マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス   作:soul

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サヨナラノツバサ編




第20話 the Clowns' Feast 道化師たちの宴

 

 『アイランド1』市街地

 

 居住可能な惑星を求めて銀河系中心部へと旅する長距離移民船団『マクロス・フロンティア』の中心である都市型大型移民船『アイランド1』の市街地を一台のタクシーが爆走していた。

 お客である絶世の美女が大切な人が怪我をして入院したから急いでくれと懇願されたドライバーが、義憤に駆られてアクセルを踏み込んだ結果、通常掛かる時間よりも早く病院へと到着し――支払いを終えたハニーブロンドの美女は凄い勢いで病院へと駆け込んだ。

 

 病院の受付で目的の人物が入院している病室の番号を聞いたハニーブロンドの美女――シェリル・ノームは、中央エレベーターに乗り込むと病室のある階層を走って病室の前に来ると、勢い良く扉を開いて中へと入る。

 

「――アルト!」

 

 病室の中に入ったシェリルは、目的の人物である早乙女アルトの姿を探し、病室の奥のベッドに横たわる姿を見つけて駆け寄る。『S・M・S』と新統合軍の合同作戦に参加して、バジュラとの戦闘で負傷して入院したと聞いた彼の容体は、意識が無いのか複数の点滴チューブが刺さり、数々の測定器に繋がれた痛々しい姿でベッドに横たわっていた。

 

「――うそっ、目を覚まして! ちゃんと返事をして、アルト……アルト…」

「……よく響く声だな」

「……えっ」

「……頭が割れるかと思ったぜ。何やってんだ、お前?」

「……だって、撃たれたって……」

「……打撲や内出血は酷かったけど、こいつを付けていると2,3日で治るんだとさ」

 

 縋りついて泣いていたシェリルだったが、怪我の影響でぎこちない動きをしながらも腕を上げて装着された解剖活性装置を見せながら説明するアルトの能天気な態度に肩を震わせる。

 

「――なによ! じゃあ、私ほんとうに慌て損じゃない!」

「……えっ、慌ててたのか?」

 

 理不尽な怒りを見せるシェリルに不思議そうに問い掛けるアルト。その言葉に自分が何を口走ったのか気付いたシェリルの顔が真っ赤になる。

 

「――うるさいわよ! アルトのくせに!」

 

 


 

 

 『マクロス・クォーター』艦長室

 

 『フロンティア』船団の進路上にあったバジュラの巣の殲滅作戦を終了し、『アイランド1』の係留施設へと戻った『クォーター』の艦長室では、艦長であるジェフリー・ワイルダー大佐と実働部隊の隊長であるオズマ・リー少佐が、スカル小隊に属するルカ・アンジェローニ准尉より先のバジュラの巣殲滅作戦の折に感知した未知の存在の現在判明しているデーターの報告を受ける傍ら、彼から最近判明した総合機械メーカー『L・A・I』技研の研究施設への外部からの不正アクセスの痕跡と謎の不審火というきな臭いモノも同時に報告された。

 

「……外部からのハッキング?」

「はい。巧妙に隠蔽されていましたが、ここ最近 複数回の外部からの不正アクセスの痕跡がありました」

「……天下の『L・A・I』にハッキングとは、中々剛毅なことだねぇ」

「……たまたま僕が使用していた端末に不自然なプログラムが走っている事に気付いて、そのプログラムの送信された元を探していたんですが、巧妙に隠されているばかりかプログラム自体も妙なプロトコルでも掛けてあるのか解析不能だったですし、気が付いたら消えているし……」

 

 苦労を思い出したのか肩を落としてため息をつくルカ。

 ルカ・アンジェローニは『S・M・S』スカル小隊に所属するパイロットであるが、コンピュータや軍用電子機器の扱いにかけては天才と呼ばれており、総合機械メーカーL.A.I技研の経営一族の子息である彼は技術開発部特別顧問の肩書きを持つ少年なのである。

 

「……『フロンティア』内に未知の勢力が存在するか」

「……あの二隻の戦艦級に率いられたバジュラの襲撃の時に出現した人型の兵器の存在、あれからどれだけ痕跡を探ってもまったく足取りが掴めないあの存在も未知の勢力が要する兵器なのかもしれないな」

「……あの時、『アイランド1』を守るような行動をしたからと言って、味方であるとは限らない」

「……彼らの思惑が何なのか、現時点では見当も付かんしな」

 

 密かに『マクロス・フロンティア』船団の中に入り込み、『フロンティア』防衛線において姿を現した人型の超兵器は重戦艦級バジュラの砲撃を消し去り、一撃で重戦艦級を撃破した高い攻撃力を持っていた。その後、件の人型兵器の痕跡は徹底的に捜索され、『アイランド1』の湾岸設備だけでなく全ての艦船のエアロックの開閉記録まで調べられたが、その行方はまったく分からなかった……そんな存在あるいは勢力が人知れず『フロンティア』内で蠢いているのだ。

 

「ルカ、相手は何の情報にアクセスしていたんだ?」

「……不正プログラムがアクセスしていたのは主にバジュラに関する件――その中でも11年前に起こった第117次大規模調査船団の壊滅に付いては重点的に調べていたようです」

「――なんだと!?」

 

 ルカの説明に過剰なまでに反応するオズマ……第117次大規模調査船団が壊滅した事は、彼にとってデリケートな案件であった。当時 新統合軍のパイロットとして第117次大規模調査船団の護衛任務に就いていたオズマはバジュラの襲撃を受けて調査船団が壊滅した事に忸怩たる思いを持っており、自分の力が足りないばかりに家族を失ったランカを引きって育てたのも悔恨からの面もあったのだろう――そんな調査船団の壊滅事件を未知の勢力が調べている。オズマの警戒感は一層増したのであった。

 

 


 

 

 『マクロス・クォーター』で未知の勢力に付いて真剣な討議がされている頃、件の勢力である翡翠とノノは、拠点としている『アイランド1』のサンフランシスコ・エリアのアパートにおいてテーブルを囲んで用意したコーヒーを飲んでいた……だが、そんな二人が語る話題は物騒な事この上なかった。

 

「……偵察用ドローンからの情報によれば、『ギャラクシー』からの難民に偽装した工作員は『フロンティア』各地に配置されて、後は蜂起するタイミングを待つだけだな」

「……その『ギャラクシー』の工作員達も『フロンティア』軍の監視下に置かれているけど、巧妙に偽装されて『ギャラクシー』の工作員達は気付いていない……昔話でいうキツネとタヌキの化かし合いだね」

「……『フロンティア』の指揮を執っているのは、行政府の首席補佐官か……中々のタヌキだね」

 

 周囲に浮かぶ投影型スクリーンに表示されている難民に偽装している『ギャラクシー』の機械化兵と、それをさりげなく尾行している変装した『フロンティア』の情報部の工作員達。どういう手段を使ったかは分からないが、『フロンティア』側は『ギャラクシー』側の動きを把握しているようだ。

 

「……でっ、今回はノノねぇはどうするんだ?」

「……私は……」

 

 翠眼に冷たい光を浮かべた翡翠がテーブルの反対側に座るノノに問い掛ける。異世界であるこの世界の人間同士の争いには不干渉というのが翡翠のスタンスである――だがノノは翡翠よりもこの船団に思い入れを持ち、この『フロンティア』船団がバジュラの襲撃を受けた時には助力すらしていた……だが、今回の案件である『ギャラクシー』と『フロンティア』の争いにはノノも逡巡しているようで、明朗快活な彼女にしては歯切れが悪い。

 

 元々ノノは、この世界はおろか翡翠達の世界とも違う地球で生み出された最終兵器だ。ノノたちの地球は宇宙に進出した直後に、未知の宇宙生物の襲撃を受けて先遣隊は全滅し、宇宙に潜む脅威を知った地球は持てる力を結集して、対宇宙怪獣戦を想定した巨大戦艦と選りすぐりのパイロットを集めて組織されたマシーン兵器部隊トップ部隊を編成して対抗しようとした。

 

 だが敵宇宙怪獣の力は想定を完全に上回り、対宇宙怪獣を想定して編成されたエクセリオン艦隊を壊滅寸前に追い込まれた時、未完成でありながらも敵宇宙怪獣の主力を撃破したバスターマシンの有効性が証明され、それ以降敵宇宙怪獣に対抗する為に次々と新しいバスターマシンが開発されていったという。

 

 そしてノノは、そのバスターマシンの一機である第六世代型恒星間航行決戦兵器『バスターマシン7号』としてロールアウトした――そう、彼女は敵宇宙怪獣の脅威から人類を守る為に生み出され、地球のある太陽系を敵宇宙怪獣から守る戦いを続けてきた……けっして人間同士の戦いの為に生み出された訳ではないのだ。

 

 


 

 

 避難民に偽装した『ギャラクシー』の工作員達は、『フロンティア』の各施設へと潜入して一斉蜂起のタイミングを計っていた――指揮を執るのは、銀河の妖精シェリル・ノームのマネージャーとして潜入しているグレイス・オコナーことグレイス・ゴドゥヌワ大佐。

 

 インプラントにより電脳空間にネットワークを構築している『ギャラクシー』の工作員達は、まるで一つの生物のように無駄なく統制された動きで『フロンティア』の主要施設を制圧する準備を行っていた……その行動を監視する偵察用ドローンの存在に気付かずに。

 

 

 『アイランド1』に置かれた軍事病院の建物を夕暮れの光を再現したオレンジ色の輝きが照らす。その屋上には車椅子に座った早乙女アルトと車椅子を押すシェリルの姿があった。車椅子を押しながらシェリルはずっと何かを考えこんでいた……アルトに何故空を飛びたいのかと問い掛ければ、お前こそなんで歌を歌っているのかと問い返されたシェリルは答える。

 

 彼女は、最初は生きる為に歌って、それが何時しかステージという舞台の高揚感に酔い、観客達の熱狂と共に絶頂を迎える。

 

「……私はステージ、舞台っていう魔物に捕らわれた虜……でも、後悔なんてしてない。それほど魅力的だもの、あの場所は」

 

 夕焼けを見ながら心情を吐露するシェリルを見つめるアルト。

 銀河歌舞伎の名門早乙女家に生まれ、幼い頃から厳しい修行をへて稀代の女形として舞台に立った事があるアルトは、シェリルの言う舞台という名の魔物に魅了される感覚を理解して共感する……彼もまた舞台に立った者だから。

 

「……ねえ、アルト。もう飛ぶのは止めて」

 

 空への憧れを知っている筈のシェリルから出た言葉に驚くアルト。そんな彼に縋りつくように膝を折ったシェリルは懇願するかのように言葉を続ける……パイロットは多いが、早乙女アルトは一人しかいないのだから、と。それは彼の身を案じた一人の女性としての言葉であった、それが本心から出ている事を悟ったが故にアルトは気軽に返事は出来ない。

 

 これほど真摯に気持ちを向けられた事がないと思っているアルトは、言葉を返すことが出来ない――そんな二人が居る病院の屋上に、アルトが負傷した事を知ったランカが姿を現し、タイミングの悪い事に真摯にアルトに気持ちを伝えるシェリルの姿を目撃してしまう。

 

「――アルト君……あっ……」

 

 アルトに縋りついて瞳に涙を浮かべるシェリルの姿に、ランカは言葉を失って、ただ立ちすくんだ。

 

 


 

 

 夕暮れの市街地に設置された大型のスクリーンに浮かぶのはシェリル・ノームの姿。道行く人々は彼女の曲の宣伝か何かかと思い、視線を向ける……それは『フロンティア』に潜入した『ギャラクシー』首脳陣の皮肉――銀河の妖精の歌と共に主要施設に潜入した『ギャラクシー』の工作員への一斉蜂起の合図であった。

 

 主要な施設に潜り込み、熱核反応炉の制御室へと近づいた工作員が中にいる作業員を排除しようとした時、その後ろから音もなく近づいてきた何者かの銃撃を受けて倒れ、交通制御室を占拠しようとした工作員は職員に扮していた者達より銃撃を受けて絶命し、行政府ビルを占拠しようとした工作員は待ち構えていた兵士により大量の銃弾を浴びせられる。

 

『……グレイス大佐……うぐっ……なぜ……』

 

 次々と接続が途切れる工作員達の現状に異変が起こっている事を悟ったグレイスは、ネットワークの回線を調整して現在起こっている状況を把握しようとするが、次々に回線は切断されて行って遂には殆どのインプラント・ネットワークが切断されてしまう。

 

 ――そして気が付くと、自分の周りにも重武装の『フロンティア』兵が展開して完全に包囲されている事に気付く。多数に無勢のこの状況に、自分達の計画が把握されていた事を理解したグレイスは両手を上げるが、『フロンティア』兵は構わず銃撃して大量の弾丸を受けた彼女は衝撃によりビルの屋上から落下した。

 

 


 

 

 夕焼けの光に照らされた軍事病院の屋上でアルトとシェリルを前にしたランカは、その場の雰囲気に耐えられずに「……ごめんなさい」と謝罪の言葉を口にすると、その場から逃げ出すように駆け出したが、動揺が激しかったのか小さなでっぱりに足を取られて転倒してしまう。

 

 そんなランカの姿を見たアルトは車椅子を操作してランカの傍へと向かうが、他に誰もいない筈の屋上に拍手が聞こえて訝しんだアルトは車椅子を止めると周囲を見回す……すると屋上への入口より軍服を着た一人の男性が姿を現す――その男性は『フロンティア』行政府の大統領首席補佐官であるレオン・三島であった。

 

「――いやいや、これは見事なトライアングルだ。出来ればもう少し見届けたかったが、そうもいかないのでね」

 

 三人の関係を揶揄したレオンが合図を送ると、屋上への出入り口より武装した兵士達が姿を現して、アルトとランカ、そしてシェリルへと銃を突き付ける。

 

「シェリル・ノーム! 君をスパイ容疑ならびに機密保持法違反、騒乱準備罪等、計12の違反容疑で逮捕する」

 

 

 大量の銃弾を浴びせられたばかりか、アンカーフックに仕込まれた電磁パルスで埋め込まれたインプラントの機能を阻害されたグレイスはビルの外壁にたたきつけられてボロボロの様相になっていた。そんな彼女を包囲するEX-ギアを装備した『フロンティア』兵の監視の下で、どうして計画が漏れたのかと疑問を口にするグレイスの傍でホロスクリーンが展開してレオン・三島の姿が映し出される。

 

『……フォールド・クォーツのテクノロジィ―は、貴方達だけのモノではないという事ですよ。今や我々はフォールド波を増幅するも、封じるも思いのまま……ごらんなさい』

 

 映像が切り替わり、避難民を乗せてきたはずの『ギャラクシー』からの難民船が新統合軍のVF―171の大群に包囲されている映像が映し出される。

 

『……残念でしたね、グレイス・ゴドゥヌワ大佐……いや。第117次調査隊主任研究員の一人、ドクター・ゴドゥヌワ』

 

 それは、調べは完全に済んでいるというレオンの勝利宣言であった。勝ち誇ったレオンは拘束されて探知機で調べられているシェリルの下へと向かうと皮肉気に口元を上げる。

 

「ほう、よくお似合いだ」

「――待てよ、証拠は有るのかよ!? ソイツがスパイだっていう!」

 

 親交があり、バジュラの襲撃時には命をかけて歌を届けたシェリルの姿を見たアルトは、彼女がスパイであると信じられない。だが、丁度探知機が反応して、女性士官がシェリルの髪をかき分けて耳に付けられたイヤリングを発見する。

 

「……補佐官。やはりフォールド・クォーツが」

「……思った通りだ。歌声をこのクォーツで増幅して、バジュラどもをこの『フロンティア』におびき寄せていたとはな」

「……うそだろ、シェリル!」

 

 レオンの推察を聞いても信じられないアルトは、シェリルに問い掛けるが、彼女は顔を背けて目を合わせない……そんなシェリルの前にレオン・三島が立つ。

 

「――明日のニュースが楽しみですな、銀河の妖精改め、偽りの歌姫どの」

 

 

 翌朝、『フロンティア』船団に衝撃が走った――銀河の妖精と名高いシェリル・ノームがスパイ罪で拘束されたというのだ。その衝撃は大変大きなモノで、誰もがそのニュースを聞いて信じられない思いでテレビを見ている中で、政府の公式発表があり第四代大統領ハワード・グラスの会見が始まり、戦時特例法に基いてシェリル・ノームに裁判無しの即時死刑判決が下された事が伝えられた。

 

 

 シェリル・ノームがスパイであり、彼女の歌によってバジュラがこの『フロンティア』に誘導されたという発表は、バジュラの襲撃の中で彼女の歌に勇気づけられた人々に衝撃を与え、誰もが不安の中に立たされた……そして一際大きな衝撃を受けたのは、彼女と親交があり、バジュラとの戦いの中で命がけで歌うシェリルの姿を見たアルトだった。

 

 観客席から横浜エリアの会場に設置されたコンビナート風のステージを前にしたアルトの手にはシェリルから託された思いを伝える石の付いたイヤリングが握られていた……彼女と過ごした時間が、楽しそうに笑う姿が全て偽りだったとは、このイヤリングに付いた石――フォールド・クォーツによってバジュラ達をこの『フロンティア』に招き寄せていたなんて、これまでの戦いで犠牲になった人々はシェリルの所為で死んだようなものではないか。

 

 振りかぶって手の中に有るイヤリングを投げ捨てようとするアルトだったが、どうしても捨てられなかった……舞台に真剣に向き合い、歌を歌う事に命を懸けていたシェリルの姿が、どうしても偽りには見えなかったから……そんな葛藤するアルトの姿を物陰から見ていたランカはある決意をするのだった。

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 フロンティアを制圧しようとしたギャラクシーの工作員達は、行動を読んでいたフロンティア軍によって排除されました……やるなキノコ。

 では次回 第21話 Porcupine in the fog 五里霧中なヤマアラシ 7/16 0時更新予定です。ではでは~。
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