失踪してないです。
今回いつもより短めですが、キリがいいので投稿します。
喜多ちゃんがバンドに復帰して数日が経った。
この数日間で俺とひとりの日常にも色々と変化があった。
主な変化は二つある。
まず一つ目。俺はひとりと登校するのをやめた。
正確には自宅から下北沢駅までは一緒で、そこからひとりの高校まで一緒に登校するのをやめた。
理由は俺とひとりが恋人同士だというあらぬ噂を立てられたからだ。とんでもない誤解だが、毎朝学校も違う男女が校門前まで一緒に登校して来る。なんてシチュエーションを見せられたら誰だって誤解するだろう。
現に喜多ちゃんも勘違いしてた訳だし。俺も当事者でなければ多分、勘違いしていた。
因みにひとりはというと、どんな妄想をしたのか、恐怖のあまり戦慄しその場で溶け出してしまった。
流石にこのままの状態で学校生活を送るのは、あの子にとって生き地獄だろう。
よって、俺は決断した。ひとりを学校まで送り届けるのは今後一切しないと。
そして、何よりもチャンスだとも思った。俺はついついひとりを甘やかしてしまいがちだが、ひとりもそんな俺の優しさにすっかり甘えてしまっている。これを機にひとりには少しずつ兄離れをしていって欲しい。
まあ、ひとりに話したら嫌だ! ってめっっっっっちゃ駄々こねられたけど……
一緒でないと学校行けない! ってめっっっっっちゃ泣き付かれたけど……
しかし、今回ばかりは俺も断じて譲るつもりはない。ひとりには少しでも兄離れをして貰いたいし。
結局、俺もひとりも互いに譲らなかったが、最終的に俺の頑なな態度と説得が功を成し、ひとりの方が折れる事となった。
本気で落ち込むひとりの姿を見てつい甘やかしそうになってしまったが、これも全てひとりの為だと自分に何度も言い聞かせる事で何とかその気持ちを押さえつけた。
ごめんなあ……俺だって本当はこんな事でひとりと居られる時間が削られて、凄く寂しいし、悲しいんだ……
次に二つ目。ひとりが喜多ちゃんのギターの先生をすることになった。これはギターが全く弾けない喜多ちゃんの為に虹夏が考案したものだ。喜多ちゃんも元々ひとりに師事して貰う約束をしていたようで喜んでその案を受け入れていた。
こうしてひとりと喜多ちゃんの間に師弟関係が結ばれ、学校では昼休憩や放課後、STARRYではバイト前のちょっとした時間だったり、バイトのない日を利用して練習をしているようだった。
そして、本日もSTARRYの併設されたスタジオ内にてひとりと喜多ちゃんはギターの練習に勤しんでいる訳なのだが……
「もう嫌あああああ!! ギター辞めます!!」
もう既に喜多ちゃんの心が折れかけていた。
結束バンドが復活して数日しか経っていないが、まさかもう解散の危機に瀕していたとは…………
喜多ちゃんに向かい合って座るひとりは、喜多ちゃんの悲痛な叫びを聞いておどおどとしていた。可愛い。
「Fコード難しすぎるわ! うまく押さえられない!」
「た、確かにFコード押さえるの難しいですけど、マスターすればどんなコードでも弾けるようになりますから、が、頑張りましょう……!」
「そ、そうね頑張るわ!」
喜多ちゃんはそう言うと、再び覚束無い左手で弦を押さえ始める、ひとりの指示を受けながら指を一本一本、指定の位置に置いていき、右手に持つピックで一気に弦をかきならす。
…………押さえ方が悪かったのか、何とも間の抜けた音がスタジオ内に響きわたった。
喜多ちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、それでも何度もFコードの音を鳴らそうと奮闘した。
そしてしばらくして…………
「……やっぱり無理だわ! ギター辞めます!!」
「む、無限ループ……」
「おい、このやり取り今日で何度目だよ」
ひとりもボソリと呟いたがほんとそれな状態である。
かれこれ同じやり取りを既に30分はしているだろうか?
いい加減見飽きたぞ。
「もしかして不良品……? まさかまたベースじゃ!」
「ま、間違いなくギターです……あ、最初はちゃんと鳴らなくてもそれっぽく弾けてたらいいですから……」
「そ、そうよね!? 頑張るわ!」
「───っ!!? 待て待て!? これまた絶対ループ入るやつだろ!? このまま根を詰めてたって意味ないから一旦休憩だ!」
また同じやり取りを繰り返そうとする二人に、俺は慌てて声を掛け休憩を促した。
これ放っておいたら、どこまで繰り返してたんだろ……
▲ ▽ ▲ ▽
「あ! 零人くん! ちょうど良かった!」
俺の声かけ通り、練習を一旦中断し休憩に入ったところで、俺は二人に声を掛けてから一度スタジオの外へ出た。
スタジオから出ると丁度出くわした虹夏に声をかけられた。
「今、あの二人どんな感じ? 上手くいってそうかな?」
「……そうだな、上手くいってるかどうかで答えるなら上手くはいってないかな」
「や、やっぱりそっか……」
俺の返答に虹夏は少し落ち込んだ反応を見せた。
ここで嘘を言う必要もないので本当のことを伝えたけど、そんな落ち込む程だったか?
それにやっぱりって……?
虹夏のやつ、あの二人が練習が上手くいってないこと気が付いていたんだろうか?
「そっか……やっぱり、ぼっちちゃんも喜多ちゃんも正反対な性格してるもんね…………相性が悪いのかな……」
「あ、そっちの話か」
「え? そっちって何?」
どうやら虹夏が気にしていたのは、練習の様子の事ではなく、二人が仲良く出来てるかどうかを気にしていたようだ。
で、あれば大きな誤解だ。あの二人は仲良しとまではいかないが、互いに嫌っている関係ではない。喜多ちゃんはひとりには好意を持って接してくれているようだし、ひとりもそんな喜多ちゃんを少しずつ受け入れようとしている。
さっきの練習の様子も見るにとても仲が悪いようには思えなかった。
「虹夏の心配なら杞憂だよ、あの子達ちゃんと仲良くしてるからな」
「え、そうなの!?」
「ああ、俺はてっきり練習の様子を聞かれたのかと思って、ああ答えたけどさ」
「あたしの言葉が足りなかったのか……ごめんね…………でも、良かった〜それ聞いて安心したよ〜。もし、二人が仲良く出来てなかったらどうしようかと…………って、えっ!? 練習上手くいってないの!?」
誤解が解けて安堵の表情を浮かべたのも束の間、今度は驚愕の表情を浮かべていた。
相変わらず顔の表情がスロット並に変わるヤツだ。この時の虹夏は見てても全然飽きない。
俺は先程の二人の練習の様子を虹夏に伝えた。
「う〜ん、そっか〜、喜多ちゃん根を詰めすぎちゃってるのか……」
「ああ、お陰で似たようなやり取りを何度も見せつけられたよ」
「喜多ちゃん、真面目だからなあ、多分、早くギターを弾けるようにならないと……って気持ちが焦っちゃってるんじゃないかな?」
「なるほど?」
「確かにバンド活動もこれから本格的に始動していくつもりだから、いずれは弾けるようになっては欲しいんだけど。でも、別に今すぐライブの予定がある訳じゃないし、その前にまずオリジナル曲を作らないといけないからね。だから、今すぐに焦って弾けるようにならなくても大丈夫なんだけど……」
「もしかしたら、一度逃げ出した事をずっと負い目に感じてるのかもな……沢山迷惑かけた分早く上手くならないとって思ってるんじゃないか?」
「それは……確かに、有り得るかも……?」
俺と虹夏は喜多ちゃんの焦る理由を考え、うーんと一緒に頭を捻る。
しかし、浮かんでくるものはどれも所詮は憶測でしかない。
結局のところ本人の気持ちは本人でしか分からないのだ。そこを俺達がいくら考えて悩んだところで邪推にしかならない。
「とにかく! 根を詰め込みすぎてるのは非常に良くないとあたしは思うんだ!」
と、頭を捻らせていた虹夏は突然そう声をあげた。そして、続けざまに俺を見てこう言った。
「零人くん、悪いんだけどスタジオに居る二人を呼んできてくれない?」
「ああ、いいけど。何をする気だ?」
「息抜き! 臨時のバンドミーティングを今から開きます!」
俺が何をするのかそう尋ねると、虹夏は朗らかな声で天井を仰ぎながらそう答えた。
俺はその姿を見て苦笑いを浮かべると、スタジオに居るひとりと喜多ちゃんを呼びに向かったのだった。
「あれ、そう言えばリョウはどこ行った?」
「その辺の草を食べてお腹壊したからトイレに籠ってる」
おかしい。
最初に6000文字書き上げてた筈なのに……
書いてるうちに納得いくものが書けなくなって、また一から書き直してしまってた……
今回かなり難産でした……
はい、私情は終わり。
続いて謝辞の方を述べさせて下さい。
新しくお気に入り登録して下さった方々、ありがとうございます!
そして、お気に入り100を超えました! 凄く嬉しいです! 本当にありがとうございます!
次回はもう少し早めに投稿出来たらいいなあ……
次回 作詞大臣