マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス   作:soul

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サヨナラノツバサ編




サヨナラノツバサ編
第18話 temporary respite 一時の休息


 新天地を求めて銀河系中心宙域を航行する長距離移民船団『マクロス・フロンティア』は、航海の途中で突然襲い掛かってきた未知の宇宙生命体バジュラの襲撃を撃退して、束の間の平和を謳歌していた。とはいえ都市型移民居住艦『アイランド1』の街並みにはバジュラの襲撃の跡が色濃く残り、完全に回復するには今しばらくの時間を必要としていた。

 

 そんな『フロンティア船団』を揺るがすような大事件が発生する――銀河の妖精と名高いトップシンガーであるシェリル・ノームがコンサート中に倒れたのだ。各移民船団や植民星を繋ぐ『ギャラクシー・ネットワーク』でも有名なシェリル・ノームが倒れたというニュースは瞬く間に銀河中に広がって波紋を呼んだ。

 

 


 

 

 都市型移民居住艦『アイランド1』では500万の市民が生活しており、過酷な宇宙空間でも普段通りの生活が出来るようにと様々なインフラが整備されて、市民は人工の大地の上で暮らしていた。その中には、船団の外から来た人々を受け入れる『フロンティア船団』の顔ともいえる施設が存在する。

 

 船団の外から来訪する様々な人達を収容する大規模宿泊施設。過酷な宇宙を旅した旅人を迎えて、その疲れを癒すやすホテルにもそのグレードによりランク付けがされており、その中でも最高級に位置づけされるホテルに銀河の妖精と名高いトップシンガー シェリル・ノームが宿泊していた。

 

 銀河の妖精の来艦と彼女のコンサートが開かれるという話題は『フロンティア』内を飛び交って、誰もがその熱狂に浮かれていた時に突如として襲い掛かってきた凶悪な宇宙生物による破壊に少なからずのショックを受ける『フロンティア』市民に追い打ちをかけるように齎された凶報――コンサート中に銀河の妖精 シェリル・ノームが倒れたという。

 

 そのニュースは様々なメディアで取り上げられて、過労や重い病気に掛かったなど色々な憶測を呼び、それは彼女が宿泊するホテルのラウンジに設置されているホロスクリーンでもその話題が放送されていた。

 

「……まったく。好き勝手書いてくれちゃって」

 

 たい焼き型の携帯端末を閉じたハニーブロンドは、ソファーに座りながら首を鳴らし、後ろに控える二人の男のうち一人は雑誌を読んでいた……やはり内容的には銀河の妖精が倒れた話題が独占していた。雑誌に目を通している男――民間軍事プロバイダー『S・M・S』に所属する早乙女アルトが半ばゴシップのような記事を見ていると、不意に聞きなれた声が聞こえた。

 

「――シェリルさん!?」

 

 最近よく聞くようになったその声に思わずびくついたアルトは、慌てて持っていた雑誌で顔を隠す……シェリルの傍にいる事が妙に後ろめたく感じて思わず隠してしまったが、ここに居るのは任務で居るのだから後ろめたい事は無いのだが、ソファーに座る悪魔が、ハニーブロンドの悪魔がおとなしくしている筈がない……確信ともいえる予感に従って嵐が過ぎ去るのを待つが、どうやら神様はアルトがお嫌いのようである。

 

「――あ~ら、ランカちゃん元気?」

「……元気って」

 

 学校帰りなのか白い制服姿のランカに気付いたシェリルが軽い態度で挨拶を返す……一応は銀河のトップスターであり、しかも最近コンサート中に倒れた割には気安く挨拶して来るシェリルの姿に、逆に戸惑いのような表情を浮かべたランカがラウンジから階段を下りてシェリルの居るテーブルに近づいて来る。

 

 体調を心配するランカに軽く手を振るシェリルの表情も良く、思っていたよりも元気な姿に安堵するランカ。そんな二人の傍に浮遊型のホロスクリーンが流れて来る。軽快な色彩の中に可愛らしさを前面に押し出した衣装を着ているランカの姿が。

 

「――そうそう、聞いたわよ『虹色クマクマ』可愛らしい曲じゃない」

「――わぁあ、有難うございます!」

 

 歌手として地道な下積みをしていたランカだったが、先のバジュラ侵攻の折にシェリルと共に命がけで歌を届けたランカの歌声に魅了された者も多く、その人気を受けて彼女の可憐さを前面に押し出した新曲が発表されたのだ……憧れであり目標でもあるシェリルに自分の歌を知ってもらえたという喜びに、彼女の緑色をした髪が広がる……そして遂にアルトの恐れていた事態になる。

 

「――ほら、アンタも何か言ってあげなさいよ」

「――えっ?」

 

 ソファーに座りながらシェリルは後ろに控えていたアルトを肘で突く、雑誌で顔が隠れているが故に最初は誰か分からず不思議そうな顔をしたランカだったが、観念したアルトが顔を隠している雑誌を下ろして後ろで手を組む……顔が若干赤くなっている所はご愛敬だ。不思議そうに何をしているのかと問い掛けるランカに、アルトは若干早口のオーバーリアクションで説明してくる。

 

「……あの作戦以来、ずっとコイツに雇われてるんだ。『S・M・S』フロンティア支部メンバーが交代で、スパイ容疑が完全に晴れた訳じゃないから監視の意味もあるしな」

 

 これまでのシェリルのわがままや突拍子もない思い付きに振り回された経験を思い出して厭味ったらしく説明するアルトに、「――疑い深いわよね、ホント」とシェリルは大いに嘆いて見せる。

 

「――疑惑を晴らしたいから、ボディガードを兼ねて付いてろって言ったのはお前だろうが!?」

 

 手で両耳をふさいで聞く耳持たずとポーズを決めるシェリル……そしてハニーブロンドの悪魔は人知れず にやりと笑って、不器用な男とカワイイ女の子に聞こえるように主張する。

 

「ギャラ払ってるのはわたしよ。つまり、私の命令には絶対服従。言わば――そう、アルトは私のド・レ・イ」

「――ドレイっつ!?」

「……こら、お前今なにを想像した」

 

 真っ赤になったカワイイ女の子を軽く睨みながら詰め寄る不器用な男……そんなままごとの様な、気安さ故のやり取りを微笑ましく見ていたシェリルが突然せき込む。倒れたばかりなので誰もが体調を心配している中で、アルトが何故無理をしてまで歌うのかと問い掛けると、彼女は顔を上げて答えた。

 

「……当り前じゃない、歌はわたしの存在意義だもの。わたしは歌う為に生きてるのよ、貴方だってそうでしょうランカちゃん? あなたの歌にだって、力があるもの」

「……そんな」

 

 シェリルに認めらえた事が嬉しくてはにかむランカ。

 

「……それで、お前はどうしてこんな所に?」

「あ、それはね――」

 

 アルトに答えようとしたランカであったが、答える前にラウンジの方から彼女の名前を呼びながら近づいて来る二入組の少女たちの姿があった。幼さを残した顔立ちと桃色の長い髪を持つ活発そうな少女と、彼女より幾分背は低いが翠色の瞳が特徴的な整った顔立ちとショートのウルフカットをした年下の少女がシェリルと話をしていたランカを見つけて近づいて来る。

 

「――あっ、こんな所にいた。探したんだよ」

「ごめんね、ノノ。それと翡翠ちゃんも」

 

 近づいてきたのはランカと同じく中華料理店『娘々』でウエイトレスのバイト仲間のノノと、その妹でたまにミシェルと組んで にやにやと悪意のスパイスが詰め込まれた笑いをしながらアルトに絡んでくる小生意気なガキンチョという印象の翡翠だった。

 

 近づいて来る二人に軽く手を振りながら迎えたランカとの話を聞く限りでは、芸能活動の合間のたまの休みに気晴らしにとノノとショッピングの約束をしていた所、雑誌を読んでいた翡翠から今話題のデザートを提供するというこのホテルのラウンジに隣接するカフェに行こうと約束していたらしい。

 

「……なのに、ランカねぇちゃんの姿が見えないし、何処に行ったのかと思って探してみれば……」

「――ごめんね、翡翠ちゃん。早めに来たんだけど、思いもしない人が居たから」

 

 そう言ってテーブルに視線を向けるランカ。その視線に釣られてノノと翡翠の視線もテーブルへと向けられて、そこで手を振るシェリルの姿を見たノノが「――シェリル・ノーム!? ほんものだぁ!」とワザとらしく驚いている……出会ってからそれほど経ってはいないが、この“す~ぱ~ろぼっと”には演技力は皆無らしく、こちらに来る前からシェリルとアルトの存在には気付いていたが、それをおくびにも出さずに偶然出会った一般人というスタンスなのだろうが、大根役者でももう少しマシなのではないだろうか。

 

 この微妙な空気をどうにかするのも借りとは言え姉妹を名乗った者の務めか、と小さく嘆息した翡翠は無邪気な子供そのものの笑みを浮かべる。

 

「――あ、“エッチィな”おねぇさんだ!」

 

 ――瞬間空気が凍った。ノノとランカの顔は引きっているし、言われた当人であるシェリルは ぽかーんとした顔をしている……多分、大人には言われた事はあるだろうが、こんな子供の感想が“ソレ”とは頭が理解するのに時間が掛かっているのだろう。

 

 そんな中でただ一人、シェリルの後ろに控えていたアルトだけが噴出して大爆笑しはじめて、状況を理解して目を三角にしたシェリルの肘鉄を腹部に受けて悶絶していた……そして立ち上がったシェリルは翡翠の前に立つと、ハニーブロンドの髪をかき上げる。

 

「――それはセクシーっていうのよ。憶えておきなさい、お嬢ちゃん」

 

 大人の機微に疎いお子様に世の理を告げたシェリルは、グレイスより時間が来た事を伝えられて、仕事の為に移動しようとした時に慌てたランカが肩に掛けていたバックから紫のケースに鍵の装飾の付いたモノを取り出してシェリルに差し出す。

 

「――あの、シェリルさん――これ! 来週末に私のファースト・ライブの招待状です。きっと忙しくて無理だとは、思うんですが……」

「――行くわ」

 

 銀河の妖精として活動する彼女のスケジュールは多忙を極める――それでもシェリルはランカのファースト・ライブには必ず顔を出す事を約束した。

 

「それじゃ、楽しみにしてるわ。じゃあね」

 

 


 

 

 本日の仕事のスケジュールを全て終わらせた銀河の妖精ことシェリル・ノームは、移動に使う車の中で疲労した身体を休めて宿泊するホテルへと向かっていた。本調子ではない身体は発熱を起こして喉に軽い渇きを覚える。ようやくホテルに到着したシェリルとグレイスは、彼女たちが泊まる最上階の部屋へと向かう。

 

 シェリルの宿泊する部屋には、最高級ホテルのスィートルームには似つかわしくない物が持ち込まれていた――『ギャラクシー船団』で開発された高性能メディカルポットが稼働して、その中には静かに眠るシェリルの姿があり、マネージャーであるグレイスはそれを静かに見ていた……否、インプラント技術によってサイボーグと化している彼女は脳に埋め込まれた送受信機を使用して、これから行われる作戦に付いて協議をしていた。

 

 彼女が協議している相手は、避難民船団に紛れてバジュラの襲撃から『マクロス・フロンティア』船団へと逃れて来た『マクロス・ギャラクシー』船団の首脳陣であり、『フロンティア』船団に存在を明かして保護を申し出る訳でもなく、避難して来た『ギャラクシー』の難民たちが保護されて治療などを受けるなど混乱の隙を突いて『アイランド1』市街地にインプラント化した多数の強化兵と共に潜伏していた。

 

 彼女たちの交信内容は主にコードQ1―ランカの『フォールド・ウェーブ発振能力』の成長度合いであり、彼女たちが用意したシェリル・ノームは病魔に冒されて残る寿命が限られており、グレイスはシェリルの延命の可能性について恐ろしい提案をしていた。

 

 ――そして、そのフィールド通信を用いた交信は、『ギャラクシー』と同じくフォールド・クォーツ技術を持つ『フロンティア』行政府の影で動くモノだけでなく、思念波を送受信できる翡翠とノノも傍受していたのだ。

 

 『アイランド1』のサンフランシスコ・エリアのアパートで、翡翠とノノはアパートのリビングで無言のまま難しい顔をしていた。向かい合わせに座っている二人の間にはテーブルに置かれたドリンクがあったが、それに手を付ける事もなく難しい顔をしていたノノが口を開いた。

 

「……V型ウイルス、フォールド細菌の持つフォールド・クォーツ……それが私達が感じていたフォールド波で歌を響かせる原因か」

「……甲虫どもとの戦闘の後に妙に防護服を来た軍人が多いなと思っていたが、そういうカラクリな訳ね」

 

 シェリル・ノームのコンサートが開かれた日に『マクロス・フロンティア』船団に襲い掛かっていたバジュラの攻撃により破壊された街並みと、その場に残ったバジュラの死骸を重武装の軍人が立ち入り禁止として監視する傍らで、完全装備の防護服を来た軍人が何かを計測しながらバジュラの死骸を厳重に梱包しながら何処かへ持ち去っていた。

 

「……改めて、ランカとシェリル・ノームに詳細なスキャンをした結果、二人から微弱なフォールド波を発する細菌の存在を確認したわ」

「……フォールド細菌はランカねぇちゃんの場合はお腹に、シェリル・ノームの場合は喉に潜伏している、と。ノノねぇ、V型感染症について分かっている事は?」

「……以前、『L・A・I』のサーバーにお邪魔した時に拝借したデーターの中に、しっかり有ったよ」

 

 V型感染症―『L・A・I』の資料によれば、超時空生物バジュラの体液や血液にはV型ウイルス―フォールド細菌が存在しており、バジュラの体液や血液を大量に浴びると、V型感染症に罹患し、V型ウイルスが脳内で分泌する毒素により死に至るという。

 

「V型感染症の致死率はかなり高いようだね……つまり、ランカねぇちゃんもシェリル・ノームも先は長くないという事か」

 

 シェリル・ノームとの接点はそれほどなく彼女の生死にあまり関心は無いが、隣に住んでいるランカとはいささか関わりを持ちすぎたようだ。第117次大規模調査船団で生を受け、甲虫どもの襲撃で調査船団は壊滅して生き残ったオズマ・リーに引き取られてこの『フロンティア』船団に来て――彼女の夢である歌手への道を歩みつつある……なのに、ここに来てまた甲虫ども―バジュラが絡んできて、バジュラ由来のV型感染症で命の危険にさらされている……よくもまぁ、これだけの厄介ごとに巻き込まれるものだ。

 

「……ねぇ、ノノねぇ。V型感染症というか、フォールド細菌のサンプルを調達出来ないか?」

「――えっ?」

 

 その夜、『アイランド1』に存在する『L・A・I』の傘下にある研究施設でボヤ騒ぎがあり、バイオ・ハザードが心配されたが危険なウイルスのような物の流出は認められず、幾つかの貴重なサンプルが“失われた”だけであった。

 

 


 

 

 オズマより『S・M・S』社員を対象にした慰安旅行で『アイランド3』にある南洋の楽園を再現した人工島であるマヤン島へ行くという情報をゲットしていたランカの行動は素早かった。忙しい芸能活動の合間のオフを有効に使ってオズマに同行する事に成功したのだ……勿論、目当てはアルトである。

 

 南国のリゾートを意識して作られた人工の砂浜では人々が思い思いのスタイルで疲れた身体と精神を癒し、海の中に再現されたサンゴ礁を見る為にスキューバーダイビングを楽しむものや、サーフボードで波に乗る者など、それぞれが楽しんでいた。

 

 そんな楽しいひと時の終わりの夕暮れの中で、ランカは最近頭の片隅にこびり付いていた事をアルトに相談する……突然『フロンティア』船団を襲って人々を襲ったバジュラが、自分だけは殺さずに捕まえて連れ帰ろうとした事実――ハウンド・バジュラの嚢の中で感じた温かい温もり。ランカはバジュラにも心があるのではないかとアルトに打ち明けるが、アルトの反応は苛烈なものであった。

 

「……そんな物、有るわけないだろう! もし心が有ったとしても、なんであんなに攻撃してくるんだ。『フロンティア』だって『ギャラクシー』だって、大勢の人が犠牲になったんだぞ」

 

 『S・M・S』に入隊して実戦を経験したアルトは、バジュラの襲撃によって多くの人々が犠牲になるのを目撃して来た。誰かを守る為に『S・M・S』に入ったアルトにとってバジュラは船団に死と破壊を振りまく悪魔でしかなかったのだ。

 

 

 

 マウイ島での慰安旅行を終えて『アイランド1』へと戻ったランカとアルトは、それぞれの場所へと歩き出す――ランカは天空門ホールでのファースト・ライブを成功させる為に準備に追われ、アルトは新たな指令である新統合軍との合同作戦に参加する為に、宇宙空母やステルス・フリケードと艦隊を組んだ『マクロス・クォーター』に乗り込んで、『フロンティア』船団より先行して航路上に存在しているバジュラの巣をせん滅するべくフォールド航法により戦場へと向かう。

 

 この作戦を成功させれば、『フロンティア』を襲うバジュラの脅威はかなり軽減されるだろう……だがそこで彼らは、思いもしない情報を知るのだった。

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 マクロスFとオリキャラの絡みを考えてると、最初に浮かんだのが翡翠が”バカ”な事を言って爆笑するアルトを目を三角にしたシェリルが沈める光景だったんですよね……終わっているな、私も。

 さて、刻一刻と病状が悪化するシェリルと、グレイスとギャラクシー首脳陣との通信を傍受してフォールド細菌の存在を知る翡翠とノノ……表面的な事しかまだ知らないので、ランカのお腹にフォールド細菌が居る意味を知らず、シェリル同様ランカの寿命も短いと誤解しております。

 では次回、第19話 operation Defiance 反抗作戦 7/9 0時更新予定です。ではでは~。
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