マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
サヨナラノツバサ編
アルカトラズ刑務所よりシェリル・ノームの救出に成功したランカとアルトは、『フロンティア』軍の監視の目から逃れる為に、地下施設にある物資搬入路を使って『S・M・S』旗艦『マクロス・クォーター』を目指していた――だがそこに姿を現した『ギャラクシー』の尖兵ブレラ・スターンによりランカに危機が訪れた時、彼女の身を案じたオズマが現れてランカを逃がすべく戦いを挑んでいた。
先に進むランカの後を追わせないとばかりに気勢を上げながら携帯している重火器でブレラを狙い撃つが、インプラント手術を受けたブレラの身体能力は常人を軽く凌駕しており、EX-ギアのサポートを受けているオズマの射撃を軽快な動きで避けながら隠し持っていたマシンガンを取り出して、対EX-ギア用の貫通弾で反撃してくる。
重火器で応戦しながらも、オズマは攻撃対象であるブレラの姿を見据える……確かに面影は有る。11年前にガリア4にて調査船団の護衛任務に就いていたオズマは、謎の宇宙生物バジュラについて研究する科学者達とそれほど接点はなかった……だがそれでも研究の合間に同行した家族連れで羽を伸ばす彼らの護衛として近くで待機している任務もあり、幼いランカと兄であるブレラを伴ったDr・ランシェを見かけた時もあった。
Dr・ランシェに伴われたブレラは、年端もいかぬ少年らしく素朴な感じがしたが、それが今全身を機械化されて実の妹であるランカを狙って襲い掛かってきた……幼かったブレラと会話をしたことはない。だが変わり果てた彼を見て――彼を操る『ギャラクシー』に怒りを感じるが、軍人として生きてきたオズマは守るべき対象を間違える事はない。
雄叫びを上げながらオズマは重火器を乱射した。
オズマ・リーとブレラ・スターンが物資搬入路で激しい攻防戦を繰り広げている時を同じくして、銀河系中心部を目指して航海を続けている長距離移民船団『マクロス・フロンティア』は超時空生命体バジュラの攻撃を受けて激しい防衛戦を繰り広げていた。
以前の防衛戦で多大な被害をもたらした重戦艦級こそ姿が見えないが、4000mクラスの巨大な空母級はもとより無数の駆逐艦級バジュラと、大量の赤とクリーム色をした兵隊バジュラ達が『フロンティア』船団に襲い掛かって来たのだ。
当然『フロンティア』側も戦力の全てを持って迎撃に当たったが、強力なエネルギーシールドで守られたバジュラの防壁を抜く事は難しく、迎撃に出たVF-171ナイトメアプラスは自身を上回る高機動で飛び回るバジュラを捕捉できずに次々と撃墜され、『アイランド1』を守るステルスクルーザーも空母級の攻撃を受けて爆散していく。
そしてバジュラの攻撃は護衛をしている新統合軍艦艇だけでなく、船団の中心である大型都市移民居住艦『アイランド1』の防護シェルで覆われた船体へと降り注ぎ、直撃した重粒子ビームは防護シュエルを貫いて市街地を撃ち抜き、その地下にある避難シェルターを焼き尽くした。
物資搬入路の脇に設置された通路の中を弱ったシェリルを抱き抱えたアルトがランカを伴って走っていた――追っ手であるブレラはオズマが抑えてくれている。彼が時間を稼いでくれている間にランカを安全な場所――『マクロス・クォーター』へと送り届ける事が出来れば一応の安全は確保出来る筈である。
「こっちだランカ 急げ!」
オズマの事を気にして時折振り返るランカに声を掛けながら、シェリルを抱えたアルトは通路の中を走ってようやく『マクロス・クォーター』へと続く橋が見えて来る。その橋を渡った先に『クォーター』へのエアロックがあるのだ。
シェリルを抱えたままゲートの柵を乗り越えたアルトは橋の途中にシェリルを下した後、柵を乗り越えようとするランカの手助けに向かう……『クォーター』に直接続く通路だけに歩哨が立っている筈なのだが、その姿が見えない事に一抹の不安を感じながらも早くランカを安全な場所へと連れていく事を優先したアルトはランカに手を貸しながら彼女が柵を乗り越えるのを手助けする。
そしてランカが柵を乗り越えてようやく橋の上に降り立った時、周囲にあるモノ全てが揺れるほどの振動が来て転びそうになったランカを支える――すると入り口近くから濛々と爆炎が立ち込め、煙を切り裂くように熱核ジェットを吹かしたオズマと、彼ともみ合うブレラが現れて、ジェットの推力で彼方此方の壁にお互いをぶつけ合う。
「――お兄ちゃん!」
オズマともみ合っていたブレラが距離を取ると自動小銃の弾丸をばらまいて牽制とするが、運が悪い事にその弾丸がオズマの持つ重火器のエネルギータンクに命中して爆発を起こして、その爆風をまともに受けたオズマはバランスを崩して通路に叩き付けられた。
対するブレラもまた着地はしたがダメージを受けた身体の可動域が狭まってまともに動かせない。苦労して自動小銃のマガジンを入れ替えて――照準をオズマではなく、橋の上にいるランカ達へと向けられた事に気付いたランカやアルトが硬直すると同時に、驚愕に目を見開いたオズマが半壊した熱核ジェットを全開にする。
「――やめろぉぉお!」
戦闘を想定して追加装甲を装備しているとはいえランカ達を庇ってその身を盾にして自動小銃の銃撃を一身に浴びる――いくら装甲が有るからと言って着弾の衝撃の全てを吸収出来る筈もなく、しかもブレラとの戦闘で半壊状態の現状で銃弾の全てを防げる訳もなく、ブレラが自動小銃を撃ち尽くした時にはオズマの身体を纏うEX-ギアはボロボロになり、幾つかの銃弾が彼の身体を傷つけたのか口から吐血しながらも、彼は愛する妹の前で盾として立ち続けていた。
「……そう簡単に死ぬかよ」
口の端から血を垂らしながらも、にやりと男臭い笑みを浮かべて虚勢を張るオズマに向けてマガジンを交換したブレラが再び自動小銃を向け、それをみたランカが悲鳴のような声を上げ、アルトがオズマの名を叫ぶ――狙いを定めたブレラが引き金を絞る前に、天井部より小さな人影が飛び降りて来るとオズマの前に立ち――かまわず引き金を絞ったブレラの自動小銃が火を噴いて無数の銃弾がオズマとそれを庇うように立つ小さな人影へと殺到する。
意識を失ってしまいそうな激痛の中で気合だけで意識を保つオズマの前に突然現れた小さな影――青のホットパンツと白地のシャツと同色のニットを着こんだ見慣れたウルフカットの後ろ姿――隣のアパートに住んでいて、たまに姉妹で歩いている後ろ姿を見ていたが、そんな年端もいかない少女の後ろ姿をこんな危険な場所で見る事になるとは、「――あぶない!」と警告の声を掛けるが、すでにブレラの自動小銃からマズルフラッシュの苛烈な光が放たれて、凶悪な威力を込められた銃弾が目の前に現れた少女の柔らかな肉を引き裂こうと殺到する。
何故彼女が現れたのかは分からない……だが、目の前で見知った少女が銃弾に晒される悪夢のような光景にオズマの顔が絶望に染まるが……その顔は目の前で起こった信じられない光景に目の錯覚でないかと疑ってしまう。
自分の前に立った、自分の半分くらいの身長しかない少女が、自分には認識出来ないほどの速度で片手を振るうと、殺到していた銃弾の全てが消えたのだ……最新式の戦闘機に搭乗する為に過酷な訓練を受け、常人よりも優れた動体視力を持つ自分が、目に負えない程の動きを年端もいかない少女が行った……そんな冗談のような光景にオズマは言葉を失い、オズマの後ろに庇われているランカやアルトは事態に付いていけずに事態を静観するしかできなかった。
「……君は、翡翠ちゃんなのか?」
この緊迫した場所に文字通り降って湧いた見知った少女の“見知らぬ”姿に警戒を込めた声で確認をするオズマに答えず、翡翠は振るっていた右手を水平に上げて握っていた拳をゆっくりと開くと、そこからひしゃげた金属の塊が幾つも落ちていく……着弾の衝撃で変形した銃弾が年端もいかない少女の手から零れ落ちているのだ。
「……ケガはない、オズマのおじちゃん……って無傷とは言えないようだね」
振り返った翡翠がヘルメット越しにオズマの口から流れる血の跡を見てシニカルな笑みを浮かべ、無造作に上げられた左手が音もなく接近していたブレラの刃を軽々と受け止める……小柄な少女が『ギャラクシー』のインプラント兵の刃を受け止める。そんなありえない光景を見たオズマの警戒レベルが上がる。当初はアパートの隣に引っ越して来たあまり似ていない姉妹であり、妹とも仲良くしてくれているようだし好ましい隣人だと思っていたが、こうして常人とは違う姿を見るに、隣に引っ越してきたのも作為的なモノがあったのかもしれない……普段の翠色をした瞳を真っ赤に染めた目の前の少女を、オズマは油断ならない相手と認識した。
だが、そんなオズマの警戒など気にも留めずに翡翠は視線を正面に向けると、機能不全を起こしながらも戦闘態勢を取るブレラを見据える。
「……お前達の野望は成就することはない――何故ならば、この私を敵に回したのだから」
一瞬の溜めの後に一気に飛び出した翡翠をブレラは自動小銃で迎撃するが、襲い来る全ての銃弾を掻い潜ってブレラに肉薄すると驚愕のあまり人工の瞳を大きく見開く――そして翡翠は両手で優しくブレラの顔を包み、深紅の瞳がブレラのルビーの様な瞳を見据える。当然、ブレラの皮を被った“ナニ”かも身体を動かして翡翠の手から逃れようとするが、ただ手を添えているだけなのにブレラは翡翠の深紅の瞳から逃れる事が出来ない。
どれほど、そうしていただろうか? 一分かもしれないし一秒かもしれない。ルビーの様なブレラの瞳をのぞき込んでいた翡翠は口角を釣り上げて、にたりと嗤った。
「……見つけた――さあ、己が愚行のツケを支払ってもらおうか」
都市型大型移民居住艦『アイランド1』内に存在する軍の研究施設。危険な宇宙空間を航行して銀河系中心宙域を目指す『フロンティア』船団を守る為に様々な技術を開発して運用を検証する重要な施設の中に、一際厳重に警備されている区画――バジュラの攻撃によって壊滅した『マクロス・ギャラクシー』船団からの避難民に紛れてこの『フロンティア』船団に潜入して、『フロンティア』船団内で騒乱を起こした隙に主要施設を占拠して乗っ取りを画策していた『ギャラクシー』首脳陣が隔離されているが故に警備も厳重にされていた。
彼らもしくは彼女らが何時から『マクロス・ギャラクシー』船団を掌握していたのかは分からない。だが彼らもしくは彼女らは人間の平均的寿命を大きく逸脱し、50年前の第一次世界戦争を生き抜いて機械的な補助を受けて延命措置を受けながら今も存在している不気味な存在でもあった。
そんな不気味な存在だが、彼もしくは彼女達の知識を必要と判断した『フロンティア』上層部の判断により、その不気味な機械の塊は技術者達のメンテナンスを受けながら搭乗者達の生命維持を行っていた――“それ”に気づいたのは、システムに送られる動力の調整をしている技術者であった。彼はシステムに送られているエネルギーに変動がみられる事に気付いて調整を行う……だがそれでも変動は収まらない。
それどころか機械の変調はどんどん広がっていき、不審に思う彼……システムチェックを何重にも行って技術的なトラブルではなく、何か直接的なものではないかと疑い始めた彼がふと視線を向けた先――『ギャラクシー』船団を牛耳っていた首脳陣が入った巨大な機械の端の部分が赤く変色していたのだ……よく見るとそれは変色などという生易しいモノではなく、それは赤く錆びていてボロボロと砕けていたのだ。
その錆はどんどん広がっていき、『ギャラクシー』を支配してながらも生命維持装置を手放せない首脳陣が収まる奇怪な姿をした機械が瞬く間に赤茶けた錆の塊へと変貌していく……その浸食は当然内部にも及び、カプセルの中で生命維持装置に繋がれて延命している首脳陣へも及ぶ――長く生命維持装置に繋がれた影響で枯れ果てた老木のような手足が更に水分を失ってボロボロと崩れていく。
――なんだ、これは!? 身体が崩れていく。
――いや、死にたくない! 誰か何とかしてよ!?
……崩れていく……手が……足が……
翠眼を深紅に染めた翡翠は冷たい笑みを浮かべながらブレラの顔から手を離した翡翠は、ゆっくりと立ち上がる……拘束されていた訳ではないが抑えるものもなく自由に動ける筈のブレラだったが、動きを見せることもなくその場に蹲っている……行動を指示する存在が消えた所為であろう。
「……翡翠ちゃん」
「……お前」
この場に突然現れて瞬く間にブレラを行動不能に追い込んだ少女の存在に驚き戸惑ったランカとアルトは、声を掛けるのが精一杯であった。
ランカにとって翡翠は隣に引っ越して来た姉妹の妹の方であり、可愛らしくも整った顔立ちを持つ栗色の髪と翠色の瞳の こましゃくれた年下の女の子であった。無邪気な笑みを浮かべながらたまに毒を吐く困った性格をしていた彼女を、年上の“お姉さん”として面倒を見なければならない相手だと思っていた。
アルトにとって翡翠は生意気なガキンチョであり、事あるごとにミシェルと組んで此方をからかってくる油断ならない相手だと思っていたが、彼女は一般人であり こんな化け物じみた事をするとは思っておらず、普段の姿と今現在見せている姿のギャップに戸惑いを覚えていた。
そんな――誰もが戸惑っている中で、ブレラとの戦闘で傷を負って座り込んでいるオズマのみが常人を凌駕するような能力を見せた翡翠を警戒して、薄れていく意識を繋ぎ留めながらランカを守るべく立ち上がる。
すると、この場に通じる通路から複数の熱核ジェットの推進音が聞こえて来て、複数の通路から軍の特殊部隊が使用している強化型のEX-ギアを纏った軍人達がなだれ込んできてブレラを……というよりも、その前に立つ翡翠を包囲するように取り囲んで140センチより少し上といった12歳前後にしては小さめの身長の少女に向けて携帯している火器を向けて、油断なく一部の隙も見せずに包囲をしている。
「……新統合軍? なんでこいつらが……」
突然の展開に驚くアルト……スパイ容疑で収監されたシェリル・ノーム救出作戦を成功させて、安全な場所である『マクロス・クォーター』へと向かう途中で『ギャラクシー』の尖兵であるブレラ・スターンの襲撃を受けて、オズマと何処からともなく現れた翡翠により切り抜けたばかりだというのに、それを待っていたかのようなタイミングで乱入してきた新統合軍の部隊……奴らの目的は脱獄したシェリルの確保か……それにしては新統合軍の兵士達の意識はシェリルではなく一見普通の女の子である翡翠へと向けられているようだが……。
一分の隙も無く大型の火器を構えて包囲する兵士達を深紅の瞳でゆっくりと見回す翡翠の前に投影型のホロ・ウィンドウが開いて一人の軍人の姿が映し出される――士官用の軍服を来た二十代半ばの男……アルトはその顔に見覚えがあった、『マクロス・ギャラクシー』の工作員による『フロンティア』乗っ取りを阻止した作戦を指揮し、シェリルにスパイ容疑を突き付けて彼女を拘束したレオン・三島とかいう『フロンティア』政府の補佐官だったはずだ。
『――おや、これは可愛らしいお嬢さんが網にかかったようだ』
ソーシャルセキュリティナンバー14832―69―3582 翡翠・エム……だが、この登録番号には改竄された形跡があると冷たい視線を向けるレオン。
『……君は何者だ?』
どうも、しがない小説書きのSOULです。
シェリルの救出作戦を成功させてクォーターに向かうアルト達に襲い掛かったブレラの前に翡翠が現れ、彼を操るギャラクシーの首脳陣に選択への報いを与え――ついに、潜入がバレました。
レオン・三島……けっこう気に入ったキャラクターなんですよね。
では次回 第25話 unknown Ship 未知の船 7/26 0時に更新信予定です。ではでは~。