しすこん・ざ・ろっく!   作:そるるん

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長くなりそうだったので分割しました。


07『Brand New Day①』

 

 

 

「どどど、どうして!! 後藤さんの彼氏さんがここにいるのよおおおおお!!?」

 

 

 

 虹夏達が連れて来た赤髪の少女は、俺の姿を見るなりビシッと不躾に指を差してそう叫んだ。

 

 

 

 あれ、おかしいな俺の勘違いじゃなけりゃ今この子俺の事ひとりの彼氏とか言わなかったか? 

 いや、そんな訳ないか。俺とこの子も互いに面識がある訳じゃなく初対面だし。初対面な相手に向かっていきなりそんな事言うわけ…………

 

 

 

「後藤さん! この人後藤さんの彼氏さんよね!? ここに居るってことはこの人もバンドメンバーって事なのよね!? 」

 

「うぇっ!? あ、いや、ち、ちちちがちががががががががが」

 

 

 

 ええ……………………

 勘違いじゃない、だと? 今のははっきり聞こえた。しかも、何か別の設定も盛り込まれてる。俺、勝手に結束バンドのメンバーにされてるんだけど。

 

 

 

 ひとりも否定しようとしてくれたみたいだけど、完全に赤髪の子の勢いに気圧されてしまっている。

 

 

 

「喜多ちゃんストーップ!! 何処でその情報仕入れて来たのか知らないけど、誤解だよ! 零人くんとぼっちちゃんはそういう関係じゃないから!」

 

 

 

 この場でいち早く否定の声を上げたのは虹夏だった。虹夏は暴走する赤髪の子……キタちゃんとそう呼ばれる子に待ったをかけると、この子が最初に口にした俺がひとりの彼氏だと言うことをキッパリと否定した。

 

 

 

「え、そうなんですか……?」

 

「そうだよ」

 

「じゃ、じゃあ、毎朝後藤さんがその人……れいとさんと校門前まで一緒に登校して来てるのは何で……?」

 

「は?」

 

「あ」

 

 

 

 虹夏がキッパリと否定したのでキタちゃんの誤解も解けるかと思ったのも束の間、キタちゃんが追加で爆弾を投下してきたのだった。

 キタちゃんからの思わぬ爆弾発言に虹夏は振り返って訝しげな視線を俺に向けている。心当たりありまくりの俺も思わず気の抜けた間抜けな声が漏れた。

 

 

 

「恋人じゃないなら、どうして毎朝一緒に登校してきてるんですか!? しかも、れいとさん後藤さんと違う学校ですよね!?」

 

「兄妹だから」

 

「え?」

 

 

 

 キタちゃんはどうしても俺とひとりを恋人にしたいようだったので、本当の事を突きつけて真っ向から否定してみた。

 

 

 

「きょ、兄妹?」

 

「そ、そうなんだよ! 喜多ちゃん! 零人くんとぼっちちゃんは兄妹なの! 」

 

「そういう事、ひとりは俺の妹です。なあひーちゃん?」

 

「…………」

 

 

 

 虹夏の援護射撃も受けながら、俺は更に兄妹である事を強調するようにひとりは妹だと言うことを伝え、追撃でひとりにも確認を取った。

 すると、キタちゃんは驚きの表情で固まったままガチガチな動きで首だけ動かし、ひとりを見つめていた。いや、その動き怖いよ

 

 

 

 そして、ひとりもキタちゃんと目が合ったのか「ひっ……」と小さく怯えた声を出すと、俺の方を見ながらはっきりとこう言った。

 

 

 

「え、と……はい、あの人は私のお、お兄ちゃんです……!」

 

「……そ、そんな……」

 

 

 

 ひとりの一言がトドメとなりキタちゃんはその場に膝を着くとガクッと項垂れた。

 いや、項垂れる意味が分かんないんだけど。

 

 

 

「可能性として一番ないと思ってたのに……」

 

「いや、どんだけ俺らを恋人ってことにしたいの……」

 

「だって!! 後藤さんも後藤さんのお兄さんも全然似てないじゃないですか!!!? それで毎朝一緒に登校なんかして来てるし、そりゃあ恋人同士だって疑われても仕方ないじゃないですか!?!?!?」

 

「言ってることはご尤もだけど失礼甚だしいな!?」

 

 

 

 っていうか、俺とひとりって傍から見たらそういう関係に見えるのか、確かに顔はあまり似てないって親戚中から言われはしてたけど、恋人同士だと思われたのは今回が初めてだなあ。

 

 

 

「ふー、まあ、誤解が解けたみたいでよかったよ。じゃあ改めて、ひとりの兄の零人だ、よろしく。あー、そっちはキタちゃんでいいのかな?」

 

「あ、はい! 私は喜多って言います! 私こそ変な勘違いでご迷惑をお掛けしてしまってすみませんでした……その代わり今度何かお詫びさせて下さい! あ、後藤先輩ロインやってますよね? 後で交換しましょうよ♪」

 

「切り替えはやっ!? あと距離の詰め方が恐ろしく早い…………」

 

 

 

 

 これが陽キャってやつなのか、虹夏も底抜けの明るさを持ってはいるけどまるで系統が違う。

 虹夏は性格的に明るいって感じだけど、喜多ちゃんは纏ってる雰囲気から既に明るいってか眩しい。今だって目の前で無心な笑顔を浮かべているけど、あまりの眩しさに直視出来ない程だ。

 心做しかうっすら効果音まで聞こえてくる気がする。陽キャ……恐るべし。

 

 

 

「とりあえずお互いに誤解が解けたみたいで良かったよ〜。零人くんが遅刻ギリギリで毎日登校して来てた理由も分かったしね?」

 

「ぐっ……」

 

「まあ、その話はまた後でゆっくり話すとして……喜多ちゃん、そろそろ話聞かせてもらってもいいかな?」

 

「あ……」

 

 

 

 

 虹夏は優しく微笑んだまま、ただ少しだけバツが悪そうにそう言うと、喜多ちゃんはさっきまでの明るい表情から一変してどんよりと曇り顔のまま俯いたのだった。

 

 

 

 

 △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

「えーーーー! 喜多ちゃんギター弾けなかったの!?」

 

 

 

 全員が席に着きテーブルを囲って話し合いをしている。今回の議題は喜多ちゃんの『逃げたギター』問題である。最初にその話を聞いた時は驚いた。まさかひとりと入れ替わりで逃げ出したギターがこの喜多ちゃんだったとは……そして、その喜多ちゃんを逃げたギターと知らずにひとりがここに連れて来るとは……こんな運命みたいな奇跡、本当にあるんだなあ。

 

 

 

 

 そして、そんな運命みたいな奇跡で再び再集結した結束バンドは、全員でその感動を噛み締めあって熱い抱擁を交わし…………なんて事はなく、普通に重苦しい空気が漂っていた。

 

 

 

 

 この議題の中心人物である喜多ちゃんは相変わらず表情が曇ったまま俯いてるし、ひとりは緊張からなのか表情が強ばったまま固まっている…………決してこの重い空気に耐えられず気絶している訳ではないと信じたい……リョウはジーッと一点を見つめたままボーッとしている、多分何も考えてない。うん、こいつだけは平常運転だな、流石としかいいようがない。虹夏だけこの重苦し空気に屈することなく、喜多ちゃんが話した逃げた理由を聞いて大きくリアクションを取っていた。

 流石は結束バンドのまとめ役、場の空気を変えようと奮闘している。

 しかし、このままだと虹夏の精神的負荷がやばそうなので、俺もサポートに入ってやるとしよう。

 

 

 

「なるほどな、それで併せの練習一度も来なかったのか」

 

 

 

 これは最初のライブの後、虹夏から聞いた話だ。逃げたギターの子の事が少し気になって、一度だけ虹夏に詳しい話を聞いた。その時に喜多ちゃんが一度も併せの練習に来なかったことを聞かされていたのだ。

 最初にその話を聞いた時は、碌でもない奴だなとムッとはしたものの、成程、そういう事情があったのか。

 

 

 

「はい……」

 

 

 

 と喜多ちゃんは俯きながら、覇気なくそう答えた。

 ……こう言っちゃなんだが、さっきとはまるで別人だな。さっきはあんなにキラキラと眩しいくらい明るかったのに……

 まあ、それだけこの子が反省してこの事態を重く受け止めてるって事なんだろうけど。それにしたってこの落ち込みようは逆に心配になる。何か気の利いた事言ってあげられたらいいんだけど、何も思いつかない……

 

 

 

 

「私も突然音信不通になったから心配してた」

 

「リョウ先輩……!」

 

 

 

 と、ここでまさかのピンチヒッターに名乗りを上げたのはリョウだった。

 おい、マジかよ。お前さっきまで完全にボーッとして上の空だった筈だろ。俺達の話をきちんと聞いてたのかすら怪しいのに、気の利いた事言えるのだろうか。

 

 

 

 

「死んだのかと思って最近は毎日お線香あげてた……南無」

 

「いや、勝手に殺さないで!?」

 

「流石にその冗談は笑えねえよ……」

 

 

 

 

 リョウの冗談にガチでドン引きしていると、俺達のやり取りを見ていた喜多ちゃんが不思議そうな顔をしていた。

 

 

 

「あ、あの……怒らないん、ですか……?」

 

「気づかなかったあたし達にも問題はあるし、それに、あの日は何とかなったしね!」

 

 

 

 

 喜多ちゃんの問いかけに虹夏は笑顔でそう答えると、俺とひとりを交互に見やってから喜多ちゃんに視線を戻した。ひとりも何の事かピンと来たらしく「あ……」と小さく声を漏らし可愛らしく反応していた。うん、可愛い。

 

 

 

「で、でも! それじゃあ、私の気が収まりません! 何か罪滅ぼしさせて下さい!!」

 

「うーん、そんな事言われてもなあ……」

 

「じゃあ、今日一日ライブハウス手伝ってくんない? 忙しくなりそうだから」

 

 

 

 そう言いながらカウンターから現れたのは店長こと星歌さんだった。全員が突然現れた星歌さんに驚いていた。

 

 

 

「お姉ちゃん! いつの間に!?」

 

「お前らがここに来る前から裏に居たんだよ。あと、お前らが買ってきた大量のエナドリも片してた」

 

「あ、エナドリの事すっかり忘れてた……」

 

「……まあ、いいよ。お前らちょっと大事そうな話してたみたいだし。それより、どうすんの? ライブハウス手伝ってくれんの? くれないの?」

 

「あ、い、いえ、手伝います! 手伝わせて下さい!! でも、やっぱりそれだけじゃ気が収まらないです!」

 

「なら、ちょっとこっち来て。少し恥ずかしい格好もしてもらうから」

 

「え?」

 

 

 

 店長にそう言われライブハウスのバックヤードへと連れていかれた喜多ちゃん。

残された俺達で不思議そうに顔を見合わせる。

全員、星歌さんが何をさせる気なのか見当もつかないようだった。

 それから暫くして星歌さんと喜多ちゃんが戻ってきた。

 

 

 

 

 ただし、戻ってきた喜多ちゃんは何故かメイド服を着用していたのであった。

 

 

 

 

 △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

「♪〜♪〜♪」

 

「あいつ臨時のバイトなのに使えるな」

 

「喜多ちゃん手際いいね〜」

 

 

 

 鼻歌交じりにメイド服を着用した喜多ちゃんがハキハキとモップがけをする姿を見ながら、星歌さんと虹夏がそう話していた。

 確かに手際が凄くいい、この勢いだと一人でチケットの販売時刻までには清掃を終わらせてしまいそうだった。

 

 

 

「惰眠を貪る余裕まで出来てしまった」

 

「また、時給から引いとくな」

 

「喜多ちゃん人当たりもいいし、受付もしてみる? 教えるね!」

 

「はい!」

 

 

 

 喜多ちゃんの手際の良さにかまけて早速サボろうとしたリョウに星歌さんが制裁を加え、喜多ちゃんは虹夏から更に新しい仕事を与えられようとしていた。

 

 

 

 さて、そんな光景を見せられ苦しんでいる者が1名、俺の隣にいる訳だが……

 

 

「き、喜多さん、私の任されてない仕事まで!? ど、どどどうしよう!? このままじゃ、一番仕事が出来ない私がバイトクビになっちゃう!?」

 

「ならないならない。ほら、喜多ちゃんは手際がいいんだから仕方ねえよ。業務なんて自分に合ったスピードで慣れていけばいいんだし、焦ったって仕方ないよ。ひーちゃんはひーちゃんのペースでゆっくり仕事を覚えていけばいいさ」

 

「お兄ちゃん……う、うん。そうだよね、別に店長さんも虹夏ちゃん達も、仕事を急かしてくる訳でもないし……ゆっくりでもいいんだよね!?」

 

「んだんだ、ひーちゃんももう少し肩の力抜いて仕事していいんだよ? 星歌さんだってああ見えて結構緩いし、別に適当に仕事したってぜーんぜん」

 

「聞こえてるぞ後藤?」

 

「……やっぱりある程度緊張感は持ってバイトに励みなさい、ひーちゃん」

 

「お、お兄ちゃん…………」

 

 

 

 俺の情けない姿を見てひとりが俺を蔑んだ目で見てきてる気がするけど知らないフリをしておこう。

 そうこうしてるうちに受付の業務を教えてもらった喜多ちゃんと虹夏がこっちに戻ってきた。

 

 

 

「ぼっちちゃん、喜多ちゃんにドリンク教えてあげてくれる?」

 

「あ、はい!!」

 

「よろしくね! 後藤さん」

 

 

 

 おお、これは名誉挽回のチャンスだな。ドリンクの業務なら慣れてるひとりの方が上手だろうし、ここで格好よく喜多ちゃんに教えてビシッと決めちゃえ! 

 

 

 

「俺は何したらいい? 受付か?」

 

「受付はあたしとリョウが担当するから、零人くんはぼっちちゃんと喜多ちゃんの側に付いててあげてよ。ぼっちちゃんだけだと、ちゃんと教えてあげられるか正直まだ不安だからさ」

 

 

 

 という訳で今日はバイト中でありながら合法的にひとりの側に立つことが許されました。何て幸せな事か。

 

 

 

「あ、そ、それじゃあ、まずはドリンクの注ぎ方からお、教えますね……!」

 

「はい! お願いします!」

 

「ひとり先輩お願いしまーす!」

 

「え、お、お兄ちゃんも?」

 

「うん、そういや俺ドリンクの業務した事ねえからやり方知らねえんだ」

 

 

 

 これを機に覚えてしまおうって訳。まあ、それとなーくやり方は分かるけど、ひとりから教えをを乞う機会なんて滅多にないだろうし、これは兄としても貴重な経験だから是非体験しておきたい。

 

 

 

 俺と喜多ちゃんに見守られながらひとりは一つずつ、ドリンクの準備をしていく、そして最後に容器にドリンクを注ぎ始めたのだが、それが何故か熱湯であった。

 

 

 

「あ、はは、へへっ、はは……」

 

「溢れてる! 溢れてる!!?」

 

「ひーちゃああああああん!?!?!? 何やってんだ!!?」

 

 

 

 

 ひとりの注いだお湯は容器から溢れ出し容器を持つ手にモロに掛かっていた。

 俺と喜多ちゃんが揃って悲鳴をあげた。俺は急いでひとりから容器を取り上げ、喜多ちゃんがひとりの火傷した手の応急処置をしてくれた。

 

 

 

 俺と喜多ちゃんが手際良く素早く処置した為ひとりの火傷の具合は大した事は無かった。良かった、もしこれでギターを演奏するのに影響があったらどうしようかと思った……

 

 

 

 

「これで……良し、と。はい! 応急処置はこれでおしまいよ!」

 

「あ、ありがとうございます……ん?」

 

「喜多ちゃん、ごめん。ありがとな、応急処置までしてくれて……ひーちゃんも大丈夫か?」

 

「あ、うん。お兄ちゃんと喜多さんがすぐに応急処置してくれたから何ともないよ」

 

「そっか、良かった……」

 

「とにかく、大事にならなくて良かったわ! ドリンクの事大体分かったから後藤さんはゆっくり休んでて!」

 

「あ、で、でも……」

 

「喜多ちゃんの言う通りだよ。軽い火傷とは言え怪我は怪我だ。今日はもう裏方で休ませて貰いな」

 

「じゃあ! 私、店長さんに後藤さん休ませて貰えるようお願いして来ますね!」

 

「え、ちょ!」

 

「ああ、よろしく頼むよ」

 

「はーい!」

 

 

 

 喜多ちゃんは元気にそう返事をすると裏方の方へ向かっていった。

 俺達が会話する度にひとりが弱々しく嘆いていたが、今回ばかり

 は俺も折れる気はない。怪我の具合が軽度であろうと、怪我は怪我なので大人しく休んでいてもらおう。あんまり無茶をして欲しくはないし……

 

 

 

 暫くして、店長を連れて喜多ちゃんが裏方から戻ってきたのだが、何故か店長の顔色が真っ青だった。ひとりの怪我の報告を受けて心配してくれてるのかなとも思ったけど、ひとりを連れて裏方へ戻っていく際「労災……労災……」とボヤいていたので、経営者としての苦悩かという事で納得した。

 

 

 

 

 






いつも誤字脱字報告ありがとうございます! 非常に助かっております!


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次回、キターンと兄貴
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