検したり、一人で古着屋巡りをしたりしてる」

 

「……あ」

 

 

 どうやら勘違いに気がついたらしい、ひとりの顔がみるみる青ざめていっているのがその証拠だ。

 

 

「ぼっちちゃん、もっと会話を楽しもうよ!」

 

「虹夏、話題を変えてやってくれ……」

 

「そ、そうだね! つ、次は音楽の話ー!」

 

「略して音バナー」

 

「お、おとばなー!」

 

「そのノリまだ続けんの?」

 

 

 さて、次の話題は音楽の話だ。先程の話題はひとりにとって辛労辛苦だったけど、音楽の話題ならむしろ得意分野だろう。

 なんたって、ひとりは『ギターヒーロー』として日々ありとあらゆるジャンルの楽曲を貪っているのだから。

 この話題については特に心配する必要もないだろう。

 

 

 俺は熱い眼差しをひとりに送る、すると視線に気づいたひとりは心許ない目をしてこちらを見つめ返してくる。

 あれ? 何か思ってた反応と違う。どうしよ、途端に心配になってきたんだけど? 

 

 

「あたしはねメロコアとかジャパニーズパンクかな?」

 

「私はテクノ歌謡とか最近だとサウジアラビアのヒットチャートを──」

 

「絶対嘘でしょ!」

 

「ほんとだもん……」

 

「普段のいい加減な態度のせいで信憑性が0なんだよなあ……」

 

「ぼっちちゃんは?」

 

「わ、私は……青春コンプレックスを刺激する曲で無ければ何でも……」

 

「せ、青春コンプレックス……?」

 

 

 ひとりの発言を聞いて不安気にしていた意味を完全に理解した。

 そうだった、ひとりは青春を連想させる詞を歌う楽曲が大の苦手なんだった。

 

 

「ちょ、ちょっと、零人くん! 青春コンプレックスって何!? ぼっちちゃんは、また自分の世界に入り込んじゃって全然話聞いてくれないし!」

 

「青春コンプレックスって言うのは、海とか夏とか恋とか友情とか、とにかく青春を連想させるような言葉の総称だよ。多分」

 

 

 これで大体合ってるはずだ。ひとりの造語なので当然辞書を引いたところで、こんな言葉載ってるはずもないので、本当の意味は本人しか知る由もないのだが……

 青春コンプレックスってマジで何なんだよ。

 

 

「皆結束してよ~!」

 

 

 気が付けば、虹夏が半泣きでそう嘆いていた。

 ひとりは未だに自分の世界に入り込んでいて、リョウは今の状況に然程興味が無いのかマイペースにドリンクのカップに付いたストローに口を付けていた。

 

 

「……今すぐにでもバンド名変えた方がいいんじゃねえの?」

 

 

 この惨々たる現状を見て俺は思わずそう呟いた。

 

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

 

「──それで次はボーカルを入れてライブしたいんだよね!」

 

「虹夏が歌えばいいじゃん」

 

「……あたし歌下手くそだし、ぼっちちゃんは?」

 

「あ……」

 

「顔逸らすの早いな……すまん、虹夏、ひーちゃんにボーカルは荷が重過ぎる」

 

「あはは、大丈夫だよ。リョウは?」

 

「フロントマンまでしたら私のワンマンバンドになってバンドを潰してしまう」

 

「その湧き出る謎の自信は何なんだよ」

 

「本当は逃げたギターの子がボーカルも兼任するはずだったんだけど、あの子何処に行っちゃったんだろ……」

 

「あれからその子に連絡来てねえの?」

 

「うん、なんにも。あの時は確かにビックリしちゃったけど、結局ライブもぼっちちゃんのお陰でどうにかなったしね。その事も伝えて上げたいんだけど、音信不通になってるし、心配だな〜」

 

 

 逃げたギターの子とは直接面識がないので、俺はその子について全く知らないが、ライブ当日に逃げ出すだなんて余程の事情があったんだろうか? 

 

 

「ボーカル見つかったら曲も作っていこうよ! リョウ作曲出来るし。歌詞に禁句が多いならぼっちちゃんが書けばいいよ!」

 

「あ、え、わ、私……?」

 

「おー、ひーちゃん良かったじゃん。俺もひーちゃんが書いた歌詞の曲聴いてみたい」

 

「お、お兄ちゃん……はっ!? まさか小中9年間休み時間を図書室で過ごして続けたのはこの為の布石だったんだ!」

 

「え……ひーちゃん小中の時そうやって過ごしてたの……?」

 

 

 思わぬところでひとりの知らない部分を知りショックを受けた。

 いや、確かに教室でどうやって過ごしてるんだろって常に考えてたけど、まさかそんな場所で一人寂しく過ごしていたなんて……! 

 

 

「え!? お、おお兄ちゃん!? 何で突然土下座なんか!?」

 

「ひーちゃん……! 寂しい思いしてたのに何も気が付けなかった愚鈍な兄をどうか許してくれ……!」

 

「ゆ、許すから! 虹夏ちゃんもリョウさんも見てるから! お願いだから、恥ずかしいからやめて!!」

 

「ぼっちちゃんこんなに大きな声だせるんだ……」

 

「零人のシスコンが何時にもなく発揮してる」

 

 

 ひとりが必死になって懇願してくるので、俺は土下座をやめた。

 こんな愚かな兄を許してくれるなんて、ひとりはやっぱり聖女マリアや天使の生まれ変わりなのではないだろうか? いや、そうに違いない。

 

 

「話が大分逸れちゃったけど、次はこれ! ノルマの話ね」

 

 

 ノルマの話。これは単純にバンド活動していくにはお金がたくさんかかるよね、って話だった。

 非常にざっくりしているが細かい説明は省かせてもらう。

 

 

 んで、その活動費を稼ぐ為にメンバー全員でバイトしようって話になった。

 

 

 もう一度言おう。バイトしようって話になった。

 

 

「バイトッ!!?」

 

「今日一声出たね……」

 

 

 という訳でその話に当然拒否反応を起こすのが、社会不適合者予備軍代表のひとりだった。

 

 

「あ、あのこれを……」

 

「何これ? 豚さん?」

 

 

 ひとりは何処から取り出したのか、豚の形をした貯金箱を虹夏に差し出して……って、それって

 

 

「ひーちゃん、それ母さんが結婚費用にって貯めてくれてるお金じゃ……」

 

「ええっ!? ううう受け取れない! 受け取れないよ!? そんな大事なお金!!」

 

「ありがとう、大事に使わせてもらいます」

 

「おい、こら、ふざけんな! 山田ァ!!」

 

「リョウ!! 返すの!!」

 

 

 リョウから貯金箱を取り上げると、俺はそれを自分の鞄の中へと納めた。ひとりに渡しとくと今みたいに碌な使い方しないだろうし、持って帰ったら改めて母さんと管理の仕方を相談してみよう。

 

 

「ぼっちちゃんもここでバイトしたらいいよ! 私とリョウも居るし怖くないよ!」

 

「あ、え、あ……」

 

「アットホームで和気あいあいとした職場です」

 

「それブラックな職場の謳い文句じゃねえか」

 

「内容もドリンクスタッフとか掃除だし! 色んなバンド見れるよ!」

 

「あ、ぃゃ……あ」

 

 

 グイグイとここぞとばかりに畳み掛ける虹夏と、頑なに働きたいと言わないひとり。

 ひとりは助けて欲しそうにこちらにチラチラと目配せしながら合図を送ってくる。

 

 

 はあ……仕方ないか。

 この手だけは使いたくなかったけど

 

 

「ひーちゃん。バイト頑張りな」

 

「えっ……む、むむむむむむむむむむ」

 

「無理だってのは分かってる。ひーちゃんの性格的にバイトが怖いって思う気持ちも理解してるよ」

 

「むむむむむむむむむむむ」

 

「ぼっちちゃん壊れたオモチャみたいになってる……」

 

「だから、俺も一緒にここでバイトする」

 

「え!?」

 

「むむむむむ……え?」

 

 

 ▲ ▽ ▲ ▽

 

 

「バンドの経費はあたしが管理するね! リョウはお金遣い荒いし、ぼっちちゃんも簡単に自分の結婚費用を差し出そうとして心配だし」

 

「ああ、同感。俺も虹夏が管理してやるのが一番いいと思う」

 

「じゃあ、経費の話はそれでいいとして……それよりもだよっ! ねえっ!! 零人くんっ!?」

 

 

 虹夏が少し興奮気味に机から身を乗り出して俺に顔を近づけてくる。

 うるさいし、近っ

 

 

「だあっ!? 何だよ突然大きい声出しやがって!! あと近い近い!」

 

「ウチでバイトしたいってそれ本当!?」

 

「あ、ああ。ひーちゃん一人だと絶対バイトしないし、俺もこのライブハウスにはよく世話になってるからな」

 

「そう言う割には去年バイト誘ってもめっちゃ断ってたじゃん」

 

「去年はひーちゃんの受験勉強に付きっきりだったから、バイトしてる暇もなかったんだって」

 

 

 全部本当である。ひとりの学力は壊滅的だったので、俺が付きっきりで勉強を教えてあげていた。

 本当は俺と同じ下北沢高校を受験させようと思って、俺も張り切ったんだけど、それでもひとりの学力じゃ厳しかったので、泣く泣く下高と比較的近めで学力もそれ程必要としない秀華高校に受験することになったのだが。

 

 

「あー、それで零人くんとぼっちちゃん違う高校受験したんだ」

 

「そう言うこと。それで、バイトって俺も入る空きがあるのか?」

 

「それはお姉ちゃんに聞いてみないと分かんないけど、多分、大丈夫だと思うよ? ずっと男手が欲しいって嘆いてたし」

 

「そうなのか。そりゃ益々星歌さんには悪い事してたなあ……」

 

「とにかく、バイト多分二人とも来週からだと思うよー」

 

「そうか、だってさ? ひーちゃん分かったか?」

 

「あ、う、うん」

 

「それじゃあ、今日はこれで解散! また来週からバイト頑張ろう!」

 

 

 虹夏のよく通る声で号令が掛かり、バンドミーティングはお開きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一週間かかっちゃいました。遅筆で申し訳ない……

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