マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
第1話 ハロー ニューワールド?
無限の星が輝く宇宙――煌びやかな星々は集まり、巨大な集団『銀河』を形成する巨大な構造物が連なる『超銀河団』。 無数の『銀河』が重力的に拘束されて、フィラメント状の超巨大構造物を形成する『超銀河団』の傍には、真っ黒な何もない広大な空間が一億光年にもわたり広がっている――俗に言う『ボイド空間』である。
星の光もなくただ漆黒の空間に仄かに輝く一粒の光が存在していた――『
その白銀の船体より少し離れた場所には、『アルテミス』にくらべれば小さい光点があった。小さいとは言ってもそれ自体は500メートル程の金属の塊――他の星系では立派に主力となりえるほどの装備を持った宇宙船であった。
赤と黒に塗装された流線形の船体の四方には外部ユニットとして強力なシールド発生機関を装備した実験艦であり、その中心に位置するブリッジと言える場所には白を基調としたボディースーツに所々に青い結晶体を装着した若い女性が周囲に展開されるウィンドウに表示される情報に目を通している。
「――最終システムチェック完了、オールOK」
『――この『ボイド』なら想定通り外的干渉が最低限に抑えられるな』
「……後はこの実験が滞りなく終えられるかどうかだね……プロフェッサーの用意したこの実験艦がエラーを起こさなけりゃだけど」
『……言うじゃないか、小娘』
ウィンドウ越しに少女と会話しているのは今回の計画の発案者であり、先進的な技術の数々を考案して時代の先駆者として名をはせての敬称とその奇抜な趣味から『プロフェッサー』とよばれる妙齢の女性である。整えられた美貌を誇るが古典的な趣味をしており、透明な素材をわざわざ加工して視力が悪い訳でもないのに古代に使用されていた眼鏡という道具にして使用しているという変わり者だ、その紫色の髪と古典的な白衣を纏うその姿は妖しい科学者でしかないのだが。
『私の立てた計画に間違いはない――まぁ、どこぞの小娘が亜空間航行中に他の船と衝突するなどという奇抜な事故を起こしてくれなければ、な』
「――むぅ。アレは私の所為じゃなく、どこぞの高位存在の所為じゃないか! 私だって好きで『ヤマト』に激突したんじゃないよ!」
皮肉る教授に猛烈な勢いで言い返す少女。そんな少女の傍には仄かに光る発光体『アルテミス』の管制制御体『エテルナ』の端末がおり、「落ち着きましょう、クリス」と声をかけるが少女の耳には入らない。
クリス・エム――かつて宇宙戦艦『ヤマト』に迷い込んだ時には『翡翠』と名乗っていた彼女も年月を重ねて身体も年相応に成長し、昔は皆無だった胸もそれなりに膨らんで幼女から美しい少女へと変貌していたが、中身はあまり変化がないようだ。
『二人とも、じゃれるのはその位にして下さい。まもなく開始時間になりますよ』
今回『翡翠』ことクリスが挑むのは、以前彼女が参加していた新型亜空間跳躍実験の新たな段階――『ヤマト』に乗り込む遠因なった前回の亜空間跳躍実験はその後に成功を収め、今回その先の段階への進める為の最新式の跳躍ユニット装備した改良型の『実験艦―02』と、外付けの強力な防御シールド発生装置を四重にも装備して万全の態勢を取っている。
「――さて、ではまじめにやりますか」
そこは不可思議な場所であった。
そこには全てがあり、全てが無かった。
その場所からは観測できる全ての宇宙が見るが、全てに触れる事は出来ない――そんな不思議な空間に一人の女性の姿があった。長い桃色の髪をたなびかせて膝を抱えて眠る女性は、何時からそこに居るのか、何時までそこに居るのか、ただ膝を抱えて眠り続けている――そんな不思議な空間に、今までにない変化が訪れる。
周囲の空間が振動して眠り続ける彼女はゆっくりと動かし、彼女は眠ったまま振動によって生じた亀裂の中に消えて行った。
実験艦―02ブリッジ
出だしは順調であった。跳躍システムを起動して亜空間に突入した実験艦は、通常の亜空間である『風の回廊』から次の段階である『炎の回廊』へと突入して、最終段階である積層亜空間の最上位『水の回廊』へと突入した。
そこはまるで水に覆われたかのように高い密度を持った空間であった。ビックバンにより宇宙が誕生する以前の宇宙創造の原物質が満ちたこの亜空間では何が起こっても不思議ではない。
四重のシールドで守られた実験艦は周囲を満たす解析不能な物質のデーターを記録しながらも、周囲を満たす物質を押し退けながら進む影響から激しい振動に見舞われていた。
「……これは、長時間は艦が持たないな」
新しい実験艦の船体は出来うる限りの強化を行われているが、この未知の物質から伝わる震動によって内部に深刻なダメージが伝わり、このままでは爆発四散してしまうのは明白であった。
システムを調整しながらクリスは、これまで計測したデーターを持ち帰る事を優先すべく実験艦の跳躍システムを段階的に操作して、この『水の回廊』からの脱出を図る――その時、実験艦の前の空間に変化が起きる。
「――な! まさか!?」
その光景が以前に見た光景を思い起こさせてクリスは翠眼を大きく見開く――実験艦の前方に起きた変化は亀裂となって、亀裂の中から何かが吐き出されるのが見えた。
「――今度は、逆パターンかぁああ!?」
艦首部分に“何か”が激突した衝撃でコンロールを失った実験艦は辛うじて『水の回廊』からの脱出は成功したが、跳躍システムの誤作動により未知の宙域へと飛び出してしまった……何とか通常空間に復帰したはいいが、『水の回廊』内を航行した影響により船体には深刻なダメージを受け、止めとばかりに“何か”と激突した衝撃によりブリッジ内には警告灯が無数に点灯して、よく通常空間に復帰出来たものだと感心する。
何とか機能しているシステムによる診断によれば、『実験艦―02』は亜空間の積層次元『水の回廊』を航行する為の機能は失われて、短時間ならば通常の亜空間航行は可能だが船体全体にガタが来ており、早急にどこか設備のある所で修理をする必要があった。
『実験艦』の損傷度合いをチェックすると船体の機能は60%にまで落ち、通常航行ならよほどの負荷を掛けなければ可能。超光速航行機能は通常の亜空間航行なら2,3回は可能だと思うが、それ以降は使えるかどうか分からない。
武装に付いてはもっと深刻で、プラズマ・キャノン砲や魚雷発射管などの各種兵装は使用不能であり防御シールドも通常の30%の出力しか出せない有様だ……しかも『水の回廊』からの通常の亜空間へ戻る際に正体不明の“物体”と衝突事故を起こした影響だと思われるが、量子的に不安定になった自分達の時空から弾き出されて未知の時空へと流される始末。
通常の事故とは異なり未知の要素が絡んでいる要素があり、『アルテミス』がこちらの漂着した時空を特定するにも時間が掛かる事が予想され、迎えが来るのを待つだけでなく、此方も航宙艦を修復して自力での帰還を目指すのがベターである……と言うか、自力で帰還する位しないとプロフェッサーに指差して笑われてしまうこと請け合いである。
さて、まずは船を修理出来る場所を確保する必要があるが、亜空間より吐き出された先は恒星間空間のようで周囲に惑星の影はない。先ずはどこか落ち着ける場所を探して修理出来る所は修理をしながら本格的に修理が出来る設備のある惑星か宇宙基地を探す必要がある。そう考えていた時、センサーが奇妙なモノを探知したようだ。
そう遠くない距離に浮かぶ2メートル弱の不審物……センサーによれば人型をしたナニか。動きは無く機能を停止しているようだが仄かに赤外線を放射しており、休眠状態の可能性が高い。
センサーより齎された情報を読み取ったクリスの翠眼が細まる……つまり、自分が宇宙を放浪する原因が目の前に浮かんでいると――クリスの額に青筋が浮かんだ。
『実験艦―02』を操作して不審物に近付くと、自動操縦に切り替えてその場で待機するように指示した後、クリスはエアロックからその身を宇宙空間にダイブさせる――星間空間は恒星風で守られている星系内と違い強烈な放射線などが渦巻いているが、彼女が纏う『
寄る辺の無い宇宙空間を物ともせずに真っすぐに進んだクリスは、目の前を浮遊する不審物に近付くにつれて眉を寄せる……“それ”はどう見てもヒューマノイド・タイプの人間――しかも年若い少女にしか見えなかったのだ。無重力下に置いても赤色の髪は広がるでもなく、白を基調としたボディースーツを纏った少女は膝を抱えて眠っているようだ……その姿を見たクリスの額に青筋が浮かび、彼女は不審“人物”の長い赤色の髪を掴むと、ソレを引っ張ってポットへと戻った。
さて、自分が宇宙を放浪する原因というか“下手人”を確保して船に戻った翡翠は、『実験艦―02』の居住施設に備え付けられた医療用ポットで未だ眠っている不審人物をチェックする……『実験艦―02』の前身である航宙艦は、亜空間跳躍実験の終了間近に崩壊して、クリスは宇宙戦艦『ヤマト』の船体にめり込むという悪夢のような体験をした事から、強靭な船体と不測の事態に備えてある程度は単独で生活出来るように医療設備に食糧・物資の生産設備と居住施設に力を入れたのだ。
医療用ポットのセンサーによって齎されたスキャン結果によれば、見た目は完全なヒューマノイドの女性に見えるが、全身がナノマシンで構成されており、自分よりも少し年上に設定されているのか背丈も自分より少し高い。
しかも内部にエミュレートされた人間そっくりの消化器官をもっており、どうしてここまで生体と同じシステムを模倣しているのか理解に苦しむ……どう考えても戦闘用ではなく民生品? というか需要があるのか、こんなモノ。
むぅ~と唸っていると、『実験艦―02』の制御中枢より長距離センサーが少し先の空間に大規模な質量体の存在をキャッチした事を告げて来る……空間投影型のウィンドウを立ち上げてセンサーが掴んだ詳細な解析結果を見るに、質量体には金属反応があり、亜空間内での事故によりダメージを受けている今の『実験艦―02』にとってはレプリケーターの材料としても有難い物だ。
「コンピューター。センサーで感知した大規模質量へ向けて進路を取れ」
『了解』
幸いボロボロになったこの船でも到達可能な距離にあるようだ。まずはそこで落ち着いてから不審人物を締め上げようじゃないか、シートに座るクリスの口がにやりと上がる――船の跳躍準備が整ったようだ。かなりのダメージを受けた亜空間跳躍ユニットだが、それでも数十光年くらいなら跳べる。
「――ジャンプ(跳躍)」
『実験艦―02』の推進機関が出力を上げて加速を始め、前方に跳躍門が形成されるとその中へと飛び込む――通常空間とは異なる亜空間を飛び越えた『実験艦―02』の目前には、目標の大規模質量物が存在していた。
それはかなり年数の立った金属と生体部品で構成された巨大な船のようであった。全長よりも左右に伸びる特殊な形状をしており、中心部分には巨大な球体の様な構造物が存在しているが、長年強烈な放射線や星間ガスなどの影響を受けて所々が劣化しているようだが、それでも姿形を残している所から耐久性に優れた船だったようだ。
周囲に浮遊するデブリを避けながら大規模構造物に接近した『実験艦―02』は格納庫への入り口の様な物を見つけて、そこから大規模構造物の内部へと侵入する……内部は思ったよりも劣化が少なく、此処なら星間空間に渦巻く強烈な放射線の影響も凌げそうだ。
そしてこれだけの規模を持つ遺棄された巨大船ならば母艦機能を持っていただろうし、もしかしたら未だに使用可能な施設が存在するかもしれない。それでなくても周囲の金属をレプリケーターの材料にすれば、ボロボロの船の機能を修理するのに大いに役立つだろう……そうして船を修理して自分達の宇宙へと帰還するか、最悪『アルテミス』が救助に来るのを待てばいい……となると、残る問題は床で未だに眠っている不審人物の処遇の身だが。
振り向いたクリスの視線は限りなく冷たかった。
彼女が永い眠りより目覚めた時に最初に気付いたのは、掛けられたシートの柔らかさであった。事態を把握していない彼女は、半覚醒状態ではあったが事態を把握しようと周囲を見回すと、そこには見た事もない形式の金属で作られた部屋と、そして栗色のミディアムボブウルフの髪と冷たい光を放つ翠眼を持った少女の姿であった。
「good・morning――不審者さん」
見た事もない服を着た栗色の髪の少女は、冷たい目で見降ろしながら声を掛けた。彼女の翠眼は限りなく冷たく……怒り心頭である事は見て取れた。身を起こしながら不審者扱いされた少女は、状況が分からないが相手をかなり怒らせている事を悟って、愛想笑いを浮かべながら額に大きな汗をかいた。
「……さて、ふざけた事をしてくれた不審者さん。アンタ名前はあるの?」
「……ノノです。あの、此処はどこですか?」
「……此処は未知の宙域に浮かぶ廃棄艦の中よ――誰かさんの所為で、今の私達は迷子って所ね」
私の乗っていた艦は誰かさんがぶつかって来た衝撃で大破したわ、と説明したクリスは翠眼に冷たい光を湛えたまま「アンタって頑丈なんだね」とにこりと笑う――その笑みを見たノノは何故か背筋が寒くなった。クリスと名乗る少女が放つプレッシャーに引き攣ったノノは姿勢を正して正座する……此処は逆らわない方が良いようだ。
正座するノノを見降ろしたクリスは、これまでの経緯……というか、跳躍実験の終了間際に突如として亜空間に出現したノノと激突して実験艦は大破し、現在は60%ほどの機能しか生き残っていないと恨みがましく説明される。
「……で、アンタは“何な”訳?」
そしてクリスがノノに問い掛けようとした時、船に搭載されていた動体センサーに反応があった。詰問を中断したクリスは投影型ウィンドウを操作して動体センサーが感知した反応の詳細を表示させる――映し出された情報によれば、船の周囲に無数の反応が表示された……何かは分からないが、どうやら包囲されているようだ。
何かは分からないが、現在の『実験艦―02』は武装の全ては使用不能であり、頼みのシールドも30%の強度しかない。このままでは船は破壊されて『アルテミス』との合流も難しくなるだろう……ならば打って出るしかないが、動体センサーが探知する反応は今も増大しており、長丁場になる可能性が高かった……さて、どうしたものかと考えていたクリスは、未だ床に正座しているノノの姿を見て「コイツ結構頑丈だよなぁ」とニヤリと笑った。
「――さて、ノノ。お仕事の時間だよ」
「……ほえ?」
初めての方は初めまして、以前に読んでいた方はおひさしぶりです。しがない小説書きのSOULです。
今回『翡翠ちゃんシリーズ』第二弾として、マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンスを始めました。宇宙戦艦ヤマトの世界で猛威を振るった翡翠と異なる世界の2人の同行者(最後は人と言って良いのか…)と共にマクロスFの世界に迷い込み、そこで出会う様々な人達と交流して何を為すか?
イツワリノウタヒメ編 全17話を週一くらいのペースで投稿したいと考えています。
では、しばらくのおつきあいをお願いいたします。
次回 第二話第2話 ワースト・コンタクト 5/7(日曜)0時更新予定です。ではでは~。