マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
サヨナラノツバサ編
密かに監視していたランカ・リーが犯罪者を収容している『アイランド・アルカトラズ』へと向かった事を知った翡翠とノノは、騒乱が発生した時の為に鎮圧用スタン装備に換装したドローンを派遣して不測の事態に備えていたが、拠点としているサンフランシスコ・エリアのアパートで鎮圧用ドローンから送られて来る映像を見ていた翡翠とノノは、口をポカーンと開けてアルカトラズ刑務所内で行われているランカの慰問ライブの光景を見ていた。
ライブの熱狂に影響された一部の囚人達が騒乱を起こして、その騒乱はライブの熱狂により高揚した別の囚人達も加わって規模がどんどん大きくなっていく……熱に浮かされた血の気の多い囚人達が騒乱を起こす事は予想できるし、事実 刑務所の外壁の外には鎮圧用部隊が待機しているようだ……あのキノコは、そういう小さな事まで そつなく対応出来るようで中々抜け目のないキノコのようである。
まぁ、それはいい。騒乱が起きるのは予想出来るが、囚人室からアルトに救出されたシェリルがランカと共に歌い出して、止めようとする刑務官相手に大立ち回りをしながら演奏を続ける『S・M・S』のメンバー達の姿に唖然としているのだ。
「……ノリノリだね、ミハエル君達」
シェリルと合流したランカのフォールド波が力強く響き、それに呼応するかのようにシェリルの放つ別のフォールド波が合わさって、一つのメロディーとなって宇宙を伝播していく……二人のフォールド波を感じている翡翠とノノは、驚きながらもある意味納得していた。共に歌を愛する者同士が響き合って高め、一つとなってライブを盛り上げていく……そんな熱狂渦巻く光景を呆れたように見ていた翡翠に周辺宙域にて次元潜行中の『実験艦―02』より通信が入り、翡翠の美麗な眉が顰められた。
「……どうしたの翡翠?」
「……どうやら、熱気に誘われて招かねざる観客どもが来たようだ」
翡翠の変化に気付いたノノの問いかけに、彼女は渋面を浮かべたまま答え――ノノの亜空間ソナーが『フロンティア』船団に向かって無数の物体が接近してくる事感知した。
『バトル・フロンティア』戦闘指揮所
全長1600mを超える巨大な可変ステルス攻撃空母『バトル・フロンティア』の戦闘指揮所では、周辺宙域の状況が映し出されている巨大な球状のホロスクリーンの前でオペレートをしている情報担当士官達が、『マクロス・フロンティア』船団の進路上の変化に気付いて警戒の声を上げた。
「――デ・フォールド反応、多数確認」
「――これは、バジュラです!」
宇宙を航行している『マクロス・フロンティア』船団の前に、次々と虹色のゲートが開いて中から無数のバジュラたち――兵隊バジュラだけでなく、駆逐艦級や空母級などの巨大なバジュラの戦闘艦もデ・フォールドして立ちふさがった。
「全軍、第一級非常態勢。直ちにバジュラを迎撃せよ」
『バトル・フロンティア』艦長兼船団を守る新統合軍司令官の号令は全新統合軍艦艇に伝えられて、グァンタナモ級宇宙空母の菱形の船体から四つの発艦口それぞれに主力戦闘機VF―171が発艦態勢に入る。
『ペガサス・グリフォン小隊、発進スタンバイ』
『電磁カタパルト展開、進路クリアー』
進路を塞ぐように展開するバジュラの群れを迎撃するべく、宇宙空母より無数の戦闘機が発艦して行く……先のバジュラの攻撃によって多大なダメージを受けた都市型巨大移民船『アイランド1』を守るべく、全力を挙げてバジュラの攻撃を阻止しようとする新統合軍。
『バトル・フロンティア』の戦闘指揮所にて戦況を見守る第4代大統領ハワード・グラスの側近である首席補佐官レオン・三島は、予てより準備していた対抗策を行う事を大統領に進言する。
「大統領、『アイランド1』の全エネルギーを使って、ジャミング・コードの発振許可を」
「……しかし、本当に効くのかね。市民を危険にさらす必要は……」
「……バジュラは、あの『ギャラクシー』船団さえ滅ぼした恐るべき敵です。これが効かなければ、どのみち我々が生き残る可能性などありません」
「……しかし」
躊躇うグラス大統領……バジュラという強大な敵に襲われた『フロンティア』船団を守る術を模索していた彼は、首席補佐官であるレオン・三島のより協力関係にある総合機械メーカー『L・A・I』からバジュラに対抗するべくある提案がなされた。
体内にある『フォールド・クォーツ』を用いて超空間経由で繋がってネットワークを形成するバジュラの性質を利用して、彼らが用いる『フォールド・クォーツ』が発する振動波を阻害する手法を考案し――バジュラの死骸から採取した『フォールド・クォーツ』の周波数に手を加えたモノを増幅して、バジュラの超空間ネットワークを阻害してバジュラを混乱させるという。
それを聞いたグラス大統領は計画にGOサインを出し、三島主導の下で『アイランド1』の船体全体にフォールド・ジャミング発生装置を大量に設置される――これは装置の作動に大量の電力を必要としており、その大電力を得る為に大型都市移民船である『アイランド1』に搭載されている多数の大出力熱核反応炉を転用する為であった。
だが、それは同時に多数の市民が避難している『アイランド1』を戦闘宙域近くに待機させなければジャミング発生装置の効果はなく、一歩間違えれば守るべきモノを失いかねない危険な賭けでもあり、グラス大統領は命令を下す事に躊躇いを感じてしまう……だが、そんな彼が躊躇う間にもバジュラの攻撃は続いていく。
「――パープル小隊、壊滅!」
「CV47ウルガ轟沈!」
バジュラの攻撃は苛烈を極め、巨大な『バトル・フロンティア』の最深部にある戦闘指揮所も攻撃を受けた振動で激しく揺れ、ホロ・スクリーンの前に個別に表示された映像ではバジュラの猛攻によって撃墜される戦闘艦やバルキリー、そして空母型の攻撃を受けて爆発する『アイランド1』を守る防護シェルの画像が映し出される……爆発の光をまともに受けて目を細めたグラス大統領は、無慈悲に攻撃を加えてきて同胞を次々と火球に沈めるバジュラの姿に奥歯を噛み締める……今も防護シェルが突き破られて、『アイランド1』の市街地がバジュラの攻撃によって火の海へと変えられる様に怒りの表情を見せる。
「……バジュラめ!」
態々攻撃が着弾する場面だけを映した映像を眉間にしわを寄せながら見ているグラス大統領の後ろに立ったレオン・三島はその映像に眉一つ動かす事無くグラス大統領に決断を迫る。
「……ご決断を」
「……よろしい――対バジュラ反抗作戦『ヒプノシス』始動!」
思惑通りに決断したグラス大統領を満足げに見ていたレオンの傍に来た側近の一人は、彼の耳元まで近づいてそっと耳打ちをする。それを聞いたレオンはほくそ笑んで報告して来た側近に指示を出した……後は獲物が網にかかるのを待つだけである。
ランカ・リーとシェリル・ノームが放ったフォールド・ウェーブに導かれるように『マクロスフロンティア・』船団の前に現れた超時空生命体バジュラは、その強靭な爪を『フロンティア』船団へと向けて襲い掛かった。
彼らの猛攻はすさまじく、守るべき市民を数多く抱えた巨大都市型移民居住艦『アイランド1』に向けて幾重にも重粒子ビームが撃ち込まれて、昨日まで辛うじて平穏を保っていた市街地を火の海へと変えていった……だが人類もただやられている訳ではなかった。グラス大統領の決断を受けて、『アイランド1』の各所に配備されていた巨大なパラボラ状の装置が展開して反撃の合図を待っていた。
サンフランシスコ・エリア 翡翠とノノの自宅
洒落た外見と公共交通機関であるケーブルカーの物珍しさが気に入って拠点として構えたこのアパートだったが、ランカとシェリルが放つフォールド波に誘われて来襲したバジュラの猛攻によって町は火の海となり、何時このアパートもバジュラの攻撃が直撃するかもしれないこんな時でも、翡翠とノノはリビングのソファーに座って秘蔵の最高級茶葉で入れた紅茶の香りを楽しんでいた。
この世界とは異なる世界において第六世代型恒星間航行決戦兵器であるノノと、古来より邪悪の極致と称される『
「……この部屋、けっこう気に入ってたんだがな」
部屋の中を見回しながら ぽつりと呟く翡翠。そんな翡翠をちらりと一瞥したノノも紅茶を一口含んで、さすが最高級茶葉だと味に満足する……この茶葉なら、別れを告げるのにふさわしい。
「……ランカ達は物資搬入口から『マクロス・クォーター』へ向かって移動している……けど、その先には――」
「……『フロンティア』軍から逃げおおせた、ブレラが待ち受けていて、それを追っているのか、はたまたランカ・リーを確保しようとしているのか、『フロンティア』の特殊部隊が迫っている、と」
ランカ達を監視していた暴動鎮圧用装備のドローンから送られてきた情報は、彼女達が地下の物資搬入口へと入った事でそこで途絶えたが、この『フロンティア』の警備システムの殆どが『L・A・I』製である事が幸いして、地下の監視システムにアクセスしてランカ達の現在位置は把握しているが、どうやらそれ以外の邪魔者もランカを目指して接近しているようだ。
「――翡翠、私は行くよ。何故ならば、ランカを見捨てるなんてノノリリなら絶対しないから」
ティーカップを静かに置いたノノの瞳には固い決意が込められていた――だが、そんなノノに翡翠は待ったをかける。
「――翡翠! この期に及んでまだ――」
この世界に迷い込んでから今まで戦力を構築する事に取り組んでいたのはこういう時の為じゃないか、とソファーから立ち上がったノノが動きを止めたのは、普段は名前の通りに翠色の翡翠の瞳が深紅に染まっていたから。
「……行くのは、私だよ」
巨大都市型移民居住艦である『アイランド1』内は、地表部分には政府施設や軍関係施設そして市街地などが建てられ、地下部分には歓楽街や物資搬入スペースそして地下シェルター、さらにその地下には動力炉や環境・重力維持のための装置が設置されており、アルカトラズ刑務所よりシェリルの脱獄をサポートした早乙女アルトとランカ・リーは、『アイランド・アルカトラズ』から人目に付かないように物資搬入スペースから昇降エレベーターに乗って『マクロス・フロンティア』へと向かっていた。
アルカトラズ刑務所から救出されたシェリルだったが、刑務所に収監されたという精神的なストレスと、以前よりV型感染症に侵されていた事により心身ともに衰弱してランカに支えられながら昇降エレベーターに乗り込んでいた。
そんな状態ゆえか、彼女はこれまで誰にも語った事が無い思いを語り始めた……第117次次調査船団団長であり科学者でもあった彼女の祖母マオ・ノームは、超時空生命体バジュラの研究をしながら、行方不明となったマオの姉のように、鳥や獣そして風や海と心を通わせる歌い手-風の導き手を探していた。
あらゆるモノと心を通わせる風の導き手なら、バジュラとコミュニケーションを取れるのではないか、と。しかし計画は失敗して第117次次調査船団はバジュラに襲われて壊滅した……マネージャーであったグレイスよりその話を聞いた時は、そんなおとぎ話のような存在が居る訳が無いと思った――だが、『ギャラクシー』船団での“ある出来事”から己の歌で銀河を震わせて見せると決意したシェリルは、祖母の話に出て来た風の歌い手をも超える事を目指した――それくらい出来なければ、銀河を震わせる事など出来ないと思ったから。
「……いえ、襲ったんじゃない」
そんなシェリルの昔話にランカは異論を唱えた。
「……私、思い出したの。あの時のバジュラは、私を襲ったんじゃなくて助けようとしたのかもしれないって」
「……助ける」
「――よく思い出したな、ランカ」
その時、第三者の声が響いて声のした方向に視線を向けると、昇降エレベーターの搬出先へと続く通路の前にブレラ・スターンが立っていた。彼が待ち構えていた事に驚いたアルトだったが、ランカの実兄を名乗って『フロンティア』のたくらみを知らせてくれた彼の登場に、昇降エレベーターの停止レバーを引いて停止させる。
「……迎えに来たよランカ、バジュラとの戦いを終わらせる為に」
「……お兄ちゃん」
昇降エレベーターに近づいてきたブレラはランカを誘い、11年前のガリア4での記憶を取り戻して日が浅いランカは、実兄が生きていた事に衝撃を受けて ふらふらと夢遊病者のように立ち上がって彼の方へと近づく。
「――ランカ」
「――駄目よランカちゃん! そいつはもうあなたのお兄さんじゃない。あなたを誘導する為にお兄さんにインプラントを埋め込んだ『ギャラクシー』軍に操られた、ただの操り人形よ!」
シェリルの言葉に驚きながらも銃を構えるアルト。だがブレラはそんなアルトの行動には目を向けずに必死にランカを止めようとするシェリルへと視線を向ける。
「……裏切るのか、『フェアリー9』」
「……奴らはあなたを殺して、免疫のある内臓を私に全移植するつもりよ」
「――なんだって!?」
シェリルの語ったおぞましい計画に驚愕の表情を浮かべたアルトは、持っている銃を構え直してランカは渡さないと意思表示する。そんなアルトを見たブレラは無表情ながら初めてアルトに視線を向けて小馬鹿にしたように「撃てるのか、お前に」と嘲るが、大切なモノを守る為ならどんな事でもするとアルトは覚悟を示した。
そんなアルトを障害と認識したブレラの皮を被ったナニかは排除する為の行動を開始する――強化された身体能力で一気に距離を詰めるブレラに向けてアルトが発砲するも、恐るべき反射機能で射線を避けたブレラは袖口から隠し持っていた鋭利な刃物を飛ばして攻撃するが、日頃の訓練により研ぎ澄まされた感覚で刃物を認識したアルトは持っていた自動小銃を盾にして刃物を受け――それが隙となって、肉薄したブレラの一撃を受けて吹き飛ばされる。
「――さあ、行くぞランカ」
障害を排除したブレラがランカに向けて手を伸ばすが、それを許さないとばかりに昇降エレベーターの進路方向よりビームが撃ち出されて近付いてきたブレラを牽制して、続けて撃ち出されたビームを避けたブレラがランカ達から離れると、進路方向より熱核ジェットを吹かしたオズマの駆るEX-ギアが重火器を構えて飛んでくる。
「――ランカ!」
「――お兄ちゃん!?」
「――隊長!」
ランカを守るように昇降エレベーターの荷台の前に立って油断なく銃を構えたオズマは、顔だけをランカの方に向けて「……待たせたな」と最愛の妹を気遣った後に、視線を戻して柱の陰に身を隠すブレラを警戒する。
「待たせたなランカ――さあ、早く『クォーター』へ!」
牽制の為に重火器を乱射するオズマ。アルトは彼の意を汲んで立ち上がれないシェリルを抱き抱えるとランカと共にその場を離れるべく走り出す――目指す先はこの搬入路の先にある『S・M・S』の旗艦ステルス空母『マクロス・クォーター』。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
それぞれの陣営が動きを見せる中、ついに翡翠が動きました――彼女の介入によりマクロスFの世界はどうなってしまうのか? まぁ、いつもの通りに引っ掻き回す彼女の荒唐無稽な活躍にご期待ください。(オイ
すみません、間違えて23話を先に投稿しておりました……申し訳ありません。
前話になる22話も投稿しましたので、そちらを見ていただけると話が繋がると思います。
では次回 第24話 ……discovery 露見 7/23 0時投稿予定です。(今度は間違えないようにしないと。