マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス   作:soul

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第2話 ワースト・コンタクト

 

 『実験艦―02』のエアロックより出て巨大廃棄艦の格納庫の床に降り立つクリスとノノ。放棄されて久しいのか重力は無いが天井の非常灯はまだ生きていて技術力の高さを伺わせる。船に被害が出ない様に少し離れた所まで移動した二人に、格納庫の至る所から強烈な敵意を向けられてクリスの翠眼が細まる。

 

『ノノ、聞こえる?』

『はい、大丈夫です』

 

 クリスはナノマシンによって脳領域に形成した『思念波』の送受信機を起動して、事前に聞いた周波数を用いての通信を行う。どうやら意思疎通は良好のようだ。時間が無かったので詳しくは聞けなかったが、ノノ自身は戦闘に自信がある様だ。「――なぜならば!」とか言っていたが「時間がないから後で」と切って捨てると肩を落としてしょんぼりしていたが。

 

 とはいえ連携など夢のまた夢――そんな即興コンビの前に襲撃者が姿を現す。自分達の十倍以上はあるだろうか、外骨格に覆われた巨大な身体と敵意に満ちた赤眼。突き出した角は大きく発達して戦いに最適化されたかのような印象を受ける――そんな巨大な“敵”が無数に表れ、頭部より無数の光弾を吐き出して攻撃を仕掛けて来る。

 放たれた無数の光弾がクリスとノノを襲うが、光弾の軌跡が見えているかのように迫り来る光弾の隙間を縫うように光弾を避ける二人――逃げるのではなく、前に出て巨大な甲虫の尖った頭部に肉薄したクリスは、白いボディスーツに付属する青い結晶体に意識を集中する。

 

『――くらえ!』

 

 慎重150センチと小柄な身体から繰り出された拳は、巨大な甲虫のクリーム色の外殻を容易く砕いて吹き飛ばす。後方から長い脚を伸ばしてクリスを圧し潰そうとするが、裏拳一つで弾き返して身体を独楽のように回転させて加速を付けると襲い掛かって来た甲虫の外殻を蹴り砕いて叩き伏せる。

 

 一方ノノは無重力下においても自在に行動できるようで、反動推進も行っていないのに格納庫内を縦横無尽に飛び回って甲虫の攻撃を避けながら小首を傾げていた……後ろから追って来る甲虫が放つ光弾を避けると、それを読んでいたかのように長い足を伸ばした別の甲虫が襲い掛かる。それをも回避すると四方に居る甲虫の尾が鋭利な刃を突き立てようと放たれるが、絶妙な身体移動でこれを回避しながらもノノは今の攻撃に付いて考察する。

 

(……攻撃に隙が無さすぎる。どう考えても示し合わせているとしか考えられない)

 

 格納庫内でこの生物を見た時は、最初はメモリーに記録された“天敵”の亜種かと思ったが、しばらく観察していると甲虫同士の間に微弱な亜空間通信にも似た『思念波』にて繋がっており、解析するも人間によって作られたノノの理解を超えるアルゴリズムで構成されていた……だが、それは現時点において理解不能というだけで、検証を重ねればコミュニケーションが可能かもしれない――あらゆる手段を用いてもコミュニケーション不可能だった“天敵”とは違い、この生物は自分達と違う形ではあるが『知的生命体』なのかもしれない。

 

 ――だが、今は襲い来る脅威でしかない。切り替えたノノは脚部に三重六連装ミサイルサイロを複数形成すると迫り来る甲虫に向けて発射する。撃ち出されたミサイル回避行動を取る甲虫を追尾していき爆発、直撃を受けた甲虫達は肉片を巻き散らしながら落ちていく。

 

 自分達を排除できない事に業を煮やしたのか、無数の甲虫達の背後に複数の一際大きな赤い外殻に覆われた個体が姿を現す。周囲の甲虫より一回り大きく、背中に鋭く尖った大きな突起物を背負った赤い甲虫が脱出ポットに身体を向けると、大きな突起物に紫電が走るや強力なビームが撃ち出され、放たれたビームはクリス達を捉える事は無かったが、着陸していた『実験艦―02』の傷ついた外壁へと命中すると爆発を起こして船体に大きな破壊の跡を残した。

 

 ――その瞬間、格納庫内に凄まじい力の奔流が荒れ狂い、クリスの翠眼が真紅に染まった。

 

「……たかが虫けら如きがやってくれるじゃないか。ならば見せてあげるよ――『IMPERIAL(いにしえの帝国)』において力と恐怖を司る『IMPERIAL・GHOST(帝国の亡霊)』の力を」

 

 小柄な身体から放たれるプレッシャーが物理的な力となって周囲の空間を波打たせ、紅眼に怒りの炎を燃え上がらせたクリスのボディスーツに付属している青い結晶体が怒りに呼応するかのように強烈な輝きを発している――右腕をゆっくりと上げたクリスは勢いよく水平に腕を振り抜くと、それは衝撃波を発生させて目の前に立ち塞がる小型の甲虫を粉砕して後方に居た赤い大型の甲虫を吹き飛ばす。

 続いて左腕を伸ばすと、込められた力を解放して強力なエネルギー波を放ち、それが途中で無数に分かれると甲虫達に降り注いで彼らの硬い甲殻を砕いた。

 

 ――だが、暗闇の中から無数のクリーム色と赤色の甲殻が姿を現す、今まで倒した数と同数――いや、それ以上の数の甲虫の群れにクリスの口角が吊り上がる。彼女の戦意に呼応するかのように、無数の甲虫達が襲い掛かって来る――それを見たクリスの両拳に力が入るが――その拳が唸りを上げる前に、後方で戦っている筈のノノの猛々しい叫び声が木霊する。

 

『――バスタービィイイイム!』

 

 両腕を重ねながら大きく上げて力を溜めると、それを前に振り下ろして強力なビームを発射して襲い掛かる無数の甲虫達を粉砕していく……しかし、真空の格納庫で響きもしないシャウトを発するだけでなく『思念波』でも叫ぶなんて、ノノは結構ノリが良いのかもしれない。

 

『――やるじゃない、ノノ』

 

 サムズアップすると笑みを浮かべて同じように返してくる――さて、今のノノの一撃で甲虫どもは蹴散らされたばかりか直通の通路も形成されたようだ。

 

『……行くか』

『――はい』

 

 


 

 

 ノノの放ったビームの余波で未だ熱を持つ破壊口から撃ち抜かれた回廊を飛んで奥へと向かうクリスとノノ……奇襲を警戒しながらゆっくりと進むが未だ出口は見えない。この巨大廃棄艦は明らかに戦闘を想定した作りになっているが、その構造物をこれだけ貫通したノノの攻撃力の高さに感心しながら進んでいるとようやく出口が見えてきたようだ。

 

 そこはどうやら大型艦クラスの収容施設のようで、かなり広い空間であった。ノノの攻撃により空いた穴の淵に立った二人は眼下に広がる光景に戦闘態勢を取る――彼女たちの前には赤とクリーム色をした無数の甲虫達が待ち受けており、無数の甲虫達の後ろには一際巨大な甲虫の姿が見える。ずんぐりとした身体から伸びる触手と甲虫らしい外骨格に覆われた姿は、この無数の甲虫達を統べる女王的個体なのだろう。

 

『――やれるな、ノノ』

『――もちろんです! なぜならば!』

『……それはいいから』

 

 無数の甲虫達より無数の光弾が射出されて二人を襲うが、絶妙な体捌きで襲い来る光弾の隙間を飛んで躱しきる――すると複数のクリーム色の甲虫が肉薄してきて尾の先端についた刃を振るうが、クリスは刃をいなすと迫る甲虫の頭部を殴り砕く。

 

 一方ノノの方は、襲い掛かって来る甲虫達を格闘戦で倒しながら敵の注意を引き付けると両手を広げ――複数の黒い球体を形成すると“ソレ”を撃ち出す――その光景を見たクリスの頬が引き攣った。

 撃ち出された黒い球体は、進路上の甲虫達を飲み込みながら巨大廃棄艦の内部構造物を砕いて虚空の彼方に消えて行く……その光景を呆然とした表情で見るクリス。“アレ”はどう見ても『マイクロ・ブラックホール』だった。

 

 いくらシュヴァルツシルト半径が量子サイズとはいえ、『マイクロ・ブラックホール』を形成して、あろう事かこんな閉鎖空間でぶっ放つとは『ブラックホール』の超重力に掴まったら脱出するのは大変なんだぞ、と頬を引きつらせるクリス。

 

 だがノノの無茶のお陰で無数に沸いていた甲虫達もほぼ一掃されたようだ。後は残る甲虫とその背後に居る女王を倒すのみ――闘志も新たに残敵に挑もうとしたその時、クリスの脳内に形成された『思念波』の送受信機が戦場に似つかわしくないモノを受信した。

 

(……何これは、歌? “此処”ではない“何処か”で放たれた『思念波』が、歌となってここまで届いたというのか?)

 

 見ると受信したノノも戸惑いの表情を浮かべている――いや、それだけで無く、目の前で戦闘態勢を取っていた甲虫達や後方で控える女王だけでなく、女王が抱える無数の保護膜の中にいる甲虫の幼生体達すらも時空を超えて聞こえて来る『歌』に反応していた。

 

『……クリス』

『……』

 

 ノノとクリスの視線の先には、保護膜の中で目を細めて『歌』に反応している幼生体の姿がある……此方としては突然襲い掛かって来て船を攻撃した敵という認識だが、向こうからしてみても突然『巣』に侵入してきて防衛にでた同胞を殺した敵という認識でしかないのだろう……どちらにしても不毛な事でしかない。

 

『……興が削がれたわ』

 

 そう呟いたクリスは天井に向けて光弾を射出して破壊すると、その破壊口に向けて上昇していく。残されたノノも保護膜に包まれた幼生体を一瞥した後に天井の破壊口に向けて上昇していく……巨大廃棄艦の艦内より恒星間空間へと出たノノは直ぐにクリスの姿を見つけるが、巨大廃棄艦から少し離れた空間に制止しているクリス……何をしているのかと思いながらも近付いたノノは、巨大廃棄艦より離脱して此方に近付いて来る船の存在に気付く――彼女達が乗っていた『実験艦―02』だ。どうやらクリスが何らかの手段によって呼び寄せていたようだ。此方に近付いて来た『実験艦―02』はスラスターを吹かして停止し、クリスとノノは近くで停止した船に乗り込む……あの甲虫どもの追撃を警戒していたが、どうやらそれだけの余力は無いようでクリス達を乗せた『実験艦―02』は甲虫どもの攻撃を受ける事無く巨大廃棄艦から離脱する事が出来た。

 

 

 ノノと共に艦内通路をブリッジへと向かうクリスはその間に一言も発する事なく、ブリッジに辿り着くと備え付けられたシートに倒れ込むように座ると後頭部を乱暴に掻きむしる。

 

「――くそっ、調子が狂う」

 

 不機嫌そうなクリスを見て苦笑するノノ。休眠中の出来事故にメモリーには無いが自分との衝突事故によって損傷したこの船の修理をするべく寄った廃棄艦の中に、あんな原生生物が巣食っていたとは運が悪いと言うか何というか……だが、あの原生生物の戦い方を見るに、クリスの事が少し分かった気がするノノ――敵対する相手には一切の容赦はせずに圧倒的な力を振るって叩き伏せる――彼女のボディスーツに装備された青い結晶体が輝くと周囲の空間を歪ませて破壊力を倍増させている所から、彼女の種族は重力操作に長けた種族と推察させる。

 だが一切の容赦のない戦いぶりから戦闘に酔うタイプかと思っていたが、原生生物の幼生体を前にした彼女は明らかに戸惑い、興が削がれたと言って戦闘行為を終了して廃棄艦から撤退した。

 

「……これからどうするの?」

 

 問い掛けるノノ。その問いに思案顔をするクリス……元々は、自分が乗る実験艦に目の前の不審人物がぶつかった所為で二人纏めて漂流者となった。その為にこの宙域の情報は皆無に等しく、船の損傷も深刻であり、修復できる場所を求めて立ち寄った巨大な廃棄艦の中にあんな原生生物が巣くっていたとは、不運が続いてお払いとやらにでも受けようかと思えて来る……そして問題はそれだけではない。

 

「……ノノ気付いたか?」

「……何が?」

「……あの廃棄された巨大艦の破壊された跡は、あの甲虫どもの攻撃とは違う武装で開けられたモノだ」

 

 ――つまり、この銀河中心領域近くでは敵対する勢力同士の戦闘が行われていた事を意味する……この宙域に漂う巨大廃棄艦はかなり昔に破壊されたようだが、敵対勢力同士の戦争が終結しているかどうかは未知数だ。

 そしてそれだけでなく、あの甲虫達もその規模は未知数であり、あの巣の中に居ただけなら良いが、それは希望的観測がすぎるだろう……対して此方は迷子になった自分と野良のアンドロイドの二人のみ……戦力差は考えるのも頭が痛くなる。

 

「……テコ入れが必要だな」

 

 


 

 

 廃棄された巨大航宙母艦の残骸において、この世界特有と見られる宇宙生物とやり合ったクリスは、船を修理するにはこの廃棄艦は不適切と判断して撤退した……そしてこの世界の事が少しだけ分かった。この巨大な廃棄艦の中に巣くっていた甲虫どもの攻撃による物とは別の破壊の跡があった――つまり、あの巨大な航宙艦は甲虫どもとは別の勢力と敵対関係にあった可能性があると言う事だ。

 

 ……やはりこの世界も、他の世界と同じく戦乱に満ちていると言う事か。そしてあの甲虫どももあの集団だけなら良いが、他の群れが存在する可能性もあり、早急に戦力を整える必要がある……そう考えたクリスは、巨大廃棄艦に随伴していた戦闘用航宙艦の残骸の中でも比較的状態の良い船を見繕って、牽引ビームで曳航して十分な距離を取った所で複数の調査用ドローンを放って戦闘用航宙艦の残骸を調べ始めた。

 

 センサーを使用しての初期の調査では、この破壊された戦闘用航宙艦は全長が4000mほどの大型戦闘艦であり、充実したセンサーや通信設備を装備して重装甲を施された分艦隊などを指揮する中核艦としての運用をされていたようだ。

 

 そうして破壊口より内部に進入させたドローンのデーターにより航宙艦の詳細が分かって来た……この船の通路などは自分達より遥かに大きな巨人とも言うべき存在を想定して作られており、その所為で船の規模が大きくなったのだろう。主機関として大型の熱核反応炉と重力制御システムを搭載しており、中でも興味を引くのは超光速機関が独特なシステムを採用している所だ。

 

 亜空間を利用して距離を短縮するクリス達や並行世界の惑星連邦の超光速航法とは異なり、重力制御によって空間を折り畳んで現座標と目的座標を隣り合わせて艦の周辺空間ごと転移する空間湾曲型の超光速航法を用いて宇宙を航行しているようであった……主機関である熱核反応炉が死んでいるので推測しか出来ないが、この方式ならばかなりのエネルギーを必要とするだろう。

 

 そしてそれ以上に気になるのは、これ程の技術を有しながらも制御系があまりに稚拙な所だろう。まるで子供が運用する事を想定しているかのようなアンバランスさが意図して使用し易い様な制御システムを採用しているようで、艦内に漂う年代物の乗組員の遺体を調べると、遺伝子などは長年放射能に晒された影響で読み取れない程に破壊されていたが、自然発生ではなく全体的に人工的に手を加えられた人工の生命体である事は読み取れた……つまり“扱いやすい”ように知性に制限を加えた人造の兵士が運用する事を想定して建造された戦闘用航宙艦であるようだ。

 

 ――ならば、これからする作業思っていたより簡単かもしれない。艦内を捜索して、艦橋というか戦闘指揮所らしき区画に進んだ調査用ドローンで艦の制御中枢にアクセス出来る場所を探す。

 アクセスできる場所は直ぐに見つかった――この戦闘用航宙艦の航法装置らしきモノにドローンのセンサーを向ける。長年放置されて放射線によって経年劣化著しいが、動力を失って久しい事が幸いしたのかデーターの欠損はそれほどではないようだ。

 もう一機のドローンを電源として接続して、長い眠りから目覚めた航法装置に侵入してこの航宙艦のデーターベースへとアクセスする……船が破壊される程の戦闘の影響に加えて長年放射線に晒され続けられた事による劣化でサルベージ出来るデーターは殆どないが、運が良い事に目的のデーターは何とか手に入れる事が出来た。

 

「……んふふ、有った、有った」

「……航路データー? これをどうするの?」

「……この船が生れた場所に挨拶にいくのさ」

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 突発的なアクシデントで迷い込んだ世界。乗っていた船はダメージを受けており、しかも見知らぬ世界ゆえに、何の情報も持たないクリス達は少ない情報から自衛のための戦力を欲して行動を起こします。


 では次回 第3話 インターミッション 5/14 0時更新予定です。
 クリスとノノの異世界苦労話が始まります。マクロス・フロンティアと本格的に絡み始めるのは5話位からになります。ではでは~。
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