マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス   作:soul

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第12話 Signs of change 変化の兆し

 

 謎の宇宙生物バジュラの襲撃を受けた第55次超長距離移民船団『マクロス・フロンティア』は、バジュラを退けたがその傷跡は大きく、アーリントン墓地では戦いによって命を落とした人を見送るべく、多くの参列者が命を落とした人を悼んでいた。

 

 しめやかに行われる葬儀の傍らで、遺体処理施設では民間軍事プロバイダー『S・M・S』に属したヘンリー・ギリアムの葬儀が『S・M・S』関係者と彼の遺族だけで行われていた。民間軍事会社との契約していた彼が従事していた任務については守秘義務が課せられており、戦没者墓地への埋葬などの栄誉は与えられずに事故死として処理されていた。

 

 それでも共に任務に従事していた仲間達は彼の死を悼んで葬儀に参列していた。『クォーター』部隊の指揮官であるジェフリー・ワイルダー大佐が故人を称える。

 

「――彼は勇敢な兵士であった。恐れず怯まず、その命を賭して譲れぬモノの為に戦い、力尽きた。だがそれは終わりではない、彼の肉体はやがて我が肉となり血となり、大気となって我らの命を燃やすだろう……今は眠れ、わが友よ。さらばだ、また会おう」

「――敬礼」

 

 ボビー・マルゴ大尉の号令と共に彼の遺体を収めた棺が動き出して培養液の海へと送り出す――過酷な宇宙空間において独立した生存環境を維持する移民船の中でも最小限の補給で長距離の航海を可能にする為に閉鎖系バイオプラント技術を採用している『マクロス・フロンティア』では、死した後もこの世界を支えているのだ。

 

 


 

 

 『S・M・S』のオズマ・リーより24時間の猶予を与えられた早乙女アルトは、戦う理由を己に問い掛けながら夕暮れの街並みを歩いていた。『S・M・S』は民間とはいえ戦闘に従事する為に戦死する危険性がある事は分かっていたが、病院からの帰りの途中で美星学園の同期でもあるミハエル・ブランより指摘された自分のミスで誰かを死なせる可能性が重く圧し掛かっていた。

 

 そして、その後にミハエルが言ったセリフ――アルト、お前また逃げるのか、舞台や家からも、と言われた時にアルトの中に有ったのは言葉への反発であった。

 

「……違う…俺は――俺は!」

 

 反発の気持ちが言葉として漏れ、憮然としたアルトが我に返ると歩いていた場所は何時しか街並みを超えてグリフィスパークの丘まで歩いていた事に気付く……こんな所まで考え事をしながら歩いていたとは、何気なく周囲を見回していた時に風に乗って歌声が響いてきた。

 

 落ち着いた旋律が妙に郷愁を感じさせる歌声に惹かれるように歩くアルトは、大きな木の幹を回り込んで、根元に座る白い聖マリア学園の制服を着た見知った少女であるランカ・リーの姿を見つける。

 

「……アルト君」

「――よう」

 

 突然の登場に驚くランカに軽く挨拶したアルトは、そのまま2、3言葉を交わしながら見晴らしの良い公園の柵に持たれ掛かるようにしながら先ほど聞こえてきた歌声の感想を伝える。

 

「……いい歌だったな」

「……私、子供の頃の事、何も憶えていないの――でもね、この歌だけ覚えてる。私のたった一つの思い出なんだ」

「……そうか」

「でね、時々この丘に歌いに来るの、ここなら誰も聞いていないから……」

 

 彼女にとって先ほど歌った歌は大切なモノなのだろう。あの巨大な宇宙生物の襲撃に巻き込まれ、オズマより聞いた普段の彼女の姿からは想像出来ない辛い過去。精神的に辛くなった事は容易に想像出来る……故にランカはここに来たのだろう。

 

「私、生きてるってずっと当たり前なことだと思ってた。朝起きて、顔を洗って、美味しいご飯を食べて、お兄ちゃんやアルト君たちとケンカしたり、ノノとおしゃべりしながらバイトに行って、めんどくさがる翡翠ちゃんと遊んだり……だけど、あっけないよね。人も、世界も」

 

 ここ数日で体験した非現実的な――だが確実に存在する脅威を実感したランカであったが、十代半ばの少女に出来る事など殆ど無く、気持ちを持て余していたランカは心情をアルトに吐露してしまったが……当のアルトは何かの作業を、紙飛行機を折っていた。

 

「――もう。アルト君、聞いてる?」

「不思議だろ。ただの紙きれが、ほんの何回か折って開いてを繰り返すだけで、空飛ぶひこうきに変わる」

「――ほんと好きなんだね」

「……えっ?」

「紙ひこうきって、なんか役者さんみたい。まっさらな紙が空を飛ぶ形に変わるなんてね」

「……お、俺は別に今更役者なんかに…」

 

 家業である歌舞伎の話題に狼狽えるアルト。そんなアルトの心情に気付く事なくランカは内に溜まったモノを吐き出す。

 

「……私もとべるかな?」

「――無理だな」

 

 即座に否定された事に愕然とするランカ……だが、何の取り柄もない自分ゆえに仕方がないと諦めの気持ちが沸き上がる。

 

「……えっ……そうだよね、私なんか……」

「……そうやって、出来たらとか、自分なんかが、とか言っている内は――絶対にな!」

 

 助走をつけてアルトは折った紙ひこうきを飛ばす――紙ひこうきは上手く上昇気流に乗って人工の空を舞いあがり、それを見たランカは言葉足らずだがアルトは自分にアドバイスを送っていた事に気付いた……どうせなら、もっと優しく分かりやすく言ってくれれば良いのにと唇を尖らせる。

 

「――意地悪だね、アルト君」

「……ま、まあな」

 

 柄にもない事をしたと思ったのか、顔を赤くしながらぶっきら棒に答えるアルト。

 

「――私みんなに伝えたいの、だから聞いてくれる私の歌」

「――好きにしろよ」

「ありがとう、アルト君」

 

 ステップを踏むように軽やかな足取りで街灯の傍まで来たランカは、目を閉じて息を吸うと歌い始める――その歌には心が込められて、心地よい旋律に先ほどまでのイライラ感を忘れたアルトは目を閉じて旋律に身を任せる……そうさ、俺は飛ぶ――たとえそれが戦いの空だとしても。

 ランカの歌声を聞いていると、自分が何を求めていたのかを再認識して、自然と心が決まる……例え戦いに散ったとしても、空を飛ぶ事を選んだ事は決して後悔しないだろう。ランカの奏でる心地よい旋律の中でそう決意したアルトは、何時しか歌声が重なっている事に気付く。

 

「――この声」

 

 自分ではない誰かの歌声に聞き覚えがあったランカは驚きながらも歌声の主を探す――公園の中心部に建てられたモニュメントの影から一人の女性の姿が現れる。ピンク掛かったハニーブロンドを靡かせた、今フロンティア船団でその顔を見ない日は無いほどの絶大な人気を博しているトップ・シンガー シェリル・ノームであった。

 

「――うそ!?」

「……おまえ?」

「――こんなサービス滅多にしないんだから」

「シェリルさん」

 

 ゆっくりと近づいて来る憧れの人の姿に感激するランカ。そしてアルトは、なぜ彼女がこんな場所に現れたのか分からず困惑する。

 

「……どうしてこんな所に」

 

 アルトの疑問の声には答えず、彼女シェリルの視線は感激に舞い上がっているランカへと向けられている。

 

「あなた良い声してるわね、名前は?」

「ランカ――ランカ・リーです。良い声だなんて、そんな……」

「私はお世辞なんて言わないわ……だけど、どうしてあなたアイモを歌えるの?」

「……アイモ?」

「――そう、アイモ」

 

 表情を改めてランカに問い質すシェリル。あこがれの人の口から思い出の曲の題名を聞いて戸惑うランカと、何故シェリルがランカの思い出の歌の題名を知っているのか疑問に思うアルト。

 

 三人の間を風が吹き抜けて緊張感が走るその場面でシェリルの携帯端末が着信を知らせて、彼女のふくよかな胸を揺らしながら たい焼き風の携帯端末が飛び出してくる。

 

「なによ、いま良い所だったのに!」

 

 携帯端末に連絡を送ってきたグレイスという相手と2,3言葉を交わしたシェリルは通信を切り、突然の展開に驚いて呆けたような表情を浮かべるアルトとランカにウインクを投げかける。

 

「ごめ~ん、私のショータイムだって。じゃ、急ぐんで―――続きはまた今度ね」

 

 コミカルに去っていくシェリル……その変わり身の早さに脱力するアルト。

 

「……なんなんだ、アイツ」

「……どうしてあの歌を」

 

 だがランカにとっては衝撃的な出会いだったようで、憧れの人が現れて、しかもたった一つの思い出の歌の事を知っているような口ぶり……何故、彼女シェリルが知っているのか疑問は尽きなかった。

 

 


 

 

 突然『アイランド1』に襲撃を仕掛けてきた甲虫どもとの戦いの中で、感情の発露から強力なフォールド波を発したランカの様子から、彼女の能力は感情の影響を受けると推察した翡翠とノノは、平時においても彼女ランカの動向は把握しておく必要を感じて、改型キルトラ・ケルエール級惑星揚陸強襲艦に格納されているドローンに市街戦装備に換装させた上に光学迷彩を施して、複数の機体を『アイランド1』へと潜入させてランカを監視していた。

 

「……中々コミカルな性格をしているようだな、シェリル・ノームって」

 

 グリフィスパークの丘で繰り広げられた一連の会話は光学迷彩を施した市街戦用ドローンによってモニターされており、シェリル・ノームの登場には緊張感が走ったが、どうやら事なきを得たようだ。

 

 甲虫どもの襲撃を『S・M・S』とかいう民間軍事会社が撃退した後にシェリル・ノームの前に現れた謎の男――偵察用ドローンに追跡させた所、どうやらあの男はシェリルと共にフロンティアへとやってきたスタッフの一人のようであった。

 

 シェリルが専属スタッフと共に宿泊している施設内に戻る途中でスキャンした結果、彼の身体は強化改造された機械化兵のようであった。そんな存在が紐として付いているシェリル・ノーム……彼女もしくはその周辺が一気にきな臭くなってきた。

 

「……さて、これからシェリル・ノームがどんな絡み方をして来るか……どしたの、ノノねぇちゃん?」

 

 先ほどから一緒にランカ・リーの監視映像を見ていたノノの様子がおかしい事には気付いていたが、今は何か物思いに耽っているようだ……彼女がこうなったのは、映像の中のランカが思い出の歌をアルトに披露している時からであった。何度か声を掛けると、ようやく視線が此方に気付いたかのように向けられて精神(?)も此方に戻ってきたようだ。

 

「……どしたの、一体?」

「……ランカの歌を聴いていて、メモリーが刺激されてね」

 

 ランカが歌ったアイモの歌詞の中に有る“ひばり”が登場するフレーズを聞いた時、ノノの中に有る比較的新しいメモリーが彼女の心とも呼ぶべきモノを揺さぶった――そのうち雨が上がると、お姉さまは言うんです――さあ“ひばり”を見に行こうって。ノノはドアを開けて青空の下へ――大切な人との果たすことが出来なかった“約束”悠久の時を過ごそうとも、忘れる事はない大切な約束……あきらめてさえしなければ、願いは何時か叶うと信じて。

 

 


 

 

 都市型大型移民船『アイランド1』の左舷に備え付けられたドッキング・ポートに一隻の戦闘用航宙艦が係留されていた――可変攻撃宇宙空母『マクロス・クォーター』。民間軍事プロバイダー『S・M・S』の旗艦を務める可変ステルス攻撃宇宙空母である。

 

 その『マクロス・クォーター』のエアロックの前には同艦の戦闘部隊でも精鋭ぞろいであるスカル小隊のメンバーを中心とした『S・M・S』隊員が揃っており、新しく配属される新入隊員を待ち構えていた。

 

 スカル小隊隊長オズマ・リーを始め、同小隊のミハエル・ブランにルカ・アンジェローニ。面識があるカナリア・ベルシュタインの他に野次馬根性を出した隊員と、ピクシー小隊の隊長を務めるクラン・クラン。話を聞きつけて面白そうだと顔を出した長身のボビー・マルゴやブリッジ・オペレーターの三人娘が顔を出していた――そしてエアロックが開いて新入隊員が『マクロス・クォーター』に足を踏み入れた。

 

「アルト・早乙女。美星学園航宙科パイロット養成コース2回生、本日より『S・M・S』隊員として着任いたします!」

 

 美麗な顔を引き締めたアルトは、戦闘部隊であるスカル小隊の面々の前で宣言する。それを受けたオズマは一歩踏み出すとアルトの前に立つ。

 

「もう一度聞く、宇宙では何時如何なる時でも、どんな危険が待ち受けているか分からない――覚悟は良いな」

「当然だ……いえ、覚悟は出来ておりますオズマ少佐」

 

 流石にこれから配属される部隊の隊長にタメ口を利くわけにもいかず、口調を直すと直立不動の視線を維持する。そんなアルトの姿を見たブリッジ・オペレーターの三人娘と総舵手であるボビーは小声で品定めをしている。

 

「初々しいわね」

「さすが元歌舞伎の女形です」

「……なんかもう――」

「――おいしそう」

 

 そんなアルトの返答に満足げに頷いたオズマは、にやりと不敵な笑みを浮かべる。

 

「――ふっ、よろしい。現時刻を持って、貴様を『S・M・S』隊員として歓迎する」

 

 そう宣言したオズマは他の隊員立と共に踵を返すと“何か”をアルトに向けて投げる――思わず受け取ったアルトが見たモノは、導火線に火の付いた古典的な爆弾のような物であった。焦るアルトに向けて再び踵を返したオズマ達の顔にはガスマスクが装着されており、最初から想定された悪戯だと確信して持っていた黒い爆弾を投げ返そうとするが、その前に爆発してアルトは白い煙の中に消える。

 

「――S・M・S恒例 新入隊歓迎会!」

 

「……こ……くっ……きさま…ら……」

 

 白い横断幕を広げてクラッカーを鳴らす……催涙剤や諸々がブレンドされた煙に巻き込まれたアルトは、涙を流しながらもろくでもない事をしでかしてくれた奴らに文句を言おうとするも……力尽きて気絶した。

 

 


 

 

 この世界でただ一人フォールド波を発するランカ・リーとトップ・シンガーシェリル・ノームとの奇妙な接点を知った翡翠とノノは、元より周囲がきな臭いシェリルの事を注視していたが、ランカ・リーとの接点があった事が判明して以降、偵察用に換装したドローンを振り分けて、光学迷彩を施していても相手が高い探知能力を持っている可能性を考慮して遠距離からの監視を行っていた。

 

「……これだと、何かあった時には即座に動けないわね」

「……仕方がないさ、そこは『フロンティア』の手腕に期待しよう」

 

 相手はこの『マクロス・フロンティア船団』の近くを航行する別の移民船団『マクロス・ギャラクシー』の手の物の可能性があり、それが何を求めて、どう動くのか現時点では未知数なのだ。その証拠に最近のフロンティア側のシステム内にギャラクシーを警戒した動きがみられ、『マクロス・フロンティア』は甲虫ども―バジュラをこの船団に呼び寄せたのはギャラクシー側の策謀との見方もあるようだ。

 

「……シェリル・ノームにフォールド波を発する能力はないようだ……甲虫どもを誘って『フロンティア』にぶつけるには無理があるだろう」

「……シェリルの周りにいる人たちは何が目的なのだろう?」

「……案外、ランカ・リーのスカウトかもな」

 

 情報が少なく相手の目的も分からない現状では後手に回るしかなく、投げやり気味に肩を竦める翡翠――そんな時、壁の向こうから野太い怒鳴り声が聞こえてくる……シスコン兄貴にしては珍しく、最愛の妹とケンカしているようだ……それにしても、こうまで隣の家の声が聞こえるとは、このアパートの壁は思ったより薄いのかもしれない……野次馬根性を出した翡翠とノノは、そっと壁に近づいて聞き耳を立てた。

 

 


 

 

 その日、オズマ・リーは妹であるランカ・リーが通う聖マリア学園から呼び出しを受けて――そこで初めてランカが自分に内緒でミス・マクロス・コンテストに参加した事を知り、芸能活動に厳しい学園より停学処分を告げられ、兄妹は微妙な雰囲気のまま家へと帰って来たのだ。

 

 そして都合の悪いことにミス・マクロスの映像もテレビ番組として放映されており、映像の中にはしっかりランカも映っていた……それを見たオズマの額に血管が浮かぶ。

 

「……どういう事だこれは、俺に何の断りもなくミス・マクロスに出るなんて。見ろ! おかげで停学だ! 俺がお前をあのお嬢様学校に入れるのに、どんだけ苦労したと思ってるんだ」

「――頼んだ訳じゃないもん! 私、歌手になりたいの!」

「寝言もたいがいにしろ! お前みたいな引っ込み思案が、歌手なんか出来っこない!」

「……お兄ちゃんの――バカ!」

 

 売り言葉に買い言葉……遠慮がない故にキツイ事を言うオズマに、十代半ばのランカは目に涙を溜めて――爆発。丁度立っていた台所の調理道具を手当たり次第に投げ付けて、家を飛び出していった……隣の家で壁に耳を当てていた翡翠とノノは、やっちまったなシスコン兄貴、と揃って嘆息した。

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 ……私がマクロスFとトップをねらえ!2をクロス先に選んだ理由はノノにある役割をになってもらう事と、アイモの歌詞に”ヒバリ”というフレーズがあったからんですよね。ヒバリは朝を象徴する鳥であり、西洋ではその歌声は清浄な愛をあらわすとされていますからね……いつかノノもお姉さまと再会出来ると良いですね。


 では次回 第13話 start of the war 開戦前夜 6/18 0時更新予定です。ではでは~。
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