マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
サヨナラノツバサ編
軍隊に追われた『ギャラクシー』の工作員ブレラ・スターンから衝撃の事実――『フロンティア』がバジュラの母星に攻め込む準備をしていると聞いたランカ・リーは、自分の歌がバジュラへの兵器として使われようとしている事に激しい動揺を覚える。
歌はそんな事の為にあるんじゃない、自分はそんな事の為に歌ったんじゃない。心の中で何度も叫んだが、現実はなにも変わらず、過酷な現実の前に圧し潰されそうになったランカが頼ったのは、義兄であるオズマだった。
『S・M・S』旗艦『マクロス・クォーター』
ランカから連絡を受けたオズマは即座に彼女の下へと駆け付けて、彼の知る中でもっとも安全な場所である『S・M・S』旗艦である可変攻撃宇宙空母『マクロス・クォーター』へと彼女を連れて来て保護した。セキュリティ・レベルの高い戦闘艦である『クォーター』の中なら滅多な事はないし、ここなら気心の知れた頼れる仲間達がいるから。
ようやく安全で落ち着ける場所に来れて安心したのか、思いつめた顔をしていたランカの表情が少し和らいて、オズマは携帯端末から途切れ途切れに聞いた話の内容を、ランカを気遣いながら辛抱強く聞き出して、その内容に顔を顰める――バジュラの脅威にさらされている『フロンティア』が逆にバジュラを滅ぼして、その資源を独占する計画を立てている――しかもバジュラに対する兵器として、最愛の妹ランカの歌を持ってバジュラどもをコントロールしようというのだ。
一体何をトチ狂ったら、そんな馬鹿な計画を立てられるというのだろうか? バジュラの群れに襲われている現状、生き残る為に敵であるバジュラを殲滅するというのも一つの手段だろう……だがバジュラの資源を回収するという計画……あれだけの戦闘力を持つバジュラの群れを相手にして『フロンティア』が無事でいられる保証はない。
だからこそランカの歌を利用してバジュラをコントロールする計画なのかもしれない。あれほどの戦闘能力を持つバジュラを本当にコントロール出来るのなら、それは大きな力になる。
ランカの実兄を名乗ったブレラの語った事――シェリル・ノームがV型感染症に罹って命の危機にあり、母親の胎内で感染したランカはV型感染症を引き起こすフォールド細菌に対して免疫を持つという……もし、それが本当ならランカの価値は計り知れない物となる。
まずは本当にランカがフォールド細菌を保菌しているのかを確かめる為に、オズマは彼女を伴って『クォーター』の医療施設へと向かう――戦闘艦である『クォーター』の艦内には高度な医療施設があり、戦闘で負傷した兵士を治療するだけでなく、本格的な手術設備も備えている。そんな医療施設に詰めているのは、医師免許を持っており平時には衛生兵として勤務しているオズマの同僚カナリア・ベルシュタイン中尉。
「……おや、オズマじゃないか。ルカの容態を聞きに来たのか?」
「……いや、別件だ」
酸素マスクを装着したルカ・アンジェローニの容態を見ていたカナリアは、ランカを連れてやってきたオズマに医務室への来訪の目的を聞くと、真剣な表情を浮かべたオズマはランカから聞いた一連の出来事に付いて手短に説明してランカの精密検査をするように頼む――これまでにもランカは健康診断などは受けた事はあるが精密検査は経験がなく、今回は特にランカの体内に本当にフォールド細菌が存在するのかを確かめようというのだ……精密検査の結果、確かにランカの身体の中にフォールド細菌の存在が確認されたのだ。
「……本当にいたのか」
「……ああ。まちがいなく、ランカの身体にはフォールド細菌が確認されたよ」
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『マクロス・クォーター』ブリッジ
『クォーター』の頭脳ともいえる艦橋で艦長であるジェフリー・ワイルダー大佐は、オズマより逃走中のブレラ・スターンから語られたという『フロンティア』軍のたくらみをランカの検査結果と共に説明されて、『フロンティア』が危険な道に向かおうとしており、そこにスカル小隊の隊長でもあるオズマ少佐の妹であるランカ嬢が絡んでくると言う。
『フロンティア』が危険な道に進もうとしている事は、別の案件からも把握していた――スカル小隊に所属しながら総合機械メーカー『L・A・I』技研にも籍を置くルカ・アンジェローニは、『フロンティア』大統領首席補佐官であるレオン・三島のたくらみを察知したが、レオンの婚約者であり彼の姉であるジュリアの身を害するような事を仄めかされ、また表立って彼の計画に反対の立場を取った事により身の危険を感じたルカは、『S・M・S』の同僚に相談して、三島のたくらみを利用する方法を考えた。
『アイランド1』の外殻にフォールド・ジャミング装置を設置する作業の中で起きたルカを事故死に見せかけて謀殺する三島の計画――命綱であり酸素を供給するチューブを切断されて宇宙空間に放り出されたルカを待機していたミハエルが確保し、彼を始末したと三島が油断している隙にルカの姉ジュリアを保護する作戦は成功して、ルカたち姉弟の身柄は『S・M・S』が保護したのだ。
「ご苦労だったルカ。君のお姉さんは、我々『S・M・S』が責任を持って保護しよう」
体を張ってレオン・三島の油断を誘ったルカに、ねぎらいの言葉と彼の望みでもある姉ジュリアの保護を約束したシェフリー艦長は、視線をオズマと彼の妹であるランカへと向ける。ランカ嬢の話では、深夜に彼女に接触してきた『ギャラクシー』の工作員であるブレラ・スターンが語った事柄――『フロンティア』がバジュラを殲滅してその資源を独占しようとしており、その為の兵器としてランカ嬢の“歌”を軍事利用しようとしているという。
何故ランカ嬢の“歌”がバジュラに対して有効な兵器となりえるのかに付いてもブレラは語っており、その説明の信憑性を確かめる為に、『クォーター』の医療を担当するカタリナ・ベルシュタインより説明がなされる。
「どうやらブレラの説明は本当らしい、これがランカの検査結果だ。ブレラが言ったように、ランカの体内からフォールド細菌が発見された」
表示されたランカの検査結果にはランカの体内――特に小腸の部分に微細な細菌が繁殖している事が表示されている。それを見たルカが驚きの声を上げ、バジュラの体内に生息するフォールド細菌も主に小腸にあたる部分に多く繁殖して、それが超空間ネットワークを形成して、互いに交信し合っているようだという。
「……なるほど、ランカの体内の細菌も本人の歌や強い感情に反応してフォールド波を発信している」
検査を担当したカタリナが得心したように頷き、話を聞いていたランカは自分の中にフォールド細菌と呼ばれるモノが存在し、そしてソレはあのバジュラたちの体内にも存在してフォールド波を発して超空間ネットワークを形成しているという話を聞いて、自分の中のフォールド細菌によってバジュラたちの超空間ネットワークを感じ取れているのではないかと考える……あの『フロンティア』に襲来したバジュラに捕らわれた時に感じた不思議な感覚……優しく迎え入れてくれているような、暖かな感覚を思い出したランカは以前から考えていた事を口にしてみる。
「……だから私も感じるんだと思うんです、バジュラたちの気持ちをお腹に……」
「――バジュラの気持ち!? ランカ、奴らにはほとんど脳が無いんだぞ」
『L・A・I』のラボでバジュラの死骸を見た事があるオズマが、その際に同行していたレオン・三島から説明されたバジュラの生物としての構造を思い出しながら否定するが、そんなオズマをカナリアとクランが異論をはさむ――心の内臓起源仮説。心が脳ばかりでなく、消化器官や内臓からも生じているという仮説もあるという形で。
「……バジュラは、もしかしたら自分たちの同じお腹でフォールド波を発するランカさんを仲間だと思ったのかもしれません」
「――まさか! バジュラは、ランカちゃんを……得体のしれない人間から救出しようとして……」
これまで『フロンティア』を襲撃したバジュラは、人間に対して情け容赦ない攻撃を加えてきたが、その中でただ一人 ランカだけは捕獲して連れ去ろうとしたのだ。なぜ彼女だけ殺されずに連れ去ろうとしたのか? その答えが、ランカの放つフォールド波を感じたバジュラが彼女を仲間と感じて、得体のしれない生命体に囲まれた彼女を救い出そうとしていたのではないかと言う仮説。
そして人類の多くは、バジュラが知性を持たない宇宙の怪物であるとして殲滅を望む……異なる容姿や思考を持つモノが出会い、偏見ゆえに相互理解の努力を怠り、誤解から殺し合いへと発展する……そんな悲劇的な接触を回避しようと、人類は宇宙に進出する前に幾つかの取り決めを行った。
「だけどバジュラが、心や感情を持つ知性体だとすれば、三島がやろうとしている事は――銀河条約違反……」
レオン・三島のやろうとしている事は、そんな先人たちの願いを踏み躙る行為だ。有史以来、人類が一つの惑星に住んでいた頃より、異なる文明-生活様式を持つというだけで人間同士は争っていた。未知を求めて未踏の海原に乗り出した大航海時代においても、人類は異なる文化様式を持つ同族を滅ぼすような事をして、その反省から銀河条約を制定して侵略行為を禁じたのだ。
共有すべき情報は出尽くしたと考えたシェフリー艦長が艦長席から立ちあがると、ブリッジに集まったクルー達の顔に緊張が走る。
「さて、諸君。今我々は人類とバジュラの命運を左右する重大な局面に居る。バジュラとのコミュニケーションの可能性を探る為にも、我々のクライアントであるシェリル・ノームを救出しようと思う。シェリルとの護衛契約は破棄されていないうえに、残金も受け取っていない」
シェリル・ノームがスパイである疑惑は『フロンティア』政府が彼女を拘束した事により確実となった。だが彼女がバジュラに襲われた『マクロス・ギャラクシー』船団の救出を『S・M・S』に依頼し、バジュラが『フロンティア』船団の前に現れて襲い掛かってきた時には、逃げ惑う市民へと命がけでライブを中継して人々を勇気付けた……戦士と歌手、担うモノは違うが戦場で同じ目的―『フロンティア』の市民を守る為に命を懸けた彼女は、戦友と言っても過言ではないだろう――そしてランカ・リーの歌がバジュラに対して有効なのは証明され、そこへシェリルの歌声が加われば効果はより深まるのではないかという計算もある。
問題があるとすれば、この行動は『フロンティア』政府――レオン・三島達から見れば反逆行為と見做されるだろうか……だが侵略行為を行おうとしている彼らに同調する事など出来ない。
「……勿論、人類同士の戦いにさえ参加している我々が、こんな大義名分で動くなど、ただの偽善なのかもしれない……それでも、ついてきてくれるか?」
ジェフリー艦長の言葉に、『マクロス・クォーター』のブリッジにいる全ての者が頷いた。
その日、『アイランド・アスカトラズ』に浮かぶ孤島に建設されたアルカトラズ刑務所の中は熱狂に包まれていた。夜の時間を迎えた刑務所内のグラウンドに集まった受刑者達は、急ピッチでグラウンドに設置された櫓の上にある舞台を見上げながら、今か今かと待ちわびていた。
そんな熱気渦巻く受刑者(観客)達の視線が集中する舞台の中央部分がせり上がって、フリルをふんだんに使ったステージ衣装に身を包んだランカが姿を現した。
「――アルカトラズのみなさん今晩は、ランカ・リーです――今夜は所長さんのご厚意で、私の慰問ライブをやっちゃいます!」
シェリルへの面会の帰り道、『フロンティア』軍に追われているブレラが接触してきて、彼が語ったこの『フロンティア』船団の真意――『フロンティア』はバジュラを滅ぼして、彼らの体内にあるフォールド・クォーツの独占を目論んでいる事、その為にバジュラたちの繋がりである超空間ネットワークに干渉出来るランカの身柄を確保しようとしているという。
それを知った『S・M・S』旗艦『マクロス・クォーター』艦長ジェフリー・ワイルダー大佐は、バジュラの襲撃時に共に命を懸けたシェリルの救出作戦を行う事を決定し――その際、ランカよりシェリルが収監されているアルカトラズ刑務所に潜入する為の妙案が示された……シェリルとの面会に向かった時に刑務所内での待遇が妙に丁重であり、刑務官や刑務所長が妙に愛想が良かったのだ。
ランカを前面に押し出して、アルカトラズ刑務所内の受刑者達への慰問としてライブを行いたいと、機材や人材の搬入を認めさせる代わりにさながらファンとの交流会のように、様々な人々と握手をして大量のサイン色紙を書いた結果、この慰問ライブの開催へと結びついたのだ。
「――みんな抱きしめて、銀河の果てまで!」
最近のランカ・リーの決めセリフと共に軽快な音楽が鳴り響いて、ライブの開始を告げる――音楽に乗って楽しそうに踊るランカの後ろには音楽を奏でるバンドと、長い黒髪を持つたった一人のバックダンサーが居た……が、その顔はどこかで見たような顔をしていた。
ランカの後ろでギターを奏でるのは、眼鏡をかけたイケメンの男性と長く青い髪を二つに分けた少女、その後方のドラムには大柄な女性がスティックで力強く演奏しており、黒地に白いフリルを付けたゴシックな服を来た青みかかった黒髪を下した一見女性の様なダンサーが舞い踊っていた。
サンフランシスコ・エリア ノノと翡翠の自宅
ランカがアルカトラズに向かった為、念の為に鎮圧用スタン装備のドローンを派遣して、その映像を見ていた翡翠は、映像の中で楽しそうに歌い演奏する『S・M・S』のメンバーを半目で見ていた……彼らが『フロンティア』の企みを知って、それを阻止するための作戦の一環としてシェリル・ノームの救出作戦を行っている筈なのだが……てっきり、警戒厳重な刑務所に極秘裏に潜入するのかと思っていたが、正面から慰問として申請して通すとは、ランカ・リーの知名度は自分が考えていたよりも高いのかもしれない。
「……なんか、楽しそうだね」
「……それ以前に、何なんだ。あの衣装は?」
「知らないの? 10年以上前に、『ぷろと・でびるん』とか言う未知の高位生命体を歌で退けた伝説的バンド、『FIRE BOMBER』だよ」
「――高位生命体!?」
訳知り顔で説明してくるノノのどや顔は、後で〆るとして――ここで高位生命体という単語を聞くとは、幼いながらも整った顔立ちをしている翡翠はその美麗な顔に渋面を浮かべる……以前にも記したが、翡翠と高位生命体と呼ばれる存在とはとことん相性が悪いようだ……どや顔で説明してくるノノの話では、14年くらい前に第37次超長距離移民船団『マクロス7』が接触した生命エネルギーを吸収する敵対勢力との交戦状態に陥り、未知の生命体である『プロト・デビルン』の強大な戦闘力の前に全滅寸前にまで追い込まれたという――そんな絶望的な状況の中で彗星の如く現れたのが、伝説的ロックバンド『FIRE BOMBER』だった。
「――『FIRE BOMBER』の魂の演奏は、強大な『ぷろと・でびるん』の魂を揺さぶって終戦へと導いたんだって――まさに、歌が戦争を止めたんだよ!」
きゃ~! バサラさまっ! とミーハーな事を言いながら夢見る少女のような事を叫ぶ、自称『す~ぱ~ろぼっと』をジト目で見ている翡翠。義理の姉を名乗るこのダメロボットは、時折こうなって向こうの世界に旅立ってしまう……ノノの世界の地球は何を考えて、そんな無駄に高性能なロボットを作ったのやら。
この世界の地球人類はゼントラーディという異星人と星間戦争を経験して、滅亡の淵に立った――それを救ったのが彼らの文化――特に歌が戦争終結に大きな役割を果たしたという……この世界の人類にとって歌とは、翡翠が考えるよりもずっと広く深く息づいているようだ。
そんなたわいも無い事を考えている内に映像内では、ゴスロリを纏ったアルトがワイヤーアクションを披露して収監施設の近くまで来たようだ。中々のバイタリティを発揮するランカ達の行動を見た翡翠とノノは、リビングのソファーに深く座り直した後に視線を映像へと視線を向けた。
「……さて、どうなることやら」
どうも、しながい小説書きのSOULです。
平時のノノはすっかりミーハーになっていますが、原作においてノノリリに憧れを抱くなど、その片鱗はみえていたと思います。あこがれるAIというのもすごい事など思いますが、
間違えて 第23話 Turning point 転換期 18日に更新していました……すいません。(最近、忙しかったからな。