マクロス・フロンティア 迷い子たちのディソナンス 作:soul
サヨナラノツバサ編
『……君は何者だ?』
シェリル・ノームの救出作戦を成功させて『マクロス・クォーター』へと向かう途中で襲い掛かってきたブレラとの戦闘中に突如乱入して来た翡翠によりブレラは戦闘不能となったが――その直後になだれ込んできた新統合軍の兵士に囲まれたアルト達を尻目に、翡翠の前に展開されたホロスクリーンに写された『フロンティア』政府の首席補佐官レオン・三島は冷たい視線で翡翠に問い掛ける。
きっかけはルカが総合機械メーカー『L・A・I』のデータバンクに不正アクセスがあった事に気付いたのが最初であった。それから全データバンクに調査のメスが入り、その情報を入手した『フロンティア』行政府もずべてのデータバンクを調査した結果――いくつかの改竄の形跡が発見されたのだ。
「……やるじゃないか。伊達にキノコをしてないな」
深紅の瞳を面白そうに細めてホロスクリーンのレオンの髪形を揶揄するが、当のレオンは付き合う気がないようでこれまでの彼女の経歴を読み上げ、その全てがデーター上の記録でしかなく彼女達エム姉妹の事を知っている者は皆無であり、少し前にサンフランシスコ・エリアにアパートを構えたのが最初に確認された事実であると読み上げる。
『つまり、その前の君たちの経歴は白紙なわけだ。最初は『ギャラクシー』か他の船団の手の者かと思ったが、その割には隠ぺいが雑だったのでその線は無いと思うがどうかね?』
淡々と問い掛けるレオンに「雑で悪かったな」と唇を尖らせる翡翠。事故によりこの世界にやって来た翡翠とノノは超時空生命体バジュラと事を構えて、彼らの巣の周りに存在していた戦闘艦の残骸から情報を吸い出した事によりこの世界も戦乱が溢れている事を知り、それに対抗する為に直接的な戦闘力を求めてゼントラーディと呼ばれる巨人種族の自動兵器工場衛星を確保して戦力の構築を行った……だがその反面、彼女達の陣営は翡翠とノノの二人だけであり、諜報活動のような事は不得手な二人故に、完璧な隠ぺいは諦めていたのだ。
「……女の子は謎が多い方がミステリアスで良いらしいぞ?」
『……『フロンティア』防衛線の折に、バジュラの戦艦級を仕留めたあの戦闘用アンドロイドも君の仲間かね?』
肩を竦めながら はぐらかす翡翠に向けて、なおも詰問を続けるレオン。年端もいかない少女が『ギャラクシー』のインプラント兵を圧倒するほどの戦闘力を見せたのだ、見た目相応の年齢ではないだろうし、人間なのかもあやしい……もしかしたら、戦艦級を仕留めた所属不明の戦闘用アンドロイドの別バージョンの可能性もある。
『色々と聞きたい事もあるし、拘束させてもらおう。それとランカ・リー嬢――君も一緒に来て貰いたい。ぜひお願いしたいことがあってね』
『クォーター』からの援軍は期待しない方が良い、と勝ち誇った顔をしたレオンが告げる――現在『マクロス・クォーター』からの出入り口は軍の部隊により封鎖されているからと、わざわざ情報を明かして自分達が優位にあると示して此方の抵抗の意思を折るつもりなのだろう……だが、レオン・三島は致命的なミスを犯した。
彼が相手にしているのは、地球人類や今までに遭遇したゾラ人やラグナ人達とは根本的に違う――異世界において邪悪の極致と称される『
重火器を構えて包囲する特殊部隊の兵士達の威容をもって拘束しようというレオンの言葉に、口角を釣り上げて にたりとした笑みを浮かべた翡翠は、右手を高らかに上げる。
「……勝ち誇っているようだが――こういう事態は想定していたのかな?」
深紅の瞳を爛々と輝かせた翡翠の掲げた右手の先に光が灯り――それはどんどん熱量を上げて大きくなり、巨大な光球へと成長すると翡翠はそれを一気に射出した――放たれた光球は周囲の構造物を粉砕しながら進んで行って天井へと到達すると周囲を巻き込んで爆発する。
その凄まじい爆発によって周囲の構造物は軒並み破壊され、『アイランド1』の強固な外部装甲をも破壊して巨大な穴となる――シェリルを救出して安全な場所である『マクロス・クォーター』へと向かっていた事もあり、『クォーター』が停泊しているドッキングポートは巨大な『アイランド1』の船体の中でも一番外側にあり、それが災いして爆発によって生じた破壊口は真空の宇宙空間へと繋がっていた。
爆発によって生じた破壊口から艦内に存在している空気の流出が始まり、吸い出される空気の流れが暴風となってその場にいる者すべてに襲い掛かる。その気流は勢いを増して、周囲にあるモノ全てを真空の宇宙空間へと流失していく……当然それはその場にいる者達も例外ではなく、小柄で体力の乏しいランカやV型感染症に冒されて体力が低下しているシェリルが吸い出される気流に抗えずに吸い出されていき、アルトは二人を助けようと激しい気流の中へ飛び込んだ。
「――シェリル! ランカ! シェリル――手を伸ばせ!」
激しい気流の中で近くにいたランカを抱き締めたシェリルにアルトが手を伸ばすが、吸い出される力が強くて思うように動けない三人は破壊口より真空の宇宙へと吸い出される……真空の宇宙では呼吸が出来ないのは勿論、絶対零度に近い温度と今まで身体を覆っていた気圧も失われて生身ではけっして生存出来るような環境ではなかった。
大気が失われて呼吸が出来ず、体中が膨れ上がって沸騰するかのようなおぞましい感覚に死を覚悟した時、何処からともなく緑色の光に包まれた小さな生物が飛来してランカの傍まで来ると、甲高い声で鳴きながら緑色の光を赤く変えて周囲へと広げていく……それはランカとシェリルそしてアルトを包み込んだ。
「……これは…」
『S・M・S』に入隊してパイロットとしての訓練を受けてきたアルトは、過酷な状況でも適格な判断が出来るように対G、対低圧訓練を受けてきたおかげで意識を保っているが、一般人であるランカやシェリルは少しの間とはいえ過酷な宇宙空間に晒された影響で意識を失っているようだ。
この赤い光を放っている小さな生物が何なのか分からないが、自分達が生きているのはこの赤い光のお陰のようである……だが移動は出来ないのか、どんどん『アイランド1』から離れて行っている……この赤い光が何時まで持つか分からないが、『アイランド1』のように生活環境が整った場所にたどり着けなければ、待っているのは窒息かそれ以前に体中の体液が沸騰しての死しかないだろう。
なにか方法はないか、生き残る為にも必死に方法を探すアルト。
せめてこの二人だけでも、と焦るアルトの目に信じられないモノが映る……戦闘の光に照らされた人影の様なモノが何かを引き連れながら此方に近づいて来る……それは白いボディスーツの所々に青い結晶体を付けた見知った顔をした少女だった。
「……お前、なんで…」
宇宙空間でも平気な顔をしているんだ。
何かを引っ張っている翡翠が持っているモノ――それは無残にも銃弾の跡が痛々しいボロボロのEX-ギアを纏ったオズマと、四肢が曲がって配線や金属製の骨格を露にしたブレラだった――至近距離まで近づいた翡翠の纏ったボディスーツの青い結晶体が光るとアルトの視界が眩い光に包まれて思わず目をつぶってしまう。
次に目を開けたアルトが見たモノは、何処かの部屋の様な場所であった――その部屋は水晶の様な物で作られており、見覚えのない場所故に警戒するアルトは、傍に倒れているランカとシェリルの姿を見て駆け寄った。
「――ランカ! シェリル! しっかりしろ、大丈夫か!?」
ランカの近くに来たアルトは、倒れている彼女の傍に屈んで体を揺らすが反応は無い。シェリルにも声を掛けるが同じく反応がなく、最悪のケースが脳裏によぎるが、そんなアルトに冷静な声が掛けられる。
「……揺らさない方が良いよ、少しとは言え生身で宇宙空間に晒されたんだから」
その声がした方に視線を向けたアルトは、怒りで頭に血が上るのを感じた。
「――もとはと言えば、お前が外壁を破壊したせいだろうが!」
アルト達が宇宙に吸い出されて命の危険に晒されたのは、ブレラとの戦闘に乱入してきた翡翠が『アイランド1』の外殻を破壊したからだ。だが翡翠は正当な怒りを見せるアルトに視線すら向けず、床に倒れているオズマやブレラの容態を見た後に彼らの胸に何かの装置を取り付けた後、虚空に視線を向けた。
「コンピューター。装甲服を着た人は医務室へ転送。サイボーグは拘束室へ転送後、レベル2の監視を」
虚空に向けて翡翠が指示を出すと、床に倒れて意識が無いオズマとブレラの身体が光に包まれて、光が消えた後には二人の姿は消えていた。
「――何をしたんだ、翡翠! 隊長をどうした!?」
目の前でオズマの姿が消えた事に怒りに拍車をかけたアルトは、視線を低くしたままの翡翠に歩み寄ると、その胸倉を掴んで厳しい口調で詰問する……怒りのままに翡翠を詰問するアルトを煩そうに顔を顰めながら冷めた目で見ていた翡翠は、翠眼で床に倒れているランカとシェリルを一瞥した後に今だ怖い顔をして睨み据えるアルトに視線を向ける。
「……オズマのおじちゃんは念の為に医務室に送った。あのサイボーグはフリーズしているようだったので、今の内に拘束したわけだ」
「……お前は、何なんだ?」
「……どこにでもいる、普通の美少女だよ」
「――ふざけるな!」
人を食ったような返答に怒りを募らせたアルト。だがそんな彼の怒りを受けても平然とした顔をする翡翠。
「……突然現れてブレラを制圧するだけの武力を持ち、『アイランド1』の外壁を破壊して、宇宙空間でも生身で活動できるお前が、普通の人間の訳がないだろう――お前も、ブレラと同じインプラント兵なのか?」
「……んふふ、アルトにいちゃん。女の子には秘密が付きものさ」
「……ごまかすな」
いつもの調子で煙に巻こうとする翡翠とそれを許さないとばかりに顔を近づけて視線に力を籠めるアルト……どれだけそうしていただろうか、胸倉を掴まれたまま強い視線にさらされている翡翠は大きく息を吐く。
「……分かった、分かりましたよ。説明しましょう――そこで齧り付きで見ている人達も一緒にな」
翡翠の向ける視線を追ってアルトも目を向けると、何時の間にか目を覚ましたランカとシェリルだけでなく展開されたホロスクリーンの中のノノの三人が喉をごくんっと鳴らしながら此方を見ていた……状況としては不審な行動をする翡翠を詰問している所なのだが、途中で目を覚ました彼女達からすれば、年下の女の子に真顔で迫っている構図に見えるようで、彼女達の脳裏には淫靡で背徳感に塗れた光景が展開されているのだろう……アルトは思った――コイツら、揃いも揃って何考えていると。
――そして、そんな美味しい場面で
「……乱暴にしないで、アルトおにいちゃん…」
ぶちっ!
早乙女アルトは忍耐の限界を超え、目の前でほくそ笑む
シェリル・ノームを『アルカトラズ』刑務所から救出したアルトとランカは、地下の資材搬入路を使用して『マクロス・クォーター』へと向かう途中でブレラ・スターンの襲撃を受けるが、突如乱入して来た翡翠により一応は襲撃を退ける事が出来たが、続いて現れた軍の特殊部隊によって包囲され、そこで翡翠の常識外の行動――『アイランド1』の外壁の破壊によって宇宙空間へと吸い出された後、この未知の場所へとやって来たわけだが。
この未知の場所へとアルトとランカそしてシェリルを連れてきたであろう翡翠の正体や目的に付いての説明を聞くために、痛む頭を押さえる彼女に先導されて水晶の様な素材で作られた通路を歩いているアルト達三人。
「……この通路を作っている素材はキレイだけど、何か冷たい印象を受けるわね」
キョロキョロと周囲を見回すシェリルは水晶の様な素材で作られた冷たい光沢を放つ通路の感想を言い、妹分だと思っていた翡翠の知らない一面を見せられたランカは、戸惑いを感じたまま翡翠に何も問い掛ける事が出来ずにアルトの背中に隠れるように歩いていく……そんな二人を守るようにしながら歩くアルトは、先頭を行く翡翠の一挙手一投足に注意を向けている。
水晶で作られたかのような通路を歩いた四人は通路の先にある扉の前に立つと、翡翠は振り返ってここが目的地だと告げて来る。扉が開いて中に入ると、部屋の中は比較的普通の間取りをしていた――天井には柔らかな光を放つ照明が付けられ、部屋の四角には見た事もない観葉植物が置かれて中央には水晶の様な素材で作られたテーブルと数人分の椅子が置かれ、そのテーブルには先ほど光に包まれて医務室とやらに送られたオズマが着席しており、アルト達の姿を見て「――よう」と気軽に片手をあげて挨拶してくる。
「――隊長!」
「――お兄ちゃん!」
ブレラとの戦闘で負傷したオズマの思ったよりも元気そうな姿に喜びの表情を浮かべたアルトとランカが駆け寄り、再会できた事に喜んで怪我の具合を聞くが見た感じではオズマの身体に怪我の跡は無いようだ。
「……ああ、気が付いた時には粘っこい水の中だったがな」
オズマによれば、気が付いた時には半円形の装置の中で粘っこい溶液の中に浸かってっていたそうだ――それから装置の中の溶液が排出されて、幽霊の様な半透明の――恐らくホログラムによりそれが細胞活性を促す溶液であり、身体の傷だけでなく内臓の損傷すら回復させる効果があり、事実溶液に浸かった後は驚くほど身体が快調になったという。
「それからホログラムに先導されて、ここでお前たちを待っていた訳だが……」
オズマは視線を席に座った翡翠へと向ける。
「――いろいろと聞きたい事もあるしな」
どうも、しがない小説書きのSOULです。
宇宙空間に吸い出されたアルト達は、翡翠の導きによって『実験艦ー02」へと転送されて、そこで運命の時を迎えました……ここから少しづつ正史とは異なる展開を迎えることになります。
では次回 第26話 dark clouds 暗雲 7/30 0時更新予定です。ではでは~。