マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
サヨナラノツバサ編
銀河の妖精と名高い歌手 シェリル・ノームがスパイ容疑で拘束され、『マクロス・ギャラクシー』船団の指示の下にこの『フロンティア』船団で騒乱を起こそうとしていたとして、死刑判決が下されたというニュースは『フロンティア』市民に衝撃を与えた。
謎の宇宙生物バジュラの襲撃によって多大な被害を受けた大型都市型移民船『アイランド1』内では動揺が広まり、高い人気を持つシェリルの拘束だけでなく、同胞である『ギャラクシー』の悪意ある行為にショックを受ける市民も多かった。
半世紀以上前に起こったゼントラーディとの第一次星間戦争において人類は滅亡寸前にまで追い込まれ、様々な要因が好意的に働いて奇跡的にゼントラーディ基幹艦隊との戦いに勝利出来た地球人類だったが、地球を襲ったゼントラーディの基幹艦隊と同規模の艦隊が無数に存在する事を知った地球人類は、星間戦争の再発に備えて全宇宙への種の保存・拡散を目的とした「銀河播種計画」を立案し、多数の移民船を建造した人類は居住可能な惑星を求めて銀河系内へと旅立ち、多くの長距離移民船団が居住可能惑星を求めて航海を続けている……その航海は過酷で、時には移民船団同士が助け合う時もあった――なのに『ギャラクシー』船団の行った悪意ある行為は、移民船団同士の信頼を損なう行為であり、もはや彼らを同胞とは思えなくなっていた。
『マクロス・フロンティア』船団の中心である都市型大型移民船『アイランド1』は、襲い来るバジュラに対抗する為に巨大な船体の各所に巨大なシステムを設置していた。それは金属で出来た花の様なパラボラと紫色の光を放つシリンダーの様な物で構成された一種の発振器であった。
荷台に発振器を搭載した軍事車両が複数市街地に展開して、市街地は正しく戦地へと変貌して物々しい雰囲気が広がり、市民の間に不安と戦争に巻き込まれるかもしれないという恐怖が伝播する。
サンフランシスコ・エリアにある翡翠達が拠点としているアパートの中で、偵察型ドローンから送られて来る映像を翡翠とノノは難しい顔で見ていた。
『フロンティア』船団の乗っ取りを画策した『ギャラクシー』の工作員の裏をかいて、主要施設を制圧しようとした彼らを鎮圧した新統合軍は、障害が取り除かれたとばかりに対バジュラ作戦の準備を大規模に進め始めており、バジュラの攻撃が集中した『アイランド1』を重点的に守るべく巨大移民船の内外にパラボラ型のフォールド波ジャミング装置を急ピッチで設置し始めていた。
「……この動きって」
「……この『アイランド1』を餌に、バジュラを釣り上げる気なんだろうな」
中々剛毅なキノコだ、と『フロンティア』大統領の首席補佐官の特徴的な髪形を揶揄しつつ『フロンティア』の思惑を推察する……あの懐かしの巨大廃棄艦周辺宙域において繰り広げられたバジュラの巣殲滅作戦の終盤、要塞級バジュラの断末魔として放たれた指向性のフォールド波が向けられた先――そこに奴ら甲虫どもの母星ともいえる物があるのだろう。それを知ったキノコ率いる『フロンティア』は、甲虫どものフォールド・ネットワークをジャミングするシステムを『アイランド1』全域に展開して、『アイランド1』を一個の巨大パラボラ・アンテナに見立てて一気の甲虫どもをジャミングして混乱させた隙を突いて殲滅する腹つもりなのだろう。
「……変な髪形の癖に、やるじゃないかあのキノコ」
「……いや、髪形は関係ないから。それよりもこのまま『フロンティア』がバジュラ達の母星へと攻め込む来なら、ジャミング・システムだけじゃ心もとない筈……」
あの首席補佐官の髪型が気に入ったのか、事あるごとに話題に挙げる翡翠の悪癖に突っ込みをいれながらも、着々とバジュラの母星への侵攻準備を整える『フロンティア』の行動を危惧するノノ。『フロンティア』行政府や新統合軍もけっしてバカではない、強大なバジュラの母星へ攻め込むのならもう一つ位は切り札が欲しいはず……バジュラの巣の殲滅作戦の時、戦場に響いたランカのフォールド波に乗った歌声、彼女の歌は確実にバジュラ達に届いた。
ランカの歌にバジュラ達が反応した姿を多くの者が目撃し、その有効性を認識した者は多い筈……軍は、政府は確実にランカを確保しようと動くだろう。
これから先の展開を想像したノノが深いため息をついた時、ランカの護衛に配置していた市街地戦用ドローンによりシグナルが入り、送られてきた報告の内容に目を通した翡翠とノノは揃って目を丸くした。
「――アルカトラズ!? なんでランカはそんな所に?」
「……確か、そこには収監されたシェリル・ノームがいる筈……何をする気なんだろう、ランカねぇちゃん」
『アイランド・アルカトラズ』――巨大都市型移民艦である『アイランド1』に接続されている環境艦であり、もともとは観光目的の環境艦であったが、のちにゼントラーディも収容可能な刑務所のある艦に改造されたという経緯を持つ。
そんな一般人は忌避感を持つような場所にランカが向かっているらしい……ランカ・リーが『アイランド1』を離れるような時には優先して報告を行うように設定したおかげで彼女の行動を把握することが出来たが、何故そんな場所に向かうのか? 恐らくは収監されているであろうシェリル・ノームへの面会が目的とは思うが。
軍事病院の屋上でシェリル・ノームが拘束された現場を目撃したランカは、かなりショックを受けていたようで暫くふさぎ込んでいたようだが、突然何を思ったのか『アルカトラズ』へと向かったらしい……元々は観光を売りとしていた環境艦故に艦内は海が広がっており、その海の中に浮かぶ孤島に『アルカトラズ』刑務所はあるようだ……刑務所内の警備システムは例の節操のない『L・A・I』製なので、電脳世界からたやすく侵入出来た。
サンフランシスコ・エリアにある拠点アパートのリビングで、翡翠とノノは投影型スクリーンに映る刑務所の映像を固唾を飲んで見守っていた……普段の行動からアルトに好意を持っている事がバレバレのランカが面会室の席に座って相手が来るのを待っている……彼女が座って暫くしてから面会相手が来たようだ。
囚人服を来た少しやつれて髪の艶も落ちたシェリルが監視官に伴われて壁に仕切られた反対側の面会席に座ったが、相手がランカだと分かると激しい拒否反応を示して席を立つが、そこにランカの声が響いた。
『逃げるんですか! アルト君……傷ついてます。シェリルさんに裏切られたって、ファンの人達も……』
『――勝手に夢みないでよ! 私は銀河の妖精でも何でもない、ただの安っぽい人間なのよ!』
ランカとシェリル――二人の少女が向き合い、己が心情を吐露する場面をみた翡翠とノノは無言のままウィンドウを閉じる。不器用な人間たちがぶつかり合って、傷つけあいながらも己の素直な心情を伝える群像劇。
二人にとってシェリル・ノームとは、この『フロンティア』船団に来艦した銀河の妖精と言われるトップシンガーで、その彼女の周囲に存在する別の船団『ギャラクシー』の機械化兵を感知して、『ギャラクシー』の
「……どうにかできないかな」
「……難しいな。シェリル・ノームにバジュラを誘引するだけの能力はない。それは『フロンティア』の政府も分かっているが、『ギャラクシー』の手先となってバジュラを呼び寄せたと発表する事で、バジュラの犠牲になった人々の家族の怒りを向けようとしている」
シェリル・ノームに目を向けさせている間に、『フロンティア』はバジュラから市民を守るというお題目でジャミング装置を各所に設置して、バジュラの母星へと攻め込もうとしている。
「……ままならないものだな」
不機嫌そうな顔でそう呟いた翡翠……言わばシェリルも強大な行政府に翻弄されている一人という事なのだろう……気に入らないが、現状で彼女を無理やり確保しても彼女の汚名はそのままだ……それでは意味がなかった。
巨大都市型移民艦『アイランド1』の表層に広がる市街地は夜の時間となり、防護シェルに映し出される映像も切られて市街地は闇に覆われ、ビルの明かりと時折通りかかるケーブルカーのライトなどに照らされた市街地は普段とは違う別の町のような印象を与える。
そんな『アイランド1』の市街地をランカはアパートへと続く道を肩を落としながら歩いていた。シェリル・ノームがスパイ容疑で拘束された現場にいたアルトは、彼女がスパイだったという事実に激しいショックを受けて、同じように現場に居てショックを受けているランカだったが、アルトがショックを受けている姿を見て心を痛め、何か出来る事はないかと考えた彼女は、『アイランド・アルカトラズ』にある刑務所に赴いて収監されているシェリルに会いに行ったのだ。
会った所で何かが変わる訳でないが、それでも何かしなければいけないと思ったランカだったが、シェリルに有った所で何かが出来る訳でもなく、街の明かりや街灯に照らされたサンフランシスコ・エリアの道を暗い顔をして歩いていたランカだったが、彼女の後ろに人影が飛び降りると彼女の口を塞いでそのままビルの隙間へと連れ込んでいく。突然口を塞がれて暗闇へと連れ込まれたランカは激しく抵抗し、彼女を監視していた市街地戦仕様のドローンが光学迷彩を解除しながら戦闘態勢に移行する寸前、停止信号を受信して戦闘態勢を解除するとそのまま監視体制へと移行する。
「……心配ない、ランカ・リー」
「……ブレラさん?」
口を押えていた手を外してランカの正面に立った不審者は、安心させるように努めて優しく語りかけて、その声に聞き覚えを感じたランカが恐る恐る視線を不審者に向けると、シェリルの護衛として何度か顔を合わせたブレラ・スターンであると認識して驚きの声を上げた。
シェリル・ノームがスパイ容疑で拘束された時に、『ギャラクシー』より同行していたスタッフも軒並み拘束されたと聞いていたので、彼-ブレラも拘束されたモノだと思っていたが、一体何の為に自分に接触してきたのだろうか? 訝し気に彼を見るランカは、彼の動きがいつもより緩慢であるように感じ、服の破れ目から彼のお腹の辺りから電子機械が見えて息をのむ。
「……君に、どうしても言っておかねばならない事がある」
恐らく、あの時にシェリルを捕まえに来た軍隊から逃げ来てたのだろうと考えたランカはブレラが苦しそうに呻いて、壁にもたれかかりながらズルズルと地面に座り込む姿を心配そうに見ていた。
「……『フロンティア』はバジュラを滅ぼし、その資源を略奪しようとしている。君の歌を兵器として使う事で」
ブレラの言葉に驚くランカ。この『フロンティア』がそんなひどい事をしようとしている事にも驚いたが、何故そこに自分の歌が関わって来るのか、と。
「……君はシェリルに代わってバシュラとコンタクトが取れる唯一の存在だ」
「……どうして」
「……シェリルはまもなく死ぬ。たとえ死刑にならなくても、V型感染症に侵された声帯を除去しないかぎり」
アルカトラズ刑務所での面会の折に、達観したような表情を浮かべたシェリルから告げられた「……私はもうすぐ死ぬんだから」という言葉の意味を理解したランカは言葉を詰まらせる。
「しかし君は――バジュラを研究していたランシェ・メイの母胎内で感染した君は、フォールド細菌に生まれながらの免疫を持っている……そして、バジュラをコントロールする力を」
「……そんな事」
遠くから警察車両のサイレンの音が近づいて来るのを感じたブレラは、時間があまり残されていない事を感じて、ランカへと顔を向けると目を覆っていたサングラスを外す。
「――俺はお前の兄だ。歌の力は自分の意思でしか発現しない。だからお前が自分で記憶を取り戻すまで待つつもりだったが」
突然兄だと告げられて戸惑いを隠せないランカに、ブレラの皮を被った“何か”は告げる。
「11年前、ガリア4でバジュラに襲われて死にかけた俺は、『ギャラクシー』に救出された……そしてランカ、お前ともう一度会う日が来ると信じて、生き延びて来たんだ」
インプラントで強化されたブレラの耳に熱核ジェットの推進音が聞こえる――ブレラを拘束しに来た軍の特殊部隊が使用する装甲強化型EX-ギアが近づいてきている証拠だ。ランカとの話を切り上げたブレラは通りに出ると、彼を発見して攻撃してくる特殊部隊と銃撃戦を繰り広げながら逃走を試みるが、装甲強化型EX-ギアより放たれたインプラントを阻害する銛を撃ち込まれた衝撃で転倒する。
電撃を放って体内のインプラントの働きを阻害する銛を撃ち込まれながらも体を起こそうとするブレラを建物の傍から見たランカの脳裏に、いつか見た光景が蘇る――どこまでも続く草原に座る優しいまなざしの女性と、にこやかに笑う金の髪を持つ少年。必死の表情で自分を脱出ポットへと誘導し、赤いバジュラによって破壊される別の脱出艇の無残な姿。
口の端から血を流しながらも立ち上がったブレラは、インプラントを阻害する銛を抜くとそのまま踵を返して跳躍して視界から消え、それを追いかける特殊部隊の兵士達も姿が見えなくなり、ただ一人その場に残されたランカは、座り込みながら ぽつりと呟いた。
「……お兄ちゃん」
『フロンティア』内にただ一人残った『ギャラクシー』の工作員であるブレラ・スターンを拘束もしくは排除する為に、『フロンティア』軍は大規模な部隊を動かしてブレラを追い詰めていた。夜空には探知装置を備えたヘリが上空からブレラの位置を把握し、地上には警察組織の応援により包囲網を作り、
インプラントを阻害する銛を受けて倒れ込んだブレラに慎重に近づく装甲強化型EX-ギアをまとった兵士たちは、持っている自動小銃の照準をブレラに向ける……これまでも散々逃げ失せた相手故に、捕獲ではなく確実に排除する方法へと移行した彼らの指が引き金を絞る――前に、ブレラと装甲強化型EX-ギアの間に光が溢れ、その光が収まった時にはそこに小さな人影が存在していた。
ウルフカットの栗色の髪を肩まで伸ばし、整った顔立ちをしているがその翠眼は冷たい光を湛えたローティーンの少女。だが特殊部隊ゆえに過酷な訓練を施された兵士たちは、不測の事態に陥っても動揺せずに、機械的に自動小銃の照準を突然現れた少女の眉間へと向けて発砲――しかし放たれた銃弾は少女の手前で何かに阻まれたかのように弾かれる。
相手は携帯式のシールド装置を用意していると判断した装甲強化型EX-ギア兵は即座に威力の大きいグレネードを用意して攻撃しようとするが、その前に少女は右手を水平に上げると“何か”が放たれて、目の前にいた装甲強化型EX-ギア兵たちは吹き飛ばされて、倒れ伏した兵士たちのEX―ギアのエネルギー数値がゼロになっている事に気付いて驚愕の表情を浮かべる……作戦に従事する前に燃料は満タンになっていたというのに、何故いま数値がゼロになるのか理解できなかった。
「――これ以上、あの子に重みを背負わすな」
倒れ伏して身動き一つ取れない装甲強化型EX-ギア兵たちに向けてそう吐き捨てた後、少女は翠眼をブレラの皮を被った何かに向ける。
「お前たちも夢を見るのは勝手だが、これ以上あの子に干渉するなら、潰すぞ」
どうも、しながい小説書きのSOULです。
話の中で翡翠がシェリルにバジュラを誘引するほどの力がないと断言した理由、いくらフォールドクォーツでシェリルの歌に含まれているフォールド波が増幅されたとしても、フロンティア来艦当初のシェリルはV型感染症に侵されているが、フォールド細菌は喉におり、それほど強力なフォールド波は出せないであろうことと、シェリルの歌がバジュラに届き始めたのはフロンティア防衛線からであり、それほど時間が経っておらず影響はほとんどなかったと考えているためです。
そして何があっても良いように戦う力を整えてきた翡翠ですが、ふたを開ければ直接的な戦力ではどうにもできない情報と言う名の暴力……いくら超常的な力を持つとはいえ、たった二人では何もできないジレンマに苛立った翡翠は直接的に干渉を始めました。
では、次回 第23話 frenzy Live 熱狂ライブ 7/19 0時更新予定です。ではでは~。